前回のあらすじ
ミコ「調べたらビブラやばかったし、ダンジョンに緊急避難通路作りにいくからそこんところヨロシク」
◇世間、大騒ぎ──!
「うっっわ人混みすごい」
ログインすると一面がこれまでの比じゃない人の数だった。どのくらいかと言えば、満員電車が例えに浮かぶくらいだね。
いったい何処にこれだけの人が隠れていたのかという程で、俺は歩きずらい環境の中でのそのそと人々の足元を抜けて屋根の上に避難した。屋根も人が多いけど下よりはマシだったからね。
「ふぅ……どうやら起きてる間はレベル上げに勤しんでたみたいだね。レベルが10/8になってる」
合計18のメイン生産サブ趣味ジョブ。うーん…プレイング次第でキーラ大森林を渡れるくらいは出来るだろうか。錬金術師の時は集団でも大分怪しかったが…阿佐美のレベルとプレイング次第だね。
自分で遊んでる感がなくてつまらなくさせてない?と思った不在時簡単AIの自動行動だが、こういう時は手早く強くなれて便利だ。正直ありがたい。
「それにしたって沢山居るけど……阿佐美の配信効果かな」
「ミコミコ様に逢えるかな?」
「分かんない。でも一目でもいいから見たいよね! 何処に居るんだろう?」
耳を傾けてみれば凡そ合っていた。どうやら配信で潜ると言っていたらしい。全員阿佐美に対する熱意がスゴいが……態々ビブラで騒がしい時にPAGにログインするような人達だ。スマホのネットニュースでPA社の製品の廃棄運動が民間に広がっていると報道される中でのログインである。
そんな状況でもここに来てるんだから、全員が狂ってる程の熱意があるのも当たり前だった。
ピピピ
「今日の天啓だ」
[*天啓:最も愛される存在と遭遇しろ。期限は1時間]
「阿佐……ミコミコの事だこれ」
阿佐美の名前を言おうとして、そういえば個人情報かと思い直す。こんなにファンが居る中で下手な事を漏らすのは常識に反した行いだからね。注意しないと。
しかしどうしたものか。阿佐美と落ち合う約束はしているが、こうも人垣があってはそれも難しい。それなら周りに合わせた方がマシというものだろう。
「──…っかし、山本は何処をほっつき歩いとるんかのう」
「……ん?」
最悪無視してダンジョンに潜るかと考えていた頃、なにやら聞き覚えのある声と口調と自分の名前が下から聞こえた。
屋根から乗り出して確認してみても姿は見えない。なのでそのまま声のした方に飛び出し、人混みの隙間にすっぽりと潜る。武器も持たない軽装なのが幸いしたね。
そして無事に着地して顔を上げてみれば、そこには髪色を銀色に変えただけの師匠がいた。
「うわ、危ないなぁお主。半歩下がらなかったら衝突しとったぞ」
「奇遇ですね師匠、私です。演劇部の山本です」
「山……見た目違いすぎじゃろ。あの獣の姿とも似つかんし……」
「あれからキャラロスしたんですよ。なのでこれは新しいアバターです」
「そりゃまた運のない……見た目はなんだ? 趣味か」
「まさか。これでも殆ど現実と同じものですけど……細かい話は後で。こうも混み合っては落ち着けないでしょう」
この混み具合で立ち話はアレだと適当な脇道に開かれた店に避難する。受付嬢としてこの街で過ごしていた土地勘のお陰でかなりスムーズな入店だった。
カランカランと鳴らして入店すれば、やはりここにも人は居たものの、席は幾つか空いてる程度には余裕がある。
二人揃ってカウンター席に座って適当な飲み物を頼み、そこで漸く俺達はお互いの事情を話し合った。
「──…なるほど。ややこしい目に合っているようじゃな」
「そういう訳です。それで、師匠の方はどうしてこのゲームを? ビブラの影響でPA社の製品の不使用運動が起きたりもしてますし、師匠がやってなくても全然あり得ると思ってたんですけど」
師匠は明確な将来の目標があり、その為に日々頑張っているお人だ。
基本的に俺との付き合いはついでのことであり、こんな状況でログインしてやるほどの義理がある訳でもない。
安全策を取って使わない方が良いまであるのに……正直何故ここにいるのか俺には分からなかった。
「おかしな事を。約束したじゃろ、このゲームで一緒に遊ぶなり、授業を付けるなりしてやると。儂は約束には律儀な方じゃ。ならば、どうして我が身可愛さに仮にも己の弟子を名乗る奴を放っておけよう」
「師匠…! ありがとうございます! 恩に着ます!」
返ってきたのは優しさに溢れた言葉だった。
まさかそれらしい役を被る為に呼称していた師匠呼びがこう繋がるとは思わなかったが、それなら頼みたい事が丁度有ったのだ。
僅かに身体を師匠の方へ前のめりにする。
「それなら師匠、ダンジョンアタックのパーティになってくれませんか? そこで死ぬと現実の命が途切れるかもですが……実は私、ミコミコさんと潜る約束をしてるんです。そこに師匠が居たら心強いのですが……どうでしょうか?」
「こそばゆ……はあ!? ミコちゃんと!?」
「師匠声! 声を抑えて!」
慌てて師匠の口を押さえつけ、コチラを見た周りに愛想笑いを振り撒いて着席する。
こうも熱意のある人に溢れた場所で迂闊に零していい話題ではないのだと、俺はジト目の表情を作って向けた。お店のお方、急に騒いでごめんなさいね。
師匠が目線を逸らして短くすまんと言って、話が再開する。
「失礼したな。そういう事ならばコチラから頼ませて貰おう。例の御仁の護衛となると、どんな環境であれ、それだけでかなりの箔になるもの。信用第一の業界に足を踏み入れる際の錦になろうよ。是非やらせてくれ」
「ありがとうございます! 一緒に頑張りましょうね!」
なんだか意外な所で師匠の役に立ったらしい。
阿佐美が有名らしいのはここ最近の流れで分かってきていたが……まさかそこまでのものとはね。
これなら師匠の時間を取って修行を付けてもらった分のお礼も返せただろう。喜ばしい限りである。
「しかし、件の御仁はどこに? 具体的に何処で落ち合うか話したのか?」
「いや、そういうのは特に。ゲームの中で会うとだけ決めていただけで……」
「そうか……いや、これもまた試験か。ここで骨を折ってこそ、共に向かう資格を示せるといいものよな」
「そうだな。配信外で話さんとならんのにうっかり話し忘れた事も、そういう事にすりゃ僕のミスも誤魔化せるだろうよ」
バッと師匠が席を立つと同時に反射的に刀に手を携え。
かと思えばパッと解き、膝を着いて頭を下げた。ビックリして刃を手に取った謝罪だね。
俺もそれに倣って席を立つ。いつの間にか周囲に居た人々は忽然と消えていた。俺と師匠と阿佐美、3人とコマだけがこの世界にポツンと残ったみたいだった。
「やっほ☆ みんなでニコニコしたいミコミコちゃんだよ〜☆ 突然話しかけてごめんね〜?
今ダンジョンアタックを手伝ってくれる人を探しててー、お二人がとっても強そうだからー、仲間になって欲しいなって。どうですか〜?」
………? あ、リスナー向けの茶番か。珍しく空気を読めたねこれは。
「カメラに何処まで映っていいか言ってくれたら、配信再開出来るから助かるな〜☆
あ、人が消えたのは配信者が使えるプレイヤー権限だぜ。カメラに映りたくねー人の為の波長調整機能ってやつさ。
で、そこら辺どうですか〜? カメラ大丈夫? 顔出し声出しOKorNG? ニックネーム希望YorN?」
本来の性格と配信中の喋りが違い過ぎる気もするが、どうあれ阿佐美は俺達を見つける事が出来たらしい。天啓を貰ってから48分経過してるからこれでもかなりの発見速度だね。いつから探してたんだろ。
「フルオープン。挙句に反応出来なくなるノイズは要りませんね」
「儂は顔と名前を秘めよう。ただしモザイクは不要、狐のお面を持っておる。名前はアバターネーム同様「二満月」と」
そういえば言ってなかったが、今の俺のアバターネームは前回同様「バイアクヘー」である。
あの時と同じ見た目だからね。変える必要性が無かったのだ。
「オッケー! 今回のダンジョンアタックの仲間はこの二人で決まりだ☆ 二満月さんも顔を上げて楽しもうね!」
謝意を受け取ったと言外に言われたので師匠が立ち上がって自然体になる。
なってるが、狐のお面を被る前の顔はやたらニヤニヤと何かを堪えている顔をしていた。
ファンなのかな、阿佐美の。もしかして師匠って結構ミーハーだったり?
ピピピ
[*天啓遂行──A
報酬:アイテム「突き刺き切り裂く中筆」品質A+]
お、天啓も完了した。過程を考慮すると俺一人じゃ無茶な内容だったね。
報酬の筆は……ん? 剣サイズの筆? 筆先も鋭いし変わってるなぁ。硬さを自由に変えられてどうするのかね。絵のタッチを線の途中から変えられるのは使えそうかもだけど。
……っと、そんな事よりもだ。天啓よりも大事な話題があるね。
「ミコミコさん、私達は配信に合わせて何かした方がいいですか?」
「心配しなくて大丈夫☆ ビギナーにプロと同じ事をしろって言うつもりはないよ☆ 普段通り……配信の事は忘れて、ダンジョンアタックに集中してね? 私のこともミコだけでいいから☆」
「分かりました」
という事で相談もそこそこに、俺達は街を出て南のキーラ大森林を少し進んだ先にあるダンジョンの入り口に着いた。確か前に潜ったのはビリデスとして教師を集めていた時か。アレが初めてだったが、それでも潜ったのは前回で見ればそこまでのエリア。というより、説明無しで突撃したから知識として知っている訳ではないのだ。受付嬢の時は事務と受付しかやってないし何も学んでない。
となると……ここは一回どんなものか復習した方がいいだろう。パブリックイメージだけで挑むのは危険だからね。
「ところでミコさん、ダンジョンってどんな場所? 実は私、この真っ暗な所が入り口であり先に進む為の下り坂で、真っ白なのが出口であることしか知らないのですが」
「おっとっと? 動画末尾の1分間解説を本編に持ち込む時が来たね☆ でも百聞は一見にしかず! 潜りながら教えてしんぜましょう☆」
「有難いのう。儂もふんわり迷宮の概念像しか分からなんだ」
「この子ら、実はPAGのダンジョンビギナーか──☆」
阿佐美の言う通り初心者なのは事実だが、レベルだけ見れば阿佐美が1/1で1番低かったりする。
俺は10/8、師匠は20/10。単純な思考で見れば俺達の方が強く見えるだろう。ダンジョンの経験で見れば逆転するけどね。
「それじゃあリスナーの皆も一緒に復習だね☆
──前提として、ここは便宜上ダンジョンとは言われてるが、実態は人類史の傍らに有り続けた原風景の積み重ね。過去の人類が文字通り「夢に見た」空間の残骸……の
森の三怪の一筋を担う山羊、奴が人と出逢い積み重ねた成果と言い換えたっていいぜ。どっかの
阿佐美が言葉を一旦止めて、入り口となる黒塗りへと進む。
そこだけ風景を切り取ったみたいに真っ黒なのが本能的な恐怖を誘ってそうなものだが、阿佐美にはへっちゃらであるらしい。そのまま入ってしまった。
俺と師匠も釣られて阿佐美の後ろを着いてダンジョンに入る。
[迷宮1F
途端に僅かな浮遊感と共に風景が変わり、入り組んで歪に曲がった洞窟へと変化する。
左右にくねっている訳ではない。道が段々回転していって、重力もそれに従って歪んでいる洞窟だ。前回は飛んで進もうとして酷い目に合ったからよく覚えている。色合いも油面みたいな虹色が点在してるから、ずっとここで過ごしていると心がざわついてる。そんな一般的な悪夢であった。
「──あらゆる夢を切り取っては所狭しと貼り付け
潜った黒塗りの入り口は既に消えていて、俺達3人は妙に薄暗く、光も届かない洞窟にしては明る過ぎる場所に迷い込んだ。
師匠も剣を抜きいつでも殺しが出来るようにして、俺も《
「……ほう」
とはいえ……それが意味のある行為かは自信を持って肯定できなかったが。少なくとも、俺は前回一切戦わずに潜って帰還出来てるからね。師匠は構えた時点で何かに気付いたのか納刀したし、ここではあんまり武力は求められないのかも。
「行こうぜ二人とも。ここは模造品といえど「夢の世界」を「夢」たらしめた異空間。
誰もが
言うが否や、阿佐美は人差し指を銃口のように突き出した。
「バン」
直後──轟音と共に洞窟に真っ直ぐと貫かれた新たな道が出来た。
これは前回潜ってる俺も知らない現象だ。ダンジョンって潜り慣れるとこんな事も出来るの?
「ご覧の通り、迷宮はゲームの能力に隣立ってある程度想像通りになる性質がある。アビリティ曰く「
なるほど、夢の世界を夢の世界と呼ばれるようにした原因が元になった場所なだけはあるらしい。
ここでは俺達が何となく覚えている夢の世界の性質がある程度反映されているようだった。
うん、前回全く気付かなかったんだけど俺察し悪くない? 道理で前回遭遇した魔物達がヤケに強い訳だよ。
「ここ限定の特殊仕様、自分を曝け出して早々に使えるようにした方がいいぜ。お相手も同じものを使ってくるし…… そうしねーと、僕がずっと活躍する変わり映えのない画面になっちまうからな」
そう言うと、阿佐美は自分で作った道を先導し始めた。
どうやら俺達が今のを使えるようになるまで面倒を見てくれるらしい。面倒見がいいなぁと思うけど、どうも師匠は発破を掛けられたと考えたようで。
ギィィィン──…!
「やるぞバイアクヘー。護衛対象に護られる前に熟さねばならん
「それは別に良いんですけど、せめて切り掛かる前に一言言っておきましょうよ。ミコさんに着いて行きながら迷宮剣理の探究をするなんて忙しない事をするんですから」
「ハハハ──今から気を付けよう。殺す気で行くから殺しに来い!」
最短最速で学ぶなら敵が出るのを待つより身内同士で修行を付けた方が早い。
それから10分間俺は前を進む阿佐美に着いて行きながら、師匠の付け焼き刃の叩き台になるのだった。
阿佐美「道中を進む間に僕の
柳田「ならば儂も言っておこう」
山本「私はまだ決めてないので決めたら言いますね」
【
【
山本のユニークの新候補
【手中の神話】…一定時間「ビリデス」になれます。
【黄物語】…自分で描いた絵を具現化する。どうすれば絵が上手くなるかのアドバイスが見れる。