ランダム経歴……キャラの過去の確認にNOを選んだ場合に付与されるフレーバーテキスト。あなたはこれに従って動いてもいいし、無視して遊んでもいいし、書き換えてもいい。
経歴確認……制作したキャラが生まれてからアバターになるまでを演算したもの。他のプレイヤーが居ない環境で様々なチュートリアルを受けられる。没入感を与える為のシステム。ゲームのジャンルを考えればオマケ。
「はっ!」
気付けば俺は何処かの街の隅に立っていた。街の街は立体的に入り組んでいて、背後には謎の建物が…。
[↓孤児院]
…視界に表示された説明に寄れば孤児院があった。
身体は制作したアバターを幼くしたもので、小さくやわこい手が視界に映った。
「待てー!」
「はは、つかまえてみろよ!」
「追いかけっこしてる子供……」
手を開けたり閉じたり、土を少し食べてマズさに吐き出し、ボサボサで長い髪を指で梳いて感触を確かめる。
視界、音、温度、匂い、味……全てが現実のように生々しい。
身体も軽く、何処までも走り出せそうな充足感に満ちている。
ステータスを見れなければ、ここが現実だと勘違いしてもおかしくない環境だ。
「VR…スゴい」
これが初めてVRゲームだが……なるほど、第二の現実だ。
そして開始早々アバターの幼い姿にする辺り……さてはこれ、ロールプレイ重視のゲームだな?
「おれ……うぉっほん。ワ、ワタシの振る舞いも今から決めないと……」
気分は異世界転生者だった。伊達にゲームとして発売しようとしてるだけはあり、立ち並ぶ家の間から見える青い空にさえ圧倒されそうだ。
「おどおど…人見知り…辺り?」
なんだかロールプレイ重視っぽいので背筋を猫背気味にして、吃った喋り方に変える。
だが…意識しなくても声をしっかり通すのが難しいな。肺が現実より小さくて動きづらい気がする。そんな感覚まで再現されているのに舌を巻き、ゲームとして必要かどうかが思考に過ぎった。後でオプションでオンオフ出来るか確認しておこう。無かったら報告だ。
「あー……あー…! あーー…! げほっげほっ…咳も出来るんだ」
そして発声練習をしつつ、これから何をするかで俺は首を傾げた。
「でも……こ、これから何をすれば」
[→孤児院の中に行きましょう]
「わっ…あ、案内はちゃんとあるんだ…」
暫く立ち尽くしていると、チュートリアルの時と同じ画面が現れ、矢印も一緒に出てきた。唐突だったので驚にの声が漏れる。
そして青白い矢印に従って背後の孤児院に入ると、長いテーブルの奥に優しそうなお爺さんが座っていた。どうも子供達は出払っているようだ。多分院長だろう。
[↓クレス院長。ヨモツ市街で身寄りのない子供達の為の孤児院を運営している]
[→目の前の「コマ」に話しかけてみよう]
[*コマ:PCでもNPCでもないこの世界の住民です。一度死んだらストーリー進行度を初期化しないと会えないのでご注意ください]
[*NPC:このゲームではプレイヤーが入ってないアバターをNPCと呼びます。本来の意味でのNPCをコマと呼称します。NPCはPCの時の行動に準じて穏便にこの世界で活動します。プレイヤーにはNPCとコマを区別する手段はありません]
「ぶぇ……すぅ…ヨシ。……あの…クレスお爺さん。今って暇ですか?」
「おや、どうしましたか? フラッタさん」
「あぅ…えっと……」
人見知りなら知らない人に話しかけるのは難易度が高いだろうと思い、一拍置いてから話しかけてみた。特に話題もないので会話に躓いてるが、オラクルは何も言わない。
ふむ……つまり空気を読んで良い感じにやれってことだな?
だが何を話せば……そうだ!
「か、神様って居るんですか?」
今の俺は僧侶に錬金術師の副業を持っている。それならこの質問が1番相応しい!
どうだ、かなり空気読めてるんじゃないか?
「……
しかし院長は初めて聞いたとばかりに首を傾げた。
……あれ?
「そのようなお人は知りませんね。誰かその人を探しているのですか?」
「ぇっと……あ、もう大丈夫です。知らないなら、それで…はい…あっ!」
頭に疑問符をいっぱいにして考える。
なんだあの反応は。僧侶があるなら神様が居るに決まってるだろ。
いや…待てよ? 僧侶って元々の意味は出家したお坊さんだよな。それなら仏は居るってことか?
「なら仏様! 仏様は居ますか!」
「……うーん」
あ、知らない反応! なんてことだ、このゲームに神も仏も居ないのに僧侶って職業だけはある!
これは流石にバグで良いだろ。早速送信して……。
[A.仕様です]
なんてことだ、実装されてないのが正常……
これでは僧侶の肩書きが片手落ちだ。どうにか神様を……はっ!
──その時、俺の灰色の脳細胞に電撃が走った。
「はっ──つまり……そういうこと…!」
神が居ないのに僧侶の職になれと運営は言った。
ならば今回の俺が振る舞うべき演技は「神の概念を伝える僧侶」!
「これは
そう思うと副業が錬金術師なのもそれっぽく思えてきたぞ。神様に会うための道具を作れってサムシングなんだ! でも会うのは難易度高そう、声を届けるくらいを最終目標にしようぜ!
なるほどね、完全に理解しました。これはもう今回の仕事はボーナス確定ですね。
「クレスお爺さん。ワタシ…決めたよ」
「急にどうされたのですか?」
「ワタシ……み、みんなに神様を教えて、声を聴かせてあげたい。それをワタシの生涯の夢にする」
「フラッタさん? フラッタさーん?」
「ヒッヒヒヒヒ……!」
その後院長に何度か呼びかけられたが、俺は興奮のままに笑い続けた。
探すぜ神様、届かせるぜその声を! それが俺の役割って訳だァ!
[*変動を確認しました。アビリティ【声の信奉】を
[*新たなアビリティが世界に刻まれました]
[*開祖:この世界はプレイヤーの行動により新たなアビリティが随時追加されます。生成したプレイヤーにはユニーク枠として追加され、開祖として常に技術や思考情報の蓄積対象となります。それが嫌な場合、設定から自身を学習対象から外せます]
演技もあるが、半分は空気を完璧に読めたという達成感による物……うん? 今何か表示された?
……まぁいいか。今はこの興奮に身を任せたい。
「ヒヒヒ……あ、あれ?」
そうして笑っていると、気付けば俺は黒いフードを被り、さっきよりある程度成長した姿で街の片隅にいた。さっきまでがロリなら今は少女って感じである。
なるほど、そういえばこれは経歴の確認。主要な場面だけ体験する感じなんだな?
手元には錬金術の本と道具と素材があり、今からやることは俺でも察せられる。
[→錬金術をやってみよう]
[*錬金術はこの世界は現実とこの世界独自の法則、その二つを自由に組み合わせてアイテムを創る技術です。コマは錬金術でのみ顔を出す二つ目の法則を「第二大原則」と呼んでいます]
「えっと……この素材を使うレシピは…」
いきなりやれと言われてやれるはずもないので、俺は何度も見返したのか癖のついた本を開いた。
……さっき自分の手で制作したアバターがこの場所で生きてきたような痕跡があるのが、何処か不気味に感じる。まるで人の人生を乗っ取ってるみたいだ。
この手でアバターを作って無かったら本当にそう思ってたかもしれない。
「これは石炭の粉…こっちは朱の顔色材……それから生きたカエルとナメクジに……思ったより魔女っぽい」
うーん…この辺りの仕様はプレイヤーで好き嫌い別れそうだな。本格的だけど、生理的嫌悪感を持つ人も居るだろう。俺は別に気にしないけど、ボタン一つで錬金出来るようにした方がとっつき易い筈。これは報告だな。
パラパラとページをめくり、基礎理論を流し読みする。
初めて見た筈なのに既に知っている知識を見返してる感覚がある。
どういう理屈なんだろうな。うーん……確かちょろっとネットで理論を見た時は……"思い出す"のはその人が自分の脳から欲しい情報を取り出す行為だから、これを脳以外に接続して行えるようにしてる……んだったっけ?
それによれば別のセーブデータを参照できるようにしてる……と例えてたな。
「創る予定の物はこの神と交信出来るポーションかな…書き手はワタシ…フラッタお手製?……理論と見解に願望が見える。この世界の法則は知らないけど、情報の集め方が未熟なのは明白。へ、偏見はダメ」
確認したレシピはそのまま廃棄した。こんなのより麻薬とかでトリップする方がまだ話せるだろ。
あ、でもVRゲーだしその手のネタはダメか。それならここはもっと穏当なものを作ろう。
男山本、錬金術の新レシピ開発に挑戦!
「コレとコレ…本に書いてある基本の理論を組み合わせて…制作環境は…一応陰陽と風水も見よう。方角は……」
これでも一時期演劇部の部長が韓国作品にハマり、それを元にして台本まで創り、折角だからと胡散臭いカンフーの師匠を演じた事もある。
それにここってファンタジーなゲームだからな。どれが成功の助けになるか分からないし、片っ端から試すのは悪くないだろう。
間違えないようにメモを取りながら、一つずつ手順を構築していく。
材料の量からして一回こっきり。失敗しない為の対策だ。
「素材的にポーションより丸薬の方が適してて……神じゃなくて、小さな動物の言いたい事が分かる…なら出来そう。うん、一歩ずつ話せる相手を増やしてこう」
ある程度理論が纏まったので制作開始。最初に創るものから大分道を外れたので成功するかは怪しいものだったが……そこはゲームと言うべきか。都合よくそれっぽい形に出来た。
[成功。新アイテム「意通丹:D」を錬金しました]
[*変動を確認しました。アビリティ【錬丹学】を
[*新たなアビリティが世界に刻まれました]
訂正、成功品だと保証してくれた。
翻訳じゃなくて意通な辺り、正確に言葉を交わせる訳じゃなさそうだけど。
変動がどうこうは…今はよく分からないし、後で確認しよう。
「出来ちゃった……これは、作り込んでる」
コレって作った俺より、錬金術初心者の俺でもこういうのが創れるくらい、ちゃんとした理論と法則を仮想現実に組み込んだ運営がスゴいやつだろ。
「や、やっぱり…サブのおかげ?」
本来の姿からかけ離れててもアバターの動きを違和感を持たせず補正するし、職業の効果にそういうのがあっても可笑しくないよな。
だったらサブに錬金術師を取ったお陰か。じゃなきゃ初めてで新レシピ開発とか出来る訳ない。これが剣士なら良い感じに剣を振るえるようになっているのだろう。
結論、このゲームはすごい。
そう考えていると、また景色と身体が変わる。
今度は寂れた村が近くに見える草原で、身体は制作したアバターと同じものだ。
服は裾の端に土汚れが付いた黒いローブで、樫の杖を握っている。脚には少しだけ疲労が溜まっていて、腰には幾つかの木の入れ物が携えてあり、其々別の色の紐が結ばれている。中には丸薬が入っていて、どれがどの用途に使うのかは元から知ってるかのように理解出来た。
見た目は制作した時期と同じ……段々成長していった事から考えると。
[過去の体験を終了します。結果がステータスに反映されました]
[*起床までの残り日数はステータス→ログアウトから確認出来ます。0になると自動的にログアウトされますのでご注意ください]
「此処からが…本番!」
やっぱりここで生きている人を乗っ取ってる感があるが、ともあれゲームは始まった。
特にストーリーのフックは見つからないが、ここまでの体験で運営が想定しているプレイは分かる。
即ち、第二の人生を謳歌しろってことだ。
スローライフ系だとみたね。
「先ずは……あの村へ」
湿った風を頬に感じながら、俺はそう離れていない場所にある村へ歩き出すのだった。
PC フラッタ 僧侶Lv.1/錬金術師Lv.1
能力傾向:回復も出来る生産職
身体:1
技術:5
精神:3
アビリティ
【聖なる手】【声の信奉】【錬丹学】
「祈りLv.2」「錬金術Lv.6」
現在時刻16:03
目覚まし 6:00
自動ログアウトまでおよそ 70日
アドバイス:寝過ぎです。1日6〜8時間の睡眠を心掛けましょう。現在のオススメは17時に一度起床し軽く運動することです。