前回(から何がゲーム内で起きたか)のあらすじ
無事勝利を手にしてログアウトした山本がまたログインするまでの後始末を押し付けられた簡単AIのビリデス。それは彼女にとって溜まったものではない出来事が待ち構えていた!
運営にVRの仕事場に連れ出されては説明と歓迎を受け、実験として蛇と杖を片手に魔術を何度も使う事になり、漸く帰らされたと思えば学院に生徒希望者が押し寄せてくるではないか。こんなの現状維持を命令に貰っている簡単AIには荷が重い!
なんかもう全部面倒になってきたビリデスは山本の思考ログから蛇を野山に帰そうとして失敗したり、生徒候補を全員試験の用意が出来てないからと追い返したり、桜の杖を持っていたくないので倉庫の奥で神棚に祀ったり、どうにかこうにかリンゴの樹木人の品種改良でお茶を濁しつつ、早く成長しようとする周囲を無視して今日も施設の増築と改造で誤魔化すのだった……。
「ふぁ……ゲームじゃあんな事があったのに…起きたら案外元気……ほぁ…くぁぁ……やー…そうでもない気もするー……とそうだ、カメラ切らないと…」
いや、いつもより寝ぼけて起きたか?
朝日がまだ顔を出す前、俺はいつも通りの朝を迎えていた。
夢の中で死地を潜り抜けるなんて体験は初めてだったな。そのせいかいつもより身体が重いし、もさもさしてる気がするねぇ。なんだかシャツが着にくい気がするよ。
「んあー……」
「…………あ、おにぃか。おはよ、誰かと思ったじゃん」
「おあよー……ねむ、ねむ……」
ぼーっとする頭でシャコシャコと歯磨きをしていると、妹…あー、区別しないとだから…エーコが俺に挨拶したので返す。
んー…疲れてて猫背なのかな。俺より背が低い筈のエーコが同じくらいの大きさに見える。あーいや、背の高い自分を演じてるからそう見えてるのか。エーコは俺より演技が上手いからな、眼が錯覚を起こすのも無理はない。
「エーコ今日は大きいねー…どしたん? 今日は気合い入れてるじゃん」
「別に。寧ろ、おにぃがまだ演技抜けてないだけでしょ。その姿VRの奴? ふーん、結構可愛いね」
「あー……そうなのかもー? いやぁ、二日続けて同じキャラをやるのはこれが初めてだからなー。だから鏡に見えてる俺がビリデスに見えてる訳だ」
なるほど、疲れて俺の目がおかしくなったんじゃなく、俺が役を板につけ過ぎたせいか。ヨメネが初めて演技をやった時と同じパターンね。しばらく見た目が役の方に見えてた奴だ。まさか1番家族内で演技力が低い俺がそうなるとは思ってもみなかったな。
「こっちの一晩がゲームじゃ一ヶ月経ってるんだっけ。それなら合わせて昨日と併せて二ヶ月……おにぃ、家を出るまでに戻ってね? ワタシは別におにぃってわかるけどさ、みんなはそうじゃないんだから。笑いものになるよ」
試しに役をやめるよう意識してみる。
鏡の俺に変化は見られない。どうやら直ぐに抜けるようなものでもないらしい。
「それが出来たら苦労しないだろうなぁ……暫く笑いものになってまーす」
「ふぅん……ま、別にどっちでも良いんだけどさ。おねぇには先に言っとくよー。後、体毛は緑じゃなくて薄いピンクの方が良いと思うー」
「お、じゃあ頼むわ。暫く兎の姿だって言っといてねー」
適当に手を振って送り出し、エーコが去った後に振った手で俺の頬や耳に触れてみた。
人にしては毛深い、ゲームの中で散々触ってきた感触。はて、演技で触覚を騙すのは普通に出来る範疇だが、果たして俺はこんなに気が抜けた状態でも演じられる程実力が有っただろうか?
妹達なら長続きしない代わりに出来るだろうが……俺の場合はずっと演じられる代わりにそこまでの質じゃないんだよね。
「ある訳ない……というか、"コレ"が使えてる以上は……」
手に刻まれた循環の刺青がバチリと輝いて、家族の歯ブラシが入ったコップを浮かす。
魔術も何も使ってない単純な魔力操作。だが深煙流と違い絶対ゲームか夢の世界でしか起きない現象。
「刺青に魔力の流れがあるのが見えてたからもしやと思ったけど……すごいなぁ、夢の世界って。こんな事あるんだ」
現実には魔力がそもそも無い。仮に使えたとしても俺がゲームと同じように魔術を使える保証なんてある訳ない。
しかし事実として魔力は刺青から生成できて、俺はゲームの補正が無くても問題なく使えている。
「スマホぉ……ええと、
……また、これまで確認された事例では共通して元に戻るものの、その時間は最短3時間、最長では12年も……戻るならいっかー? 病院行かなくても」
その内戻るって事なら…ここは……空気を読んでこう言うべきだろうな?
「女になってるー…ふぁ……ねむ…」
あさおん…だったか。起きたら女になった際にはそれに驚くのが空気の読めた行動だと聞いた。
でも今の俺って獣人だから女以前の問題だよね。人に似てるだけの獣だもん。この時期に服なんて着たら暑過ぎて死ぬ存在だよ? 俺がペットなら虐待扱いになる所だ。
「……服を着てても快適になる魔術…現実で魔術を創るのは怖いなぁ。仕方ない、服は垂れ掛けみたいに…いやでも礼節ってものが…」
あれだ、ソシャゲで偶にあるセーラー服の首周りのデザインだけ真似た水着みたいな感じで、特徴的な部分で飾れば誤魔化しつつ暑さは凌げると思う。
でもゲームじゃないのにあそこまで露出するのもなぁ…品性や礼節との折り合いは上手く付けないとな。
「おはよー。兎になった兄でーす」
「おは……エーコに聞いた通りだ…」
「ビリデスでーす。暫くよろしくねー?」
ゴン!
うおびっくりした。どうしたエーコ、急に顔で机を叩いて。痛くないか?
「──運動会で最下位になってそうな名前。ネームセンス0。芝生の置物。全身ブルーファー病」
「!? エーコォそんなに気に入らないかー? 私の姿が……名前が?」
リビングで兄妹3人が集まる中、ヨメネが俺の姿に眼を開いて多分驚いてるとエーコから急に怒涛の罵倒が飛んできた。
どうした? そんなにひどい名前だったか? 一応ラテン語の緑の読みを
「うん。名前を聞いて我慢の限界を超えた。流石にその子が可哀想。造形は良いのに配色がダメ。ホントダメ。百均の塗り絵ノートで全身緑のクレヨン塗りたくる3歳児。緑化で地面に緑のペンキ塗ってるくらいのカス。色盲になったイナゴ絵師。おにぃは三原色って知ってる? 学校で習わなかったの? 図工と道徳の成績表で1だったタイプ?」
「………そんなにぃ…?」
どうした? いつもはそんなこと言わないだろうに。今日は機嫌悪いのか?
それともマジでビリデスの体色がダメ…? 俺エーコがそんなに色に拘りがあるって知らなかったんだけど…?
やば、悲しくなって涙が出てきたよ。
「まぁまぁ……まぁ…うん……まぁまぁまぁ」
「ヨメネ? なんだいその仲介しようと思ったけど全部正論だから止める言葉が思いつかないなぁって反応は。ヨメネから見てもでもそうなのかい?」
「……肯定100%」
「似ちまったかな…姉妹のセンス」
この色だって現実の兎がよく見える色が青緑の系列だから選んだんだけど……えぇ?
「逆になんでわからないの?」
「見た目じゃなくて由来を重視したから…」
「どうせ兎がよく見えるのが青緑だから緑、緑だからラテン語由来のビリデス、後はAIに聞いて兎向けの美的感覚も兼ねて造形したんでしょ。そんな拘り
「えぇ…関西弁になるくらいダメぇ……?」
しかも俺の考えが全部見通されてる…! これが空気を読める奴の読解力なのか…! すごいけど手心が欲しいねぇ!
「うぅ…じゃあヨメネはどう思う…? 先に良いところ挙げて。なんならもふもふしてもいいから」
「えぇ?……造形100点、もふもふ100点、人と獣の割合と絶妙なデフォルメの割合100点。雰囲気も魔術師らしさが一目で分かるし、胡散臭さと愛らしさが良い割合じゃない? キャラ作り100点。性癖に刺さって抜けないタイプのエロイズムの素質はある。
色が単調、ベタ塗り、濃淡すら無し、せめて胸毛は白でしょ。それに喋った時にさっきチラッと見えたけど口も緑なのはビッグアウト。キャラクリで色彩3秒で終わらせたの丸分かり。個人的に爪と毛の下の肌色が緑なのがファーストに許せない。
瞳孔も普通に赤なのも個性がなくて安直。でもここは魔眼として実用性のありそうな模様が見えるから判断保留。
名前、デス入れるなゴミカスドブウサギ世界でトップオブ薄汚え種族。テラ不快。
そんな個々性の感想をキープしたとしてもビリがダメ。デスと併せてギガアウト。せめてビリー。それか由来そのままにウィリーディスでいい。私ならウーリスかウーティスにする。
総合評価、素体台無しマイナス99万9600点!! なまじ良いキャラになれるのに色と名前だけで台無しになってるから許せない!」
良いところの400点全部吹っ飛んでるじゃん。うん……目覚めて三日も経ってないヨメネにこうも言われるなんて相当なんだろうな、多分。
「分かったよぉ直せばいいんだろ直せばぁ。でももう緑の魔術学園って団体を立ち上げてるから、緑色は残させて貰うよぉ!」
アバターの一部分を変更出来る店は都市に有ったし、既存の魔術でも幾つか代用できるものはある。なんなら修理の魔眼がその一つだからな、変えようと思えば直ぐに変えられるのだ。
仕方ない、わがままな家族の願いも叶えるのが兄の役目だ。ここは大人しく魔術を使うとしようり
「おにぃ、寧ろ残さなかったらワタシがおにぃを殺す」
「爪先と髪はそのまま、眼を緑に、瞳孔は白のよりデフォルメの効いた色へ。他は私達が指定した配色で!」
「エーコはなんでそんなに殺気立ってるんだ…?」
「空気読んでよおにぃ」
「……エーコの立場で考えれば分かることでしょ?」
「そっかぁ…そうかもねー?」
分からないから聞いてるんだが……まぁ今はコーデの時間だ。考えるのは後にしよう。
その後、俺は飯を食べつつ妹達の良い通りに色の修正を行うのだった。
[*情報が解放されました]
[夢侵食:※※※※→夢侵食:アバター同期]
[症例:アバター同期…夢の世界で過ごしている際の自分とリアルタイムで同期する症状。記録上1〜3日で治る。通常なら殆ど変化が見られないが、今回はゲームのアバターが絡んだ結果、原型も残らず変わり果てている。通常起きてる間は夢の世界での姿は動かないのだが……今回はゲームの世界でAIが代理で動いている為、まだ確認はされてないがゲーム内の同期キャラが死ねばそのまま死ぬ可能性が高い。幸いだったのは、動かすAIが平穏志向の簡単AIなことだろう。おかげでほぼ死ぬことはない筈だ]
[運営に発見される5日前の簡易AIビリデスのコメント「砂浜から少し離れた所で寝てたら変色したんだけど……もしかして日焼け?」]
「おはよーござまーす」
妹達のおかげですっかり女の子が好きそうな薄いピンクの体毛、他にも足元も可愛さが欲しいと足先を獣のそれからぬいぐるみみたいに……ゾウみたいな平べったいものに、耳も横幅を増やすことになった俺は、いつも通り軽く挨拶をしながら教室に入った。別に何か悪い事をしてる訳じゃないから当たり前だね。ゲームの時よりリアル調からトゥーン寄りの作風なったけど、悪いことじゃない。
「…………だれ?」
「だれ?」「聞いてきなよ」「え、かわい…けどだれ?」
「山本ですが、なにか?」
急に静まり返った。なんで? ちゃんと暑いの我慢して男子の制服着たんだからいいだろ? ちょっと我慢できなくてボタンとか全く閉めてないダボダボ制服のフルオープンだけど、文句は受け付けないよ。
「良かった山本かぁ」
「だれかと思った」
「単に演技の腕上げただけか。今日の舞台デカいんだろうな」
「山本が女子役って珍しいよねー」
「よし」
よし、みんな元の話に戻ったな。こういう時日頃の行いがものを言うらしいが、俺は幸いにも友人1人だって作ってないバイト戦士だ。なので誰にも話しかけられる事なく、朝の時間は過ぎていった。
こういう時事情を説明しないといけない相手がいないと助かるよね。
「山本ー、その見た目はなんだー」
「空間拡張式の着ぐるみです。中古ですけどね。昨日バイト先で貰ったので試着したら脱げなくなったので、このまま授業受けさせてください。脱がしてくれる専用店の予約が先になっちゃったので暫くこのままなんですよ」
なぜ着ぐるみと主張したか? 折角リアル調からトゥーン寄りになった今の姿なら、正直に言うより話が早いから。
「……それは仕方ないな。部活を頑張るのも程々にしておきなさい……あ、そうだ。脱いだらちゃんと風呂には入れよー?」
「毎日お風呂には入りますよ?」
「着ぐるみでか?」
「はい。完全防水性なので」
教室のあちこちで笑い声が聞こえる。今面白い要素あったか?
ともあれ、先生には軽く説明しないとならないが、今の世の中は言い訳に出来る物に溢れている。
案の定アッサリと説明は通じて俺はビリデスの姿で過ごす市民権を得た。
「あれトイレどうすんだろ」
「知らね。まぁどうでも良いじゃん、山本ならなんとかすんべ?」
「あれで男子トイレに行く絵面犯罪過ぎない?」
「女子トイレ行くのはガチ犯罪だからマシでしょ」
「そもそもトイレに行く必要がないよ? 高性能だから」
休み時間に雑談してるグループに答えたりしつつ時間はあっという間に過ぎ去り……。
「…なんだ山本か」
「ご察しの通り山本だよ! ちんまい姿だけどね!」
「え〜カワイイ〜! 部長見て下さい。ほら、抱けるくらい軽いしふわふわしてますよ!」
「そいつ山本だぞ…? 可愛い要素なんて無いよ平瀬君」
「先輩を許可なく抱き上げるなんて、なんて失礼な後輩なんだ」
吃りを治す指導をした先輩相手に許可なく触れるなんてな……ここは評価を下げるべきだろう。
人を見た目で判断するのもマイナスポイントだ。
「ほらな?」
「でもジト眼もかわいいですし……」
「今に痛い目をみるぞ平瀬君。ソイツはどんな関係の相手にもスタンガンを使えるタイプの人種だ」
む、ネタ振りか? なら空気を読んで反撃しなければなるまい。
ビリッ!
「イタッ!?」
「それ見たことか」
「毛の多い見た目は静電気が溜まりやすいんだ。覚えておくといい、平瀬」
魔力を生成する際に発生する電気を当てただけだ。出力も調整したから怪我をする心配もない安全な懲らしめだぞ。
「ともあれ暫くこの姿だからねー。その間は裏方に回るから、みんなは表舞台に集中して欲しいな」
「分かりました……先輩、なんだか雰囲気が柔らかくないですか?」
「マスコットサイズだからそう錯覚してるだけだよー。言ってることはいつもと変わってないね」
「それは山本が見た目にあった演技をしてるからさ、平瀬君。コイツ変なとこで生真面目だから」
という訳で部活もいつも通り流しつつ今日一日を無事に終わらせることができた。
うむ、初日がコレなら後は平穏無事だろう。人は大抵次の日になれば慣れちゃうものだからね。
[空間拡張式着ぐるみ製造会社「PF-MC社」…夢の世界の研究成果の一つ、空間を拡げる技術を専売特許とする日本の大企業の子会社。着ぐるみと同じ分類をされているが、実物は着ぐるみを入り口にしただけの人型の自動車に近い。最も近いもので例えると武器を持ってない上に脆いガン○ム。1番売れ行きが良いのは性的活動目的のもの]
[一方その頃、簡単AIビリデスのコメント「うわああ! すごい数のコマが学院の生徒候補として生成されている! これが戦利品を持ち帰ったコマに対する優遇措置って奴!? すごく要らない! たたでさえ容姿が変わって大変なのに! (現状維持の邪魔になる奴らは)都市に帰れ!」]
「バイトどうしよっかなー…」
ヨメネが治ったからもう稼ぐ必要もないのだが、身についた習慣とは恐ろしいもので、こんな時も俺は自然とバイトを探し始めていた。
といっても習慣以外にもちゃんとやりたい理由もあるのだ。
「これからは就職の自己PR用に聞いてて好感の良い物を選びたい所なんだけど……やっぱり3Kの現場や職場の改善余地がある所とか……いやいや技術系…運転免許用に貯めるのもアリ寄りのアリ…」
うーん……将来は第二壁内の大企業に入りたいけど、そろそろ具体的にどこに行きたいか練っていかないといけない頃合いかぁ。
まだ高2だけどもう高2って事だしな。ヨメネが治って数日経った事だし、そろそろ自分のコレからに向けて頑張る頃合いだよね。
「とりま一旦500万は貯めようかな。割りの良いバイトに行けばそのくらい三ヶ月で稼げるんだし……投資とかも夢があるよねぇ」
一応将来喰いっぱれない資格は持ってるけどね、俺の目指してる所って両親と同じ領域だからね。
ただ仕事が出来るだけじゃなくて、社会を動かす重要な立ち位置を目指したい所なんだよ。
知ってるか? 俺の母さんはその日の気分で部屋の大きさやデザインを変えられる空間拡張子の開発者、父さんは国防軍の第三部隊隊長なんだぜ? 10年前に聞いた時にそう言ってたから間違いない。
「その記念すべき第一歩は〜……あ、この仕事にしよ。今の私向けだし」
そんな風にのんびり複数のサイトに渡って探していると、丁度魔術師に相応しい依頼を発見した。
いやーホント丁度良いなぁ。本物の魔術師になった日に魔術師の募集があるなんて。
[工房持ちのウィザード求ム。受領後口頭で説明。前金500万、依頼の出来次第で最低5000万〜]
「運が良いバイト先だね、紙出し1秒で私の視界にバッタリなんて」
工房は魔術学院があり、ウィザードは魔術師って意味で、しかも金払いがいい。桁の入力は間違ってたけどね。
張り出されていたサイトが裏社会側のものなのが懸念点ではあるが、騙されたらその時はその時だろう。魔術が使えるんだから負ける気はしないし。
pipi──!
「お、早速電話が……はーい、あなたに雇われた野良の
ビスって名前は妹達が考案した愛称だ。名前は変えられない事を伝えると妥協案でそう名乗るように言われた奴だな。折角の裏社会側の仕事だから使ってみようって魂胆である。
[先ずは依頼を受けてくれたことに感謝する。断っておくと
うーん……裏社会の人だし書き出されてた依頼の説明も無い……ということは情報は隠したい感じか? 空気を読む限りこっちからも手を加えてあげた方がいい気がするな。
それならアレとアレは出来るかな〜…あ、出来るわ、寧ろ簡単なまである。
なら…ほいっと。
「あー、もう電話切って考えるだけでいいよー? もうあなたの脳みその防御は突破したからさー。プライベートに配慮して記憶を丸っと読むのはしないからサッサとヨロシクー」
これは魔術ですらない魔力操作…の前提の前提となる技術を流用したものだ。
魔力に抵抗のなく、その上で自分が操作出来る魔力しか存在しない空間でのみ成立する魔力の可能性。
その名も思考盗聴。普通に犯罪だ。
[……はぁ?]
(何を言ってるんだコイツ? 俺は電脳じゃないフレッシュな脳みそなんだが)
(ちょーい! 演技が抜けてる抜けてる!)
(セキトさーん! 顔がマヌケな事になってますよー!)
「
じゃ、後ろの女の子とー…念の為前の男の子にもお金の振り込みヨロシク言っといてー。あなたのメモ帳に入れて欲しい口座書いといたから。あ、報告欲しい時は適当に電子機器近くに置いといてねぇ。3時間も掛からないだろうけどね?」
pi──…。
「ふぅ…ふむふむ…オッケー大企業の最新技術の情報を取ってこいって話ね。うーん出来るかなぁ? 幾ら魔術師でも限度ってものがあるんだけど」
魔力は思考操作がデフォだ。それを流用すれば相手の思考を読む技術になるってわけ。
やってる事は糸電話と同じだが、もつれ現象を経由してるから距離すら無視して通信出来るよ。便利だね。
「んー……お金貰うし演技もするかぁ。社員の名前なら《
こういうすごい失礼な使い方はしたくないのだが……お金を貰ってるならやらない方が不誠実だろう。
「対象7万6043名……全員の知識のみ役として演算……脳が足りないから魔術でちょい補助して……」
記憶だけ知識だけっていうのもすごく疲れるやり方だが、全部丸ごと演じると役が情報を漏らしてくれないので仕方ない。
代わりに検診で得た結果はお礼に残すのでそれでトントンにして欲しい。
「ほいほいほい〜……はい完成」
タイピングが執筆判定されたからか、俺は速筆が発動してる時と同じ速度であっという間に依頼人が望む情報を新たに創り出した。
出来立てほやほやの俺の想像と演技100%の内容だ。盗んだ足取りなんて誰にも分からないぞ!
代わりに正しいという確証もないが……そこはまぁ俺に宿ってる謎の演技パワーがなんとかしている。あれだな、多分俺の先祖に夢の世界から演技力を持ち帰った人が居たんだろうなぁ。リアルでビスの身体になるくらいなんだから、そのくらい有っても不思議じゃない。
「後は魔力を伝って向こうの適当な電子機器の中に入れてー…と、オマケでちゃんと金を渡せって脅しも添えてー…おわり!」
そして俺は1時間で仕事を終え、夕方の内に家に戻るのだった。
軽い仕事だったし、その内50万くらい振り込まれてるといいなぁ。
[一方その頃、簡単ビリデスのコメント「急に貯金が500万増えたんだけどなんで?……怖いから樹木人の遺伝と肉体改造費用にしよー……早く貯金額を維持する為にも増えた分だけ散財をしないとだし、別に良いよね!」]
簡単AI…簡易AIとも。通常設定だとログアウト中は出来るだけ変化が起きないよう、周囲に不自然に見られない程度に調整するのが役目。間違ってもゲームマスターにしていいレベルの知能じゃない。投資を都合のいい金捨て場だと思ってる程度には全員がポンよりの頭脳をしている。