前回のあらすじ
レオナルド・ダ・ウィンチでないのなら、己の領分は弁えるべきだ。
暗闇の先は永遠と続く宇宙だった。
「ア°──」
一瞬だった。血は沸騰し、肺は破裂し、視界が使い物にならなくなり、0気圧の優しさは内側から飛び出ようとする内圧を主役に押し上げる。
「ギッ──」
それでも……ここは振る舞いこそが力を与える夢とゲームの世界であるが故に。
俺が事前に決めておいた「復元」の為の役降ろしと筆捌きは正常に働いた。
[山羊の鎖-電偽 137輪目 時翔ける
或いは、降ろした役が素晴らしかった能力者だったのだろう。こんなにも昔に月と関係を持つような存在なのだ。降ろした影響で多少頑丈になっていてもおかしくはない。101階の降ろしただけで頭が破裂した奴よりはあり得ない話じゃなかった。
だからこそ。
「○$#¥%(2…g#xV/ "☆…8♪"」
どの言語にも属さない
アレだよね、昔にはリアルで魔術を使う奴なんていたんだね。じゃないとリアルにある時間貯金箱を利用するなんて出来ないし、すごい事実だ。昔は魔術文明なんてものがあったのかも知れない。
《時間を停滞させる魔法》
発音を無理やり人の発音にすると"たほふぐいら いあ わふぐへにゅ"だろうか。
ほにゃほにゃしてる詠唱だったが、その効果は絶対である。
なにせ死ぬ1秒前の状態で10分間活動出来たのだ。10秒1Tとして60T継続するガッツ効果と考えればどれだけすごいか分かると思う。実質リアルの寿命二年分が勝手にコストとして捧げられた事になるけど、お陰で空間の復元は無事に終わらせる事が出来た。
ドサ。
「──イ"テ"テ"…お、無事だ。空気も気圧もある。でも周りは相変わらず宇宙だね」
描き終わった俺はどさりと転げ落ち、ぶつけた所を撫でながら身体を起こせば、其処は赤黒いマグマの大きな星が見える何処かの衛星だった。
うーん……状況と階層の名前を見るに多分此処は月なのだろうか。だとすると目の前にあるのは地球? 地面は大理石っぽい道で丸みを帯びた幾何学的な建物が並んでるから、月というより宇宙船か何かにしか思えないね。
それに似たような変な有機的な……円錐状のオブジェが動いてるし、かなりヘンテコだ。
「おかしいな、一応復元が終わった後だよね? なのに上の迷宮より迷宮っぽい"よ"……う"う"ん"」
死なない為に無理やり変な発音の呪文を言った影響か、喉が痛む。
まあ、しばらくすれば治るだろう。そんな事より次の階層への入り口を見つけたかった。
「ところで誰か此処が現代の地球と同じ環境なのを説明出来る人いる? 地球じゃないっぽいのに重力とかが同じなのが不思議なんだけど」
『127^・(°2-』
「うわビックリした」
困っていると円錐状のオブジェが話しかけてきた。なんだ生き物だったの君たち。
そして生きてるとするとかなり文明的な対応だ。困ってる人に声を掛けるなんて親切が出来るのは、それだけ理性があるという事だからね。少なくとも重力光よりは人に近い。
「待ってて、今あなたの言語知識を演じるから……"よく聞こえなかったのでもう一回言ってくれませんか?"」
『"困ってるようなので話しかけました。なにか分からないことがおありで?"』
「"ああそれはご親切にどうも。私は見ての通りあなた達とは別の知的生命体なのですが、よければあなた達の事について教えて頂いても? 勿論払って欲しい対価があれば、用意できる分だけ用意致しますが"」
『"それでしたらあなたの知識を。我々の知らない事を書物にまとめて下さればそれで十分です"』
知らない事かあ。うーん……この空間の元ネタは周囲を見るにこの生き物の同類でしょ?
そんなのが時間の魔術を使ったんだから、割と未来の事も知ってそうではあるよね。
ならアレだね、ここは一つ向こうが何について知らないか調べて、それを持ってそうな奴の知識を演じて書物に纏めるとしよう。
「"ありがとうございます。それでしたら接続可能な存在由来で、渡せそうな情報があります。なのであなた達の事を教えて下さい"」
そうして語られた彼の話を纏めると、ここは月で彼らは「イ=スの偉大なる種族」であるらしい。
イースって銀河から来たんだって。時間に関するテクノロジーや知識が得意で、未来や過去の他の種族と精神を交換して時間旅行をするのが普段の彼らの活動なんだとか。
へー、つまり全員殺せば時間に関する書物を大量に持ち帰ってこれる訳だ。
やらないけどね。知識は丁寧に蓄えてるみたいだし、何人か顔か名前を覚えてそこから演技で知識を抜き出せば事足りるだろう。リアルの小銭稼ぎに便利そうな知識は嬉しいね。500万は集められそう。
「"教えて下さりありがとうございます。お礼に夢の世界で活動する為の保護をしますね"」
『"おお! ドリームランドですか! それも行き来ではなく保護とは、興味が唆られますね!"』
「"ええ。だって、既に夢の世界に囚われてるのに自由に動けないなんて可哀想ですから"」
『"……え?"』
だって可哀想だもんな。
山羊のコレクションとして夢の世界に囚われて、新しい知識を求めてやまない人達がずっとここで何も出来ないままで居るのは。
復元の前の空間はとっくに崩壊していた辺り、彼らではどうにも出来なかった感じだと思うし……この状態の彼らが外に逃げ出すのは難しいからね。
「"此処は夢の世界で、あなた達はオリジナルではなく、夢の世界の住民である空間蒐集家の山羊によって複製されたコピーです。外には逃げられません。このままでは時間経過で空間が崩れるので、コチラから補強したいのですが…如何でしょうか"」
迷宮の魔物が自力で外に出れたって事例は聞いた事ないもの。
ビリデスの時に狼人間を外に連れ出したけど、アレだって元々迷宮のその階層には居なかった筈のバグみたいな存在だったからこそだし。
通常エネミーの君達が出るのは難しいと思うよ。
『"……なるほど。失礼、検証の用事が出来ました。席を外しても?"』
「"その前に許可証を下さい。時間が勿体無いので"」
『"はい、どうぞ。それでは"』
「じゃあね、偉大な種族さん」
走り書きで許可証を俺に渡したイース星人が急ぎ足で幾らか進み……ある一定の所でピタリと止まり、徘徊を始めた。
うーん……知性があってもこうなるか。迷宮の魔物と扱いは同じだね、生きてるようで同じ場所をぐるぐる回って、当時の状況を再現するだけのオブジェに成り下がるんだ。
念の為確認として徘徊し始めた彼に話しかけた。
「"こんにちは、偉大なる種族さん。急ぎの用事はありますか?"」
『"おや、初めまして来訪者さん。何処からいらしたのですか?"』
「"未来から。ではよい1日を"」
『"ええ、それでは"』
うん、リセットされてるね。復元してもその辺りは変わらないみたい。つまり元からこういう物だったって事だ。
フラッタからダンジョン化してない迷宮の魔物の動作については聞いてたけど、実際に見るとかなり惨いものだ。代わりに死んでも生き返ったりするんだけど、それも半端に無力化して生きた肉団子にすればリセットは起きない。
「だから私がうろうろしても問題にはならない。だって異変に気付いても直ぐにリセットされるから」
おかげでその場をやり過ごせば何処にだって侵入し放題である。彼らが侵入者を見つけ次第殺しに来るタイプなら通常の魔物と同じく殺し合いまでは出来たんだろうけど、そうでなければただの中立モブだ。手出ししなければ居ないのと同じ。安全なエリアだ。
と来れば……ビリデスとフラッタが用意してくれた電脳空間への取り込み用機材を設置して、起動して、いつの間にか阿佐美達のアイテムが壊れて全リソースが解放された「幻想具現」や【夢物語】で次の階層も空間が壊れてるだろうから宇宙服でも作って……設計図知ってる人……いや人じゃなくてもいいね。この階層にいるイース星人はなんだか博識みたいだし、この人達の知恵を演じて描こう。
よし、適当に宇宙服について知ってるイース星人に当たるまで手当たり次第演じて…あ、案外早くヒットしたね。
「出来たー。原語から日本語訳して「
実に素晴らしい。これはみんなと協力して出来た技術と知恵の結晶だよ。
俺の身体、他人の絵心、宇宙人の技術、ミーゴ星人の知恵、夢の世界の性質。誰が欠けてもこれは出来なかっただろうね。
阿佐美達の分もポップ地点に説明書と一緒に用意して、次が……155?
あれ、どうだっけ。最短手順メモってたかな……あーあるある。良かった合ってた。
よし、後はどの入り口がどの階層に繋がるか調べるだけだね。
「行け、先行部隊」
『うむ、それは構わぬが……』
それ行けシンエン。ゾンビ戦法で情報を持ち帰ってこい。
……ふふ、こういう時はいつも不気味に思う俺の知らない情報を役が覚えてるって現象が頼もしいね。行ったという事実だけで勝手に情報が溜まって行くんだから。
『一つ疑問なんじゃが、儂はどうやってそこが何階層か調べるのだ? 高低差を正確に知る術は持っておらぬのだが。分かるのはどういう崩壊をしているかだけじゃぞ』
「へい、フラッタとビリデス」
『な、なんで急に突貫なんかしたんですか? なに、発狂ですか?』
『ごす、寿命二年削るとか何やってんの? ねえ、ごす』
「フラ、ひざかっくんするのやめて。ビス、頭押しつけるのやめて」
そしたら……おお、安定したループが完成したね。
生物装甲を貼りつつ復元する→復元した空間で入り口をゾンビ戦法で見つける→繰り返す。
なんだダンジョン攻略も楽勝だね。最初に考えていたより案外簡単に助けられそうじゃん。イース星人最高。役としてとっても頼もしくて俺も嬉しいよ。
「阿佐美が2階で使ってたアレお願い」
『【夢物語】で出してくださいよ。そっちの方が早いでしょう』
「仕組み分かんないと無理」
『役立たずめ』
『というか阿佐美を
「他人のアカウントをハックするのは犯罪」
というか実在の人物を無許可で演じるのはダメでしょ。
だから車の時は挙手制にしたんだし。
『言ってる場合か?』
『一時的に共有するだけだから! アイテム借りるだけだから!』
「チートはダメ」
『今やってるのゲームじゃなくてリアルの救命活動でしょ! 多少"気絶しても"セーフだって! 護衛も居るんだから!』
『ビ、ビリデス?』
『……え? これ言っちゃダメだった?』
『いえ別に。今の反応はジョークです』
『二度とジョークなんてやるなよ声儲のナード魔女が』
『は? あ、あなたこそ101階では我慢してましたがごすだのなんだのコイツに媚び諂って主役の座を狙おうとしてるのが見え透いてるんですよ』
『はあ? 別に
『くそ心外ぶっ殺』
『まあまあまあ落ち着きなされお二人さん。このまま死体を二つ出来るか、建設的に話し合うか決めて頂きたい。なにより儂らは仲間じゃろ、な? そうじゃろ? さあ首を落とされたく無ければお互いハグでも握手でもして仲直りじゃ──宜しいな?』
『……チッマスコット狙いの兎め』
『ぺっ能力以外用済みの魔女が』
「階層調べるやつはよ」
となるとアレだね。
何事も無ければビブラ到着まで
[山羊の鎖-電偽 155輪目 追憶するは幕開きとなる夢の旅]
ぞるり……ぞろり……。
『……あーフラッタ、思ったんだけど僕は勢いで言い過ぎたと思う』
ぐるり……ぶるり……。
『こ、こちらこそ。冗談はもっと軽い場面で言おうと思います。ワタシ達にとって役周りはセンシティブでした』
ぐわり……ぐわん……。
『ごめん』
『ごめんなさい』
『いいよ』
『こちらこそ』
『で、"アレ"どうする?』
『さて、主人が復元した途端溶けて"アレ"と一体化した以上、以後"アレ"が主役ということになりますが』
『助けようとしたシンエンが死んで復活しない辺り……味方じゃ無さそうだけど』
『はいなので……はい。せ、生存最優先でどうでしょう』
『名案。そういうの大好き』
ザブン!!
山本が最後に見たもの。
[↓記憶 夢に囚われる直前の意思なき山羊 推奨Lv.?????]
キーラ大森林を広げ、魔物を生み出し、雷を纏って山頂に住んでる現在の山羊の過去の姿。
子供を失い、神性を失い、意思を失い、神々により夢の世界に堕とされる直前の零落暴走フォーム。放っておけば勝手に自滅するが、それまで生き残るのは至難の業。
前から見れば黒い津波、上から見れば黒い泥沼、取り込まれれば現実の命諸共囚われる。