運営さまの言う通り   作:何処にでもある

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 前回のあらすじ
 何気に始めて生きてゲームを終えた山本は気を良くして授業に励んだり部活をしたり妹達とだべったりしている頃、ゲーム内では森の大部分が消えたフィアサーバーでは管理AIによるロールバック、及びそれに伴う補填が行われていた。
 それは森を根絶やしにした犯人であるビリデスも例に漏れ……ない筈だったが、【硝子のコマ】の効果によりプレイヤー向けの補填を無効化。
 島の管理AIであるフィアは仕方なく…本当に仕方なく"森殺しの呪い"を微調整し、逸話を森の拡大阻止の低コスト化までランクダウン。
 いい感じに森を壊さず、尚且つ都市長から報酬を得られるように取り計らう事で補填としたのだった……。




方針思案/拠点を手に入れよう

 

 

「……お?」

 

 ゲームにログインすると、俺は都市からある程度離れた場所に校舎を建てている最中だった。

 周りには様々な職人や作業員が居て、俺は手に設計図を持っている。

 設計図を読んでみると教会の設計を転用して作っているみたいだ。ほー、中々いい条件を揃えたようだな。

 

「これ何処に置きますかー!」

「あっちの方でお願いしまーす!」

 

 資材を運んできた人に声を掛けられたので指示を行いつつ、次の工程を確認する。

 どうやら今はレンガを積み重ねる段階であるらしい。ほぼ最終工程のようだ。

 勝手は違うものの、この手の仕事はリアルでやった事がある。現場監督の立場になるのは始めてだが、現代よりは単純だしいけるだろう。安全第一!

 幸いアビリティを獲得したのか何となくやるべき事は分かるし、この直感に従えば大きな問題が起きる事もあるまい。

 

「そこの二人ー! コレをあそこの方に持ってってー!」

 

 それから三日。俺は何事もなく作業を進め校舎(仮)を完成させた。

 その間に中身無しのビリデスの挙動を周りに聞いてみたが、特に今の俺と大した違いはなさそうだった。

 若干、今の俺の方が感情豊かで自然な動きに見えるらしい。肉体操作の魔法は効果ありとみていいだろう。定点カメラのような、ログアウト中にどうなってるか観れる機能が欲しくなるな…要望としてお便りに出しておこう。

 

「森の拡大阻止の低コスト化かぁ…あの後なにかあったのかな?」

 

 森の功績がランクダウンしているのは気になったが、大方あの後山羊が学習して盛り返したとかそんな事情だろう。違っても大した事じゃないし追及はこの辺りにしておく。ゲーム内のお知らせを何処かで見れるようにしないとな。サイト探し…一ヶ月後まで覚えてられるか? ノートの端にでもメモっておくか。

 

「何はともあれ箱は用意できた! 次は……生活する用意かぁ」

 

 プレイヤーが学ぶなら兎も角、コマを生徒にするなら現実と同じくらいの用意が必要だ。

 魔物の侵入を防ぐ用意もいるし……何より、俺自身がまだ人に教えられるほど魔術を知れてない。

 暫くはこの拠点で活動しつつ魔術を研究していくとしよう。

 

「取り敢えず生徒はいつでも募集中ってことで入り口に張り出しといて……畑と井戸から用意しよう、うん」

 

 ログアウト中の二ヶ月で用意出来たのはこの石造りの教会っぽいやつだけだからな。

 「すごい事するので成し遂げたら何かください」って手紙で貰えるものとしては上等だろう。俺はいいと思う。

 

「魔法陣、魔石、それから爆発力強化の触媒ヨシ! 点火!」

 

 という訳で地面に耳を当てて水の音を探り、指向性を持たせた爆破で掘削し、色々やって井戸は出来た。

 え? 石積みや諸々の組み立てぇ? 錬金術でやるのが1番早いけど魔術でどうにか頑張ったよ。今の俺は魔術師だからね。

 おかげで錬金術なら10分で終わる井戸作りに三日も使ったよ。結果的に地面を爆破したのは意味なかったよ。ノリで爆破するものじゃないね、その後近づいた魔物を倒すのに時間を食ったし。

 

「……代わりに「井戸を創る魔術」が出来たからいっか! これからは1分詠唱するだけで井戸が出来るぞー。かなり凝らされたからなー」

 

 思うに、魔術と錬金術の利点と弱点が分かった気がする。

 

 錬金術は材料と錬金の仕方さえ分かっていれば、準備が出来次第錬金出来る。なんならアレンジを簡単に加えられるし、即興で錬金したりも出来る。

 代わりに品質と出力結果はどれだけ手間暇をかけたかで変わる職人技だ。極めれば万能、そこに至るまでは錬金を使わない方がいいものを作れる。

 それと触媒や設備の持ち運びにも難点アリ。プレイヤーじゃないと扱うのに苦労するだろう。

 

 魔術は魔力源と通す物(魔法陣/詠唱/物体)と既知の魔術があれば誰でも同じ魔術が使える。使い手が魔力を持っている必要もなく、感覚的には知識だけで使える無形の道具という感じだ。

 知ってる事が多いほど魔術の火力が上がるのは、この無形の道具の使い方をどれだけ把握しているかという意味だね。

 代わりに「魔術を創る」ことの敷居がすごく高い。本当に高い。無形の道具と例えたが、創る側になると目標となる完成した形がないせいでかなり苦しい思いをする。「創る」と「使う」のに必要な分野が全く違うのだ。

 

「多くの魔術を扱える優秀な魔術師であるほど、新たな魔術を創るのは困難だろうなぁ……これ」

 

 ステータスには精神の中に知力、信仰、神秘があるのだが、魔術を使うのは知力、創るのは神秘が必要なのだろうなぁ…と感覚で分かるくらいだ。

 

 なんだろうなぁ……決まった手順で道具を使ってるのが魔術を使う感じ……いや、この例えは違うな。

 いっそ、例えなんて斜めに物事を観るような表現じゃなく、そのまま言うか。

 捉えた感覚を復唱すればいい例えも思い付くだろう。どういうものかは感覚で理解出来てるし、それを言葉にしてみるのは良い手である筈だ

 

 

「知識とは(すがた)を持たぬ秘めた性。脳裏の裏にて漂うもの。

 心を涸らした本質であり、澄んだ水を汲める源水。()けた眼。

 

 力とは我が心、欲の井戸。海より戴いた色。

 本質を覆い、守り、隠し、保つ。決して離してならぬ命の器。

 

 知識を話し、離してならぬ。眼を持たぬ獣は欲に穢れ、穢れた獣は欲としか見られぬ。

 力を涸らせば己を保てぬ。己を繋ぎ止める力が消え去れば、その形を失うのみ。

 

 術とは二源の調和にこそあり。透けた眼で世界を照し、色の中から望みを掬う。

 なれどもかねてから恐れたまえ。望みとは欲より引き摺り出された無形の魔である。

 身の丈に合わぬ力を引き出せば、それは己だけの形を得てしまうだろう。

 

 創る力とは色の奥から魔を取り出す事なり。使う力とは魔を御する事なり。

 魔を創り御して術とする。それ即ち、魔術と言うべし」

 

 

 言葉にして、感覚を理性と思考に落とし込んだ。うん、上手く捉えられた気がする。

 魔術書にはこんな事は一切書かれてなかったが、魔術を創る側になるとこういうことなんじゃないかってのは案外分かるんだよな。

 アレ等は使う側の教えだったが、思うに魔術師には二つのビルドがあるのだろう。

 

 魔術を使う魔術師と魔術を創る魔術師……それから、多分魔法陣や詠唱とかの魔力の道を新たに作るタイプの魔術師もいそうかな?

 どっちになりたいかと問われれば大半は使う側だろう。創れても上手く使えないんじゃゲームとしてツマんないし、創る側は魔術師としての仕事を十分に行えない。下手したら創る側は冷遇され、存在がいつか消えるかも知れないな。創る側の方が色々と手間だし。スマホのアプリを作る側と使う側くらいやり方が違う。覚えるべきものも、やるべきことも、術として心得るべきことも。

 俺は兎人でも使える魔術を探してる内に創る側になってたが、大抵は魔法陣を見つけた辺りで使う側になるだろう。外の魔力を使う方法なら誰でも魔術を使えるものな。俺は自分の身体の魔力で使いたいから満足しなかったけど。

 

 うーん……ちゃんとした場で、ちゃんとした教育をしないとその内魔術の創り方をコマが忘れるかもね。タダでさえ一度作った魔術は基礎さえ学べば魔術を使う内に閃くように覚えていくし、広める手間が無いのはイイけど、それは創る側の減少に拍車を掛けてしまう。

 

「となると……おやおや? 後付けだけど魔術学院を作るちゃんとした理由が生えちゃったぞ?」

 

 というか不思議なんだが、魔術師界隈の共通用語が魔力と魔術くらいで、もっと深掘りした用語が見当たらないのは何故? 俺が知らないだけで他の魔術師なら知ってるのかな。

 でも探すの面倒だな……もういっそ俺が名付けちゃうか。変な固有名詞付けなきゃいいでしょ。

 

「そうだなぁ…使う側を使い手(ユーザー)、創る側を掬い手(チューナー)

 欲は元から魔力って名前があるからいいとして、透けた眼の方は本に言及されて無かったんだよなぁ……ああいや、混ぜたエネルギーの方が魔力かな?元になる2つの力は……うーん…オドとマナは体内と体外の区分けだしなぁ…エーテル…イド…うーん」

 

 魔力は二つの力を混ぜたもの。

 この眼で魔力を見せられてる内に理解したのだが、魔力って心が由来っぽいんだよ。

 本能や理性が色のある欲の力で、これは世界中の何処にでも満ちている。夢の世界だからこんなに満ちてるんだろうな。

 

 透いた眼は……説明が難しいな。これは存在を持つなら誰でも有していて、欲の力が持つ色を消す効果があるんだ。なんだろう……言うならば「理解度」? 多分魔力を動かしてる感覚を与えてるのはこっちなのだが…。

 

「うーん…敢えて重ねるなら「知力」って名前が良いかな。遊戯(ゲーム)らしく言うなら、魔術は「神秘」×使い手の「知力」=規模。魔術にどれだけ神秘を宿せるかは創る側の実力に寄っている……ああ、なら同じ名前でいいね。良かった、ちゃんと専門用語あるじゃん」

 

 うん、取り敢えず欲の力を「神秘」、溶いた眼を「知力」と呼ぼうか。

 多分運営もそういう想定でこう名付けてるだろうし、そこは向こうに合わせないと。

 

「まぁ……問題は「魔術」の一つ一つが、魔物の雛形であるということだよねぇ……勿論ただの動物に魔石が宿った「魔物モドキ」も居るけど、使い手が居なくなった魔術が魔物に変わるのは懸念すべきトコロさんだ」

 

 そして魔術を創る、使う、教えるに従って1番気を付けたいものもある。

 それは不人気な魔術は強大な魔物に成りかねないということだ。

 魔術を創って理解している内に気付いたけど、魔術って神秘を保てない生き物みたいなものなんだよね。姿も形もない知識だけど、生き物……なんだと思う。ここら辺はちょっと正しい自信ない。

 

「使われてる内は使い手の知力を使うけど、使われなくなったら自力で生み出す術を覚えて魔物に変わるっぽい?……要するに、忘れられた呪文や魔法陣は魔物に変わってしまう。魔術師にとっての、狭い定義での「魔物」に変わりそうな気配がしてるのよねぇ。謂わば遺階魔術(ロストワード)?」

 

 魔術はなんというか、魔術という知識に囚われた魔物なんだよね。

 管理されてる怪物って感じでさ、人によっては魔術は魔物の卵だとか、ゆりかごと言うかも知れない。

 まぁ閃きって形で広まるから中々起きない現象だろうけど……何かしらの要因で魔術師が一斉に死ぬことがあれば、無数の魔術が途絶えて強大な魔物に化けてしまうだろう。

 つまり魔術師は魔術の管理人でもあるワケだ。決して秘匿して途絶え易くしてはならない。

 

「というか……キーラ大森林の三怪、アレが「忘れられた魔術」が変じた「魔物」っぽいんだよねぇ……いや、この眼で観るに元は魔術じゃない別の知識なんだろうけど……とても古い時代、魔術と似たような形で存在してた臭いがする」

 

 というかあの三怪だけじゃないでしょ、「魔物」。

 元の担い手が古代の連中かどうか知らないけど、魔術と同じ扱いなら絶対3つの呪文だけじゃあ収まらない。

 

「妖精とかはその点良い例だね。あれも産まれからして「魔物」だ。魔術として設計されてない場合……自然発生した「魔物」はあの程度の存在にしかならない。限度があるワケだ。普通の川とダムが決壊した川を想像すれば分かりやすいだろうか」

 

 魔術は神秘という名の欲望に形を与えるものだ。

 自分達の為に知識(ダム)という形を与え、肥沃的なものにする。

 それは富と安寧を齎すが、万が一が起きれば大きな厄災となる。

 「魔物」が自ら振るう魔法と違って、適切な管理が必要だ。

 

「……と考えると、魔術学院はダムをより大きく頑丈にする代わりに、壊れた際の災害を大きくする物でもあるワケか。秘匿すれば、創り手が消えれば魔術が消え去った時の災害も弱くなる……だけど、その分知識(ダム)途絶(決壊)するリスクも高くなる」

 

 どっちが良いかは人に寄るだろう。

 俺はダム創るならビーバーみたいな物じゃなく盛大にコンクリートで創り点検方法をしっかり備えるが、人は怠惰で今が良ければそれでいい人も多い。国家ぐるみでやるべきでも、世情によっては出来ない時もあるだろう。そんな時ダムが小さければ良かったなんて言う人も居ると思う。

 

 まぁ俺はダムはコンクリートで創れよって思うから学院創るけどな。

 少なくとも魔術の知識を全て集めて一定の人数に覚えさせ使わせる最低限度の管理機構は必要だろこれ。

 小規模でもやらないのは怠惰なだけだわ。例えゲームでもほっとくのはむず痒いのでやります。

 

「その辺りは実利も込み込みかぁ…うーん…学院生徒は基本的に使い手として教えつつ、成績が優秀なら掬い手として……ああでもこれだと神秘に注げる成長余地が……なら掬い手として最初から育てる? でもそれだとその子を見定める時間がなくなると。あと、世俗の為に魔術師として都市に送るシステムは要るよねぇ……」

 

 うーん……結構悩ましいぞこれ。1番魔術の管理として理想なのは秘密結社みたいな形だけど、長続きさせるには教育機関の形を取らないといけない。金は必要だ。

 でも教育機関の形を取るとなると、掬い手の存在はかなりリスキーだ。生活全て管理するワケにもいかないし、使い手が勝手に自分に都合の良い魔術を創りかねない。

 

 「○○しか使えない魔術」とか「○○の家系しか使えない魔術」とか作られたら、それだけで新種の魔物が一匹将来この世で暴れるのが確定する。なんなら、プレイヤーが複数のアバターを使って創るのが目に見えている。賭けてもいい、絶対知力型と神秘型のコンボ使うやつが出てくる。

 

 それだけは絶対禁止しなければならないけど、禁止にしたら作りたくなるのが人間だ。というかやる連中がいる。

 なんなら、もう既に今この島に居る魔術師の中にそういうのを作ってる奴が居るかも知れない。

 そういう連中は家系を閉ざすワケにもいかないから特別待遇にしたい所だけど、そうしたら創りたい奴増えるよねっていう。

 もういっそのこと討伐や再習得による魔術化の研究に舵をきるべきかも。絶対出てくるなら予防だけじゃなく対処法も考えなきゃ。そういう魔術は個人で創る分、森の三怪ほど強くはないだろうし。

 

 秘匿は……どうしよっかぁ? どこまで隠すのが適切かなぁ?

 

「不思議だなぁ。改めて魔術の構造を言葉にしたら考えることが増えちゃった」

 

 これゲームだからそこまで考える必要ないよ?

 バカ言え、ゲームだから本気でやるんだろ。年代ジャンプとかそういう要素を運営がやらないって誰が保証するんだ。プレイヤーの活動でジョブが増えたり、ゲームシステムに組み込まれるゲームなんだぞ?

 

「……ヨシ! そこは教科書を作るときに考えよう! 小難しいことは創立理念とかに押し込んだらいいもんね!……取り敢えず畑と道を創る魔術を創るかぁ」

 

 魔術で出来ることを増やす程リスクは高くなるが、生活に組み込まれた魔術は魔術のとっつき易さ、魔術師の需要に関わる。例え他の職に喧嘩を売ることになろうと、寧ろ相手に覚えさせるくらいの気概でやらなきゃいけないものだ。

 

 だから、先ずは畑と道を創る魔術から始めよう。

 

(神秘)向き合い(知識とし)、魔を制する術とすべし‭─‬‭─ってね」

 

 お、なんとなく言ったけどいいフレーズだね。学院の校訓にしとこっと。

 

 

 






 遺階魔術(ロストワード)…このゲームには初級、中級、上級、最上級、番外の呪文があるが、その全てが遺階魔術になり得る。習得者が0になって平均5年程度経過することで「魔物」に変じ、どれだけの人に使われたか、どれだけ高位な呪文だったかで「魔物」としての強さが決まる。こうなれば物理的に殺すことは叶わず、特殊な方法でしか消し去れない。
 夢の世界の物質、空間の情報を転用し構築した魔術が持つ可能性、その一つ。

 キーラ大森林の三怪は遺階魔術(ロストワード)と同種でありながら、かつてPD社が遭遇し、其々51名、2名、75名の犠牲を払い情報を持ち帰った存在、その情報を元に構築された再現体(コピー)である。
 現代の特殊技術で100%の精度で再現されたその三体の内部は、運営すらも理解に及ばないブラックボックスとなっており、移動制限を設けられてること以外は本物と変わりはない。
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