前回のあらすじ
フラッタ→神の声(製造中)の一部となる。
シンエン→抜け殻が永遠に斬り続ける。
ビリデス→大樹と融合し魔術化。
死んでも本当に死んでるか怪しい終わり方が多いぞ山本!
「やっほ☆」
「………だれ?」
起きて早々に恐縮な質問だが、VRベッドの中で眼を開けると知らない人が居た時は、どうするのが1番空気が読めた行動だろうか。
今の俺はロリっ子だから抵抗しても無意味である前提を踏まえて答えて欲しい。
「知らねー奴がいて不安なら特別にぎゅってしてやってもいいから、僕をぎゅってし返してもいいぜ?」
「先ずは自己紹介だよね」
「おっと、僕を知らないパターンだったか。まぁそんなに幼いなら無理もないかもな」
因みに俺は夢の世界のせいで他人のベッドの上に転移したと考えてる。
なぜならこのカプセルベッドは開く時に俺を叩き起こすから、俺が寝たままこの状況を成立させるならそれしかないのよね。
「俺は山本・イイノリ、心は16歳の男で身体は8歳の女だね。夢の世界で不幸と踊ってこうなったよ」
「冷静にパンチのある挨拶をどうも。僕は阿佐美・ミコ。心は16歳で体も16歳のピチピチ不登校女子高生の配信者。先日の内に登録者が10億はビブラでトんだミコミコchといえば正に僕のことだとも」
俺は山本、相手は阿佐美と。よし、これで知らない仲じゃないね。
「それで、なぜこうなったか説明出来ますか?」
「PAGでダンジョンアタックしてたらリアルに影響が出るタイプだったやべーFOEと遭遇してね。トドメの一撃を叩き込む直前で意識を現実に叩き戻されて、目覚めたらこうさ」
あー…桜人間みたいな奴がダンジョンに侵入したのかな。
そういうことなら仕方ないね。無罪です。
「現実に影響があると知ってましたか?」
「いーや? こんな感じの"不幸"なんざ人生初だし、一撃喰らったらリアルがこうなると知ったのは起きてからさ」
うーん?……よく見たら眼が泳いでるし、瞬き激しいし、ちょっとだけ汗もかいてるな。
これはアレか、気まずいって感じてるのかね。配信者の癖に人と眼を合わせられないのはどうかと思うよ。実力不足じゃない?
「……すまねーが山本ちゃん。未成年でPAGをやってるのは見逃すからそろそろ出してくれねーか? これ以上は山本ちゃんの情緒教育に悪影響を与えちまう」
「別に年齢は嘘じゃないですよ。先々日までは兎人の子供だったくらいには夢の世界の影響を受けてましたし。なので自分を教育に悪い存在だと卑下する必要もありませんね」
十分心は成長してると主張する為にそう言うと、阿佐美は唐突に俺の頭を撫でた。
マナーのない失礼な奴だね。
「なぜ撫でるんですか」
「気合いでオーラを抑えてるとはいえ、こんなにまともでいい子な子供に会ったのは久々なもんでね。ちょっと母性が刺激されただけだから気にしないでくれ」
うりうりと俺の不機嫌そうな八の字眉毛も構わずに阿佐美は俺を撫でる。
うん、シンプルに不快。これだからマナーのない奴は。人を猫か犬扱いするなんてね。
「はぁ、そうですか。出るには阿佐美さんの後ろにあるボタンを俺が押さないとなので、なんとかして退いてください」
生体認証のダメな所が出たよね、こういう所で困っちゃうの。
「よしきた」
「いや、抱き付くのではなく……」
「このままくるっと回る作戦さ。このまま身体の位置を中心に寄せたいから、ちょいと我慢してくれよ」
「む」
そういうことなら無罪。説明不足気味だけど唐突に抱き付いたことの罪はなしだ
そんな感じで随分と会話が弾みつつも俺と阿佐美はVRから抜け出す事ができた。
もしやこの会話が弾む感覚が気が合うという奴なのだろうか。
……いや、単に配信者として人のノリに合わせるのが上手いだけかも知れないね。
「ふぅ……いやーどうにか抜け出せて良かったぜ。山本ちゃんも押しかけちまってすまなかったな」
「夢の世界のせいなら仕方ないですよ。それよりも自分の家は分かりますか? 服が寝巻きな辺り、帰るにも最低限鍵や電車代は要りますよね」
まぁそんなとこよりも大事な事がある。
今の阿佐美は寝巻きだから色々と外出に不便そうだってことだね。
幸いにも今日は学校がお休みだから彼女に付き合う時間があるとはいえ、それでも服や家の鍵と言った問題はしっかりそこに横たわっていた。
その事を指摘すると阿佐美が気の抜けたような顔になり、それから頭をポリポリと掻きながら俺と目線を合わせた。
「あ? あー…そうだなぁ…そうだよなぁ………よし、山本ちゃん。すまねーが家族に事情を説明して色々貸して貰えるように取り次いでくれねーか?」
「いいですよ。困った時はお互い様ですから」
「おう、実に助かっちまうぜ。………マジでいい子だな、"コレ"を使わずに済むなんて。運命の野郎の仕業……なワケねーか。あのサドがこんな流れを組むワケねーし」
「なにか?」
「いーや? 久々に人の善性って奴を噛み締めてるだけさ。全くおありがたい話で助かっちまうな」
という訳で妹達に紹介する為に二人でリビングに出た。両親はもう仕事に行っているから不要だろう。早速ヨメネの姿が見えたので声をかける。
「おはようヨメネ、この人は夢の世界のせいで俺のベッドに転移した阿佐美さんだよ」
「ん…────あ、
─ッゴン!
「──過度な礼儀違反をした家族には罰を…ね、ヨメネ。
唐突に告白なんてされたら人は困っちゃうんだよ? 急に知らない御宅に来ちゃった人にやっていい事じゃないよね。ね、阿佐美さんにごめんなさいは?」
「ご…ごめんなさい。プラチナ可愛くてつい途中式飛ばして告白しちゃいました…」
「おう、こういうのには慣れてるからな。別になんとも思ってないさ。寧ろ、いつもの流れがキャンセルされてビビってるくらいだぜ」
出会い頭告白するなんて暴挙をヨメネがした時はハラハラしたが、膝抜きして転ばしたらちゃんと謝ったのは幸いだった。ふぅ…まだ社会経験がないからこういう常識外れな行動には気を使わないとね。
「お、エーコだ。見てろよヨメネ。コレが見本だからね。
おはようエーコ、この人は──…略…──阿佐美さんだよ」
「ん?──お"…ギッ……──ッダァしゃらくせぇなハーーッ!
はぁ…はぁ……ヨロシク阿佐美さん。悪いんだけど"ソレ"もうちょっと引っ込めてよ。分かんないなら見本見せるからさぁ…どう?」
「おお…ヨロシク。すげーメンタルだな。ついつい感心しちまったよ。
というか見本? アンタも同類か?」
「や、ただなんでも演じられるダケ。体力無いから短時間しかムリなんだけど─…
─こういう風に、それこそソイツが成長した姿くれぇなら余裕ってワケなのさ─
…─で、今見せた通りに引っ込められそう? それで私が朝食を一緒に取るかどうか決まるんだけど」
お、エーコが自分から演じるなんて珍しい。
うんうん、楽する為に最初の苦労を払えたのは兄として感心出来るね。
「あー…ちょい試してみるわ…………これでいいか? これでも僕なりにこの力の扱いは練習してるんだがな。どうーも今見せてくれた領域に達してるとはお世辞にも言えそーにねーんだが」
「オッケー。そのくらいできるなら十分。その息の仕方なら今までのやり方よりラクだと思うし、私のためにもちゃんと練習してねー」
いいかヨメネ、これが礼儀のある人間の振る舞いだよ。別にここまで上手に話せとは言わないけど、今後は急に手をワキワキさせて襲い掛かるなんてことがないようにね。
「……エーコに呼吸を教えられる前と後で阿佐美の姿が違うのはなんで…?」
「それこそエーコが演じた間だけ阿佐美の姿に見えたのと同じ原理だろうね。ヨメネは先に答えを見てるよ」
「あー…なるほどなぁ…」
それと、そういうのが気になっても口に出すのは仲良くなってからだよ。
大抵現実的じゃない事は夢の世界由来なんだから、そういうものとして流すんだ。
それが空気を読む事にも繋がる常識ってやつだからね。兄からのアドバイスだよ。
「全く、とんでもねー家にとんで来ちまったようだな?」
多少変わってるとは思うが、普段は使わないから割と普通の家族だよ。
阿佐美のボヤキにそんな事思いつつ、俺達は食事を終えて各々好きに過ごし始めた。
「行ってきまーす」
「私も行ってきます」
「おう、日が暮れるまでには帰れよー」
「おにぃも、私のスマホを無くしたらボコッだからねー」
「分かってる分かってる」
エーコは俺に地図代わりのスマホを渡して学校の友人と遊びに、ヨメネは今日までに見かけて気になった場所へ。
俺は阿佐美の家が第一壁内ということで、送り返す為にも遠出の準備を。こうしてると土日も仕事に行く両親はすごいと、ふと思ったりもする。
「飯から何まですまねーな」
「別にいいですよ。ごはんはみんなで食べた方がいいものですからね」
「全くもってその通り。その上僕の人生最大の欠点の解決策まで妹ちゃんに寄越されちゃあ、お返しも言葉じゃ到底足りなくなっちまった」
「そうですか。待ってる間暇でしょうし、テレビをつけておきますね」
準備中に話しかけられたので、もしや暇してるのかとテレビを付ける。
よし、空気読めた行動でしょこれは。
[PA社より急遽発売されたビブラ。コチラの商品が起こした一連の騒動について専門家に意見を聞いてみましょう]
「んん"……別に構わねーけどさぁ…」
すると阿佐美は喉を鳴らしてそうじゃないって言いたそうな絶妙な顔をした。
すげぇ、俺でも分かるくらい表情豊かだ。さすが配信者をやってるだけあるね。
ふぅん……つまりまた読み間違えたか。
[そうですね、今回の件は電脳空間……VRで時間を加速したりするー…業務での利用が少ない芸能界、行政、肉体労働者といった方々にとっては唐突ではありました。ですがコチラはVRを利用していた人々にとっては二ヶ月も前から告知されていたものでありまして──…]
「阿佐美さんはどう思いますか? 実は俺、スマホを昨日壊したせいで調べ物とか出来なくて……よく分かってないんですよ」
「僕は電脳空間でやるタイプの配信者だからその視点で答えてもいいが……いい加減敬語は省けよイイノリ。同じ釜の飯を食った仲なのに水くせーな」
む…まぁ向こうがそう言うなら敬語抜きでいいか。
代わりに演技を入れれば礼節は守れてることになるだろう。
「なら阿佐美ちゃん、あなたが知ってる事を教えてちょうだい?」
そう言うと阿佐美は機嫌を良さそうにしてテレビの専門家と似たような事を言った。
「電脳空間じゃあリアルの朝から……つまり発売の二ヶ月から噂になってたな。やれ新時代だの新天地だの、真新しさって奴を頭文字にする事に余念の無かったさ」
[「人類として進化しよう!」、これがPA社が電脳空間で出していた広告のフレーズです。
夢の世界に怯えないでいい睡眠、好きなものをいつでも食べられる食事、永遠に好きに遊んでいい世界────半永久的に死なない世界。
コレまで電脳空間が抱えていた、必ずいつかは現実へ戻る必要があるという欠点を克服したPA社は、これらを大々的に宣伝しておりました]
「ま、僕はコレを機にキッパリ電脳空間での配信活動はやめたがな。だってそうだろう?
これは単に新しいスマホを買うような話じゃなく、現実とキッパリさよならするかどうかって話なんだからよ」
[勿論電脳空間で仕事をしていた人々も意見が別れました。無制限の個人の幸福か、質量のある現実か。
家族や友人を残したく無いなら低価格なビブラを買い渡せばいい。電脳空間がどこまでも現実に即したものであるというのは、それこそ現実で生きた時間以上に電脳空間で仕事をし続けた我々が良く知っている。変わる事と言えばこれから過ごす時間が途方もなく長く、好きな時に死ねるようになるだけ]
「人類が持つ長所は物理的に有ることだ。大量の分子が集合した平均60kgの肉体。電脳空間に行くなら絶対に捨てなきゃならんもので、夢の世界から得た力の器となるもの。
────知らねーだろうから教えるぜ? 電脳空間じゃ僕の「魔性」は酷く弱体化する。これは他の力も例外じゃねぇ。それが意味する事は、"夢の世界だと精神より肉体こそが最大の武器になるってことだ"」
[人類が高次元に座するあの文明に対する「最も手軽に使える武器」が「肉体」なのです。故に電脳空間に
ふぅん……そういえば俺の演技を利用した肉体圧縮も無敵を付与されてなきゃ死んでたって話だっけ。
確かにこれは弱体化してるか。つまり演技は夢の世界由来の力ってことね。ようやく確定してくれて嬉しいねぇ。
「で、僕はその反対意見を最後まで主張する代表者なワケだったんだが……。
──37%が電脳空間へ旅立った。逆さまにしてやれば、63%」
[では、反対派は何故確約された永遠の幸福を捨ててまで現実に残ったのか。
ここで出てくるのがtuberとして世界最大登録者を誇るミコミコchのあの子!
実の所、私がこうして現実に居るのも彼女のファンだからなんですねー]
阿佐美が脚を組んで偉そうに俺を見下すように視線を置く。
演技なのは見て分かったのでそのまま眺める事にした。演技ならあらゆる振る舞いは失礼ではないのだ。
「登録者数は10億減って73億3660万4491くらい。主な配信のジャンルは問わず、動画に広告付けねー為に収益化はつけず寧ろ金をサイトに払い、代わりに顔と名前を貸し出した宣伝費で家賃を払い、残った10万の端金で慎ましく第一壁内の隅っこで生きている」
[阿佐美・ミコ。彼女の活動のおかげで、人類という種は現実に重きを置いたと言っても過言ではありません!!]
「座右の銘は「安全第一」。趣味で雑談をする登録者103人の底辺配信者から一夜、バカみてぇな「魔性」と登録者を得て今までの人生を捨てる事になったが……最近の趣味は僕のことが好きにならない奴を探すことでね。その為だけに63%の人類の足を引いて現実に取り残した足引きクソ女」
[みなさん! 彼女を讃えましょう! 彼女のおかげで人類は救われる! 争う力を持つ未来を得たのです!! あなたも、あなたも、あなたも!!! みんなで彼女を崇拝しようではありせんか!!!]
画面の向こうで阿佐美に狂った初老の男が退出されられる。
どうやら彼女が夢の世界から持ち帰ったものは「魅力」であるらしい。
画面越しに関わるだけでああなるとは……よっぽど阿佐美が好きなのだろう。
俺には理解できないことではあるが、これって空気が読めてないって事にならないよね?
「よお、会いたかったぜシンエンのPL。あまりにも奇遇なんで気付くのに遅れたが、その動じなさは生来なようで安心したよ」
よし、そんなこんなで遠出の準備も終わりっと。
「そっかぁ。準備できたからそろそろ行こ、阿佐美ちゃん」
「……おう。はぐれねーように手を繋いどくか? そのロリっ子の姿じゃ見失うのがこえーぜ」
「いいよー。ふふ、阿佐美ちゃんは心配性だねぇ」
「お前まさか見た目相応に演じてねーか? おいおい、もう少し僕に素を晒してくれたっていいだろ? 折角夢の世界の力を持った者同士の出会いなんだぜ? もっとカッコよく俺口調でさぁ……」
「阿佐美ちゃん。私達が仮に超能力者でもね? 戦う必要もカッコ付ける理由も、ましてやそこまで仲良くなる理由もないのよ? ここに居るのって朝会ったばかりの人間二人だからね?」
「ふふ……友達になる取っ掛かりが欲しいもんだぜ……」
なんかつべこべ言ってたが、ここに居るのは結局の所民間人二人だ。
現実は戦いは柳田の師匠や裏の人間の領域で、これから二人で第一壁内に行くのに争う理由もない。
求めていた流れにならず不貞腐れる阿佐美を引き摺りつつ、俺は妹のスマホ片手に電車に向かうのだった。
第一壁内の阿佐美……国の政治的な主要施設などを収めた場所。普通は住めないが、阿佐美はその体質から封印と安全確保も兼ねて隅っこで暮らしており、国の不利益になりそうならいつでも殺される立場。親元から離れた上に贅沢が出来ている訳ではないので、山本家の朝食は久々に生の人の温もりを感じながらの食事だった。知名度だけの女。