前回のあらすじ
オラクル「ビブラを使うと帰れないよ? だけどダンジョンを進めていけば直ぐにビブラの人達を助けに行けるよ!」
そこで山本はオラクル任せにダンジョンを攻略してみる事にした。
果たしてこれが吉と出るか凶と出るか──。
[*天啓:小柄でありながら力を持つ指先で、ありのままの二分を携えて色彩を重んじろ]
オラクルの言う通り動いてみることにしたが、肝心の指令が難解だった。
しかし解読をしない事には進まないので、ひとまずやってみようね。
うーん……ここで出来る事はアバター制作だからそれ関連でしょ? だとすると種族とジョブの事を言ってると思うんだよね。
なら小柄で力を持つのはドワーフ、色彩は……絵師か? 確か有った筈……ありのままの二分は分からない。
強いて言うなら現実から持ち込めるものといったら見た目以外ないから、出来るだけこの姿を維持しろってことじゃないかな。
と、そこまで推理したのでその通りに動いてからオラクルの様子をみる。
[さすがです!]
この反応は合ってる奴だろう。
[*天啓遂行──B
報酬:身体+1 ]
確定を押すと初期ステータスの生命力が1増えていた。
どうやらこれが報酬であるらしい。しかしBか……これ、A評価取れた時がしっかり空気を読めたって事になるよね。そういう意味では空気を読む力を鍛えたい俺向けのシステムかも知れないな。
[もう遊べる時間も少ないですし、先ずは慣れる為にも3日間街の中で過ごしてみてください!]
オラクルはそんな俺を知ってか知らずか、テンションが高くて結構といった感じだね。
なんだか大変そうな事になってしまった。果たしてこの先俺は生き残れるのか……南の街ポップした俺が実際にやってみた。
ケース1
[*天啓:三叉の影が宿す赤色を取り出せ]
[*天啓遂行──D
報酬:破けたズボン]
俺は三叉が単に先が3つに別れた物であると判断し、教会にある十字架のシンボルの影辺りを掘って赤土を取ったのだが……なんか違ったらしい。
しかし地面を掘って汚れたズボンを変えるには丁度良い報酬ではあったね。
ケース2
[*天啓:掴み取れる星を食え]
[*天啓遂行──B
報酬:アビリティ「鉱石鱗Lv.1」]
これはそこら辺の洞窟を掘って手に入れた低級宝石鉱をそれっぽく加工して食べた。
今の俺はドワーフだからね。石も食えるだろうとやったのが良い線を行っていたらしい。
お陰で宝石のような輝きの硬い鱗を手に入れて防御力はかなり改善された。
ケース3
[*天啓:セピアよりも暖かな色合いに緑の指輪を絵にしろ]
[*天啓遂行──A
報酬:アビリティ「魔術-《
精神+2]
これはかなり空気が読めていたらしい。「夕方頃に緑色の指輪を絵の具にした絵を描け」と解釈したのだが……うん、案外Aを取るのは簡単なのかも?
夕方頃に露天に売っていた緑色の鉱石で作られた無骨な指輪を食べ、新たに生えた鱗を粉にして絵の具に加工。それで絵を描いたのが……これ本当に空気読みの鍛錬になるのかな。
今回は工夫を行くとこまで行こうのメンタルでやってみたが、これが空気の読めた行動と言うには、これまで蓄えた知識と噛み合ってない気がするね。
なんだか別枠な気がするのだ。
ケース4
[*天啓:初性を刻々と変える泉に落ちた者の眷属達を出来るだけ殺せ。期限は3時間]
「そして天啓はゲーム時間で1日1〜2つで、期限があるパターンもあると……コレはアレかな、魔物って事でいいよね? ゲームで簡単に殺せるものと言ったらそれだし」
新たにピピピと鳴りながら表示されたウィンドウを眺め考察する。
ゲームとしては脳内当てとか不評の元でしかないが、オマケのチャレンジみたいな物ならコレでも良いのだろう。
指輪の絵の具で絵を描く為に来ていた山岳地帯の岩壁から離れ、新たに覚えた魔術で武器を創り出す。
《
「うしッ──全員ぶっとばーす!」
そして俺はキッカリ3時間……ログアウトする時間になるまで魔物を殺しまわり、絵師をLv.5、声明請負人をLv.3にしたのだった。
[*天啓遂行──C
報酬:2000G]
[天啓遂行評価…オラクルがチャレンジ中の様子を見て出しているもの。誰が相手でも忖度なしで評価される。
A(思ったより良いね!)
B(大体正解です)
C(もう一声欲しいなー)
D(そうじゃねぇよカス)
E(なにしてんのー!?)
という評価段階で構成されている。普通にやっていればDとEが出る事はない]
「やっほ☆」
「天井だね」
PAGの正規版サービスから7日目のプレイも終わり、目覚めると見知った顔が有った。
有名配信者こと阿佐美・ミコである。まさかの2日連続かぁ。あれかな、ランダムテレポートと思わせて接続先は決まってる感じなのかね?
前回同様二人で協力してVRベッドから脱出する。見た目相応の演技は……自分の部屋でリラックスする方が空気読めてそうだからやらなくていいか。
「おいおい、世の中の夢小説で朝起きたら僕が隣で寝ていたってシチュから始まる作品が五万とある世の中でその反応はなんだい? それが2日連続ともなると数々の妄想を連ねた夢を超えるシチュだぜ? 凡人なら二度とない体験に咽び泣くだろうな」
「二度同じ事が起きた現状でそれ言う?」
「まぁいいじゃねーか。僕もあのエネミーに殴られたのが原因じゃない事実にビビってるんだ。ここはお手柔らかに原因を一緒に調べてくれたら僕が咽び泣いたっていいぜ」
「ああ、それに関してだけど…──」
丁度いいので俺はそのままオラクルから聞いた話を共有した。
今回の原因はビブラにあること、解決には大企業や国家の協力が必要になるだろうってこと、PAGのダンジョンを開拓するプランBがあること。
俺が抱えるよりは阿佐美が持ってた方がいいだろうという考えにより、コレらの情報は共有された。
「……なるほどな。別にお国は隠してるわけじゃねーから言うが、既にこの国と割りかし無事な企業はビブラに逃げた連中を連れ戻すべきだって考えてるぜ。まぁ、今は抜けた人員の対策やらでそこまで手が回ってねーが」
「PA社は全員向こうに行ったけど、他の大企業もそうなの?」
「実質三ヶ月働いたのに給料は1日分なんだぜ? そりゃあイヤになって逃げる連中か後を絶たないさ。今残ってるのは僕の配信をモチベにしてる凡人か、よっぽど酔狂な思考回路してる超人狂人変人ばかりだろうさ」
つまりは深刻な人手不足であるらしい。どこも大変だね。
しかも向こうから帰れないことが知られてないから、今もどんどん人が向こうに行っているんだとか。
「僕の予想よりかは抗ってるみたいだが、既にビブラの利用者は世界で49.8%を超えたらしい。これは昨夜の情報だから、今頃半数は超えてるな。
だが「帰れない」って事実を発信すれば歯止めが掛かる。それもPA社唯一残ったAIのリークなら信ぴょう性も……イイノリ、ナイスだ。今から緊急でカメラ回すから撮影許可をくれ」
どうやらいい事を教えられたらしい。阿佐美はちょっとだけ機嫌を良さそうにしてポケットからスマホを取り出した。お金は……ああ、電子決済ね。
「別に隠したいものとかないから別にいいよ」
「サンキュー。生憎現金は持ち合わせてねーから、後で頬にキスするくらいの事をしてやるよ」
「じゃあ朝食作るの手伝って。この身長だと地味に不便だからさ」
「お安いご用意だな。お釣り代わりのオマケでビブラのトコまで潜る時は最後まで着いてってやるよ」
そう言ってカッコつけた阿佐美だが、片目でウィンクしようとして失敗してただのほほえみになっていた。
オマケと言うにはかなりの大金だね。でも阿佐美ってそんな簡単に命掛けていい立場じゃなくない?
「いいの? マジの命掛けだけど」
「わっはっは。こんなトコで
「自信無さそうだね」
「言うなって。現実と比べてあっちじゃナーフがキツいんだよ。折角のユニークも他のプレイヤーと関われるようにするのに使っちまったしな」
ということでダンジョンアタックの仲間に阿佐美が加わった。
強いかは兎も角、彼女と一緒にやったことは世界中に共有されそうだね。
……そういえば俺ユニーク決めてないな。次にログインしたら決めておくか。
「ああそうだ。阿佐美は今日は家に帰る? 連続でここにトんできた辺り規則性がありそうな気配はするけど」
「あー……VRって二人で一つのやつを共有出来るか?」
「安全の為の制限はあるけど、解除すれば行けるね。大体50%で一つのアバターを共有する事になったり、ログアウトする時に身体が交換しちゃうってさ」
VRの共同利用については説明書にそう書いてあったが……これって阿佐美が俺のVRベッドにテレポートした時の処理はどうなってるんだろう。ログアウトするタイミング次第なのかね。
「それはそれで面白れー事になりそーだが……今日は大人しく帰る……やあでも片道4時間はなぁ……恨むぜ空間拡張技術…」
「第一壁近くへのテレポは高いもんねぇ。行くだけなら身分証と事前申告さえあればいいんだけど」
阿佐美が恨めし気にぼやくが、コレばっかりは国防の安全に関わるから仕方ない。
国家の中枢に近付く程テレポートの利用料は高くなるし、あちこちの空間が大企業を始めとした色んな人の手によって弄られてるからね。見た目以上にあの辺りの距離は長いのだ。
これはもつ空間を拡げる程いざミサイルやら核やらが落ちるまでの時間は伸びるし、落ちても拡張を解除すれば被害箇所も小さくなるし、普段から利用出来る土地も増えるから仕方だろう。
引き伸ばされたゴムに色を塗っても、縮めれば塗られた場所も小さくなるようなものだからね。
そんなこんなで話してると阿佐美も動画を撮る準備を終えたみたいで……。
「それじゃあ火傷したくなかったら離れてな──衝撃の情報公開まで残り4・3──」
俺は邪魔しては悪いと阿佐美を放置して歯を磨きに行った。
[*因果変動を確認しました。世界にビブラの不具合とそれに伴う極小の時空裂断によるランダムテレポート、通称「ビットフォール」に関連する情報が認知されました]
[*それに伴い現実の残存人類数を最低30%保証、現在のビブラ側への流入速度が99.998%減少]
[*偉人「阿佐美・ミコ(人類団結力+48.7%/90%、リスク:魔性(極大))」の活躍により流入が完全停止します]
[*現状の人類よるビブラの改善完了までの必要日数:17日]
[*海底地下神殿都市「ビブラ」に向けてのPAGダンジョン開拓プロジェクトを立案中です……]
これは阿佐美と朝に別れ、学校に寄ったお昼の事である。
別に日曜なので授業も部活の練習もないのだが、それはそれとしてグラウンドがある学校という場所は運動するのに丁度いい。
「ビブラの人員整理の時は成人と言い張って押し通せたけど、やっぱりどう見ても子供の姿なままなのはマズいよね」
元々は16歳の体を折りたたんで作った身体なのだが、適応だか進化だかのせいで完全に8歳の子供になってしまったからね。先に身体を作り直した方がいいだろうと、こうして思いっきり動き回れる場所に来た訳だ。
「と言っても自力で大きくなる方法はないんだけどねー。代わりにこんな物を持って来ました」
世の中は便利な技術がいっぱいだ。中にはリスクさえ承知ならすぐに老けられるものもある。
なのでご用意しました。すぐに大人になりたーい! そんな人にオススメなのがコチラ!
「
紹介しよう、学校に来る前に裏社会の治験バイトを受けて手に入れてきた「時間を貯める装置」だ。一面の黒を金の縁で囲っている長方形だね。こんな物がそこらの個人研究所にあるなんて俺も知らなかったが、偶然募集の張り紙を見つけたのだから仕方ない。
なんでもどっかの大企業から盗んできた設計図から創り出した試作品らしい。奇遇にも俺が現実でもビリデスの身体になってる時に受けたバイトで盗んだものと同じ技術だ。偶然ってすごいね、俺も実物を見た時はびっくりしちゃった。その後研究者に聞いて偶然だと知ったけどね。
「曰く須くが所有する今の形で居られる力……所謂「耐久値」みたいなものを抜き取って貯めるみたいだけど……取れば取るほど老化するのは事実だし同じだよね?」
正確には分子の接合や動作限界数に関連するものらしいが、俺はそこまで詳しくないので省くとする。結局使いたい感じに使えればそれでいいのだ。研究室曰く同じ物に対してなら戻せるみたいだしね。
「取り敢えず元の年齢になれる8年にセットして……ビデオカメラも用意してもと」
ピッ。
時間を吸われるという感覚はとても速い乗り物に乗っている感じがした。
重力が強くなり身体のあちこちからメキメキと悲鳴が上がって、まるで風景は変わってないのに途方もない時間が過ぎている感覚。
同じ部屋に数年間閉じ込められた感覚だろうか。脳や身体が時間経過で衰えていくのが肌で分かった。
「は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜し〜〜〜……」
事実、「走る」というだけでもすごく時間が掛かった気がする。
言葉が引き延ばされているというより、俺の認知が世界と比べて早くなっていた。
すごいぞまるで悪夢だ。この状態で筋トレしたらメチャクチャ強くなれそうと思って学校に来たけど、とてもそんな事言ってられる場合じゃない。
カチ。
「〜〜〜〜〜──…る!
……あれ、終わった?」
気付けば身体は16頃の女子のそれに変わっていた。箱を見れば「8年7ヶ月20日6時間34分11秒」になっている。
立ち位置を見れば箱を起動した場所よりも50mくらい離れていて、校庭にびっしりとさっきまで無かった足跡や破壊跡が大量にあった。
「……本当に出来たね。よし、実験成功だって連絡しに行くか」
なんかの漫画で見たシチュなんだけど、時間を飛ばされた人はこんな気持ちなのかも知れない。
最初と最後しか覚えられず、その間に自分が何をしていたか全く身に覚えがない。
記憶が欠落した訳じゃなくて、その間の全ての行いが0秒で終わる事にされたって感じだ。モーション時間0秒な……そんな一瞬だった。
「……よ、ほ、は! おお、基礎体力が前より高くなってる」
食事や排便といったエネルギーの消耗とかどうなってるか定かではないが、こうして俺は560万(2年払い)のバイト代と16歳の体を手に入れた。つまりバイトが出来る年齢になったのだ。無敵だね。
「はい、こちらが報告機材と私の青春時代を詰めた箱です。実験成功ですね」
「おお…! コレを求めていたんだ! ありがとう、成功モデルさえあれば次の段階に行けるからな!」
「年齢は帰って来ますか?」
「……5年…いや、1年分使わせて貰ってもいいかね」
「大目に見て最低年収分の360万以上は寄越せ」
「24分割ローン……!」
「よろしい」
箱は報告した時に返還を求められたのでそのまま返した。研究が終われば大半の年月は返すらしい。
明日になればこの箱は丸ごとくれるそうなので、気が向いた時に使うことにしよう。取り敢えず今は今月分として手に入れた15×
「ふぅ…ようやくまとまったお金だ。取り敢えず服と俺の分のビブラと……」
おかげで新たなスマホの確保と女子用のちゃんとした服を買えるし、購入規制される前にビブラを買う事も出来た。
ビブラは自室に置くとテレポ罠のバラマキ起点にされそうだし、家の窓から出た草原に置いておこう。ついでに妹達の分も纏めて置いておくか。
しかし向こうからログアウトを試みないとテレポ罠は撒かれないんだよね。
だとするとテレポが一向に起きない我が家は……妹達が向こうで楽しそうにしていて喜ばしい限りだ。既にあっち側の視点で千年は経っていることを考えると、案外助けが本当に必要になるまでの猶予は長いのかも知れない。
「ともあれ……1日で終わってくれる事を祈っておくか」
演劇部の部員達や師匠にテレポ罠の注意喚起を連絡先の再登録も兼ねて送りつつ、俺はVRベッドに横になって眠りにつくのだった。
それじゃあお………やすやぁ…………。
→【Access...OK.good game night】
[阿佐美・ミコの配信中の発言によりダンジョンにプレイヤーが集中しています。夢共鳴による接触難易度を上昇させ密度を基準値にまで低下させます]
夢共鳴…他のプレイヤーと接触する為の要素。読んで字の如く夢の一致率であり、どれだけ波長が合うかで人との会いやすさが変わる。ラジオの周波数が合えば音声が聞こえるようなもの。人工的に合わせる事も出来、いずれプレイヤー側から調整可能にする予定だった。