運営さまの言う通り   作:何処にでもある

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 前回のあらすじ
 夢の世界と現実両方で魔術を使えるようにする魔力を認知した運営上層陣「やべーいww」
 運営から連絡され一連の情報を知った提携会社「待てまだ慌てあわあわあわわ」「魔術を隠蔽し秘匿した方が酷い未来になると予測が出ました。ホントか!? 本当に隠した方が悪化するのか!? 国が荒れるんじゃないのか!!?」

 ♢会議、踊る‭─‬‭─!




放置/3日目を始めよう

 

 

「ログインした時の感覚なんとかしたいなぁ…」

 

 昨日は疲れ切っていたのでログアウトしてしまったが、案外体力が戻ったので今日もゲームをする事にした。

 

「この光景もなんとかしたいなぁ…?」

 

 さて昨日はどうしたっけなぁと周りを見渡すと、手が薄ピンクの桜色なのに気付く。

 ババッと身体のあちこちを触ると、現実で変えた肉体とアバターが同じだ。もう既にゲームの中に戻っている筈なのだが……どうやら夢からの汚染とは俺の想像を超えるものであるらしい。

 

「リアルの身体が夢のものになる……というより、夢のものと連結している感じかぁ」

 

 不在時にアバターを動かすAIが自主的にこんな事をする訳がない。なんだかんだAIは命令は徹底して守るように出来てるからな。時にどんな手を使ってでも達成しようとする頑固さがあるくらいには。

 

 まぁこれはいいか。別に体色とかリアル調に拘りがある訳じゃないし。

 今日から俺は桜兎のビリデス、愛称はビスの兎人だ。

 

「周りにはこの杖のせいってことにすればいいとして……それは重要な事じゃないんだよ」

 

 まぁ見た目が変わったくらい些細な問題だよね。

 目の前にもっと気にしないと行けなさそうな問題があるからね。

 

「…?」

 

「樹木人、君達随分とイメチェンしたね?」

 

 人の見た目の変化はすぐ聞いておく。それが空気を読む第一歩なんだからな。

 

「どぅしましたぁ…?」

 

 うわ自力で喋った。ちゃんと音を出せる器官があるのか。

 

「いやね? 君達見た目変わってるし喋れてるけど、そういえばなんでそうなったんだっけなーって思ってね」

「そぉれぇはー…ビリデスさんのーお陰ですよー」

 

 眼の前でのそのそ説明してくれてる樹木人の説明を受けつつ、その姿はほぼ人間のそれに変わっていた。どうした、人面樹から随分と人よりに変わったじゃないか。髪が葉っぱみたいになってて、林檎が実ってる以外に原型がないぞ。樹木人(ドリアード)と掛け合わせるジャンルが本格ファンタジーからエロティックな同人ゲームに変わったくらい見た目が違う。

 うん、全員女の子の見た目なのはなんで? 確か受粉とかの関係上人になるなら両性だと思うんだけど。

 

「すっごくたか〜い魔道具? やぁ…大森林のきちょーな素材をいーっぱい使ってぇ…「進化」させてくれたお陰ですよー」

 

 聞いた話によると、どうやら時期的にビリデスAIがやったことであるらしい。

 なんでも急に500万の現金が湧いたからそれを使ったんだそうだ。色んな素材を集め教会の錬金術師や宮廷魔術師を集めて「進化」させたらしい。

 え、自分で動けるなら管理も楽できるじゃん。やったー。

 

「なのでー、我ら一族はせーしんせーいあなた様にお仕えしたいのでーす……ほりゅーにされちゃいましたがー…」

「私じゃなくて魔術学院に仕えて欲しいからね。それに一族単位なんて大方契約は慎重にやるべきなのさ! ところで進化ってなんの話しだっけ」

「忘れたんー…ですかー?」

「ご覧の通り海に干渉した対価は重いんだ。変色変形があるなら夢現に動いてる間の事を忘れるなんて普通だろ?」

「ですかー…ですかー…?」

 

 進化のことも聞いてみると、これは俺の知ってる進化と同じものだった。違うのはそれを人為的に成したことか。ふーん、リアルの最新遺伝改良と同じやり方でやっただけか。

 

 遺伝子を改造し、それに沿って特定集団の身体も改造する。

 リアルなら二ヶ月かけて細胞が全て交換するのを待つのだが、AIビリデスはそれを半妖精の魔法で加速させることで手早く終わらせたらしい。金の力は偉大だね。

 

 いやそれ寿命……とも思ったが、本来半年掛けてゆっくりやる予定を樹木人の方から頼まれて加速したんだそうだ。

 

「その結果がドリアードと呼ばれるに相応しい人に限りなく近い身体と、人に寄り添った生態か。良かったねぇ、他人(ヒト)の力で他の樹木人に追いつけて」

「はいー。強くなれてー、明日に希望が持ててー、とってもかんしゃーしてますー」

 

 のんびり気質なのは元からだったが…この分だと独立しようという話は彼らの中から出てこないだろう。

 それこそ林檎の樹木人を選ぶプレイヤーがこの部族に当たらない限り、彼らは魔術学院の外回り専門の用務員として日々を過ごすに違いない。

 一応上を目指したい子が出てきた時の為に制度は整備しておくが……使われるのは暫く後になりそうだね。プレイヤーじゃない子の利用とか一生なさそうなくらいだ。

 

 とりあえずさらりと、できればやって欲しい事を書いた紙を渡し魔術学院に向かう。

 

「そろそろお(いとま)させて貰おうか。じゃあねー、何かしたかったらそこのリストでもやっといてー」

 

 具体的には人参畑や小麦畑とかの農園の拡張と新しい作物の新規開拓である。あの子達はのんびりだし、期待せずに待っているとしよう。

 

「うーん…しかし放置要素かぁ…確かにローグと相性がいい要素だけど……放置の成果が多過ぎやしないかい?」

 

 果樹園から少し歩いた先、海に行く前と比べて随分と大きくなった学院を眺めてると、思わず声が漏れた。

 俺が建てたのは教会にしては大きいってだけの格式張った建物だったのだが、眼の前にあるのはそれよりもずっとずっと大きい……それこそ小さなお城と呼ぶに相応しい、アンティークで神秘的なデザインの建物があった。

 

 両手の親指と人差し指で2つのL字を組み、カメラの様に上から下へ順に見ていく。

 

「山なりの輪郭のお城の中央に大きな時計が一つ……まるで時計塔と合体したみたいだね? その上教室を積み重ね伸ばした部分が円環になり、まるで城を囲う城壁みたいになっている……悪趣味な造形だなぁ? 私を悪者にでもしたいのかい?」

 

 突然だが、学校に行ったことがある人なら教室が長く続いてる区域があった覚えがあると思う。

 この建物はそれを円環状に配置して城の土台にしているんだよね。

 

「立体構造…ヘーグイの建築様式だけど……学校としては格差や人を盾にしてる感じがしてやだなー」

 

 これ、側から見ると人を悪い意味で生垣扱いしている感じがしない? 

 それに移動と掃除の面でもかなり大変だよね。普通に現実と同じ構造で良かったと思うし、ドーイラ島の人口的に過剰過ぎる。本当に何もかも過剰だ。

 

「魔力の流れも…魔物が近寄らないようにしている事以外は最低限……快適も何もあったものじゃないな……」

 

 だが、魔物を思えば防衛を意識した構造ではある。

 いざという時は教室が防壁になるし、普段なら窓越しに生徒達が常に魔物が近づいてるか監視するだろう。暇な時に窓の外を眺めるのがそのまま仕事になる訳だ。

 そして教室より外側に柵や罠もあるから一応……いややっぱダメだな。普通に内側に組み込もうよ教室は。学ぶ時の開放感がある以外利点が無いじゃん。

 

「……おいおいだなぁ。先ずは現状の把握に努めないと」

 

 どうあれ、愛着も何もあったものでは無いがこの城は緑の魔術学院で間違いないらしい。

 なんだか自分のものじゃなく新たなステージの管理を押し付けられた感覚が強い……。

 

「…あ、そっか」

 

 あー、分かった。

 これ貸したゲームで他人に勝手にストーリーを進められた感覚なんだ。

 ログインしてない間も成長していると言えば聞こえはいいけど、放置ゲーと違って単純な数値の増加じゃないから妙な不快感に襲われるのか。

 レベルが上がってるとかならまだ受け入れられたけど、頼んでもないのに拠点がここまで変わると流石に……ってなる。そういうアレだ。

 

 それなら……。

 

「……もうテスターじゃないけど、これは報告しとこうか。未ログイン中のAIの活動についての意見上げ。プレイヤーが事前に方針を立てられるようにして、起きてる間も様子を見れるように……後、AI側も判断に困った時は起床中のプレイヤーに意見を仰げるように…」

 

 要は放置要素があるのにシステム側の対応が不親切なのが悪いのだ。

 これ自体はゲームの怠い部分を飛ばせる(そもそも無い様に作れとは思う)から悪い物じゃない。

 ダメなのは、起きてる間に何が起きたか分からないこと。だったらその部分を治せるようにシステムを組んでくれればそれでいい。

 

「あ、でもシステムだけだと今の私みたいにコマのフリした連中に届かないから……よし、創ろっか。(プレイヤー)

 

 という訳で誰も居ない伽藍堂な学院を散策しつつ、俺は新たな魔術を創る事にした。

 魔術師なんだから魔術を作って解決する。これが1番空気の読めた行動だろう。決して一旦ログアウトして報告するのが面倒だったからではない。

 

「前に組んだ簡単AIの行動指定は魔術に満たない出来損ないだったけど……今ならちゃんとしたものが創れるから……」

 

 仕組みとしては前回の流用で良いだろう。

 始めから付いてるAIに強化パッチを配布するが如く魔術を当てがう方針だ。

 

「そうだなぁ……丁度現実で使える魔力がある訳だし、これを回線にすればいっか」

 

 イメージとしては刺青を通信機器にしてお互いの状況をリアルタイムで教え合えるみたいな……となると簡単AIも成長要素が欲しいと思うのが人情というもの。アビリティの枠を使えば簡単に育つ余地が出来るが、それだと【深煙流】みたいな他のアビリティを許さないタイプに適応出来ない。

 

「つまりどれだけ純化できるか……魔術とAIだけで成立させられるかが腕の見せ所って訳だ!」

 

 そも、簡単AIはプレイヤーのアバターに付随したもの。アカウント別じゃない辺り大分簡素なものだ。これをアカウントに付随させ、その分中身を凝らせばかなりいい線行ける気がする。

 しかしこれは魔術ではなく運営のやること、AI側の仕組みを根本から変えられない以上、こっちからのアプローチに工夫を持たせなければならない。

 

「ふむ……プレイヤーにはアビリティから見ても分かる通り片っ端からデータログが取られている。この収集データのメモリーを参照し、学習に使えるようにすれば或いは……」

 

 アビリティを得たりレベルを上げたりする判断基準に使う部分。ここを上手く使えば成長も出来るだろう。

 成長の仕方は……先ず人格は1番要らないか。どっちかと言えば最適化、TASやマクロみたいなものでいい。

 で、肝心の学習したデータを置く場所は……あっ。

 

「‭─‬‭─(ゴースト)か」

 

 そういえば有ったな。《検診(カルテ)》を使っても色々な方法で存在する意味を調べても、特に意味は持ってないとしか出てなかったアバターの要素が。

 というかなんでこんな無意味な空白領域(ブランクデータ)を作ったんだろう。

 運営の遊び心? それとも思想的な何か? 消し忘れ? はたまた……夢の世界にある電脳空間で活動するのにどうしても必要だったものの名残り?

 

 どれでもいいけど都合の良いものだ。

 

「それなら…うん。"出来る"」

 

 魂、フラッタの時から認知はしていたけど、魔術師として成長し干渉出来るようになってから色々調べても特に意味が無いと分かったもの。

 謂わばアバターの隠しパーツと言うべきか、プレイヤーには弄れないが確かにある空白部分。個人的にはアバターの制作をパーツの組み合わせでやろうとした際の残留、中身のないフォルダだと睨んでいる。今の念じれば出来る直感型の制作方法に変わる前のアレって奴だ。

 

「アプデで消されない様に魂の所在をプログラム的にも隠すようにセキュリティを構築して……そこに簡単AIの強化要素を配置。それらをDMPでリアタイで接続させれば…!」

 

 ……ほい出来た。

 新しい魔術…というか半分反則(チート)に片足突っ込んでるMOD系魔術の完成だ。作っておいてなんだけど魔術をプレイヤーに制作させるにしても自由度高過ぎない?

 

「そうだなぁ……君の名前は《電霊憑依(ゴースト/A)》だ。肉体(アバター)に魂を宿す呪文……刺青を刻めば自動的に起動する、恐らくドーイラ島初の常時発動型の呪文さ。これから励んでくれたまえー…っと」

 

 やはり既にあるものを要素に組み込むと作り易いね。

 そんな訳で漸く在校生徒二名が居る部屋を見つけたのと同じくらいのタイミングで放置ゲーとして不親切問題を解決する魔術が完成した。

 その結果俺の手の甲にある刺青が《電霊憑依(ゴースト/A)》専用の魔力源と化したが、利便性には変えられないから仕方ない。新たな刺青を刻んでおくとしよう。

 

「やっほサンシャ、リーリャ。久しぶりだね?」

「あ、先生! 2週間も何処に行ってたんですか!」

「漸く顔を出したな! リーリャ行くぞ、確保だ!」

「はい! おねぇちゃん!」

 

 え、俺海から帰った後に2週間も留守にしてたの? ゲームとリアルの時間差ネタの冗談で言った久しぶりが冗談じゃなくなっちゃったな。

 

「《()》」

「《加速(ブースター)》!」

 

 魔力を固めた透明な盾を足場に、加速しての突進か。ちゃんと学んでいるようでなによりだ。

 はい《念力(パワー)》、サンシャの足に引っ掛かるように物を動かしてと。

 

「ぎゃ!」

「ヒェ!?」

 

 勢いを崩されたサンシャに巻き込まれリーリャも倒れる。これが一石二鳥というやつか。

 うん、これは戦闘訓練も必要そうだね。

 

「やーごめんごめん。ちょーっと生徒を募集するやり方を考えててさ」

「……募集? せんせー忘れたのか? 学院がズボッとこんな風になってからあんなに生徒になりたい連中が来て、私らを避けてながら追い払ってたじゃねーか」

「そうですよ! なんで避けてたんですか…!?」

「偶然そうなっただけじゃない?」

 

 へー、この城みたいな学院急にこうなったんだ。一体誰が何のためにそんな事を…?

 それに生徒になりたい連中って……アレかな、本当に運営がここを魔術学院のエリアにしようとしてるとか? いやそんな訳ないか。プレイヤーの拠点に対してあまりにもそれは理不尽な行いだ。

 

「それと、募集で合ってるよ。いつ入学試験日があるか知る所から篩い落とす事にしたから」

 

 どうあれそういう事なら予定変更だ。沢山生徒が居ても教師が俺1人じゃ限界がある。

 ここは徹底的に数を絞っていくしかないだろう。種族関係なく誰でも平等にチャンスを渡すとかそんな事を言ってる場合じゃ無くなってしまったし。

 

 ……あ、そういやログアウト中に何があったかのメモを探してないな俺。うっかりしてたー……うわぁちゃんとあるじゃん……俺もまだまだこのゲームに慣れてないってことかぁ。

 

 ほう、ふむふむ……なるほどねぇ?

 

「……という訳でこの刺青をシールに加工して、更にもう一工夫するから手伝ってね? 合格人数は多くて100人。それ以上は何があってもまた来年! じゃあハイ、先ずはいつまでも重なって倒れてないで立ち上がる所から!」

 

 メモ曰く、どうやら簡単AIは帰還後、運営から夢の世界の怪物を倒した報酬にこの城と生徒を願ったらしい。

 ログアウトした後そんな事になってるとは思わなかったが、どうも色々と検査と研究の対象として1週間不在になっていたそうだ。

 そして帰ってきたら謎の500万を持たされていたので、入学希望者を追い払いつつ樹木人の進化に利用。それでもう1週間あちこちに頼み込んでいる内に2週間生徒に顔を出せなかったと。

 

 そして蛇と杖をビリデスから離すのはダメなんだとか。運営の下で実験した結果、ビリデスから離れる程現実に異常現象が起きたらしい。なので利用は節度を守り、厳格に管理せよとのことだ。

 

 ふぅむ……もしや運営からもコマだと思われてる? え、そんな事あるか? アビリティとか運営側が用意する奴じゃん。コンソールとか見たら一発だと思うんだけど……?

 

「……考えても仕方がないかぁ」

 

 結局その辺りは大人が決める事。空気を読むならまだ高校生のゲームをしてるだけの子供が口出しすべきではない話だろう。

 試験の準備をしつつ、俺は眼の前の仕込みを進めるのだった。

 

 






 連絡機能…現状、このゲームにはチャットや掲示板といった要素がない。フレンド登録すらない。その為このゲームの話をする場合は外部のサイトを頼る事になる。そこにはいろんな意見があるが、最も多い意見を上から上がると、

 ・楽しい夢を観れるベッド。オマケでゲームも出来る

 ・今日で三日目だけど明日ログアウトすればゲーム内一年とかコマと親密になれる訳なくて草

 ・寝てる間夢の世界に迷わずに済むのが最大の利点。実家のような安心感

 ・ゲームというより買い切りの警備付きリゾート地という感覚ッ! 2割でクソみてぇな悪夢を観ずに済む安心感の一撃ッ!

 ・海? 行く訳ねーだろあんなとこ。見てて不安になるし近寄るだけで幻覚症状が出る場所とか金払っても願い下げだよバカヤロー。ま、キーラ大森林とかいうクソゴミジャワティーが1番安全な島のど真ん中陣取ってるからバランスは取れてないんだけどね

 ・煙々羅の子やーい どこ行ったんだーい?……僕がこんなにも探してるってのに顔出ししねーなんて良い度胸じゃねーか

 という意見が集まっている。現状ゲームとしての評価は低いようだ。
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