前回のあらすじ
阿佐美と柳田より先に101Fに到着した山本。そこは狂気的な光景が広がる深海に晒された草原だった。
魔術も【夢物語】も幻想具現も阿佐美達の方に割いた状況で山本が取った行動とは──?
誤字修正で「例え」派と「たとえ」派がずっと争って笑える。別にひらがなでも漢字でもどっちでもいいだろうによく飽きないよね。キャラに合わせて変えてるからそのままにしてくれたら私は助かるんだけど。
「
安全な場所に案内させる為にこの空間の元になった人の役を被ろうとして、バチリと頭から泥がしぶく。触れれば痛みと同時に溶けた頭皮が指に絡み、ぞるりと頭が溶け欠けて、役を被るのをやめると溶けるのも収まった。
……弾かれた? 演じようと……言い換えれば騙ろうすると泥になって溶けるなんて……どうやら相当高尚な人物が元であるらしい。とんでもなく強力な夢の世界の戦利品を手にした者なのだろう。
まるで神様みたいだね。こうなると俺はかなり非力になるんだけど……どうしようね?
PAGから受けてる補正はほぼ全て阿佐美達に渡したアイテムの維持に割いてるし、現実側の力である演技も無しだとかなり辛い。
「……いや、ただこの空間の本源を演じなきゃいいだけか。とはいえ魔物を倒せるだけの武力を持った役なんて…」
難しい話だ。魔物相手と言うだけで現実側はかなり絞られるし、俺の演技は妹達と違って道具は再現出来ない。超常的な力を持つ創作のキャラクターの演技が必要になる。
だが……これも妹達と違って、俺の演技はただ限りなく本物に迫った演技なだけで、その力を再現出来る訳じゃない。ただそれっぽい振る舞いをするだけだ。
その力が思考に収まるならある程度は再現出来るけどね。高速思考とかマルチタスクとか。
「役の大枠は二枠。その内一つは阿佐美達に渡したアイテムの維持様に俺自身で無ければならず、片方を細かく別れば複数を詰め込む事も可能……あ、いやそうか」
これを有効活用するならそれ相応の環境が必要だろう。役者には相応の舞台が必要であるが故にね。
「"PAGのゲームキャラならある程度
しかし……振る舞いが本物に迫るなら、そのキャラが使う力が実際にあるのなら、届く光が弱くとも振る舞いだけで力を与えるシステムがあるのなら……いい線イケるかもね?
舞台に合った演技が求められるのは、どこの劇場でも同じなのだから。
「起きろ、"錬金術師"」
思考の奥底から赤い糸の繋がりを辿り、3つの懐かしい自分を引き摺り出す。この演技の使い方は初めてな筈だが、なぜだか身体は手慣れていた。
力を渡してやる必要はない。ここは夢の世界、考える頭があるのなら、あとは世界が勝手に維持してくれる。上辺だけ取り繕えば中身があるかなんて問われない。深淵を覗こうとすれば世界すらも狂う世界であるのだから、全てが曖昧に存在出来るからね。
「調べて」
『──ぎょ、御意に……何を調べるかは言って欲しいなぁ……ワタシは地質学者じゃないんだけどなぁ……』
[*変動を-ザザッ-固有能力【遂げ-ザッ%…4$-】を獲得し-7°-]
左肘に赤い糸が巻かれ、その繋がりを辿り「フラッタ」が眼の前に現れる。
同時に不安定なシステムメッセージが現れて、フラッタの存在を制限時間付きで補強した。
よし、なんかうまく行ったね……思ってた過程とは違ったし、なんか勝手に動き始めたけど。
俺の想定だとさ、僅かに残っていた【夢物語】と幻想具現の
現実は描いた「フラッタ」の存在をゲーム側が変な認識してユニーク認定。存在を補強する感じになった。ちょっと違うけど上手く行ったからいいか。
『と、取り敢えず此処が何処由来か終わりました……此処は大体新生代第四紀の初期くらいの…山岳辺りの空間ですね。俗に言う氷河期の直前です』
「理由」
『植生ぃ…ですかねぇ…』
「ピンクだよ?」
『だ、だからわかりやすいのです……シレネ・ステノフィラ、氷河期の遺存種と呼ばれる花が草々の合間にあったので』
俺の知らない知識だな……やっぱり役側になると中身が俺だった時よりそれ相当の知識が湧いてくるものか。
「時代」
『こ、ここ。降るほど古い時代になる法則がある迷宮ですよ? 88階のローマより前で、この花がある。確定じゃないですけど、ほぼ確です。100階のアレなんて氷河期真っ只中でしたし』
そろそろしかし何故フラッタを? 中身はお前なんだから何も分からないんじゃ?……と思いの方の為に解説しよう。
ご覧の通り見れば分かるだろう。
以上だね。
冗談だね。しっかり解説すると、役は俺が演じてる俺より優秀なのはご存知だと思う。
そこで考えたのだ。それなら直接演じるよりもう一人身体を作って、それを役が動かす方が情報を引き出しやすいんじゃないかってね。
つまり脳内に待機させてる役に自分の姿の操り人形を操らせる作戦だったのだ。
勿論人形の維持は人形側が勝手にやってくれる事を期待して。
うーん……かなり成功率が低い作戦だったのに上手く行ったのはよかったけど、勝手に動いたりユニーク認定されたり……答えは合ってるけど過程式は間違えた気分だ。
というか、脳内に待機させてた筈のフラッタ何処に行ったの? シンエン役とビリデス役は知ってる? え、人形の中? ないでしょ、俺別に絵に人格を宿したりした覚えないし。
『そ、それで……そこらに生えてる鎖は迷宮側じゃないですかね。山羊が空間を繋げる為に用意したものかと。三日月が3つあるのは……推定ですけど、アレは月じゃないですね。上の階層の大地に描かれたマークかと。それが光ってるんです』
「マーク?」
フラッタがストレージから望遠鏡を取り出し観察する。
さすがゲーム側の補正だね。俺が出来ない筈のアイテム欄の再現までやってくれるなんて。
『印、シンボルマーク……三日月というより、単純化された足三本かな。あ、鎖此処から出てますね。確かバイアクヘー様が落ちる途中に見た感じだと虚空から出ていたから……描かれてるのは空気…空間? となると山羊由来…なるほど』
なにやら納得したフラッタはそのまま幾つか素材を取り出しおもむろに錬金を始める。
おい、急に始めるなよ。阿佐美達に渡したアイテムを維持しつつ三役を維持する為に言語関係の脳リソース割いてて質問するのも大変なんだから。
「なにやってるの」
『し、精神負荷に耐えるためのポーションを作ってます。今は負荷も弱いようですが、此処から離れたら強くなるかもですから』
「あるの?」
『あのマークをじっと見ていたら精神が削れる感覚がありました。他にそういうのがないとも限りません。ないよりやった方がいいかと』
「なるほど」
フラッタはポーションを5つ制作すると、俺に一つ渡した。そして自分の分も一つ持っている。残り3つはアレか? 阿佐美、師匠、予備か。
『せ、「精神保護ポーション」です。一本で3日持つレモン味のポーションですよ』
「ありがとう」
一気に飲み干し、これからを考える。一応天啓の報酬に意味あり気な錨を貰ったけど、たった一個だけのこれを気軽に使っていいものか分からない。となると先に進むべきか二人が来るまで待機するべきか。俺が判断するには難しい話だった。
『先に進みましょう。これまでの各階層には他の階層に行く道が複数ありました。何処に潜ったか印を付けた所で、あそこまで登るのは骨が折れるでしょう。恐らく、別の入り口を使ってると思います』
師匠の刀があれば話は別じゃない?
「重力」
『二満月さんの刀は望み薄かと。自分とミコさんを斬って重力反転、あそこまで登れば可能なのは彼女も気付いてると思います。なのに未だにここに着いていない。それは、出来ない理由がある以外には考えられません』
なんて事だ、もう俺より賢いぞ俺が作った役の癖に。
「合流は望み薄?」
『か、限りなく……階層の入り口が複数ある時点で、この迷宮は上から下に行くのではなく、立体交差上等のカス迷宮です。1階から100階までの最短ルートは単なる飛び飛びでしたが、一旦上に上がらないと行けない階層もあると思いますし……ワタシ達はワタシ達で、安全な帰還ルートを構築しつつになるかと』
かなり絶望的な状況だった。それってどれだけ時間がかかるんだろうね。
ビブラに辿り着く頃にはとっくに無人になってそうだ。
『あり得ません』
「何故に断言」
『ビブラはオラクルの説明からして、夢の世界が降れば降るほど時間の流れが加速する性質を利用した場所です。つまり、そこに向かう為の迷宮も潜れば潜るほど現実の時間の進みは遅くなる』
ああ読めたぞ。つまり現時点で俺らはドーイラ島の地上より加速した時間の中に居るって言いたいんだね?
うーん? でもそんなこと、阿佐美は全く言って無かったんだけど?
「賢い」
『れ、錬金術師ですからね』
「でも阿佐美は言ってない」
『迷宮内は地上と同じ時間が流れるように調整がされているのかと。ワタシが運営ならそうしますし、仮にも運営が"整備"した場所です。その程度はやってくれなきゃ困ります』
どうしよう、俺の疑問が全部澱みなく答えられていくんだけど。
まるで俺がそんな事も分からないバカみたいじゃないか。
『なので101階以降なら時間の心配は有りません。ビブラの時間倍率はCM情報で465倍、ドーイラ島地表の倍率が現実と同じであるとして、オラクル曰く200階層がビブラと同じ高さ。ここは半分の地点ですから、約233倍。PAGは120倍ですから、既にゲームの2倍は早い時間の中にワタシ達は居るんです』
おっと、その理論には矛盾があるぞ?
「フラッタ、ドーイラ島はPAGの舞台。だから地表は120倍」
『"時流均一化処理"が……あ、さっきのは言い方が悪かったですね。この場合の地表は"海"、通常時に迷い込む夢の世界の方です。島はPAGの舞台として時間が全体で同じ加速処理になるよう調整されています。迷宮の加速した時間と地表の時間、それを平準化すれば120倍になると……その辺りはよく出来てますよね、このゲームは』
……つまり、普通地表は現実と同じ時間が過ぎてて、このゲームは迷宮の加速した時間を地表に分散。全体を120倍になるように調整していると?
時間ってそんなお湯に入れたココアの粉みたいな感じなの?撹乱すれば均一化するってそんな単純なものなのか?
「そうなの?」
『そ、そうなんです。錬金術はこのゲームのシステムも夢の世界の法則も、全部利用して物を創るジョブ。あれ、同じ身体で一緒に学びましたよね?』
「忘れた」
『………ですか』
「頼りにしてる」
『コイツ……』
お前なんで俺がフラッタ役を抜擢したかまだ分からないのか? 俺はそこまで細かく覚えないからだよ。知識については完全にそっちが上なんだから俺の分まで考えてよね。
「納得した。行こう」
『はぁ……わ、分かりました。死んでも守りますけど、正面戦闘は期待しないで下さい。出来るのは隠れる所まで。そういうのはシンエンかビリデスに任せて下さいね』
「もちろん」
ポーションの効果が効いてきたのか軽くなった空気を吸って、ピンク色の草原を進む。
暗視ポーションもあればもっと便利だと思ったけど、フラッタが言うにはこれはただ暗いという訳じゃなく、一定の位置から黒く塗りつぶされているらしい。
『ひ、光が無いから暗いんじゃなく、黒い塵が同じ場所に固まってるんです。思うに……海流のせいかと。海の水が入り込んでますから……それにしては安定してる辺り、山羊の力以外もなにかありそうな気が……』
まだ分からないみたいだ。もう暫く考察させてあげる必要があるだろう。
どうあれ新しい入り口を見つけない事には話にならない。一先ず辺りが安全である事を確認しフラッタが地図を制作すると、『せ、先行してみます』と言って暗い場所に進んでいった。
「……もしや、私は基本動けないのでは?」
実際それから3日間、俺はこのピンクの草原から動く事は無かった。
度々フラッタが帰って来てはやれシンエンに行かせろだの、ビリデスにゲームの領域にする為の施設を創らせろだの、そんなアドバイスに従うだけでこの階層の攻略は完了した。
お陰でゲームシステムの通信は感度良好である。お陰でなんか貰った錨についても説明書を手に入れられました。
ましたが、あまりにも暇なので復元はしないのかと聞いてみたりもした。
『100階で起きた事を思い出してください。情報が欠けた空間が危険なのは確かですけど、それは元の空間が安全だったかどうかはイコールじゃ無いんです。終幕とか名前にある時点で復元は奥の手直行ですよ』
運営が判子のように1〜100の階層を同じ処理で済ませたのはそれだけの理由があるんだって。
なので俺がこの階層で得た物はフラッタに口で勝てないという事実だけだった。
というか迷宮が大体ひたっすらにだだっ広いだけの
壊れてるんだから大体そうなるに決まってる? 寧ろそれなのにクソ強いままの怪物がいる方が怖い? ごもっともだが俺はもっとゲームのワクワクが欲しかったね。
『こ、ここはゲームじゃなくほぼ夢の世界ですよね?』
『儂は戦えてるから別にぃ?』
『ごすが死んだら僕らも死ぬからダメ』
そんな文句を言ったら求めてる空気が違うってニュアンスの事を全員に言われた。
否定出来ない。こんな状況でゲーム性を求めてるのは空気が読めて無かったかもね。
だけどただ待つだけなのはつまらないのだ。俺は弱点コアなんかじゃない!
『弱点コアですよ。ワ、ワタシ達を出す以外のリソース全部向こうじゃないですか』
「本当なら描いた絵を武器に戦えるビルドなのに……」
『それより、次の階層の137階ですよ。上に戻るのは何処からでも地上に出れるエスケープ用のアイテムを作ったので良いとして、此処を攻略しない事には先に進めません』
『僕の魔術で探査した限り、最短経路は101→137→155→190→188→199→200。この後6階層も移動するけど、次の137がちょっと手強そうなんだよねー』
そして現在、阿佐美に渡したアイテムの一つが破損したっぽいお陰で出来た余裕で、役を出せる持続時間を伸ばしたり、同時に出す役を増やしての会議をしていた。俺は置き物だけどね。
……此処に居るのが全員元々自作の役だと思うと奇妙な感覚になるよね。
『ガッチガチの宇宙エリア。恐竜が繁栄してた時期に一体何処の誰が宇宙に飛び出してたんだって話だけど、だからこそ貴重な体験を集めてる山羊の眼に止まったと思うと微妙な思いになるよね』
『シ、シンエンとビリデスのゾンビアタックで出口周りに居た「何か」は殺せましたが……宇宙なだけはあり呼吸以前の問題が山積みです。バイアクヘーを進行させる前に地球の環境に整える必要があります』
『錬金術師様のパワーでなんとかならない? 創るのは専門でしょ?』
ビリデスが何気なく質問をする。
今回の会議は次に行く階層に居た魔物っぽい奴の討伐を終え、リポップしないしそろそろどうやって入るか考えようという議題である。
なのでシンエンはお役御免。俺の中で待機している状態であった。
『空間の破損が致命的です。そもそも大地もない宇宙空間になってるのはそこが原因で、元は何も無い宇宙ではなく、隕石な何かが有った可能性が高いんですよ。そもそも山羊の空間は元になる生き物がいます。だからこそ、全ての空間は生き物が生存可能な場所である筈なんです』
『その何かは僕らが殺したけども……つまり空間が壊れて、そこから隕石とか色々落ちてったってこと?』
そうそう、この「何か」がどういう存在か気になると思うけど、それは誰も言ってくれなかった。
なんか知らないけど皆が口を閉ざすんだよね。俺は仲間外れかよ。
『もっといえば今も穴が空いています。なので幾ら作ってもそこから垂れ流される。常に創るのは不可能なので、先ずは空間を修復する所から始めないとなりません』
「はい」
『静かにしててね、ごす。リソースの都合で描いてる間は僕らが引っ込んでる必要がある時点で論外だから』
「むう」
復元なら俺の出番だよね。
断られたから一旦大人しくするけど、あんまりぐだってると二人を引っ込めて突貫するよ。
『使えそうな魔術はありませんか? あの……そう、修復の魔眼とか』
『修理の魔眼ね、《
『DMP……ワタシが死んでから出来たリアルに干渉可能な魔力素ですか』
『正確には「プラーナ」と「クリスタル」が化合しエネルギーに変化する際に生じる概念的質量、その重化物ね。一応現実に存在する物質だし錬金でも極少量なら生成可能だよ』
『およそ現実的に使えそうな作戦ではありませんね……』
『そうだね。今の僕の刺青もあくまで絵の具。本物じゃないからDMPは生成出来ない。不可能だ』
お、手詰まりか? じゃあ俺が行くか?
暇だから今すぐ行ってもいいよ?
『だから考え方を変えよう。いっそ先に137Fをゲーム内として判定させるんだ』
『ほう、その心は?』
『阿佐美に転移を促すんだよ。既にここでは3日が経ち、向こうでは1日半が経った。どこに転移できるか探る頃合いだ。それに合わせて錨を137Fに降ろし、転移して来た阿佐美になんとか解決して貰う』
うーん……色々無茶苦茶だね……?
やはり俺が行くしか……。
『不可能が3箇所ありますね』
『君が承諾しない事も含めて5箇所だよ、フラッタ。僕も今のは立案が向いてないにしても適当すぎたなって思う』
『では何故そんな戯言を? 場合によってはシバきますよ』
『ごめんごめん──要するに、二人と合流したいんだよ。阿佐美は転移が出来る。阿佐美が現場から抜ければ師匠が護りに意識を割かなくても良くなって、結果的にごすが入った入り口まで行けそうでしょ?』
『あー……』
どうやらビリデスは二人と合流するのもアリだと考えているようだ。
ふーん、AIの影響で新しい事を思い付くのが苦手になった割にはいい提案だね。
問題はフレンド機能やメール機能なんてこのゲームにはないってことだけど。
「連絡」
『一旦リアルに戻って電話が出来るならそれがいいけど……どう?』
「無理」
『だから突拍子もないことで気付かせようって作戦。どう? 代案があるなら僕は全力で乗るよ』
「お手上げ?」
『いや、まだフラッタが考えてる最中』
フッ……。
俺の意思に反応し、二人揃って消える。
静寂が満ちて俺は一人になった。止める者はもう居ない。
行こうか。
PA社製電脳接続錨…錨を降ろした地点から半径500mを電脳空間と一体化させ、ゲームシステムが干渉可能な電波送受信エリアにする。要するにVR版のWi-Fiみたいなもの。割とお高く一つにつき3万前後もする最新モデル。オラクルが会社の在庫を漁り見つけた、唯一のアンカー。