前回のあらすじ
山本が
運営「アカンこのままじゃゲームが終わる!(山本が巻き込まれたのはまだ知らない)」
PD社「大人しい奴みたいだしプレイヤーを退去させて立ち去るのを待てば? こっちは不必要な死者を出したくないんですよ」
FC社「うわああ! あの怪物の未来予測がとんでもなくぶれている!! (ああいう手合いは)刺激してはいけない」
どうするPAG運営!
魔術は手法、呪文、魔力源の三つを揃えればいい。
「魔眼活性、《
例えば破けた殻の大地、その下に自ら飛び降りながら使った今回の場合は、
手法:魔法陣
呪文:《
魔力源:魔眼
という感じになる。
周囲の魔力を使う魔法陣に対しこの山は魔力が何処にもないから、普通に使おうとすると俺の魔眼に溜め込んだ魔力を撒いてやらないといけないんだよ。
「クゥッ──! けど、ただ撒くだけじゃロスが多いからねー! だから魔眼に直接刻むのさ! 刻む時間はこうして落下することで確保する! 事前に刻印用の判子を揃えてて良かったねぇ全く! できれば使いたくなったよ!」
魔法陣って本来周囲の魔力を使うから無限に使い続けられるのが利点なんだけどな……魔力がないからこうするしかないんだ。戦闘中に密室を用意できるなら刻まなくてもよかったが、そんなの無いしあっても使う時間が無い。
え、魔石はどうしたって? 空飛ぶチャリンコに全部使った。だからもう魔眼しか魔力源がないね。
《x big》パキッバキッ《/xbig》
とまぁそんな事情は兎も角、これで俺の右目は「力場の魔眼」に変わり、ただ魔力を貯めるだけのバッテリーから力場生成専用の魔眼になった訳だ。この状態で右眼の全魔力を使うぞ。
「今後使う度に激痛が走る様になるから30分は使いたくないんだけど……! 背に腹は変えられないってね!───"捻れろ 空間よ"!!」
本当はもっと実力を磨き便利な魔術を覚えてから刻みたかったが、何よりも今、戦う力が必要だから仕方ない。
「イッッ──!!」
眼が今後残り続ける事になる痛みを訴えるものの、堪えて先ほど飛び込んだ穴だけが唯一の光源の、文字通り山並みの大空洞に広がる空間を右眼で捉えて干渉する。
この魔術は本来磁場やら次元やらを弄って力場を生成、攻撃から身を守る為に使う魔術だ。
だがそれはあくまで想定された使い方をした場合。決まった手順を守った時だけ周囲に展開されるに過ぎない。
創る側となり魔術の構成を知るものなら、その規定動作という
そこまでして何が出来るかって?
パキン!!
例えば──空間斬と同じ現象の再現とか。
「"次元干渉"ッ"空間湾曲"!!──これがかつてイギリスを恐怖のどん底に落とした一撃だ!!
"
ゴォォ!!
暗闇の中青白く不気味に輝く束ねた次元を携えて、大地の殻を破り俺を噛み砕こうとする蛇に向けて解き放つ。無理矢理束ねられていた次元の
それはつまり、直ぐには止まれない巨軀の蛇には絶対当たるわけで……。
「こんな話は知ってるかい? 現世の古国、ソ連が初撃必殺の一念を込めてイギリス本土に撃った──
パキパキパギャァ"ィィ"ーララララ!!!
超常的な自然現象により発生した次元の歪みに触れた蛇の身体が大根おろしみたくバラバラになっていく。
大地を砕いた時点で見た目以上に硬いのは知れてたからな、だから空間丸ごと解体する攻撃が1番効くと思ったんだが……ドンピシャでなによりだ──さて、右眼の魔力がすっからかんだし、左眼も刻もうか。
何も見えない暗闇に崩落した蛇の死体と共に落ち続ける中、俺は逆さまの姿勢でカバンから新たな刻印を取り出した。
「今でこそVRのお陰で薄皮一枚の距離で観察され、周知されているが……かつて君達が住む夢の世界は極々少数の、夢の世界と現実を自由に渡れる体質を持った人間しか居なかったと言われているんだ」
新たに刻む。痛む。
……痛むが、それで騒ぐのは空気が読めてない行いで、左眼以外も既にあちこち痛いから、もう相手は俺に追い付いているな。
「先ほどのものはその
ちょっとした工夫が必要だ。
魔術師の長所は知識さえあれば汎用性の高い手札と底知れない感によるハッタリにある。
語りで少しでも相手の攻撃の手を緩められたならそれでいい。蛇は教科書に乗ってるくらい有名で容赦の欠片もない現象で倒せる程度の奴だったが、こっちは元からバラバラなのが厄介だ。もう一度やっても当てるのは難しい。
……蛇を討伐しても動いてる辺り、戦闘が反応してたのは桜の方か。代行を先に倒す事になるとは運がちょっぴりついてないかもね。
「さて、お前さんに考える頭があるならもう察してると思うけど……君に手向ける魔術はその続き、次元爆弾を落とされたイギリスのかつての首都、文字通り"全てが液状化した"ロンドン跡地で起きた更なる悲劇で───ある意味じゃあ一流の喜劇だ」
さて、眼を攻撃して来なかっただけ語る意味は有ったと思おう。
全く知識ってのは偉大だよな。社会の教科書の豆知識と理科の授業が合わさりこんな形で身を助けてくれた。
実の所今話した騎士と次元爆弾の下りは授業では当時流行った
寧ろこの話の本題はこの後──沼地から戻った後にこそ後世の視点があてがわれている。
「"
西暦1939年、肌寒い春の季節、霧の濃い早朝。
全てが沼地から戻った都市で起きたとされる歴史の記録。
再現媒体、「修理の魔眼」
物を直し、
「"枯蓮" "蟲喰い" "朧陽"──《
人類哲学に対し現実に起きた事として突き出された
死体は人か、沼に還った死体は人か、"沼から復活したのは人間か"、"果たしてそこに意志はあるのか"。
結論から言えば、当時のあらゆる手段を用いて蘇った彼らを調べた結果、彼らは思考を有さない人の皮を被った泥と結論付けられた。
理由は死ねば即座に泥になるから。それだけの理由で、完璧に再現された人の皮は本物ではないとされた。
つまり夢でも現実でも「死体」は「物」なのだ。
うむ、ここに蛇の死体があるな。
「人と物、死の境界は既に踏み越えられたのだから」
どぷり。
蛇の大きさを考えれば実に小さな音だった。
骨と鱗だった岩石がジャボジャボと大きな音を立てて空洞の底、腐臭を漂わせる澱みの底に沈む中、逆に底から這い出る物が有った。恐らく、腐り溶けた蛇の肉に宿っていた存在の
それは落ちる俺を優しく受け止め、刃桜によって出来た切り傷から身体に入っていく。
「何を考えてようと、結局は人に使われるしかない存在に成り果てた」
率直に言って不快だ。
血を、肉を、骨を、自身を包む殻にしようとしている。死して尚生まれなおそうとする。そんな事やっても死産だろうに。
それを《修理》の魔術の力で、無理やり俺に有利な構造に
「《
外から風を通らせ呼吸を再開し、火石を浮かべて照明にし、念力で身体に入った泥を抑え込み、致命的な不意打ちを防ぐ影法師を3体生成し、泥を義体の形に押し込める。
これでカバンに入ってた使えるスクロールは全部使った形だな。あ〜自家製が
そんな泣き言はおくびにも出さず、ハッタリをかます。
「──ッフゥ…! はぁ……さてと。
次はお前だ」
所で、走馬灯を演じてる時に蛇が人を殻にすると聞いてピンときたんだよね。これ社会の授業で習った泥人間の悪夢の顛末に似てるなぁって。だから同じ対処法……というか、利用出来ると考えた。
即ち、当時の泥人間達が恐怖した現象。まだ生きている人間に泥の一部を取り込まれると支配下に置かれ、姿も力も生身の人間の物になる隷属現象。
最初に生身に泥人間の血を入れる事を考えた人の気が知れないが、俺はそこ話を再現する事にした。
夢の刃に同じく夢の刃を充てないといけないなら、相手の刃を奪えばいい。
ゲーム産の魔術よりよっぽど通じる確信を持てる手段だ。
「蛇」
蛇の力を取り込んだせいか、俺の身体は随分と変容していた。
肌の一部が蛇の皮になり、肉はよりしなやかで頑丈なものに。
髪の先は紫色に変色し、長く伸びた先は蛇の腐り溶けた肉と繋がっている。
眼は魔眼の陣に加え蛇に似た瞳孔になり、生身の眼じゃなく上から自分の身体を見下げる視点に。
灯りが無い空間をハッキリ見渡せて……なにより、紫色の
これで
もう魔術は使えない。両眼の魔力はこれで尽きたからね。
オマケですごい怪力を得た感じもしなくもないが……自分で殴るよりいい方法を本能的に理解出来た。
「薙ぎ払い」
《x big》ゴォォ!!《/xbig》
骨も皮も紫色の夢に意志を伸ばして食せば動かせる確信が有った。蛇の感覚だ。
だから周囲に落ちた蛇だった岩を溶けた肉で繋ぎ合わせ、面で薙ぎ払った。どれだけ小さく動いても逃げる隙間が無ければどうしようもないという算段で。
「……逃げられたか」
しかし逃げられる。既に桜武者は蛇が入ってきた穴から脱出していた。
どうしよう、スクロール尽きてるから《
「それにスクロールで蛇を抑えてる間に済ませたいんだよねー……ヨシ、もう少し工夫を凝らしてみようか」
今はまだスクロールの抑制のおかげで制御出来てるけど、泥人間の話と違って蛇は俺の中で今にも暴れ出さんとしているんだよね。取り込む手順を間違えたか、泥と蛇は別物だからなのか……どっちも同じ死因で死体が泥になってるから行けると思ったんだけど。
やっぱり現実の人間と夢の世界の蛇じゃあ勝手が違う感じかな。
「武者が討伐なら蛇は代行だ。それなら間違って殺しても、内容次第では代行失敗にはならない。まだ魔術にする余地がある」
俺はてっきり武者が「蛇の封印代行」、蛇が「蛇の討伐」だと思ってたんだ。
だけど現実は戦闘と代行の反応先が逆で、とすれば代行の中身も当然違ってくる。
「この場合代行の中身を推測するヒントが一つも無いんだけど……都合よく、私にはそれを知る方法を持っているワケだ」
マジの人外を演じるのは初めてだが、これをすれば間違いなく中身は理解出来る。
代行をして欲しい本人…ならぬ本蛇を、本蛇の死体を支配下に置いてやるのだ。こんな好条件も早々あるまいよ。
それこそ、魔術を創りながらでも出来る。
「ふぅ…──」
──真っ黒な殻の空洞に、蛇の全てを満たしていく。
「存在意義の創造、構成要素の再配置、経歴の分析、年月の反映……」
魔術は0から想像力だけで構築するものだ。
半歩ズレた別の次元に干渉する感覚の中、あらゆる
それは俺にとって、空想上の存在でしかない演じる役を創り出すのに似ている。丁度ビリデスのアバターを創った時みたいにだ。
ならば俺にとって蛇の役を創ることは、フラッタやシンエンの役を創るのと同じ感覚でいい筈だ。
「
演技の技術を魔術へ流用する。
普通なら交わらない二つの
あやふやだった仮説が、実践的な環境で実を結んでいく。
「──完成図から始点を逆算……
"殻を破り産まれること"。
……答えは得た。
蛇は蛇である前に、産まれる事も出来なかった水子であった。
故に蛇は願うのだ。産まれることを。生きる事叶わずとも、祝福され産まれる瞬間の理解を渇望した。
「……そっか。それだけの願いだったんだね」
ならば俺/私がやるべきことは、死した赤子と共に殻を破ることだろう。
人の道理で獣の摂理を封じ続け、死して尚魂を殻の中に閉じ込める封印を破り、霧の外に解放すること。
代わりに外に出るだけなんて──自分だけここから脱出するだけじゃあ満足してやらないのさ!
「やったろうぜ蛇ちゃん! 代わりに世界を見てくれと頼むだけなんてみみっちい! お前さんにこの世の素晴らしさってものを教えてあげよう!! 具体的には適量サイズの身体で活動出来るようにする!」
内側で暴れる蛇の気配が静まる。どうやら泣き喚くことをやめてくれたらしい。
おう、なんで泣き止んだか知らないけど従ってくれるのはいい事だ。スクロールで抑える必要が無いってことは、それを外に向けられるってことだからね。
「よぅし! 蛇ちゃんの方から協力してくれるなら─ー
まぁ、折角協力してくれるなら断る理由もない。
早速蛇のあれこれを全て無形のものへ変換して魔術の形に整えてみた。周囲に広がっていた肉の黒沼や骨と鱗の岩の山、それから俺の身体に現れていた変化が消え失せた。
より魔術側に寄れる試練は経由した方が良さそうだが……そうじゃなくてもここまで魔術化の作業が人力で進められたら擬似的に魔術化出来る訳か。やっといてなんだけど今知ったしちゃんと覚えておこう。
「お…良かったー元に戻れて。あのままだと折角の可愛い
これで俺の知力を参照する様になる都合上そのまま扱うより著しく弱体化したが、代わりに現状で1番欲しかったもの──ゲームで生成される魔力…仮名GMPの代用となるエネルギー源。
夢の世界版の魔力…仮名DMPを生成する魔術が手に作れたわけだが……。
バチッ!
「──さて、君の名は《
見ようとしなくてももう分かる。今の俺の顔から腕、胴体から脚の先に至るまでエグいレベルで
ジグザグに彫られた紫色の刺青で、兎の毛の下からも分かる程度に輝きを放っていて、時折り雷を刺青から漏れ出しているのだ。自己主張が思ったより強くてイヤでも分かる。
「仕組みとしては魔力が出来る過程をそのまま流用しただけなんだけど……素体のおかげかな?」
正直見た目がビリデスのアバターに合ってない。ダサい。
約束を守る為にも外せる機能も付けといて良かったね、本当。
「蛇が持っていた感情を力に変えて大きくなる機構が、念じればそう動く特性がちゃんと想定通りに生きている」
身体に刻まれた刺青を肌の中で移動させ、右腕に集める。
より濃く束ねられていく線はやがて外に排出され──俺の右腕に巻き付ける程度の小さな蛇に変わった。仮にも魔術に変えたので既に支配下から離れてる筈だが、紫色の子蛇は機嫌良く俺に舌をチロチロと見せた。
「それが約束の身体だ。後は出るだけ……あぁ、今後は感情を吸っても生きるのに必要な分以外は
ところでなんで機嫌いいの? んー…自分を魔術に変えた奴を好いてる筈ないしな。言葉が通じてる訳もないし。生き物としてのあり方を変えた奴は憎むのが
まぁそんなことより今は武者が優先だよね。
「さて、蛇ちゃんを創るのに刺青の大部分を使ったが、両眼と右手の甲にはまだ残っているね。うんあん、ちゃんと必要分は残せてるみたいだ」
刺青を活性化させ、DMPを魔眼に充填する。使い方が分かるのは魔術共通の特性だが、今にして思えばこれは蛇を無理やり支配下に置いた際に能力を本能的に理解するのに似ているな。
魔術を閃くまではアビリティのおかげっぽいのに、使い方の理解は魔術其の物に宿っている……この管轄違いはいつか使えそうな知識だね。
「足場になれ─ッ"……痛みに慣れるには時間がかかりそうだ!」
充填し使えるようになった力場の魔眼で足場となる歪みを生成し、殻の外に飛び出す。
短い間だったとはいえ、あの澱み切った空間から出ると気分が晴れやかだ。
「それで武者君はぁ……なるほど、様子見じゃなく備えてたか」
その上、山の木々が全て桜に変わった景色が歓迎するとなれば、それはもう一面が敵という意味を示してようとテンションが上がっちゃうだろう。
ザァァァ───… … …。
風が一陣、花びらを舞う朗らかな景色。
「盾エェェーー!!! イ"タァァイ!!」
俺は力場の魔術を本来の用途に使いつつ、眼の痛みに苦しむのだった。
うん……出会い頭で力場のスクロールを使っても力場をすり抜けられたし、確かに魔力の質は改善した……だけどこの痛みは…正直…キツいねぇ…。
《
戦士が使っても肉体強化に便利に使えるが、魔術師ならば第二の魔力源としてより便利に使い熟せる。また、彫る刺青の形によって新たな力を宿す余地もある。
夢の世界に対し干渉力が高い魔力を生成する。これは迷い込んで半歩夢の世界に近付いたビリデスの魔眼の中で変質した魔力よりも品質がいい。