前回のあらすじ
オラクル(やめてやめてやめてまだ逃げる準備も出来てないのに身元保証先のPA社が潰れるような情報リークはやめて! お願い! 致命傷以上はなんとかさけてください!)
視聴者(要約)
(((お願いしますお願いします神様仏様どうかミコミコちゃんが死ぬ展開だけは勘弁してくださいどうかお願いしますあの子が死んだら生きていけないんです!!))))
(向こうに行ったリスナーを助ける為に命を賭けるなんて流石ミコミコちゃん! そこに痺れる憧れる──ゥ!!)
阿佐美(一部野蛮な連中が喜んでるが、大半は案の定危険な真似はやめろってコメントばかりで笑えるぜ。なのにアンチっぽい意見がないのが、まるでスパムやDDoSだ)
(爪が根本から剥がれて超イテ〜。けどコレで爪を剥がす拷問の描写とか身体から白いものが出てくる時にそれがなんなのか真に迫ったのを書けるようになったゼ〜。最っ高にクールな気分だな〜マジでよ〜)
特攻チームを見守る者達とさっかものは気が気じゃない状況だった。
「恋愛的な?」
「おう、恋煩い的な奴だ。ここ最近の鬱々とした空気を吹き飛ばす奴を頼むぜ」
「ただの高校生に出来ることじゃないですね」
「まーいーじゃねーか。僕は今恋バナしてー気分なんだ」
配信者らしいと言えばいいのかどうなのか。阿佐美は魔物がバッタバッタと薙ぎ倒されてる最中でも自分のやりたい事を優先したようだね。
俺がそれに対しどう答えるべきか分からないけど、答えない理由もないので正直に言う事にした。
「定めてないですね。人と関わるのは苦手な方なので、高度な人付き合いである恋愛とかは取り入れてないです」
「あーな……けど二満月から聞いた限り演劇部らしいじゃねーか。恋愛劇はしねー訳じゃねーだろ?」
「そこは自分が経験した事もない事をどれだけ素晴らしく表現するかが演者であり、芸というものなので……理解は理想から最も遠い物と評されるくらいですからね。それほどに遠い物ですから、理解が無くても理想は……
そうなんだよなー……演じてて感じてた事なんだけど、演技が出来るのとその役が何を考えてるかの理解は別なんだよね。
大抵は理解と演技はセットなんだろうけど、俺の場合はなまじっか血筋から演劇に向いてしまってるから……理解出来なくても出来てしまう。
それでもやる前よりは空気は読めるようになったけど、もっと別のやり方があったかと聞かれると有ったかもと否定し切れないのよね。
「人付き合いか……そりゃなんともありふれた悩みだぜ。そういう事ならバイアクヘー、ギャグの空気には出来そうにねーが、僕は結構有用なアドバイスを幾つか送れそうだ。
よく聞けよー、人間関係ビギナー用のスターターセットを教えてやるからよ」
ふむ? アドバイスならもう昨日家に送り返す時にしてくれたのにまだ言える事があったのか。
一体なんだろうね。
「1つ。やりたい事を決めて、その為に相手をどういう気持ちにさせつつ利用するかって視点で考えるんだ。最初は相手の気持ちは二の字にして、実利的な視点で見る。
謂わば「他人との交渉」だな。人付き合いってのは段階があるものさ。知らねー相手に対しこの視点で見るのは悪い事じゃねーよ。ま、何でもかんでもこの視点で見るのはダメだがな。別にコレ万能の正解じゃねーし」
段階……どう接するか決める? そんな考えもあるのか。
それを自分でやる……知ってはいたけど、そういえば自分でやろうとは考えた事もなかったね?
それに実利を目的にしたのなら……相手の考えを読むのはまだやり易い気がする。感情が絡む部分で実像と差は出るだろうけど。
「2つ。どういう関係になりたいか決める。友達になりたい、恋人になりたいってだけの話じゃねーぜ? その関係をどうすれば続けられるか考えるんだ。何を言うか、どれだけ話すか、喋り方に身振り手振り、言葉と言葉の合間の無音をどれだけ置くか……そこまで考えたら上級者だが、一先ずは関係を意識した話題運びをするのは人付き合いじゃ悪いことじゃねー。関係が壊れる話題は避ける、今の関係が維持できる話題を出したり続けたりする。話題のレパートリーが増えねーと飽きられて関係が途切れるかもだが、日々によって違う話題は何回だって擦り倒したまえよ? 毎日ニュースくらいは観ときゃ尽きることはねーがな。ま、それで仕事や実務、関係に関わる地雷処理が滞ったら世話ないが」
関係を意識した会話……空気ばかり意識してそこまで思考は回って無かったな。
演劇だと関係を壊したくないって考えで破滅する人が沢山居るからあまり意識した事はなかったけど、改めて考えると"常套句になる程普段使い出来る考え"とも言い換えられる。
なら……物語みたいな特別な事情が無ければこの考えを使うのは、そんなに悪いことじゃないのかも知れない。
「3つ。これは前二つと比べたらマジのマジでオマケみたいなもんだ。ちょっとした注意喚起だな。
いいか? 人付き合いに失敗はあるし、致命的な事をしたら関係は一発で壊れると思え。
世の中失敗を恐れず話しかけろとか言う連中はいるが、そういうのは大抵話し掛けるのを恐れてるだけの魅力的な奴……謂わば隠れコミュ強、才能のある奴向けの戯言だ。世の中そんなに甘くねーし優しくねーんだよ。
地雷を踏まれた、話し方が気に食わない、声が小さい、付き合いが悪い、キャドりがキモい、やって欲しい事を断られた、なんか失礼な輩だと感じた、エトセトラエトセトラ……理由は無限にあるが、大半の人間はそういう失敗ルートがある。実は慎重ってのはそういうリスクヘッジの観点から悪い選択じゃねーんだ。実は勇気を出すにも後ろ盾……フォローを入れる紹介人を設けてから踏み出すのは賢いやり方なんだぜ? 将を射んと欲すればまず馬を射よ。心情的に楽で、失敗しても別の馬でトライ&エラーが出来るならやっといて損はねー。
バイアクヘー、お前はどっちかと言えばそういう失敗する可能性の方が多い人間関係下手くそ勢だ。僕みてーに確定成功の「魔性」持ちじゃないんだから、誰彼構わず関わらず、関係を深めようとせず、慎重に友人を作り、大半の相手とは仕事付き合いみてーに薄い関係になるのが懸命だろうよ」
ふむ……なりたい関係を設定し、そこに向けてどう関わるか決める…理想を設定し、そこに向けてどういう過程を取るか考える?
仕事……例えば部活動であれば、部長や部員がどんな気持ちで部活動に励めるかの理想像を設けて、現状との差異から何が違うのか考える……「考える」かぁ。
今まで相手の心情は分からないで終わらせてたけど、仮定でもいいから複数設定し、最も可能性の高いものを最有力候補として前提に置いてみれば良い感じかな。
うーん……この考えが正解か分かんないけど、試してみる事は出来るやり方だよね?
「以上! バイアクヘーは「空気を読む」ってトコで漠然と相手を見てたようだが、人付き合いはその前にやった方がいい事が幾つもある。そもそも空気読みは割と高等テクニックだ。人間関係って奴を幾度も潜り抜けた「強者の勘」って奴をしょぼく言い換えただけのタイトル詐欺。ビギナーはビギナーらしく、懸命に目の前の相手を見据えとけよ」
そこで阿佐美はストレージから水を取り出して飲んだ。
文字通り一息付いたらしい。なるほど、夢の中で飲食は不要でも、こういうボディランゲージの為にやる事もあるのか。
……コレが正に言っていた2つめの関係構築の一環ってやつ? へー、場の切り替えも関係構築の一環かぁ。
「ご指導ありがとうございました! なんだか光明が見えた気がします」
「別に構わねーぜ。バイアクヘーはその辺素直だからまだマシだしな。僕みてーに今の自分に満足して変わる気のねー奴と比べたら教え甲斐があるってものさ」
素直さの利点は学習意欲と変化のし易さ、短所は自信を無くしやすく折角覚えた正しいやり方を後から捨てちまいかねない事……優柔不断に成りかねない特徴でもある。
ま! 言葉ってのは良し悪しを合わせた表裏一体なようで、単に同じ
……僕の言葉は簡単に捨ててくれるなよ?
阿佐美はそんな事を言うのを最後に、俺が中断していた車の点検風景を眺めていいか聞いてきた。
配信用に画面に収めたいのだろうか。もしくは単なる好奇心か。
取り敢えず前者であると仮定し、解説を挟みながら俺は残りの点検をパパッと終わらせる事にした。
それが終わる頃には師匠も一通り魔物の処理を終えて合流し、俺達は6時間かけて88階を無事に通過するのだった。
「なぁバイアクヘー」
「なんですか? ミコさん」
だった……のだが。
「結局どんなタイプが好きなんだ? 特別に女限定でいいぜ」
「だから恋愛はしないと」
「未設定なんだろ? だったら今決めちまおーぜ! そこを空欄のままにしとくのは色々勿体ねーよ!」
阿佐美が車を運転している最中、ニヤリと笑いながら再び好きなタイプの話題を振ってきた。
なぜ…? いい感じに纏まってた話題じゃん。どうして掘り返すの…?
師匠は……疲れたのか仮眠してるね。うっすら起きてるけど、疲れてそうだしそのままにしておこう。
「決めた方がいいですか?」
「逆になんで特に決めてねーんだよ。そこは何入れたって誰も
「……決めない方がいざって時に使えそうで」
「いざって時ってなんだよ、いざって。好きは先にあるモノで後付け出来る余地ねーだろ」
「むむ……ふむ……」
うーんしつこい。これはもう今決めた方が良いだろう。
そうだなー、女性限定なら空気を読んで一般的なものに……いや、空気を読むのはまだ早いと言われたばかりだしね。
となると……周りに合わせず自分で決めないといけない……? 自分で? ええと……俺は何が好きなんだ? 何を好きになればいいんだ? 俺にそんな
「……?」
「あー…ホンキで自分で設定しねーと無い……いやそういう人間にしてはまだ元から持ってそうな部分が……よしバイアクヘー、顔を上げな」
「なんですか?」
「テメーがちょこちょこ口癖にしてる語尾の「ね」は自分で設定したものか?」
別にしてないね。
「してねーって面構えだな。じゃあもう一つ、今のお前は何を演じてる?」
特に決めてないね。
師匠向けの弟子役と阿佐美向けのこの姿の役で競合してるから、一々切り替えるのも空気が読めてなさそうだから曖昧のまま演じてるけど。
「……そうか。じゃあどっちかと言えばコイツは戦利品に……バイアクヘー」
「なんですか?」
「お前、ゲームの中じゃない、普通の夢の世界での姿はどんな感じだ? 幻想具現が使えてる今なら成れるからやってみてくれ」
え、今?
「別に良いですけど……あまり驚かないでくださいね? 結構人の姿からは外れちゃってるので」
「構わねーよ。それを言ったら僕なんざ羊と狐が合体したモンスターだからな」
「それじゃあ……」
うーん、阿佐美と一緒にリスナーも見てるんでしょ? 折角ならキメ台詞なりカッコ付けたくなるね。人目が集まってる舞台ならいい演出にしたい。
それなら……今じなくてもっと良い場面で、それこそ100F以降にしたいね?
うーん、なんだか阿佐美が一々カッコ付ける理由が分かった気がするぞ。こういう考えか。俺としてはすごく身近な考えだ。部活でよく似たような事やってるもの。
「……やっぱりここぞって時に変わりますね。折角ならカッコ付けてみたいです」
「おっと……ま、別に今すぐ知りたいワケでもねーしそうするか。なんだ、カメラに意識向いちゃったか?」
「そんな所です。こういうのって派手にパッとやりたくなりますね」
「そうなんだよ、僕なんざ結構な頻度でそうなるからな。分かるぜーメッチャ分かる。あ、そうだ。折角だしその時が来たら僕と一緒にやろうぜ。人外れの姿が二つ並ぶのはぜってー壮観だからよ」
「いいですね、図体次第ですけど私とミコさんで上下か左右で行きたいですねぇ」
結局どんなのがタイプなのかって話題は流れたけど、その後100F行きの入り口に着くまで俺らは長い事ドライブトークを続けるのだった。
なんだか久々に楽しく話せた気がするね。人気の配信者ってすごいや。ずっと話せるもの。
「──…の時はやっぱ自分の足で歩く方がいいな。風情は偶に感じるから価値が……っと。もう到着か」
「やっぱり車だと早いですね。もう88階も終わりですか」
「100階はもっと早ーぞ。なにせ3歩も歩けば行き止まりの洞窟。特産品は焚き火のなり損ないの冬場の洞穴だぜ。魔物も居ねーし最下層にしては超つまらん場所だな」
「わーマンモス狩ってる時期っぽーい」
「つーワケで車は此処でお役御免だ。物理的に入らねーからな」
[迷宮100F
既に慣れたものでみんなで新たな入り口を潜り、遂に現状のダンジョン最下層、肌寒いってレベルじゃ無いくらいの極寒の気温に包まれた狭い洞窟に到着した。3人も居ると少し体を揺らすだけで他の人とぶつかるくらい狭い。
此処までで一通り冒険した気もするが、実の所此処からが本番である。
どうやってここから最下層に行くか、その辺りはオラクルに任せっきりだからだ。
……ピピッ。
お、天啓で来るのかと思ったらメールだ。内容はどれどれ……なんだ復元するだけか。もう一回やってることだね。
「……で、どうすりゃ101にいけるんだ?」
「ちょっと待っててください。今復元して洞窟を広げますから……元々は広い筈!」
「その技扉を開くようかよ。なんでそれを2階でやっちまったんだ」
「その時はこれが開ける為の技術と知らず、試しに使ってみたからですね」
「……てことはコレからは毎回重力光級が来るかもか。……失敗したら難易度鬼だなぁ!」
「なんであれ、儂はお主らを護り続けようぞ」
口々に言いたい事が飛び出てはお互いが好き勝手に話題を拾う。
本当はもっとしっかりとお互い意気込みを言いたい所ではあったが、こんなにもお互いギュウギュウだと空気を締めることは出来そうに無かった。
「───"プロメテウス、夢を渡る者、神の御技、約束と"……"裏切り"」
役が俺の口を借りてかつての記憶を単語に纏める。
なんだか聞き覚えのある話だった。具体的にはビリデスが最後に見せた映画。そこで大樹に向けてビリデスが口走った言葉に。
「"解禁"」
しかし、そんな事で絵を描くのを、復元をやめる理由にはならないと。
俺はそのまま燃えるような赤で塗った洞窟を解禁し──ふっと。
「おっ?」
「む」
「──真下に入り口出来るのは反則じゃねー?」
冷たい風を吹きかけられたと一瞬感じ、直ぐに落ちていると自覚し……アレ、これ入り口が真下に出来たんじゃなくて、元々は底なしの穴だった地形の一部に入り口がある見えるぞ。
俺はそのまま入り口に落ちそうだけど、他の二人は──。
「バイアクヘー!」
「壁蹴ろ壁!」
挙句言われた通りに壁を蹴ろうとして、ゴォッと唸るような地響きと共に足は空振り、俺は入り口に入ってしまった。崩れ!? それにしては壁の方が自ら広がったような──。
「《
挙句に直ぐに物を創れる魔術を発動し、絵を描く為に被っていたこの空間の元となった人物の役に、この後の場面で役立ちそうなものを全ての魔力と幻想具現を同時に起動し創らせる。それで取り出せたものは3つ。何を作れたかも確認せずに投げ渡し。
「【夢物語】──"道案内"」
最後に一筆書き、落ちる直前に目印となる印を描いた。
そして俺は入り口に落ちて──……。
[山羊の鎖-電偽 101輪目
目覚める。僅かな気絶の自覚。推定5秒。
分断した。二人は無事に来れ──いや、それよりも。
「──此処は、どこ?」
浮遊感は消えてなかった。ならば空に放り出されたかと言えば、そうでもないね。
頬を気泡が撫でる。
空は暗く青紫色で、深海に見えるが息が出来た。
ズキリと頭痛がして、記憶が刺激される感覚がする。
しかし、何もない。思い起こされる記憶の場所には、ただ白くくり抜かれた穴があるだけだ。
ジャララ──。
ある程度落ちると、赤い鎖が虚空から幾つも伸びていた。
次第に見える大地は薄らとピンク色の草原が広がっていて、鎖が大地を支えるように繋がり張っている。
鎖に手を掛けて勢いを殺しながら着地して、今度は空を見上げる。
「三日月……"三つ"?」
手裏剣の様に三日月が広がっていた。とてもじゃないが正気の沙汰では無い月だった。
最後に目の前を観る。
ただ、深く深く、先の見えない暗闇だけが広がっていた。
ピピピピ
[*天啓遂行──A
報酬:PA社製電脳接続錨×1]