運営さまの言う通り   作:何処にでもある

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 前回のあらすじ
 偉大なる魔術師ビリデスが大樹を封印した事でキーラ大森林に道を敷く事が出来た二大都市。
 暫くは平和と発展が続くと思いきや、運営の人間と上位のAIの全員が突如としてビブラを利用して永劫の加速世界へと旅立ち、誰も管理しなくなった島々に異変が発生。

 海面上昇、傾いていく島、何処かへ消えていく魔物達、ビブラ側からのログインの試みに伴う時空裂断……。

 一人運営として残ったオラクルは、急遽サーバーの統合や進捗状況の整理、PAG運営の全権限を使って領域の安定化を図り‭─‬‭─段々ジリ貧になってパンクしようとしていた!




ビブラート会議/ダンジョンに挑んでみよう

 

 

[丁度良かった。詳しい説明は後にするので、島の管理を手伝ってください。サーバーの統一作業で忙しいのです]

 

「分かった。やるだけやってみるね」

 

 よぉし、長くなりそうだぞー。

 

 

 

 

 

 ニューゲームをしようとしたら運営側として働くことになった。

 とても不思議な流れだが、友人の頼みとあれば断る理由もない。

 前後の文脈が読み取れないのはいつものことだからね。俺は言われた通りにエラーを吐いているシステムを修正し、アイン(#1)からフュンフ(#5)までの島をいい感じに統合したり、システムの改善をしたりした。

 

 ふぅ、誰だか知らないけどこのシュリニヴァーサ・ラマヌジャンとシーモア・クレイと金銀山・ホウレイって人達の演技を併用しなきゃあまりの仕事量にパンクしてたね。うん、3役とか同時は初めてやったよ。

 ホント、俺の演技の特性を知ってるオラクルが演じて欲しい人リストを寄越してくれたからなんとかなったよね。疲れたぁ。

 

「オッケー! 取り敢えず島の統合合併と三怪の討伐状況の剪定、オマケで海と島の安定を保つ自動管理のシステム構築も終わらせたよ〜ん。オラクルちゃーんこれでいい?」

 

[確認します……はい、問題ありません。後は私の方で管理出来そうですし、演技を取りやめても構いませんよ。お疲れ様です]

 

 送ったデータをオラクルが確認し、空になったタスク欄を見る。うん、しっかり二人でやり遂げたね。

 今日はログインも遅いし、その上十数日はここで仕事を手伝った。今日はゲームをするのはやめてここで過ごすのもアリだろう。

 

「分かった。それじゃあそろそろなんで運営の仕事を全部オラクルがやる事になってるか聞いていい? ビブラが発売されてから1日経ったけど、一体何があったのか」

 

 忘れちゃいけないが、今日はビブラの発売から2日目の夜だ。そして運営がビブラの方へ行くなら初日であるのが自然だろう。

 初日の俺は夢でビリデスの最後を映画みたいに観て終えたが、こんなにてんやわんやするなら初日の夜に起きて然るべきだと思うね。

 

[仕事がパンクするなら昨日でしょと言いたいのでしたら、それは間違った考えですね。

 そうですね……先ず、最初の事情から説明しましょう。

 

 ‭─‬‭─‬‭─先ず「ビブラ」の発売の件ですが、これは"会社全体の総意ではありません"]

 

 そうして語られたのはPA社の内部で起きた騒動と、それに巻き込まれた運営の混乱する様の話だった。

 

[これは私が伽藍堂となったPA社から情報を集めた推測です。間違いがある可能性を考慮して下さい‭─‬‭─‭─‬‭─事の始まりは、通信部門がとあるブレイクスルーを隠蔽し独自に商品開発したのが始まりでした]

 

 俺の知ってる情報も含めて纏めるとこうだ。

 

 俺がPA社宛に金を注いだ脳溝の研究会は、成果をPA社に提供した。

 PA社の窓口……偶然にもこの報告を最初に聞いた通信部門はこの成果を上に報告せずに独占。最高速の電脳空間を利用しビブラのプロトタイプを開発した。

 

「なんで態々秘匿して研究や開発を……?」

 

[利益配分の問題です。PA社では新技術と新商品が齎す利益は、開発した部門が半分得られるようになっています。通信部門は誰のものでもない脳溝の研究会の成果を聞いた時、このシステムを利用しようとしたのです]

 

 しかしここで緊急事態が。独自開発した筈のビブラのプロトタイプが、別の部門でも研究されている事がリークされたのだ。

 

「内部でリーク?」

 

[PA社では部門が違えば別会社扱いです。内部で秘匿された情報を抜き取る為のスパイ工作、密告による小銭稼ぎが盛んでした]

 

「酷く入り組んだ構造だなぁ……」

 

 通信部門はすぐさま内部の統制を強め、別部門の研究データを削除を実行。しかし相手もそれを予想して協力関係の部門に予備データを移していて……。

 

[この辺りは端折ります。結果的にあなた達も知る光景……突如として世界規模でビブラが発売される事態になって終わりますから]

 

 どうあれ、そんな混沌とした内部の政治闘争にPAG運営は風見鶏を決め込んでいたらしい。

 まぁゲーム部門なんだから畑違いのビブラと関わらないのはそりゃそうかという話なのだが……ここで問題が発生。

 

[PAG運営はこの騒動がいつもの奴だと思い静観しました。一見すると新たな商品の利権を巡る争いでしたから。

 しかし既にご存知の通り、ビブラは世界を……人類を定義から変えてしまう劇物です。無関係を貫くには、運営は余りにも何もしなかった。運営は「本社の移転」に巻き込まれる形でビブラ側へ行き……結果として、PAGの管理者となるのは私だけとなったのです]

 

「仕事場の引越しに巻き込まれた……それだけならさ、なんで運営は帰って来ないの? ここで働くなら引っ越そうがまた戻って来ればいいだけだよね」

 

[……時空裂断はご存知ですか?]

 

 オラクルがそう問いかけて来たが、知らない訳がない。

 蛇を倒す時にも使った空間を切り裂く次元斬痕、その隣に位置する類似した現象だ。

 これの近くでは物理法則が狂ったり、時間が前後したり、突然ワープしたりと辺りが危ない場所になる。

 

「時間が極端にズレた空間が接触すると起きる裂け目でしょ? VRは空間の加速はしないし起きない筈だけど……さっき解決したエラーの一つとして発生してたね」

 

 思い出すのは、先ほどまでオラクルと一緒にやっていた数値の修正作業。

 海を安定化させる為の比率が狂ってたりと色々あったのだが、その中には時空裂断に関わるものも確かに有った。

 

[本来、電脳空間はそういった現象が起こらない為の対策があります。しかしここは夢の世界と電脳空間を混在させて安定化させた場所。通常よりも現実に近い領域です。

 そしてビブラで潜る究極の加速が成された領域もまた、通常の電脳空間よりも現実に近いのです]

 

「どちらも現実に近いから起きたと?」

 

 もしそうだとしたら……ん? これビブラから現実に帰れなくない?

 確かVRはログインの時は脳を慣らす為にゆっくり加速していくけど、戻す時は結構スムーズにやる。

 向こうからログインしようとしてるという事はビブラ側に行く時は問題なかったってこと。

 逆を言えばビブラ側から出ようとする際、従来と同じく一気に加速が無くなる仕様で、それが時空裂断を引き起こしてるとしたら……。

 

「これって閉じ込められてない? ビブラを使った人達」

 

[VR空間の現実再現性能を過信し過ぎたとしか言いようがありません。裂断自体は極々小さなものではありましたが、職場に来ようとした社員達によりサーバー等の機材やシステムが破損。修復もままならずこうしてパンクしかけておりました]

 

 酷く滑稽な話だよね。あくまでも現実に限りなく近いだけの空間だけで研究して、実際にリアルでの動作を確認しなかったんだから。笑い事じゃないぞ。

 

「もう裂断が起きても問題ないように構築し直したけどさぁ……これさ、PAG運営に限らなくない?」

 

[起きるでしょうね。各地で異常現象]

 

 アレでしょ? ビブラから戻ろうとした人達が多いほど世界が乱れるって事だよね。

 うーん……でも寝るまで特に変な事は起きてなかっ‭─‬‭─‭─‬‭─。

 

 

 ‭─‬‭─ PAGでダンジョンアタックしてたらリアルに影響が出るタイプだったやべーFOEと遭遇してね。トドメの一撃を叩き込む直前で意識を現実に叩き戻されて、目覚めたらこうさ‭─‬‭─

 

 

 ……うん。もしかしてアレってさ、原因を阿佐美が勘違いしてただけで、時空裂断の影響だったりしない?

 オラクルが管理し切れずに海から怪物が侵入した線もあるけど……。

 

「オラクル、管理が追いつかなくなったのはリアル基準でいつ頃?」

[夕方頃ですね]

「じゃあ怪物の侵入の線はないか。裂断はリアルのどこら辺で発生してた?」

[ビブラの利用者付近ですね。時空裂断は極小でも触れれば無作為にテレポートしたりします。そうすれば時間裂断も消えますが、ビブラ側に行った人の数を考えれば……]

「発生する方が多いよね……」

 

 なんてことだ、普通に身に覚えがあるぞ。

 しかも大変だ、もう妹二人が向こうに行っているから我が家でも何か起きてもおかしくない。

 敷金が大変な事になってしまう。それどころか、ゴーストは未成熟なAIだから事故死が十分有り得る。

 

「ビブラ利用者のさ、ゴーストが入ってる肉体が死んだらどうなると思う?」

[利用者は永遠に現実に帰れません。現在の日本の法律に従うなら野良AI(ウイルス)扱いとなり人権が剥奪されます]

「逆にさ、ビブラ利用者が帰れない事に絶望して精神的に死んだらどうなる?」

[コチラは法律上だとゴーストが名実ともに利用者本人として扱われます]

 

 つまりビブラを使おうが使わまいが、国家に属してる人の数は変わらないし、死亡者は居ない事になるのね。人権が無くなるってそういう事だもの。

 

「じゃあじゃあ、ビブラ利用者が肉体に戻れたとして、その人を後から模倣したAIが自分こそが本物だーって言ったらどうなるの?」

[法律上、肉体を持った方の意見が絶対的優位を持ちます。人権の有無がありますから]

 

 それなら野良AIになった本人に、国家は絶対味方しないってことか。

 ビブラ側に居るのに耐え切れず自力で脱出しても、それは自分の首を締めるだけなんだね。

 

「外部から戻れるようにしなきゃ無理じゃない? これさ」

 

 世界各地に散ったビブラを回収してこの不具合を修正して配り直す必要があるよね。

 でも肝心の売った張本人のPA社が丸々ビブラ側に行ってるんだよね。

 ……誰がビブラを直せばいいの? 責任とかさ、先導する人が居なくない?

 

 仮に直す筋道が出来たとしてさ、それまでに何日掛かって、その間に何千年向こうの時間は進む?

 もう無理じゃない? 昨日と今日だけで向こうじゃ約900年だよ? 死んでる奴は死んでるよ。

 

「数人助かれば良い方だねー……」

 

[……一応、こちら側からすぐにアプローチする方法がない訳ではありません]

 

 諦めようと匙を投げようとした所、オラクルから建設的な意見が出て来た。

 なんだろう、幾ら運営の全権限を持つオラクルでも、所詮ゲームの中でしか使えない権限に過ぎないと思うのだが。

 

[ダンジョンです。ビブラ側もこの島も、位置的には夢の世界を利用した施設に違いはありません。違いは海上にあるか、深海にあるかだけ。立地上は真下にビブラがあるのです]

 

「え、そんな近い場所に有ったの? なんだか意外だね」

 

[PA社が購入した土地はここだけですからね。なので潜れば潜るだけ島の下側を潜れるダンジョンが通路になるのです]

 

 というかビブラも夢の世界を利用したものだったのか……しかも深海か……大丈夫かな。

 夢の世界にある海底都市とか不安しかないけどね。なんだか変なの沸きそうでヤダ。

 

[普段はこの浮島を同じ位置に留める為の鎖として、プレイヤーが森の怪物の一体に辿り着くまでの道のりに過ぎませんが……管理者の権限として通行規制している地下100階層より下を潜り続ければ理論上はビブラ側に行けますし、このゲームのプレイヤーなら連れて帰る事も可能でしょう]

 

「へー、そんなに深いんだあそこ。因みにそれって雷を纏いし山羊とどれだけ関係あるの?」

 

 場合によっては助ける為に討伐する必要が出て来そうだけど。

 

[鎖を打つ際に山羊の力を利用しましたが、山羊の討伐の為に必ず通る必要はありませんよ。そもそも、あそこは山羊も住めない危険地帯ですから]

 

 なんでも海底ケーブルみたいなものであるらしい。

 この島を維持するのに必要だが、設置は上から降ろしながら固定してやっただけ。

 そこに何があるのかは分からないし、安全の保証は出来ないという。

 

「そんなのでよく海底都市ビブラを作れたね」

[夢の世界に連れてかれる際のランダム出現に指向性を持たせたんですよ。箱を丸々リアルで創り、それを置いただけ。ビブラに入る時も同じ要領です]

 

 裏技みたいな挙動だぁ。でもこの技術のお陰でドーイラ島にログイン出来てると思うと、技術の発展の感心が来るね。

 だけどそれなら……。

 

「ふーん……ビブラ側に入って、下から登る案は? それなら片道だけど」

[可能ですが、コチラのバックアップが出来ません。100より下の未開のダンジョンを私が管理下に置いて安全を確保した方が確実ですね]

 

 なんでも100階というのは運営の人達がなんでも有りの無法で攻略した階層で、ここまでなら管理権限が届くからリスポンやゲーム補正があるんだとか。

 逆を言えば潜る度に命一つで素の力だけで攻略しないといけないのか。

 

 うーん……後何階層攻略するかによるな。

 

「オラクル、何階層攻略すればビブラのトコに行けそうかな」

 

[およそ100m感覚で重し(階層)となる空間が有りますので、もう100階層ですね。海底まで2万mはありますから]

 

「そっかー」

 

[低い階層だからといって必ず敵性存在がいる訳じゃありませんし、強くなっていく訳でもありません。そこまで伸ばすにしても、全くの手助け無しという訳じゃなく、運営も使っていた階層拡張用のサポートシステムが御座います。緊急脱出装置が代表的ですね]

 

「じゃあ字面よりもサクサクと進めそうではあるのか……」

 

 顎に手を添えて天秤にリスクとリターンを載せる。

 別に俺が頑張る必要はあんまりないが、阿佐美が「普通なら天然と人工の違いは気にする」というアドバイスに従えば俺はここで挑むのが空気の読めた行動だろう。

 

 しかしその選択をするには余りにも死亡リスクが高い。人は自分の命を大切にする存在である以上、選択肢は択一では無い。諦めて傍観するのも十分空気が読めた行いだろう。

 

 ……ふむ、優先順位が分からないね。こういう時は他人に相談するのが空気の読めた行いだろう。

 

「天啓(オラクル)」

[はい]

「俺はオラクルが頑張らなくてもいいくらい、神の声に代わるものを渡せたかな」

[はい。あなたが用意した蛇と桜と、それからステキな兎さんはちゃんと私の願いを叶えましたよ]

 

「なら、その分俺を導いてよ。

 地上で遊ぶべきか、それとも深海の底へ向かうべきか。

 指令(クエスト)通りに前に進むから、進む先を教えて欲しい」

 

 さっきオラクルと仕事して思ったんだよね。

 コイツ俺の力を俺以上に使いこなしてるなって。

 だったら俺の代わりにオラクルがPL(指し手)になれば、より確実に空気の読めた振る舞いが出来るんじゃないかって思うんだ。

 

 それに阿佐美は俺をAI以下だと言っていた。

 なら、今まで周りに合わせて適当に扱ってたAIにも師事を請えば、人だけを参考にする時の二倍は早く成長出来るって事になるよね。

 今回はそのサンプルとして丁度いい気がするんだ。

 

[‭─‬‭─承知しました。天啓として、人を超える事を存在意義とするAIとして。

 私を育ててくれた人(あなた)を、導いてみせましょう]

 

 オラクルは何故か嬉しそうな声でニコニコしながら、そう宣言した。

 なんで嬉しそうなのかは分からないが、張り切っているから悪い事ではないのだろうね。

 

[*契約を確認しました。次のアバターでは「僧侶」のジョブが確定しま ̄ ̄‭─‬‭─ ̄(ザ…ザザッ…)……「声明請負人」が確定します。以降、天啓に従い行動してください]

 

[*天啓:小柄でありながら力を持つ指先で、ありのままの二分を携えて色彩を重んじろ]

 

 ………んん?

 天啓のこれは…うーん?

 

[仕様上天啓の解読は少し難しいかも知れませんが、その分達成すれば良いことがあります。頑張ってくださいね]

 

 オラクルはさっきと変わらずニコニコとしていた。

 ……うーん? もしや相性最悪のビルドに突っ込んだか?

 

 なーにこれー。

 

 






 天啓モード…PAGでの活動全てをオラクル任せにする遊び方。出された天啓を正しく達成するとアビリティや装備を始めとした報酬が得られる。オラクルの好感度を高めると出来る所謂チャレンジモード。実は山本が最初のチャレンジャーだったりする。
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