パッケージ……VRに接続した人の全ての記憶、状態を保存する情報保存技術。これを応用し本人のものではないものと接続させることで、VR内限定ではあるものの理想の自分になる事が出来る。現実に反映する方法は今も試行錯誤されているが、倫理面の問題もあり上手く行っていない。俗称「リアルセーブ」。
アビリティ…パッケージを使ったゲームシステム。VRゲームでは一般的なもの。個別に練り上げた技術のパッケージと接続することで限定的にそれらを再現する。これで体験したことを再現させれば学習速度が上がると言われているが、科学的にそんな根拠はない。憑依されて幽霊が勝手に身体を動かした所で学びもクソもないのと同じ。操られている間は感覚が無いので、本当に学習向きではない。
「こ、こんにちは。旅の錬金術師……あー…医者です。暫くの間この村に泊まらせて貰っても良いですか?」
「おお! お医者様ですか! これはこれはよくぞ来てくれました。私の娘が病に伏して困っていた所だったのです!」
[*自動生成クエスト「石化する娘」が受注できます。受けますか?]
[!現在の能力(錬金術師Lv.1/錬金術Lv.6)では実力不足です。それでも受けますか?]
[*自動生成クエスト:コマがこの世界で活動してる所にプレイヤーが関わる事で発生するクエストです。メインクエストと違い、受けてクリアしてもこの世界に与える変化は細やかなものになります]
先ずは村長の家に行くべきだろうと訪ねた所、こんなものと遭遇した。
ただ錬金術師と名乗って伝わるか分からなかったので、より分かりやすくそれっぽい職を名乗ったからかも知れない。
「あ、案内をお願いします。先ずは症状を見てみないと」
やらない理由もないので受注してみた。失敗したらその時はその時だな。時限式かもだしやるだけお得だ。
「勿論です。ささ、コチラですぞ」
村長に案内された奥の部屋には熱を出して苦しそうな……13歳くらいの女の子が居た。
「うぅ……!」
「この子が……失礼、お体に触りますよ。この感触は…熱い…石、ですか」
「一月前から段々動けなくなりまして……今ではこうして肌に出ているのです。私もいつ娘が石像になるかと夜も眠れず……」
何処となく村長に顔つきが似ていて、肌は所々石っぽい色に変わっている。赤毛で小綺麗な娘。
手袋越しに触れても分かる硬さ。現実の病で考えれば全身が段々骨になる病なのだが、ここはゲームだ。呪いや毒の類いも考える必要がある。
「娘はどうですか? お医者様」
「今から調べます。今暫くお待ちを……石になる…こ、候補は3通りだから……」
取り敢えず丁度懐にある解熱剤を飲ませといてーっと。
さて、調べる方法は……錬金術の本無いかな…無いな……あ、そうだこれゲームだからストレージがあるじゃん。
「ええと……あの本は何処にしまったかな」
適当に懐を探る演技を挟みつつストレージを探る。
| *ストレージ* |
| ・原本「水溶性遷座構造式への見解」 著:グランベリー・フォン・アモアス ・メモ「声を届ける為の錬金術」 著:フラッタ ・装飾品「都市ヘーグイの錬金術師認定バッチ」 ・装備「錬金術師の礼装一式」 ・その他細々とした雑多なアイテム ……… …… ・複製本「ドーイラ島に属する疾患・呪い早見表」 著:アム医旅団 |
うーん……世界観は深まるけど初期から持っていいアイテムの量じゃなくない? それにメインの僧侶としての品が全く無いんだけど?
職業補正なのかそれっぽいのは直ぐに分かったけど、ゲームとしてこれはダメじゃないか?
これじゃあ本格異世界シミュレーター……もしやそういうゲームとして作ってるのか? それならこれで良いのか。
「ここの名前は……」
[↓ヘーグイ側キーラ森林前 キーラ村]
…この場所の説明が出てくる基準ってなんだろうなぁ。疑問かなぁ。
後で調べてみよう。
「……キーラ森林だから」
逆にこんなに雑多でも直ぐに見つけられる職業補正があるからこそ、ここまで手を込んで作ったのかも知れないな。その道を数年歩いた人の経験は得難い物がある。知識を引き出せないのがもどかしいくらいだ。
「…これかな」
俺は村長が後ろで見守る中症状に合った記述を見て、このクエストを受ける実力が無いと言われた理由を理解した。
| 常秋の火眼 |
| 分類:呪い/不治 魔物が蔓延るキーラ森林には敬意を払うべき3種の怪物が居る。 この呪いはその一体、「火を見つめる大樹」に視認される事で与えられるもの。 かの大樹から舞い散る赤い葉には呪いがある。触れれば最後、かの大樹の火に魂を燃やされ、身体は竈門代わりとばかりに石に変わる。
何故そうするか。我々の見解ではこの大樹に悪意はない。ただその場を動けぬ代わりの眼を欲し、自身の魂の欠片を葉に乗せて運んでるだけだ。 呪いはその葉の「眼」の役割を代わりに背負ってしまう事で起きる。 故に人の身に余るこの呪いは、燃え散る紅葉のように魂を燃やすのだ。 |
つまり「燃えてる木の葉っぱに触れて魂に引火しちゃった! その影響で身体が石になってるよ!」という事だ。
魂かぁ……VRだし構成データに文字としてあるんだろうけど俺には……俺は僧侶だからワンチャンあるなぁ!
「……これは本来決して治せない病……呪いです」
「──そんな!?」
「で、ですが!……か細い線ではありますが、丁度研究しているレシピが完成すれば特効薬を作れるかも知れません。はい」
おお! と村長が良い反応をする。藁にも縋りたいって感じの顔をしていた。
「……とうさん」
「トーラ! 目を覚ましたのだね!」
苦しんでいる娘さん…トーラちゃんが目を開ける。さっき飲ませた解熱剤が効いてきたのか、寝たまま薄目で俺と村長の顔を見ていた。起き上がる気力はないらしい。
「わたしに、かまわないで。むらの……ために…」
「何を言っているんだ! お前は母さんの形見なんだぞ! お前の為ならなんだって…!」
「でも……おくすりは、たかい…よ?」
「……気にするな。これは奇跡なんだぞ? お前が死ぬ前に垂れた救いの糸。例え一巻きの糸を結ぶ為に俺の立場が消えようと構わない。お前は、頑張って元気になればいいんだ」
……なに? 医者ってそんなにお高い立場なの?
なんか副業で錬金術師やってるだけなのが申し訳なくなってきたな。
ふーむ……あ、そういえば【聖なる手】があったよな。アレで回復出来ない? それとも状態異常は無理とかかな。
「お、お取り込み中すみませんが……取り敢えず今出来ることをしておきますね? 今は一時的に熱を下げただけなので……起きてる内に、トーラちゃんの体力を増やす為の処置をします」
「お医者様……お願いします。金に糸目は付けません。なので、どうか…どうかトーラは治してください…!」
「で、では一旦退出を。門外不出の品を使うので、あなたの為にも見ないようにしてください」
「え──は、はい! 分かりました! では後は頼みますぞ!」
ユニークが見られて良いものかよく分からなかったので適当な理由で村長を退出させつつステータスのアビリティ一覧を見た。
ふむふむ……どうも説明を見る限り触りながら【
なのでダメだった時に備えてストレージから色々取り出してからやってみた。
「【
「ひゃわぁ!?」
「……変な感触」
トーラに眼を瞑らせてから使ってみると手の平が光り、トーラちゃんの色々な情報を個別に触れている感覚を覚えた。
「ひっひ……あふぇひひ…! くす、くすぐった……!」
「がまんして。これからの方針を決める為に必要だから」
例えると念動力で作った手で人の身体の内部を
ふーむ……触れたら治すと書いてあったが、これだと触れるまでの過程だけで色々と応用が効きそうだ。腕、手の平、指…延長する場所は自由に選べるのか。
これなら距離が離れててもこの手を伸ばせば人を治せるだろう。有効射程は……部屋の中で折り曲げた回数からして最大15mくらい。
「ふぃ…! ふっ……! うぅ〜〜…! ま、まだですかぁ…!」
「感触だけ分かる伸びる手……近付けて特に熱く感じるのは足のふくらはぎ。歩いてる時に掠ったか。この辺りは余計に活性化させないように……"癒やせ"」
僧侶のアビリティである「祈り」由来の精神安定化も使いつつ、トーラちゃんを回復した。石化と熱は相変わらずだが……特に症状も悪化せず一人で歩ける程度には元気になったようだ。気持ち肌艶も良くなった気がする。
「すごい…おいしゃさま、すごいです! 治りました!」
「しょ、所詮その場しのぎだから……ワタシはずっとこの村に居る訳じゃない。根本を断たないとまた寝たきりになる。本番は…これから」
「あ…そ、そうですよね…! すみません、気が早っちゃって…」
「べ、別に。君への対価はワタシが医者だとみんなに言うだけでいい。君の病は感染しないもの。そしたら次の工程が楽になる」
「分かりました! みんなにおいしゃさまがスゴいって言ってきます!」
トーラちゃんを見送りつつ分かったことのメモを取る。
呪いの方だが、これは手を近付けるだけで案外分かった。あれだ、マッチや蝋燭、ライターの火に手を近寄らせてる感じだな。触れる前に割と分かったわ。
「どうあれ、先ずは呪いを研究しないと……メインクエストも並行してやらないといけないし。丁度よかった」
さて、トーラちゃんはあくまで成り行きで受けたサブクエだ。
肝心のメインクエストだが、これはアビリティを確認するついでに見ておいた。
ご丁寧にどんな怪物かも書かれていたよ。プレイヤーに総力戦をしろって言わんとする文面だったね。
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「キーラ森林の主───3体の怪物を討伐せよ」
このゲームの舞台であるドーイラ島を北東から南西にかけて横断して島を覆うキーラ森林。
そこには無数の魔物が生息し、北、中央、南の3箇所に一際強い魔物が居る。
北の主「切望せし雪夜の梟」
そこに居るだけで常に雪の降る夜を訪れさせる大きな梟。
知能:高い。
特徴:予言。
南の主「雷を纏いし山羊」
かの山羊の領域に踏み込めば空間は捩れ、そこは雷雲漂う山脈となる。
知能:普通。
特徴:迷宮。
そして──中央の主「火を見つめる大樹」
焔の葉を生やし石の花を咲かせる梅の大樹。虹の泡を決して見逃すな。
知能:無し。
特徴:強い。
あなたには二つの都市、生と栄光の都市「アテラス」、死と合理の都市「ヘーグイ」から旅立ちこの怪物を倒しに向かう権利がある。ただしそれを行使するかは──あなたの自由だ。
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「つまり……"ローグライク"」
最初にファンタジーまで読めた。名前辺りでプレイヤーキャラのロストを示唆していた。
そして俺は森の前で始まっていた。その上、こんなあからさまなものまである。
だからこのゲームのジャンルはローグライクだと俺は見た。
死んでは再挑戦し、ボスを撃破する。他のプレイヤーと関わる要素があるのかは不明だが、命は間違いなく軽いだろう。
こんな難易度高そうなステージを3つ死なずにクリア出来るなんて俺には無理だ。
「だ、だから……地盤固めから。神という存在を教える為にも、信頼と信用の土台を拵えないと」
だがそれはプレイヤーのやる事だ。テスターのやるべき事は様々な方法で遊んでも問題ないか検証すること。
その為にも村人の信用を稼いでおかないと。トーラちゃんには直ぐに出るような言い方をしたけど、俺は死ぬまでここのお世話になるぜ! というか後衛が一人で行くのは自殺行為だよ。兎に角前衛になる村人を確保する為にも、ここはしっかりやらないとだ。
「神よ……必ずや、あなたの声を迷える人々届けられる日の訪れを願います……」
だから俺は僧侶職頑張るよ。
神様も見守っててね。約束だよ。
キーラ村
この世界には名無しの村の代名詞として「キーラ村」が存在する。
魔物が出るキーラ森林の最前地域であり、森を進む者の補給地点でもある。
都市にとって無くてはならないものだが、どの村もいつかは消える定めにある。
故に村の人間は罪人や口減らしが大半。唯一村長だけは村人に村を形成させ続ける監視者として都市の人間と同等で扱われる。都市に属さない盗賊村にしない為の処置だ。
村が消えたのは魔物によるものか、はたまた人に「収穫」されたか、どちらにせよ死人は出ている。