都市ヘーグイ…西洋風の街並みが広がっている都市。立体的な構造をしており、目的地も決めずに歩くと迷子になる。稀に街中に掛けられた魔法が相互作用を起こして街の構造が変わったりもする。
状態:夢心地…初心者のプレイヤーの大半が掛かっているもの。初めて仮想空間を訪れて酔う人がいるように、空間の半分が夢の世界で構築されたこのゲームも酔いがある。アドバイスとして、いずれ醒めた時に自分の行動を振り返らない事をオススメする。
意識がふんわりとし、本能が剥き出しになる。従来の夢を見ている時と同じ状態。克服したいなら、このゲームを10日間/ゲーム内で約一年弱プレイしよう。
一つ問おう、魔術師が稼ぐなら何をすれば良いと思う?
「異常なものを元に戻すこと! 単純だけど確実にお金が稼げるね」
答えは……街の魔力の流れが異常な場所に行くことでした!
トラブってる場所には困ってる人がつきものだ。人が居たら金をせびって解決し、居なければ放置。魔物が原因なら倒し、街に仕込まれた魔法陣とかの異常なら直せばいい。
魔法と魔術の違いも分からないのに直せるのかって? 魔力の流れが見えてるんだから、それっぽく整えるだけで案外直ったよ。ま、応急処置なのは俺も分かってるからな。ちゃんと直すのは後だ。
ちゃんと知識を蓄えてから改めてやればいいんだよ。
そうしていると自然と1万くらいは簡単に稼げた。まだ有るかと探しても、他に異常な場所はこの都市にない。この稼ぎ方は打ち止めか。
後19万くらい足りないが、そこは策がある。
「うーん…カードがいいかな…?」
「お、やるかい? 嬢ちゃん、どれだけ賭ける?」
「一万。勿論全財産オールイン、オマケに宣言しようか。私は今回、常に一点張りをする」
「──いい狂気だ。お手並み拝見といこう」
そうだね、賭け事だね。
時間がないのでサクッと結果の出るカードにした。
遊びの種類は「手本引き」…1〜6で親の選んだ数字を当てるだけのシンプルなゲームだ。
数字は4つまで選べて、選んだ数が少ない程配当が高くなる。
俺がやる一点張りは4.5倍。確率が倍になる2点張りはテーブルによって3.6か2.6倍になるぞ。
「余計な一言だと思うけど、選んだカードはちゃんと裏面で私の前に出してね。フェアにやろう」
「勿論さ。今更そんなこすっからいことはしねぇよ」
さーて……御託はここまで。
「3」
「正解。やるねぇ、雑談もなしに当てるたぁ。大抵の奴は俺の人となりを知って1か6に貼るってのに。続けるか?」
「勿論。勝った分もオールインね」
「ほいよ……はい、選んだぜ」
「3」
「……二度も即答ったぁ度胸あるな。普通別のを選ぶってのに。続けるか?」
「続けなーい。欲しい分は稼げたからね。じゃあねおじさま、周囲3m内の魔力は制御できた方がいいよー。最近は自分のものだけ隠しても流れで分かるから」
「……ご忠告どうも。勉強代だな、こりゃ」
という感じでゲームは終わった。本代は20万3060G。配当金は20万2500G。残りの1000Gちょいは適当に働けばオッケーである。ロートルな手段に拘りのあるタイプのプロってこういう目新しいのに弱いよね。
まぁ、魔眼はどっちかと言うと古過ぎて忘れ去られた側だと思うけど。
すごく痛いからやる奴なんてあんまり居ないと思うし…多分。今回の1番幸運なのは都合よく魔眼を知らない博打師が居たってことだね。
「じゃ、犬小屋の塗装はお願いね」
「ラジャーです! バリバリお任せくださいな!」
という訳で終わり次第お駄賃5000Gを貰いフィニッシュ。
余った分で本を運ぶバッグを買って、無事に魔術の古本4冊をゲット出来た。
……20万で4冊はお高いか安いか判断つきかねるなぁ。
「でもでも、良さそうなの選んでやったもんねー。
貴族の家庭教師が綴った教育用の基礎知識!
先祖の遺産の売却って事で買い取ったらしい魔術師の研究ノート!
明らかに自分用で書いてる魔法陣早見表!
何処かの魔術師が自分の知識を全て書こうとして、途中で死んじゃったっぽいやつ! 本の半分も書かれてない尻切れトンボな魔導書!」
因みに、完成された魔導書とかは売られてなかった。そういうのは売り物じゃなくて先祖代々受け継ぐ物であるらしい。
そこまで聞いて嫌な予感がしたから魔術や魔法の学舎とかないか尋ねたけど、どうもこの島にはその手の教育機関がそもそも存在しないようだ。魔術専用の学院どころか、小学校も無いのだと言う。
「いやー…考えてみればそりゃそうなんだけどねー…コマが死に過ぎても、現代基準の最低限の基礎教育が終わったコマを湧かせられるもん。しかも物分かりいい奴ばっかだし……愚かさが足りないと、そういうの出来ないんだなぁ」
適当にスラムの……屋上の上に別の家の床、四方も別の家で囲まれた立体建築物の隙間……に、簡単なハンモックの寝床を仕立てた。ヤケに広い雨水の通る場所って感じだ。
人に言っても分からないだろうな。俺も説明が難しいと思ってるし。
誤解を恐れず言えば、下水に繋がる道の格子を潜ったら人が住めるくらいの場所がある感じだ。
「泥だらけだし足元がビシャビシャだし、色々欠点はあるけど……一晩過ごせるならいっかー」
上手い事建物の切れ目が組み合わさって出来た隙間だ。
騒ぎ過ぎなければ特にバレる心配もないだろう。浮浪者にもプレイヤーにも襲われずに済むのはいい事だ。身体を隠して都市を歩くのって気が気じゃ無いもの。
「さて……」
魔力の流れもないしここは完全に人の盲点だろう。本を読むくらいは容易と判断し、杖を光らせ本を取り出した。
最初の1ページを開く。この瞬間っていつやってもワクワクするよね。
「でも学校がないとか寂しいよね。そんな学ぶ暇がないのは分かるけど……落胆しちゃうなぁ」
ペラペラと本を読みながら暇な思考の隅で思うのは、学校がないという現実だった。
運営にとってはコマの命はプレイヤーとどっこいなのは承知しているが、だからって魔術学院なんて面白いネタを使わないのはあまりに勿体無い。
「……いっそ私がやってみようかな」
一冊目を読み終え次に移る際にそんな事を呟いてみた。
魔術学院……絶対色々面倒なことになるだろうけど、あったら楽しそうだよね。
運営はまぁ想定してるだろう。魔術を使うなら学院創りたいって人はいるだろうし。世界観的にない方が空気読めてないまである存在が魔術学園だ。
「思えば魔術を学びたいのに今日まで全然だったからなぁ…他に似たような子の為にも、誰でも受け入れる学舎があると嬉しいよねぇ。そうだなー…まずは青空教室から始めてー…」
二冊目を終えて次の本を取り出す最中、ちょっとだけ未来のことを考える。
今回は魔術ビルドにするのは決めたが、肝心の何をするかは決めてなかった。
再三となるが魔物を倒すのを主軸にするのはシンエンと被る。じゃあ学んだ魔術をどう活かしたいかと聞かれれば、特にそういうのは決めていない。
演技的には学びたいから学んだだけで、知識欲さえ満たされれば他はどうでもいいって感じだろう。
「言葉の壁…種族の壁…立場の壁…距離の壁…才能の壁を……全て取り除いて、学びたいだけ学べる…そんな場所を創る……」
二冊目を終え、三冊目、四冊目を読みつつ考える。
取り払うべき壁は無数にあるだろう。魔術以外にも錬金を始めに色々な分野がある以上、魔術にそこまでの価値を感じる人は少ないだろう。
だけど俺が緑の月を見たあの日、あの感動は誰もが手にする機会があって然るべきものだ。
未知との出会いは人に福音を齎す。
解き明かし学べる場は、そんな音に溢れた所であって欲しい。
いや、そういう場所にしてみせよう。俺が創るのだから、俺がしたいように創ればいい。
勿論、世界観の空気を読んだ範疇で。王道ど真ん中を通りながら。
「決めた」
パタンと四冊目の本を閉じる。
一通りの知識は得た。もう魔法と魔術を間違えたりしない。
そして魔眼しか魔術要素がない今の俺でも使えそうな魔術を知れた。今回は結構デカい収穫かも知れない。
「──折角の夢ならデッカく行こう!
時間も空間も可能性も、全部一つに纏めた魔術学院を設立するんだ。
どの
本当に出来るとは思ってない。現実的には出来ても寺小屋くらいが精々だろう。
しかし折角のゲームなのだ。現実ばかりみていてはあまりにツマらない。
「というより、知見が広がって分かったがこの
森の三匹の怪物討伐が最終目標かは不明だが、初期状態にしたってこれでは片手落ちだ。
せめて夢歴とか、1日以上の時間の単位は作ろうよ。これじゃあ過去を調べるのにも苦労しちゃうじゃん。
「その為にも……先ずは都市の1番偉い人にご協力願おうかな? 対価は森の三怪、その一角でも貶めれば或いは、かな……今の私が言っても弱者が何言ってるんだって話だけど」
そういえばメインの細かい流れは知らなくても、俺はメインストーリーの最終目標だけは知ってるんだよな。
それなら諦める必要はないかも知れない。全て想定通りとはいかないだろうが、運営の決めた終わりには向かえる筈だ。でもなぁ…何気にシンエンの時は北の梟と会えなかったし、怪物は会う事すら難しいように思える。
少なくとも一晩一月で殺せる手合いでは無いだろう。
だが、遠くから間接的に弱体化させるくらいなら今の俺でも出来そうなやり方を思いついたぞ。
「早速プランAだね──"森の木々、全部切る"大作戦」
偉い人は言いました──道中の雑魚敵で消耗するなら、直通の道を作っちゃえばいいじゃない。
という訳でお偉いさんに森の怪物を一匹でも殺したらお金と人を頂戴?って手紙を送ってから──やってきました、キーラ大森林です!
キーラ大森林は切ってもすぐ生える木とじわじわ森を広げる性質があります。
森全体で再生能力が高い訳ですね。ですがこれ、別にゲームシステムでそうなってる訳じゃなく、森の三怪の一角、南に陣取ってる雷と空間を操る山羊の力によるものなんです。
貴族の
「つまり切れば切るほど南の奴は消耗するってコトで…弱体化
やる事は単純。学んだ魔術から
木にだけ罹患する病を創ります。その名を"白斑の戒め"。再生しようとするほど悪化して、表面の白い斑点が出る頃には中身は死に掛けてる感じの効果です。木を死なせず、しかし広がる力を持たせない範囲に収ました。これが枯れたら山羊の奴は自身の能力を細かく調整できる証明になります。
完成です。名付けて"森殺しの呪い"。
「おーおー、凄い勢いで枯れてってる」
はい、魔術の効果範囲外の枯死が起きました。それも一斉に、無事な所も纏めて。
これで山羊は空間操作を一部オフに出来るって分かりましたね。だけど操作はそこまで精密でも無さそうって感じ。
仕込むのに20日掛けた割に、森の後退は全体的に10m程度って感じだねぇ。ログアウトまで後二日しかないし、起きてる間に戻されたら無駄骨かぁ。
「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ、アンコール! アンコール!」
悪いな山羊。この"森殺しの呪い"自走式なんだ。
地中に埋めたのはプレイヤーの眼から隠す為でもあり……いい感じの石、もとい「蚯蚓石」を活かすためでもあったってワケ。ちょっぱやで錬金術って作ってきました。
効果は水気のある方に進むってだけの石なんだけどね。この呪いって根っこから水を放出させるから周りの土がとても水気溢れるんだ。
森を殺すついでによく燃える薪も作ろうって魂胆である。その内真ん中の燃える大樹まで進んだら大火災になってより被害が広がるって寸法だ。ふふ、我ながら悪どいぜ。
「川を探す為の石と薪を乾かす魔法……元になった魔術はなんてことなくても、発想と工夫で森すら殺せる──アッハハハハ!! 魔術って楽しいねぇ!」
ただし、森を殺したのは俺じゃないよ。この呪いはあくまで森を少し呪って広がるのを止める程度の効果しか持たせて無い。
あくまで呪いを嫌って、本能的に森に掛けた空間の力を解いては枯らしてトドメを指してる山羊のせいだ。我慢すれば、俺のプランAは失敗に終わっていたことだろう。
そしたらプランBの"外来種放出"で生態系ぶっ壊すつもりだったけど。このゲームご丁寧に遺伝子の概念があるから幾らでも悪巧み出来るし。
本体に行くまでの消耗が無くなれば殺し易くなるワケだからね。レベル上げなんて森の外でやればいいし、森の恵みはキーラ大森林以外でも取れる。都市の収入は減るだろうけど、もう一つの都市と交流出来る利点の方が大きいと思うんだ。
「──とと、後はこれからの用事をメモといて……暫くはこのタスクをやる感じだなぁ」
手紙に書いたことを有言実行したし、都市との交渉とか諸々はログアウト後の簡単AIに任せる事になるのだが……。
困った事に初めて生きたままログアウトするものだからどんな対策が有効か分からない。一応タスクとその過程に生じる様々な予想される出来事への対応をノートに書き込んでおいたけど、AIがちゃんとこのノート通りに動いてくれるかは未知数だ。プログラムに直で打ち込んでる訳じゃないからな。
「先ずは交渉、無理なら段階的に下げる感じで。40人は生徒が欲しいなぁ。次に学院の建築、ここは後から手を加えられるように小さめでいいや。最低限の格と雰囲気があればいい。カキュラムは文字の教育から魔術の基礎は義務。そこからは志願者次第……起きてる時間は大体16時間、80日空けるワケだから……」
森に来る前に錬金術が宗教に独占されてる事とか、人に引かれる事は一通り調べてある。
そこも考慮して作ったプランだから大丈夫だとは思うが……そもそもやってくれないパターンを除けば、大体のんびりやってくれればそれでいい。種族を理由に交渉に応じないというなら、分かってくれるまで待つのもアリ寄りのアリだ。
……肝心な時にAI任せって怖いなぁ。それも安い奴だと尚更。
「こんな時自分で自分を動かす魔術が使えたら──そうだよ使えばいいじゃん!」
あ、そうか。こういう時の為に念力っぽい使い方があるのか。
「問題は外から肉体を動かす魔術に登録した行動ルーチンと
古本で学んだものは基礎知識と基本的な魔術な訳だが、そこに書いてあった魔術は火、水、土、風の生成と操作、それから魔力を念力のように扱う動作補助がページの殆どを占めていた。
連作ではなく個別の本だからな。内容の被りは結構あったし、俺でも分かる間違った内容もあった。
多分コマの店で選んだ本で差が出来ちゃいけないとかそういう都合なんだろうな。
アレだよ、タイトルに差はあれど全部ゲーム的には「下級魔術指南書」扱いーみたいな。
こういう時プレイヤーの目線が無いと困るんだねぇ。その辺りのラインも見極めてかないとな、ゲームの学院ならゲームのシステムを最大限活かさないと話にならなそうだし。
「よし、こんな物かなー…? 動いたら御の字って感じー……よし、よし、よし…大体問題ないね? じゃあ終わるかぁ」
ゲームをやれる時間はまだ二日残っているものの、早起きして悪い事はないだろう。
目の前で凄惨な枯死を起こしてる森を眺めつつ、俺は初めて自分の意思でログアウトを行ったのだった。
ぬぉ…夢から浮上する感覚がキモ……。
→【good morning! Hello!】
生還リザルト
PC ビリデス
種族:兎人/魔術師Lv.16
身体:4
└・生命力:3(↑1)
・攻撃力:1
技術:1
└・防御力:1(↑1)
・技力 :0
精神:46
└・知力:6(↑5)
・信仰:0
・神秘:40(↑38)
アビリティ
【硝子のコマ】【魔眼使い】
「超聴覚Lv.9」「脱兎Lv.3」「魔術Lv.10」「設計Lv.8」「速筆Lv.10」「呪術Lv.8」
「
変容:【
[*ユニークのメイン要素であるログアウト中の
装備
・未完の杖
・魔猪の牙製ナイフ
・[影の薄い]複数の皮製ローブ
・[底の広い]手提げバッグ
・
所持金:3G
ストーリー
・「都市長との出会い」進行中
コマとしての評価…ナイト(頭一つ抜けた逸話を成した)