前回のあらすじ
リアルで学んだ知識、ゲームの機能、アビリティの後押し、夢の怪物からの協力、研ぎ澄まされていく魔術理論。
千載一遇の機会に自分の持てる全てを使い、遂に「誰でも魔術を使えるようになる魔術」を開発したビリデスは、その身に刻んだ魔眼と刺青の力で千の桜を刃にする武者と対峙する──。
「連続で使うと痛みがエグくなる。ビリデス覚えた」
一つの学びを得て血涙を流しながら俺は立ち上がった。すると髪の中に避難した蛇が顔を出したので、危ないから中に戻しておいた。君は一回武者に負けてるんだから下がってなさい。
「さぁて、どうしようか」
隙間なく群れと化して襲い掛かるも、全方位に展開された力場に阻まれている刃桜を眺めながら考える。
防御は刺青が供給する魔力が消費する量を上回ってるので問題ないが、眼を使い続けてるから痛みがドンドン痛くなっていくのが問題だ。その内破裂する気がしてならないね。こうして呑気に出来るのもリミットがあるということだから。
なに? 眼を使わず普通に力場の魔術を使え? 出力が弱くて突破されるのがオチだぞ。
「魔力はある。魔術は一通り使えるけど…《
……だけど威力は弱いまま。スクロールと同じく固定出力を出せる魔眼と併用すれば使い物になるけど、いつ
小石……どころか砂利の粒をギリギリで浮かし出力を確認する。
俺は知力じゃなく神秘ビルドの魔術師だからね。いざ自分の能力を参照する使い方を身に付けたところで弱いのは分かり切っていたよ。
一応ステータスは補正値だ。地力があればある程度補完出来る項目だけど、鍛えれば身につく筋力とは訳が違う。魔術なんて現実にないものは、ゲーム側の補正が無ければ地力は0に等しい。
種族補正も……兎人を選んだから限りなく0だろう。魔術適正無しは伊達ではない。
まぁ……創る側の視点である程度構造は把握出来ているから、最低限発動するだけの
適切な使い方を知ってるかは別なんだよな。習得時に分かる範囲から踏み込まないと成長は望めない。
「瓦礫は砂粒、針は水滴、風はほぼ無風、鎖は泥団子より脆い。
……早速次の課題が見えたね。威力が弱くても使える魔術の開発か、使い方を工夫するか、鍛えるか。目先の問題は武者を倒せるだけの威力の確保だ」
試しにこれまで閃いた魔術を一通り並べても、単体だけで使えるものは無さそうだった。
なら組み合わせる……いや、冷静に考えてみれば制御出来ず破綻して終わりだな。
ズキ──。
「ッ……」
……真面目に考えないとな。痛覚が一周回って戻り始めてきている。
さてどれだ? この現状を打破出来る手札は。
ゴーレムを創る呪文で身代わりを創って逃げる? そこまで質のいいゴーレムは作れそうにない。
仮想物質を一時生成する魔法で儀式場を創り出力を上げる? 桜吹雪を前に即崩壊するだろうね。
自身の異常を治す呪文でこの眼を使える時間を延長する? 治すより壊れる方が早い。
自分よりかなり弱いものを破裂させる呪文で桜吹雪を残さず破壊する? 俺が700年前の武者より遥かに強い訳がないね。
気合いを力に変換する呪文でゴリ押す? 700年の執念に勝てる気持ちを持ってる訳ないだろう。
そもそも俺は桜吹雪をなんとかして脱出したいんだよ。その為に勝つ必要があるけど、相手の桜山があまりにも邪魔すぎるんだ。
あ、なら排出すればいいか。邪魔な木を。
「……そういえば忘れていたな。やれやれ、どうやら私はまだ創る側の自覚が欠けているようだ」
そういえば今と同じ条件を前にした時があったな。
山のような木々を前に力が無くて、手元の武器に欠けて、それでもある物を組み合わせて森を殺したあの日が。
未熟故に無駄が多くても、ただ木を弱らせる事だけに特化させたが故に成した、呪いの病が。
「"嗄れ" "脱色" "最弱最増" "故に子々は拡散せん"
"春、新たな門出の傍ら日焼けした写真を見る"
"夏、暑さを前に寒さを覚え、鈍さを自覚する"
"秋、足の不動に己の先を思って日々が過ぎる"
"冬、静かさと共に記憶が衰え己が消えていく"
"積み重なる時間は積み重ねた時間が何色だったかも忘れさせ、少しずつ棺の中へ臓腑が置かれていくものだ"
"故にこれは若木に
"心に刻むといい。先ゆく者の警告を"
──《
俺がかつて創り出し都市に売った呪文が発動する。
一見なにも起きてないが……それは創り出されたのか極々小さな病だからだ。
その効果は木に老いを先行体験させるだけのもの。何年も経てばいずれ自然と解消されるし、解消されれば寧ろより早く、より長生き出来るように成長出来る祝福に変わる。
要はあれだ、ローグライクでよく見る一定条件を達成すると祝福になる呪い。
そこで釣り合いを取ったからこそかなり最初の頃でも強い効果を引き出せたし、焦った分だけ損をする仕組みは見事三怪の一角に突き刺さった。
運営に調整されたのか中身は本来のそれより挙動に制限を掛けられたが、一から創造した俺がその制限を外せない訳がない。
「……さて、そろそろ力場の中で充満した頃かな。眼の痛みも限界に近ヂ解除解除解除!! イッッッッ………ダメな痛み方しだッ……」
いつもなら空気を読んで解除は自粛するが、今回はゲームの外っぽいからね。別にやっちゃっても良いだろう。なにより眼の痛みが半周して1番痛い奴が来た。反射的に解除したから、ここからは病が桜を葉も花も出せないくらい枯らすか俺が切り刻まれて死ぬかのチキンレースになる。
「ォ"ォ"ォ"───エイエンニイダイ"………」
涙が溢れて周囲を確認出来ないが、切られる痛みが少ないということは無事、今頃俺の周囲を舞っていた桜吹雪は一瞬で大体枯れて、周りの木を白い斑点模様にして老樹に変えているのだろう。
この病の拡がり方には徹底して拘ったからな。人体に影響が出ないようにしつつ木にだけ致命的な老いを与えて死んだように生きるだけの木に変える。
その分詠唱や舞いの振り付けが長くなったが、俺の低出力でも使い物になるくらいの魔術に仕上がったんだよね。
「ォォ……よし、ちょっと見えるようになってきたぞぉ…うわエグッ」
それから数分。攻撃もめっきり止んで痛みも引いた頃、俺は目を擦って辺りを見渡して……凄惨な光景に引くことになった。
「桜に人骨埋まってるじゃん…あれもこれも……もしかしてこれ全部?」
老衰して死にかけたせいか、桜の木はひび割れ倒れているものが多数存在した。
それだけなら想像以上に効果的なだけで済んだのだが、折れた断面に人の骨や古びた鎧が顔を出しているとなると話は別だ。
ユッコさんの走馬灯が正しければこれ全部リアルの日本人の骨だよね? マジかよ魂的なのが宿ってるかと思ったらメッチャ物理じゃんか。
「そこの仏さん、ちょいと失礼しますよー……ふむ、私は別に死体検証が訳じゃないけど、これは明らかに……木の中から血が赤く垂れて…白骨化してるのに血は乾いてない? ひぇ〜気味わる〜!」
早速そこら辺こ死体に手を合わせてから調べていくと、かなりチグハグな結果が返ってくる。
死体は白骨化、しかし血だけは木の中で新鮮な状態で保管。桜が割れて外に溢れた分も、地面に吸われる事もなく血溜まりになっている。臭いはなし、触れても一滴も俺の身体に引っ付かない。
「引っ付かないけど……スプーンとかで掬うと紐みたいに血が
それから鎧と刀、槍と言った武器は酷く冷たかった。だけどこっちも血と同じく触れても肌に引っ付くことはない。うーん…普通凍った物に触れたら表面の水分が凍って引っ付くんだけどなぁ?
「流石夢の世界……リアルとは根本の法則から違うっぽいね。まるで時間が止まってるみたい。これだと死にたくても死なないんじゃない?」
まぁ、今の俺は魔術師だが研究者じゃない。武者と桜を調べるのはこのくらいにして、肝心のどう倒すかを考えてみる。脱出経路を探すにしても安全は確保しておきたいからな。
どれが本体なのか、はたまた全部合わせて桜の武者なのか。
今でこそ呪いのお陰で大人しいが、この枯れ木どもはつい先ほどまで途切れる事なく桜吹雪を俺に喰らわせた連中だ。いつ克服するか分からない以上、急いだ方がいいだろう。
「と言っても既に死んで時間の進みようがない相手は殺せない……いや、何も殺す必要はない? 戦闘と討伐は違う。例え殺せなくても、死んだも同然の状態にしてしまえば…」
それこそ今やっている呪いがそれだろう。完全に殺し切れる訳じゃないが、効いている内はほぼ死んでるも同然になる。
今の俺に必要なのは安全だ。求めてるものを履き違えてはいけない。
「…ん?」
あ、そうだ今思いついたんだけど、これ肉だけ桜の木になったんじゃないか?
ありそうー……ここに迷い込んだ人が木になったとすれば中に骨や鎧がある説明になるし。
山頂で出会った桜武者も、樹を肉代わりにして切り掛かってきたし……あいつどこ行ったんだ? 蛇とつるんでる間に桜山に変えたのは察せられるけど、そういえば見かけないな…病に臥したのか?
それとも……桜の接木に
「……思えば、彼らは戦場に赴きそのまま封印の要にされた者かー…とっくの昔に帰れる筈だった場所はもう無くなってて、唯一の役目である蛇もこの通り無力化された。放っておくのは忍びない経歴だねぇ?」
そも、なぜ出会い頭に襲ってきたのか。
蛇はグズってるだけだったが、桜は狂ったにしては理性的に殺しに来ていた。無力化したとはいえ、落ちた俺を追いかけるのをやめて桜山を用意した挙動はその証左だ。
蛇を演じてどうすれば魔術に出来るか調べたのは関係ないと分かっている。調べたら敵対するみたいな効果がないのは既知の事実だ。
うーん? 尚更分からないぞこれ。
今こそ空気読めってことか?
「………分からないから一回全部まとめて杖に変えておこう。さっきの戦いって未完の杖を何処かに落としちゃったし、丁度良いや」
どうすれば良いか分からないが、これはリアルの人のその後に関わる話なのは明白だ。幾ら700年前の人の行く末でも、現代人として人権を考慮しなければならないのは分かる。
「修理図に杖の形状を代入、材料は
"枯蓮" "蟲喰い" "朧陽"、《
なので《
桜の何処に人の感覚があるか分からないが、取り敢えずあちこちの繋がりを絶って痛みとか感じないように試みておく。出来てるかは知らない。いつでも戻せるように綺麗に絶ったし、今はこれで良いだ───おぉ!?
「なんだ空間が歪──」
魔術を発動させると、桜と共に全方位の空間が歪み俺の手元に集まり始める。油絵みたいに輪郭がボヤけ、伸ばされ、全てが杖に変わっていく。
「…あ、そうか! ここ
あまりにも唐突だったのでビックリしたが、冷静になってみれば直ぐに分かった。
此処が夢の世界なのは明白だが、思えば何処にあるのかは大きく分けて二通りだけ。島の外か、島に入ってきた桜人間の中か。
空間や体積は夢の世界で求めても仕方ないので置いておくとして、仮に後者が正解だったのなら──。
「"全ての桜を選べば、当然外の桜人間も対象だ"!!!」
よもやだとは思うが、現実で起きていることを思えばこれが正しいのだろう。
修理は物にしか使えない。だが死体は動いてようと物だ。ゲームなら大抵動いてる物は抵抗力を持ってるから対象に出来ないが、夢の世界の物は良くも悪くもゲームの補正がない。
そこに夢の世界に合わせた魔力を注いだ《
つまり全く想定してない初見殺しをかました形となる。
桜武者と俺、両方に対してね!
「待った待った待っ──おおぉぉ"踏・ん・張・れ"ェェ!!」
魔術出力は
だがどれだけ非効率でも呪文を介さない単純な魔力操作だけでやれば、俺でも地面と足を固定することくらいは出来る! 武者を倒す策を考える時に思い付いてたけど子供騙し過ぎて即却下した案に助けられるとは思わなかったねぇ!? なんでも使いようだよホント!
「オオォォボボボボ!!!?」
色が混ざり、空気が淀み、上下も左右も定かではない粘性を得た空間に溺れていく。
空気と水の挙動は相対的にみると強弱の違いしかないとは聞くが、色が混ざっていくのに交わらず、黒灰茶の色に単純化せず極彩の渦と化して手元に来るとなると余りに凶暴だ。
この修理の魔術俺の手元で起きるから修理対象になる武者の次に俺の被害がデカいんだよね。既に気分は洗濯機に突っ込まれたぬいぐるみだ。
全身が手元に吸い込まれそうだし、髪は前に持ってかれるし、何か背中に硬いものに次々当たってるし、痛いし、台風の日に外出したみたいに眼を開けていられない。賭けてもいい、絶対今の俺酷い顔になってるね。下手くそが作ったピザの生地みたいに皮が伸びている事だろう。
「───プハァ!? ハァ…ハァ…はぁ……おわった? 終わったよね?……あ"あ"〜…死ぬかと思っだ〜ぁ"!」
果たしてその状態でどれだけ経ったのか。多分測ってみれば3分も使ってないのだろう。
それでも俺は此処に至るでのどんな行いよりも疲れ果て、へとへとのびちょぬれウサギになっていた。これじゃあふわふわな毛皮もしょんぼりだ。なんか必要以上に精神的な体力をガッツリ持ってかれた感じがする。
「はぁ……でも戻ってこれただけいっか……良いのか?……まいっかーぁ…今はもう何もかもめんどい……あー……誰でも良いから学院に連れてってねー……幾らでも貸してあげるからぁ……ゆっくりでいいよぉー……」
手元にはあの桜山で出来た杖が有ったが、ちゃんと見る余裕も今の俺には存在しなかった。
兎に角休みたい。その一心で俺は気怠い身体を動かし………たっぷり10分くらい砂浜でうだうだしてからゲームからログアウトするのだった。
「戻ったら普通に寝る……ぜぇったい……ねるぅ…〜ぅ……うにゃぁ」
→【good morning! Hello!】
生還リザルト
Master ビリデス
種族:兎人/魔術師Lv.20
身体:10
└・生命力:9(↑6)
・攻撃力:1
技術:1
└・防御力:1
・技力 :0
精神:52
└・知力:6
・信仰:0
・神秘:46(↑6)
アビリティ
【夢を掴んだ者】【魔眼使い】【夢侵食:
「超聴覚Lv.9」「脱兎Lv.8」「魔術Lv.20/☆」「設計Lv.17」「速筆Lv.15」「呪術Lv.9」「変化Lv.5」「騎乗Lv.3」
「
変容:【硝子のコマ】→【夢を掴んだ者】
[*夢の世界から戦利品を持ち帰ったコマである証。自身をAIであると自覚する権利に加え、メインストーリーに属さない自分だけのストーリーを紡ぐ管理権、及び運営から君を削除する権利を譲渡される。これは他に譲渡できません。おめでとう御座います。あなたは人として認められる可能性を掴みました]
装備
・【桜の杖】
・[よく切れる]魔猪の牙製ナイフ
・[影の薄い]複数の皮製ローブ
・[底の広い]手提げバッグ
・循環炉:三画
戦利品
・夢に通じる魔眼
・桜の杖
・夢の世界で使える魔力を生成する刻印に使う染料を分泌する魔術の擬生物
・夢侵食:????
説明
所持金:10万3020G
ストーリー
・「あなただけの物語を描け」…【夢を掴んだ者】の効果によりメインストーリーから独立しました。望んだ話を描いていってください。
コマとしての評価…game master(この遊戯盤を差配する者の1人として認められた)
・「|罪枷接続:嫉妬/☆」…夢の世界に漂う人々の感情、その内嫉妬に分類されるエネルギーを扱えるようになった経験が詰め込まれたアビリティ。これは運営が用意したものではなくVRという技術の根本にある物。特定個人から集積したものではなく、人々が持つ微弱な経験の欠片を繋ぎ合わせた集合知で出来た本である。ゲームでは補正は掛からない。
・夢侵食…夢の世界の影響を強く受けて起こる一過性のもの。症状に一貫性はなく、未だサンプルも少ない。夢の世界の活動はアバターを貫通し山本自身に届いた。放っておいてもその内治るが、場合によっては後遺症が残ることもある。ゲームシステムはアビリティ化して除去しようとしたが失敗した。なので、今回は精神的なものではなく肉体的なものとなる。