前回のあらすじ
山本は生徒を放り出して海の研究をしていた所、海から桜人間を釣り上げる。
絶対勝てない相手だが絶対負ける相手でもないと考えた山本は持ち前の演技力と魔術の幻覚で走馬灯を演出。
そして桜人間自身でさえ忘れていた原初の思い出が叩きつけられて桜人間が正気に戻った頃、肝心の山本は謎の神社に続く道を歩いていた!
「まずいね、迷子になっちゃったかも知れない」
突然のことに驚いたと思うが、先ずは落ち着いて現状を聞いて欲しい。
「桜の人間さんに魔術で走馬灯見せてたら全然知らない参拝道にワープした訳なんだけど……うーん、やっぱりこれやばいよねぇ?」
なんでワープしたの? と聞かれても、多分桜人間がやったんじゃないかってことしか言えない。ゆ、夢の世界の生き物って怖いんだな…。なんだか身体の肉感も強いし、ここは電脳空間の外で、今の俺って生身になってるんじゃないの? これがただの気のせいだと良いんだけど……。
「んあー…おえっ。電脳空間じゃ無かった筈の
何処までも続く石の階段を登り、朗らかな陽射しの差す道を進む。地味に蒸し暑くて汗が滲んでいた。
「夢の世界にしては……景色は安定している。それこそ無限ループかってくらい同じ。けど、印を付けてもまた見る事も無かったし、観察しても勝手に印が消えることもなかった。ループ構造の空間ではない……うーん」
じわじわとした焦りが募る空間だった。山登りで遭難した時に助かり易い方法に従って登ってはいるが、降るのが正解だった気も強くなっていく。
かれこれ1時間はこうして進んでいるが、一向に山頂は見えない。時折色が剥がれた古い鳥居があるが、どれも大した特徴は無かった。
ヒントとなりそうなのは……やはり、ここに転移する前に見せた桜人間の走馬灯だろう。
「しかし…周囲の怨念や恨みを吸収する蛇…それを殺す為の桜ねぇ……昔の人もすごく頑張ってたけど……地味に武士の幽霊みたいなの、あれはなんだったんだろ。あれかな、蛇が吸った怨念が武将の命令で自我を取り戻したとか?」
「刃桜」……正しくは「武士が憑依した桜」なんだろうけど、アレがここに迷い込むまでの大まかな流れは演じて理解出来た。
率直に言って夢の世界に迷い込んだ人間を殻にするとか怖過ぎるが、それが最終的に現実に出て来る事も末恐ろしい。それを最善最小手の水際作戦で押し返したのはすごいが、逆を言えばそれが無ければ歴史に大厄災の記録が一つ増えていた事だろう。
彼らが努力した先の未来を生きる側としてはこれ自体はブラボーと席を立っての拍手喝采ものだが、その消し損じに襲われたとなると話は変わる。
少なくとも、帰り道が分かる要素を一つは見つけて欲しかったと思わずにはいられない。
「……だからって恨んじゃダメだよねぇ。ここがユッコさんが迷い込んで殻にされた場所かも知れないし、安易に人を恨んだらやな事が起きそうだもん、ここ」
走馬灯と現状の情報を繋げるなら、俺がいる場所は
寧ろ、これで関係なかったらなんだよって話になるね。通りすがりの夢の怪物? 安全圏から連れ出すなんてやば過ぎでしょ、もしそうなら二度とこのゲームやらないから。
「……登るのはいいとして、もうちょっと工夫は必要かな。具体的には一回空を飛んでみたい」
そんな風に色々試して無理だったから、俺は最終手段に出ることにした。
そう、飛行である。
さっきまでは空を飛ぶリスクを懸念して控えていたが、夢の世界にしてはかなり安定しているのはここで過ごして理解した。
もしかすれば場所自体は電脳空間のままで、俺のアバターが変質している可能性もあるのだし、一回上から周囲の全容を把握したい所だったのだ。
「ええと、チャリンコってカバンの何処にしまったかな……ここでもなーい、こっちでもなーい……あー有った有った。よいしょっ…と!」
カバンの中でミニチュアになっているお手製自転車を取り出すと、数秒を経て元の大きさに戻る。
このカバンは海の観察が余りに暇だったから作ったものだ。観察中に作った小型化と軽量化の魔術が常に内部に向けられており、沢山持てるようになっているんだ。
ストレージがないコマでも一度に沢山運べるからとても便利! 欠点は中に入ると人も小さくなるから、脱出が大変ってことくらいだろう。
因みに小型化の時点で密度がギュッとなるから、運んでる時に壊れる心配もあまりなかったりする。
「飛ばしてくぜー! ふぉー!…ぉ?……わー……そんなのアリかい」
階段を登っていたのはなんだったのか。俺は石垣を滑走路にして宙に上がり、上に登っていく。
とても速い。どれだけ速いかと言えば、時速40以上は堅いくらいだ。
それで、肝心の空の景色は想像通り山道ではあった。
有ったのだが……。
オォ────……ォォ
「………この山自体が
最初は山にしては随分と綺麗な楕円だと思った。
次に卵の殻に似た形だと気付いた。
そして全体像を見てこれが文字通り山の如き殻であると悟らされた。
山頂に桜の木が一つ。走馬灯で千の桜が夢の中へ引き摺り込まれたにしては999本足りない。
もしや……分割して封印してるとでも?
「ユッコさんは夢の世界で殻にされても現実では人のままだったみたいだけど……夢の世界の身体と現実の身体は元々、PAGと同じくアバターと生身の関係なのかなー? て事は…この殻がユッコさんの、夢の世界での身体? はぇ〜…デカ過ぎんでしょ…」
多分夢の世界で活動する場合、自然と迷い込んでもゲームと同じくアバターみたいなのが得られるのだろう。だからユッコさんが夢の世界でこんなになっても無事だった。
「けれどユッコさんにアビリティはない。それどころか現実と夢の間に立つゲームすらないダイレクトな接続だから……夢の世界で段々大きくなる殻と共に怪力を得た?……ダメだね、考察するには前提知識が足りてない」
これはただの推測だが、俺が深煙流をPAGで鍛えた事を考えればあり得ない話じゃない。
現実に持って帰ったのが技術か身体能力かの違いだ。体感してわかったが、VRと夢の世界はとてもよく似ている。どちらも現実に持ち帰られるもの、出来ないものがあるとすれば変な話でも無かった。
「まとめよう。分かったことはここが元ユッコさんの殻がある場所ってこと。山頂には桜が咲いていること。周りは霧が濃くて見えないこと……なのに青空と陽射しはあること」
空の上に霧がある。陽射しは差してあるんじゃなくて固定されている。
エフェクトに近いな。空を飛んで分かったが、これは光というより模様に近い。
科学的に表現するなら……光が集まる力場だ。
「身体は生身に近いこと。霧の側には近寄れないこと。生き物は影すらないこと……山道の外れは、木や土の実体がないこと」
漕いでる自転車から手を伸ばし、参拝道から外れた木々に触れようとしたが、感触は返ってこなかった。すり抜けている。ゲームの背景のように、景色だけがあった。
物理法則から出力するVRゲームよりゲームらしい、容量を削減する為によくある手法。
「以上のことからここはゲームでも夢の世界でもない──"記憶の中"であると仮定してみようかな。ゲームらしく言えばメメント。察するに……うーん?」
察するに……夢の中の夢…かなぁ?
多分あの桜人間の中に取り込まれたか、それとも演技として再現した記憶が実体と空間を得たのに巻き込まれてる?……んだろうけど……どっちにしろ、じゃあどうすれば脱出できるんだって話になる。
「うーん……こういう
正攻法、事前に用意された方法に則る。強行、無理やりブチ破る。グリッチ、誰も想定してない方法──そういえば、このゲームは
ここには2〜3つの考えが織り込まれている。
蛇を分割し封印し続けたい昔の人、ゲームをやりに来た俺、神の声に変わる海での活動手段が欲しいという依頼。
今の俺の立場はプレイヤーだ。それなら、誰の考えに従うべきかは明白だろう。
そうだね、郷に入った奴に郷に従わせる自治行為だね。
思い出したんだけどコイツ島に入ってきたんだから立場を教えてやらないとならねぇわ。もしかしたら他の人を襲ってるかも知れないし、のんびり山登りとかしてる場合じゃなかった。
「ともあれ、ゲームの中に入ったのは君の方だから──遊戯盤の
厄災を完璧に抑え込んだのは実に見事。
だけど遊び場に入ったなら、仕事もほどほどに一緒に遊ぼうよ。暴れるだけがゲームじゃないんだからさ?
その為にも──
キキィ──キュ!
よし、チャリンコは此処に停めておくか。
「ぶっつけ本番だけど試練の時間だよ!
これより君達を魔術の枠に規定しよう!」
山頂に咲く桜の近くでチャリンコを停め、幾つもの調伏に使う試作品の道具やスクロールをカバンから宙にばら撒く。
初めてだからどれが効くか分からないが、その分手段は60も考案してある。どれか一つでも効果を発揮すれば
……元人間なのがノイズだが、700年も怪物やってたらもう殆ど魔物でいいだろう。取り敢えずガッと行けばいいのだ。
…んー? ゲームのものは夢の世界由来に効かないって自分で言ってただろって?
いいんだよ今の俺うんこ出せるくらいにはめっちゃ生身だし。多分俺自身が夢の世界側に寄ってるから通じる。なんでそうなったかは調べようもないが、相手の土俵に立ってるんだから通じなきゃおかしいくらいなんだ。
「全モデルケース起動……5つ、反応アリ!!」
ズッーー。
「おっと! 触れる程近づいても反応無かったのに、急に攻撃してきたね? 仮説が正しいそうで喜ばしいねぇ!」
無反応だったモデルが散々に斬られる中、反応を示したものに保護の魔術を重ね、脱兎の如く延ばされた7つの乱撃を避ける。
見れば刃の花びらを舞い散らしていた桜の木は既に武者の形に変わっており、刃を持った花びらも一つの刀に纏まっていた。
『────』
「ふぅ〜ん…反応を示したのは
ゲームの中だからと、色々用意したのが功を奏した。
化学や科学を考慮した物理法則を始めにクエストみたく相手の出した目標の達成で魔術に変わるよう促すもの。果てはプログラムを参照するものまで。その内の1グループ、試練方式が合致したのだ。
「戦闘、代行…蛇の討伐か封印の代わりを務めろってことかな? それとも──」
実はこのゲーム、魔術の一言に纏まっていても構築理論は呪文によって割と違う。そりゃあ色んな人が創れるようにしてあるのだから当然だろう。
使うだけなら問題なくても、制作側になるとその辺りの利点や弱点、目的との噛み合わせも考慮して創る必要があるのだ。
「……桜と蛇の両方が反応してて、だから二つだけ強く反応してるってことかな」
《x big》ズッーー。《/xbig》
そんな魔術が魔物に変わり、更にそれを戻そうとする。どんな化石の構文が、どの部分がどう繋がってきるか手探りの状態で。
なのであらゆる可能性を検討し、試験も出来ない中モデルを沢山用意した訳だ。お陰で中身の挙動が分からない。正常に動作するのはモデルの反応から分かるが、モデルの用意の際に其々の魔術の構築から抜き取って流用してるから具体的にどつなってるかはちんぷんかんぷんだったりする。
まぁ、うだうだ言ったがそれを一言に纏めれば……今、俺は桜武者と巨大蛇の死体、その両方を相手にすることになったということだ。
「はは。やっばー」
空が暗く翳り、見上げればそれはそれは大きな蛇が。
紫色の鱗が死して尚鈍く輝き、眼はぽっかり空洞で、肉は腐って溶けたのか鱗がぎりぎりと立て付けの悪い屋根の様に揺れて、金属を擦る音を鳴らして中身が空っぽだと示している。
鱗かぶりの蛇の骨。
とんでもなくデカいことを除けばスケルトンが1番近いか。
《x big》ゴォ。《/xbig》
「《
そんな蛇の身体による横殴りを──高さだけでも20mは超えて視界の端から端まで覆う長さ──実質津波みたいな攻撃を、カバンに入れていた眼媒体のスクロールで硬化させた耳をドリルとして使い、地面の中に退避し……地面の下にいても聞こえる、迫り来るバリバリと地面となった殻が砕ける音。
「……地面抉るのはダメでしょ」
結果は生還。結構深く掘ったのに掘り返される程度には地面が抉れ、また蛇とご対面となった。すごいな、周りの地形全部吹っ飛んでるわ。元々殻だったのが山になってるからか、深く抉れた場所は空洞に繋がってるし……。
チ"──
「そしてッ──隙をみせれば小さな刃を入れてくる木が一つ!」
そして眼の前には桜の刀を携えたウッド武者。あの巻き込み上等の蛇の攻撃が有ったのにピンピンしている辺り、なにか攻撃を無効化する力でも備えているのだろう。ギミックって奴だ。
当たれば即死する巨躯の一撃に、油断が命取りの散り散り刃桜。
かつての敵との共闘は燃えるものだが、700年の因縁を今だけチャラにするのはちょっとズルくもある。
そして、これに勝てたら楽しいだろうなぁと。
空気を読む限り、そういう雰囲気だなぁと。
「さぁて……
封印すれば討伐が出来ない。討伐すれば封印する相手がいない。
なので今回魔術に出来るのは一つだけとなる。代行が封印じゃなかった時は知らない!
どっちに切符を渡すか考える余地はないから、どっちが魔術になるかは俺にも分からない完全ロシアンルーレットだね。
「出血大サービスだ! 私が使える
参拝道の階段を勢いよく駆け
ビリデスの所持魔術一覧
…ビリデスのアバターは魔術適正のない獣人のものだ。それ故に新たな魔術を得やすい傾向、性格による適正などが存在せず、全ての魔術が最小威力となる代わりに全ての魔術を閃ける。
これはゲーム側が噛み合わせの良くないビルドをしたプレイヤーに対する救済処置だったが……全ての魔術を閃けるということは、制作側に立つ際の参考資料が増えるということ。きしくも、兎人という種族がビリデスに創る側の道を切り拓かせるキッカケとなった。
攻撃系列
・気合いを力に変換する呪文《
防御系列
・周りの物質から壁を創る呪文《
制作・汎用系列
・魔術を何かに込める呪文《
治療系列
・異常を診断する呪文《
夢系列
・眠りを誘う雲を呼び出す呪文《