拠点「緑の魔術学院」
施設
・裕福な家Lv.3(収容可能人数:3/80)
・小さな井戸Lv.1
・小さな果樹園(林檎)Lv.1
・小さな小麦畑Lv.1
・大きな人参畑Lv.3
道路
・砂利の道
防衛/○棲みついた侵入者
○凶暴な妖精×2
○林檎好きな蜂×80〜たくさん
○制御出来ず野生化したゴーレム×6
・魔術罠「招かれざる客への鎖」×25
・落とし穴×1
・電気柵(大きな人参畑、小さな小麦畑)
・錬金物「鳥殺しの案山子」×3
評価……ここで生活する胆力だけは認めてやる
「もう少し拠点を良くしたい」
「急にどうしたんだセンセー」
先日教科書を渡し、いざ海の研究に取り掛かろうした俺だが、その前に文字にしてまとめた学院の現状を見て考えを改めた。
宿題をやる前に部屋の掃除を始める子供みたいだが、事実その通りなので何も言い返す気はない。
現状クソデカい家に住んでるだけの農家だこれ。
「いやね? 魔術学院を名乗ってる癖にほぼ農家って事に気付いてさ。本腰入れてそれっぽくしたいなーって思ったのよ」
「あー…」
自給自足出来る施設をしか作ってないのに学院を名乗るのは片腹痛い。せめて黒板のある教室を一つくらい用意しろって話だ。
そこに魔術も加えるなら癒草や魔癒草、マンドレイクを育て、生徒用の杖や空飛ぶ道具の一式は用意しろという話になる。暴れ樹枠はもう果樹園があるからそこはオッケーだ。
目指せハリー・○ッター、動く絵画とかあるすごい城。
「まだいいんじゃねぇの? 生徒なんて文字も読めないオレ達二人だけだぜ?」
「だからこそだよ! もう生徒が居るのに悠長にしてられないのだよ!」
「先生、静かにしてください」
「……ごめんね!」
先日渡した教科書を読んでいた二人の邪魔をしちゃ悪いので、俺は身を低くして居間から外に出た。
取り敢えず教室作るか。
「よし出来た!」
デカい部屋に錬金術で作った長机と椅子を並べます。黒板置きます。
完成です。
「デザインがクソ!」
だがダメ! アンティークな雰囲気が無いから学校の理科室みたいになっている!
これでは魔術学院の名が負けてしまう。空気読みとはこういう雰囲気作りにも関わるんだからちゃんと王道を抑えるべし! かくなる上はフラッタとシンエン、封印していた両方の力を使ってでも…!
「……うーん…まぁ、妥協点?」
「トイレに行こうとしたら何もかも違ぇ……絵本で見たお城の中みたいだ」
「でも先生…これじゃどこに行くにも不便です」
という感じであーでもないこーでもないと教室を弄り、廊下を弄り、広さが足りない所は深煙流の"火刑"モドキと空間固定の魔術の組み合わせで拡張しつつ、なんか空間の隙間にあったお城みたいな場所も利用している内に、生徒二人が出てきた頃にはそれっぽい内装が完成していた。
問題は生活するには余りにもダンジョン過ぎるって事か。
シャンデリアとか騎士の鎧が並んだ廊下とか、かなりそれっぽくなったのだが……。
「……仕方ない。コンパクトにしよう」
俺の考えた魔術学院は生徒の苦情の結果、地下室送りとなった。
斬って広げた空間を縫って整えた魔術の発動スイッチを鍵の形に納めた感じだな。魔術は忘れられると形を得るってことは話したと思うが、これはそれを試しに利用し、一部だけ有形にした試作品である。
ゲーム的に言えば魔術の
うーん…上手く例えられないな。
「ここをさっきの空間……「緑の魔術学院/裏」にする魔術の起動をこの鍵に込めたから、行きたくなったら使ってねー。帰りたい時は適当に前に出して回せば元通りになるよ」
「絶対使わねぇ」
「封印してくださいそんなもの」
「えー?」
普段はいつも通りだが、この鍵を3階奥の扉に使うと俺が作った学院の姿が地下室から飛び出てくるぞ! ちゃんと動くか今確かめたから間違いない。
そんな面白ギミックを使った所で一息。
「さて、魔術学院らしさは増やしたし……行くかぁ、"海"」
そういう事になった。
まだ外面を整えてないが、それは生徒の宿題にしておく。
石を加工する魔術は元からあるから、それを使って石レンガの道を作らせておこう。
お金は…果樹園で分けて貰ったやつを売れば良いだろう。アレ美味しいし。
「てな訳で留守はお願いねー。帰ってくるまで文字を覚えて、教科書は読破しといてー。あ、基本的にどこを弄っても良いけど、果樹園の子達との約束はちゃんと守ってね? 土を肥やしたり、水を枯らさないようにね」
「……果樹園の子達?」
「
「めっちゃ初耳なんだけど? あの木ってただの林檎の木じゃないのか!?」
「よく見たら人の顔付いてるよー。シャイで物静かな子が多くてねー。魔術で喋れるようにして、ちょっと酔っ払って貰わないとまともに人と話せないのよ」
年中林檎を実らせる
お子様もいるんだから、ちゃんと未来に向けて遺伝子改良していかなきゃ。目指せ人体。緑の月の光を魔術で目指せ再現!
「…マジで海に行くのか?」
「そだよー。友達に海を安全に行き来したいってお願いされてね。今からちょくちょく研究しに行くのです」
「……その友達って凄く偉かったりしませんか?」
オラクルが偉いか…? まぁ偉いか。
「すごく偉いねー。
その後生徒に見送られつつ、俺は移動用に物体浮遊の魔術を近くの箒に掛けて向かった。
速度は小走り程度だが、地形を無視するからこれでも十分早かったりする。
「ふぅ! 箒に乗って空の旅……実にマジカル体験…!」
初めての空の旅は実に楽しかった。すぐに尻が痛くなったのでサドルと足掛けを取り付ける事になったが、浪漫たっぷりだったと思う。最終的に自転車みたいな形になったのはご愛嬌だ。離陸着陸スピード小回り快適さと色々求めたらこうなっちゃったんだ。
浮かすよりシールド要領で進む先の空気を固めて漕ぐ方が速いのが悪い。
「ヒューー!!! 超スピード!!!!」
うん、途中でスピード上げる為に色々魔改造を施したが、最終的に俺はかなり早く海に着く事になった。
「とーちゃーく! 時間は……お、魔力の消費は激しいけど空なら3時間で着くのか。歩いたら五日は掛かるし、チャリンコは空飛ぶ道具の中でさいっきょうだね!」
この3時間は改造しつつなので、実際はもっと短くなるだろう。
これから日帰りも十分有りかも知れないな。
「でも今回は私が帰るまでで宿題を出しちゃったからなー。蜻蛉返りはやめといてあげよう」
という訳で誰も居ない静かな砂浜を前に、俺は海の家を創る事にした。
このゲームの海の話はコマから上手く聞き出せてないからな、これを機に情報を集めたい所だ。
「海では船が浮くとか浮かないとか、魚は居るとか居ないとか、噂じゃ平気で矛盾してたからなー。多分各地方の話が混ざってるんだろうけど……そも、海が渡れるならキーラ大森林なんて迂回すればいい。2つの都市が簡単に交流できない理由が、この海には確かにある」
この島は東西で二つの都市があり、真ん中をキーラ大森林が横切っている。だから二つの都市は中々交流を行えないとも。
それなら船で迂回すれば交易なんて簡単じゃんって話なのだが、不思議なことに港が有ってもその手の話は聞かないんだよな。
だから普通の海じゃないってのは間違いない。
今の所は東西の間に浮力が消えるエリアがあるって予想だ。
……こうして空を渡って簡単にここに来れた時点で、空路をコマが試してない筈がないと思うし。
最悪空にまで浮力禁止の力が働いてるまで想定しよう。ゲームならなんでも有りの想定は基本だ。
「んじゃ……やるかぁ。実験開かぶへ!……いっつぅ…なにこれ……透明な壁?……侵入禁止エリアのやつだこれ!」
そんな感じで俺はプレイヤーは海に近付けないという事を思い出させられながら、近くの木で海の家を建てて遠巻きに海の研究を開始した。
そして三日間海を研究して分かった事が一つある。
「──法則性がなーい!!」
……この海は現実のものよりずっと"気まぐれ"であるという事だ。
「同じ大きさの石を投げるだけでも水面に浮かんだり底に沈んだり間で漂ったり! なんだったら射出されたりV字に変形したり!
釣りをすれば魚影が出てきたり出なかったり……なにより何も食い付いてない筈なのに魚が釣れてる時があるのは納得行かなーい! 空き缶や車のタイヤも釣れる意味もわからなぁーい!
横になってジタバタと暴れる。一般人の手に余るお手上げモードであった。
……プレイヤーが侵入禁止になる訳だ。
日によって、どころか場合によっては数秒おきにこの海は姿も味も性質も変えてくる。
3日間なんとか法則だけでも掴もうとしてみたがてんでダメ。
カオスの具現化としか言いようのない無軌道さだった。
「というか……この先って
むくりと起き上がり、恨めし気に海を睨む。憎いくらい爽やかな青と白い砂浜で出来た海だった。
さっきまで海も空も灰色一色だった癖にだ。
……仮に入れた所で、ここに入って生きて帰れる自信は持てそうにないな。
このゲームは夢の世界の上に〜とかなんとかと聞いてはいたけど、いざ実際に触れ合ってみると印象は変わるものだ。
「どうしよっかなー…一応港の方にも行ってみたけど成果は得られなかったし……」
先人に倣おうと港の方にも行ったが、1番有用そうな外洋探査船も透明な壁のせいで近付く事が出来なかった。
いやぁ…ユニークでコマ扱いされても海に近づけないとは思わなかったね。安全に関わるからそりゃそうか。
オラクルから貰った通行許可証はストレージの中に入ったままコマ扱いのせいで取り出せなくなったし、どうしたものかなー…。
「普通の船は海を漕いでるようで、トロッコみたいに決まった道を滑ってるだけ。見えないレールで運ばれてるだけだし……最低限専用装備くらいは作りたいんだけど…リアルの企業秘密だからなぁ」
調べた結果、本当に"海"はゲーム外の領域であると痛感した。
透明な侵入禁止の壁、明らかにリアル由来の技術を詰め込んだ探査船とコマの装備、そもそも海っぽく見えるだけの別の何かっぽい領域。
明らかに俺個人軍でやる範疇じゃない。もっと賢い人とか、軍人が協力してやることだ。
少なくとも、アビリティから魔術の知識や感覚の下駄を履かせてもらってる内は手出しできないだろう。
「或いは……この魔術の感覚を辿って、名も知らない開祖さんを
空気読みの一環で入った演劇部で鍛えられた技だけど、俺は何故か外側を真似ることだけは上手いことやれるんだよな。よく分かってなくても、いざ本気で演じるってなると「この人はこうする」「こんな事をこのタイミングで言う」って動きを追えるんだ。何故か。
なんで出来るかは自分でもよく分かってない。コレばっかりは感覚で分かるとしか言いようがない。多分血だ。エーコもちょっと教えたら俺以上に上手に出来てたし。ヨメネは試してないけど…多分出来るんじゃない?
「うーん……保留! 私の実力不足です!」
色々悩んだが、最終的に俺は暫く海を放っておくことにした。
やるなら魔術を開祖超えするか、新しいアバターで通行証を取り出してからになるだろう。
ともあれ、これは今やることじゃない。開祖を演じる手がまだ残ってるが、前金も貰ってないのにそんな失礼な事をする気は起きなかった。
会ってない相手はアレンジ無しのオリジナルしか演じられないからな。フラッタとシンエンの時とは違うのだよ。
「あ、でも一つ、海と関係ないと思うけど気になったこと。
周りに誰も居ないのになんで
プレイヤーは勿論、会話可能なコマがいれば問答無用でコマとしての振る舞いを強要するユニークの補正。
コレまでは頼み事を優先してたからスルーしていたが、これは誰も居ない辺鄙な海辺で起きるはずのない現象だ。俺の普通の景色と魔力しか見えない眼よりゲームシステムの方が優秀なのは明らかだからな。それがずっと続いたから、相手は俺を3日間ずっと観察していた事になる。
何故そこまで俺を観続けるんだ…? そんなことされる程すごい事してないよ…?
「"てい"」
なので、引き寄せる呪文を使って目の前に釣り出した。最近は空中に魔法陣を描いてパッと使うやり方に凝っててね、中々のものでしょ?
けどこれシンエンの過程斬りの応用だから魔術というより武なんだよね。だからコレばっかり頼る気はないんだけど、こういうちょっとした魔術なら紙の節約で使ってもいいかなって思ってるんだ。
「その辺り、徹底して使わないかこうして使うか迷ってるんだけどさー……どう思う?
桜人間さん」
『──────』
釣り出したものから距離を取り話し掛ける。海の方から釣れた相手なので魔物ではないのだろうが、かと言って人と言うにも微妙な手合いだ。一先ず話しかけてみたが、会話は期待できそうに無かった。
「ふふ……どうも大物を釣り上げちゃったみたいだね。思えば、来た時から
シルエットこそ人に近いが、手は樹木、顔は桜、身体はズタボロの着物、足は途切れた根っこ……夜に出会ったら足のない幽霊に見えていたことだろう。
刃として散る桜の花弁を避けながら観察する。
釣り出したものが思いの外大物なのに面食らったが……海の存在に出会って分かった事があった。
「お前さん、
この眼は魔力を見る眼だ。
そして、魔力の元になってる二つの力を見れる眼だ。
『──』
「よっほっ! 暴れてるのは! 自分を見失ったからかい!?」
二つの力は、"海"のデータが元になったもの。それなら大元にもある程度通じるのは然程不自然ではない。
そして、この二つの力はどれだけ長く生きたか計る物差しになる。
サンシャとリーリャのコマとしての稼働時間を当てられるくらいには正確だ。
「だから分かるよ──
何故効かないか? 簡単な話だよ。
ゲームの登場人物がどうやってリアルの人間に傷を付けられる? これはそれと同じ話だ。
文字通り住んでる次元が違うんだ。夢の世界はリアルより上の次元に住む存在の世界。
教科書にも書かれてることで、向こうにとって俺達は紙の中の絵に過ぎないんだ。電脳混じりなら尚更遠いだろう。ボールペンの芯と人間くらい違うんじゃないかな。
点や直線なら成すすべなくビリッと…もしくはポッキリ折られてお終いだろう。
「けどね──幸いにも私達は点や直線と違って、絵と人程度の差なら……お前さんの心を動かす余地がある」
夢の怪物から齎される死がリアルの死に繋がる可能性を想起したからか、緊迫した命のやり取りで魔術のレベルが上がったのか……或いは無意識に開祖の演技を挟んでしまったか。
「"夢中" "無銘" "原始の魔境"──"
より深い所から取り出した新たな魔術を魔法陣として使い、周囲の魔力が刃の桜を包む風の制御を乗っ取る。俺の周囲に舞って襲い掛かる直前、花弁は怪物の制御から解放され宙に漂った。
まさか夢のものに干渉する魔術があるのは想定外だったな。魔術の開祖がスゴい人で助かった──持って3分、それだけあれば充分だ。
『────』
「先に謝ろう。今からお前さんの過去を暴く。それも、かなり乱暴に」
本当、全く以って幸運な話だ。
こうして一方的に攻撃されようと、こちらは相手の心に触れるだけの余地が……"見られ、聞かれている"という部分で干渉が出来る。
「だが、先に刃を向けたのはお前さんだ。あんまり喚くんじゃないよ」
観客の心を動かすくらいの演技をすればいいだけなんて、演劇をやってる人からしたら楽勝もいい所だ。
その上、ここは仮にも夢の代わりに来る世界。世界の構成の深い所で心が関わってる。
「さぁ、眼ぇかっぴらいてご覧じろよ────走馬灯だ」
それはつまり──目の前の桜人間の生涯をこの場で演じれば嫌でも心が躍動するって事だ。
任せておけ、他人のフリは大の得意技なんだ。
たかが700年、きっちりかっちり3分に収めてやる。
刃桜…運営が名付けた名前なので正しい名前ではない。今回山本が遭遇したのはヨメネに憑依した奴から削られた妄執さと怪物性であり、爆発で飛び立った力の集合体でもある。
やる事もないので夢の世界を漂っていたが、覚えのある