前回のあらすじ
山本、ロリになる。
バイト探し激ムズ化。
借金返済期限まで残り7日。
「──…という訳で兎人から子供になりました。戻れる保証はないからしばらくコレね」
「ごめんおにぃ、笑うね──アッハハハ!! なっさけな〜ぁ♡」
「プ…夢……ギガこわ〜ぁ。ふくっ…でもドツボにハマり過ぎてて笑えてくる…あーオモロ」
悪夢のような惨劇から明けた朝。俺は不貞寝から起床して姉妹に説明を行っていた。
酷い話だよね、コイツら話を聞き終わってから俺の頭をごしごししながら笑ってるもの。普通に痛いよね、心が。
「あはぁ…でも良かったじゃん。実質若返りだしさ、他より確実に8年長生き出来るのはいい事じゃない?」
「うんうん、カワイイしミリ似合ってる」
「
「
「こいつ…」
「アッハハハハ!!! ヤバ、笑い死ぬ」
酷い話だ。俺の説明を「そうか」の一言で済ませてくれた両親を見習ってほしいものだね。
「兎に角、俺は早く成長する方法を見つけ出します。エーコは学校、ヨメネはしっかりこれからどの学校に行くか考えようね。以上、解散!」
「「はーい」」
あんまりな朝の時間だったが、残念ながらまだ怠い事が山ほど残っている。
学校やクラスに対する追加説明とか色々だね。まぁそこら辺はビリデスの姿が通った以上、然程問題はないだろう。
「着ぐるみを脱いだら幼児になってた…? それも、夢の世界のせい〜ぃ!?」
「はい。元に戻るかの見通しは立ってませんので、長く見積もって卒業までこのままな可能性も見積もって下さい。先生、コレからもよろしくお願いします」
「……分かった。あんま落ち込むなよ山本。ほら、今のお前に合う制服も丁度届いてるからさ…な?」
「おお、ありがとうございます」
それにしても、なんか先生が制服をビリデスになってる間に頼んでたっぽくて、丁度サイズの合う女子制服が届いてたのは都合が良かったね。サイズ感が同じなのは不幸中の幸いだろう。
でもなんで頼んでたんだろう。助かるけど不思議だなぁ。俺の変化が長く続きそうな空気でも読んだのかな。
だとしたらやっぱり先生は相当な空気読みの達人だね。生徒として敬意を持つに値する人だ。
「おはようございます、部長」
「………!? うっっわ!?」
「夢の世界でトラブって今日からこの姿が基本となりました。女性の役者は間に合ってますしコレからはマネージャーの業務に回りたいと思うのですが、どうしましょうか」
「………ぉぉ」
突然部長が頭を抑えた。うーん…急な話だからか?
「…?」
「あー…うん。気にしないでくれたまえ。どうせなら入部の時からその姿ならと、ありもしない可能性に羨望を向けていただけさ」
そう言いながら部長は頭から目元に抑える手の位置を変え、それから俺の姿を視界に収めた。
入室の時に見た時よりも眼の震えは少なくなってるね。
「なんでカッコ付けてるんですか? 部長は女の子の前でしかカッコ付けないのに」
「当たり前だろう」
部長が不本意そうな顔で俺の手を引いて部室のちょっとお高めの椅子に座らせた。
どうした? 今日は女の部員にやる事を俺にやるね。頭でも打った?
「あの獣の姿が被さってた時と違い、今の君は正真正銘の女の子の身体だ。ならば中身が山本だろうと、雑に扱って良い筈もない」
「……男嫌いのはずでは?」
うーん……何を考えてるか分からないが、部長が何か考えて俺にこういう態度を取ってるのは察したね。うん……それ以上は分からないから聞いてみようか。
「うん。だから掌をくるっと回す事にしたのさ。回すかどうかはかなり迷ったが……こーんなぷにぷにの暴力のぼの字もない山本の言葉なんて、子供の戯言に過ぎないと結論付けてね。それなら演劇部も私の理想郷にする事もさして難しくないと」
「ふん!」
正直に寝言を言ってくれて助かったね。でなきゃダラついた演劇部で永遠と悩む事になってたかもだ。
「はっはっは! ムダムダ、その身体で散々君にシゴかれた私を背負い投げられると思わない方がいい! 筋肉が違うよ筋肉が」
「んー! ん"ーー!……ふぅ、仕方ない」
いつも通り背負い投げをしようとしたが無理だった。
仕方ないので別の手段を考えようと思う。
そうだなぁ、カメラが欲しい所だけど今はスマホが無いし…するか、人任せ。
「さぁ、何をする気なのかな山本ちゃん。私は言葉なんかで動く気はないよ! さぁ、私と一緒に"部費を使い"アメリカンなヒーロー映画を見よう!」
「家に帰ってからでいいでしょそんな事……」
ガチャ。
ぐっへっへと笑う部長は置いておくとして、俺が部室の扉を開くと平瀬が丁度そこに立っていた。
うん、周りに解決策がないか見渡した時に人影があったからね、新人らしく放課後直ぐに部室に来るなんて良い心構えだと思う。
これで平瀬が手伝ってくれるといいんだけど…どうだろうねぇ。
「あ…おはようございます」
「おはよう、何処から聞いてました?」
「先輩が部長になんでカッコ付けてるか尋ねた所から…ですね」
「なら話は早い──アイツ投げ飛ばしていいですよ。やり方は吃り直しの特訓で教えたから出来る筈です」
そう言うと平瀬は「えっ」と俺と部長の顔を見比べていたが……部長がなにやら両手を合わせて頭を下げ始めた辺りで何かを決意したようで、部長に近付いていった。
「ベーベル部長、私の嫌いな人がなんなのか教えてあげます」
「待て、話せば分か──」
──ドォォーン!!
「予算を横領して私服を肥やす人です──お父さんはそういう人のせいで失脚したので」
「それは……お気の毒…に……ガクッ」
俺より勢いのある見事な背負い投げにより、悪しき部長は仮眠ベッド送りとなった。
南無三、最後まで女の子を口説く骨のある人だったね。
「ありがとうございます、平瀬。でも良かったのですか? 許可出しておいてなんですが、幾らか憧れを持ってるように見えてたのですが」
そう尋ねると、平瀬はたははと笑って頬を軽く指で掻いた。
これは…恥ずかしいと感じてるのかね? 合ってる自信はないけど。
「あ…それは部長も最初は私と同じで甘ったれた心構えで入部したのに、ここまでの実力になるまで頑張ったんだと思ったからで……演劇部をダメにする気がある獅子身中の虫なら話は別です。実力は誰よりもあるのは認めますけど、もう前より憧れはありません」
「へー……それで横領とは? 言いたく無いならそれでも別に構わないのですが……」
「ああ、大した事じゃないんです。なんでも昔、お父さんの研究室の予算がそういう人に奪われてて……そんな環境でなんとか成功させた研究成果も奪われ、挙句横領した事実を押し付けられたそうで。今では裏市場の片隅で修理屋をやってるんですよ」
へぇ、随分と大変な人生を歩んでるんだね。大変そうだなぁ。
こんな子供みたいな感想をぼけーっと考えてると、平瀬はポンと何か思い付いたように開いた手に拳を置いた。
「そうだ先輩、私があなたの代わりになってもいいですか? 先輩より上手くはやれないかも知れませんけど……それでも、私は先輩のお陰でなりたい自分に近づけましたから」
どうもこの短い間になんだか複雑な心境の変化があったらしい。
どう変わったのかは想像も付かないが、ありがたい話なのに違いはないのでOKを出しておいた。平瀬……成長したな!
「学校は終わったから後はスマホの契約か…15万なら裏市の使い捨てをどうにか使い回して何回か稼げば……」
[施術無しで電脳空間へアクセス可能!]
「うん?」
そんな感じで学校も終わり裏市場の電気関連の道を散策していた時、ふと売り物のテレビから気になるCMが出ていた。
[世界よ、コレが通信機器の決定版だ! 夢の世界からあなたを護ってくれるあのPAGベッドでお馴染みのPAG社の新商品! コレまで身体に埋め込む事でしか行えなかった電脳空間への小型接続機、LAN施術の完全上位互換!]
「前振り長くね?」
[ガラケー、パソコン、スマホ! その流れを組むとすればコレが電脳版のスマホと言えよう! LAN施術、VR、その次に担うのがコイツ────「
「ふーん、VRも遂に持ち運び可能になったのか」
というかこれCMじゃなくて発表する為のちゃんとした番組じゃないか? よく見たら右上にそれっぽいマークがあるし。
[通信や処理性能は据え置きの最新VRと比べてなんと465倍! 既に業務や連絡に使えるアプリに昔ながらの動画漫画ゲームetcがやれる場を思い付く限り搭載! 価格はなんとVRと比べて────200分の1! 税込その他契約料金等々合わせてたったの15万でお求め可能! コレのあるなしで文字通り人生密度は大幅に変わる!]
「そんなに有ったら現実がどうでも良くなって餓死する人とか出そう」
[しかも今ならビブラーに夢中になってリアルを疎かにしちゃうか心配な人向けの人生代行AI「ゴーストA」も付いてくる!]
「ん? これ俺の作った魔術が元ネタだったりしない? 気のせい?」
んー…? いや、まさかな? 運営総本山の会社ではあるけど、あんな高校生が作ったお粗末なAIの知能向上魔術なんて使わないでしょ。流石に空気の読み間違いだね。
[さぁ、いつでも何処でも電脳の世界に羽ばたきたい人は今直ぐPA社の本店へ! 本日から販売中!]
そして発表は具体的にどんな事がビブラで出来るのかの説明に移っていく。
ざわ ざわ
ざわ
「おん? いつの間にか人だかりに囲まれてるね」
どうやらテレビに夢中になってたらしい。
いつの間にか俺を囲むように一緒にテレビを見ていた人々の中には、何処かへと駆け出す人もいた。どうやら今の宣伝を聞いて買いたくなったらしい。
「みんな話し合ってるみたいだ」
そうでなくても、他にもこんな会話をしてる人々も居た。
「どうする?」
「買うしかないでしょ。世界の速度に置いてかれるのはごめんね」
「持ち運び可能なVRで、その上で据え置きの超上位互換か……本格的に世界のメイン舞台はリアルから電脳に変わったな」
「おい、早く買いに行くぞ! 新たな仕事の香りがする!」
「465倍ってマジだと思う?」
「さぁね。でも、株の短期トレードも可能になりそうだから買い一択。逆にコレまでの主流だったVR株を主軸にした新NISAに金突っ込んで一瞬で金儲けー…って感じの時間差の利用は絶対減る。というか、ビブラ買ってる人が少ない今ならアクティブで勝てる見込みがかなり高い。NISAに突っ込んだ餌が多い訳だし」
「ふむ、この465倍は現実の360倍速が可能な最新VRより465倍早く加速してるという事か……は? リアルの16万7千400倍速? 現実で1日経てば約458年…460年弱経つじゃないか!? 種族や国家の概念が変わる話だぞこれ!?」
「とすると半日でも買い遅れた奴は古代人扱いかよ……持ち運び可能とか言ってる場合じゃなくね?」
「使ったら脳みそ壊れそうでやだなぁ…」
「でもPA社だぜ? 安心安全第一のあそこなら大丈夫さ」
とまぁ反応は様々あるが大体の意見は「買わないと世界に置いてかれる」で一致しているように思えた。
というかこのレベルのものを当日から販売なんてやって良いのだろうか。なんというか……世界に喧嘩を売っているようなものなのでは? これ、全人類に配布すればそれだけで価値観を書き換えられる品物だよね?
俺はイヤだよ、電脳空間で子供のAIを自分達の子供だって扱いになるの。AIに唯一優ってる肉体を捨てるようなものじゃん。その上生身をAIに任せるとか……これ、人とAIの境界が消えるよね?
だとしたらやだよ俺。壁打ちのバイトのせいでめっちゃ子沢山になる。彼女も居ないのに子沢山はヤダ。
「……俺はイヤだなぁ、これ。どっちがAIか、人間か……上下関係とか、酷くややこしいことになりそうだもの。そんな事で戦争とか起きるとかさ……勘弁だからね?」
俺はそんな言葉を言い残してその場を去った。なんだかスマホを買う気分にもなれず、その日はビブラを売ってる本店でやたらタイパのいい行列を整理するバイトを自力で発見し仕事した。
バイト代は15万円。なんか他の人より1.5倍多く貰えてたので【金浴】のユニークはある事が確認出来たのは幸いだったね。
借りた分も合わせて30万。ビブラ2個分。
俺は多少悩んだが、結局妹二人の為にビブラを買う事にした。
「へー…おにぃにしてはやるじゃん」
「ありがとう、VRはいつかやりたいと思ってたから」
「使いたい時に手元に無いと不便だからね。使うかは自分で決めろよ」
イヤなものはイヤだが、それはそれとして選択肢は有るのが大事だ。
誰がどう見たって時代を変える一品だ。不安があっても買わない選択はなかった。
《回復の泉:30万》
「まぁ…このチケットが虚空から出た時は驚いたけどね」
【金浴】は獲得金を1.5倍にし、その上使ったお金の分だけ「回復の泉」というものを一定時間生成するユニークだ。このチケットはビブラを買った時に出てきたもの。多分千切るなりすると生成出来るのだろう。
俺はこのチケットが出てくるまですっかり忘れてたが、有って損はないので取っておく事にした。
「…………ログインするか悩むけど、しない理由がない…か」
やだなぁビリデスの方に入るの。結局大開拓の方は手付かずだし、スマホが無いから向こうがどうなってるかも分からない。別にあのクランに執着はないけど、石を投げられるような目に合うかも分からないのはメンタルに悪いね。
「ふぁ……おやすみなさい」
今日も深く眠りの底に落ちていく。
今まで通り。だけど今日は他の人の気配を感じ取れた。ビブラで電脳空間に入ってる人が急増したからだろうか、流れ星のように無数の光が俺と同じように堕ちていく。
この光がまた昇る時は来るのかな。
仮に6時間寝るとしたらビブラで入ったとしたら、次の日は125年先の事になるんだけど。
「そんな空気になるかは読めないけど……そうなってくれたら嬉しいかも」
ふと、そんな疑問が生まれた。
答えは出せそうにないけど、そこにどんな答えが書かれたら嬉しいかは俺でも分かる事だった。
奪われた研究成果…「LAN施術の安定化手順」と言って、個体差の激しい脳の施術において、一定の法則性を発見し、施術を絶対に成功する水準まで押し上げたものです。人とネットを世界で初めて繋げた技術で、いずれVRなんかよりも人々の距離感をずっと縮められていた筈で……今挙げられてる問題もいつかなんとか出来る見通しだって立ってたのに……最後はお父さんと一緒に、LAN施術は死んでしまった。私は、それが残念でなりません。