今回のあらすじ
血の親が他人なら、魂の母も他人だ。
「魔性」は、善し悪し関係なく視線を集める。
それに気付くのにさしたる時間は必要なかったが、慣れるには随分と長い時間を必要とした。
愛してる。
だから奪う、殺す、蔑む、後ろを指す、悪意をぶつける。
そんな人がいると納得する時間。
愛してる。
だから与える、破滅する、自殺する、爪痕を残そうとする。
そんな人がいると理解する時間。
どっちも傍迷惑だが、1番迷惑なのはそうさせてる魔性を携えた自分だ。
そんな悟りを得るまで随分と時間がかかってしまって、それに気付けば僕の指先に血の一滴も付いてないってのに、後ろを向けば血塗れの道が続いていると分かった。
罪深い存在悪。
僕を善と悪のどっちに属させるかって話なら、間違いなく僕は悪だろう。
だからってすぐ死ねという奴はいねー。どんな人間にしろ、僕が本気で死のうとすれば自らを対価にしてでも助けようとする奴ばっかだった。
それこそ、運命すらも魔性を愛し生かそうとしてるみてーに。
だからこそ実利と集団の頭である国家は都合が良かった。
この力に囚われず判断する奴が多いし、適切に使い道だって用意してくれる。
その結果が前からやってた配信ってのはつい苦笑いをしちまうが、結構悪くない日々だった。
変わったのは、同類が居ると知った日から。
現代から頭一つ抜けた技術を広める企業の陰に隠れてる奴等や、独房に入ってるキチガイ。
どいつもこいつもろくでなしだったが、それは僕もそうだから気にしてねー。
それよりも大事なのは、そういう連中なら僕の「魔性」を弾ける場合があるって事だ。
それ知って以来、僕の中には一つの欲望が生まれた……いや、再燃したって言うのが正しいか。
今度こそ、友達が欲しい。
相手にとっての唯一無二じゃなくてもいい。どんな奴だろうと僕にとっては唯一無二だ。
それさえ出来れば死んでも後悔はない。だから「魔性」に惑わされない、僕の友達が──友達が────友達が──────。
「私は山本・イイノリと言います」
出来た。
遂に、漸く、これで、やっと、今度こそ、本当に。
八千代を超えた感動だった。ここまでの過去を語るのも無粋になる感激だった。いっそ前世からの再開だったんじゃないかってくらい喜びを携えて、その全てを胸の奥にしまった。それを表に出すには、僕はあまりにもこの力に雁字搦めだったから。
バレてるだろうか。
いや、決してバラやしないだろう。
僕にとっては理想的で、イジらしい。いっそ意地悪なくらい居心地のいい奴がその力を持っているなんて、誰が想像付くだろうか?
魔性に惑わされない。
いいな、僕を見てくれるだけで高得点だ。
しかも一族揃って僕を出迎えてくれる。
とてもいい、人の温もりを思い出させてくれた。
人間味がない。
贅沢すぎる、それは僕が唯一支えられる事だろ? 友達甲斐があるじゃないか。
その上、元々は純朴な少年だった痕跡もある。
おいおい盛りすぎだろ。隠してるけど実はタイプなんだよそういう真っ直ぐな奴。
「どうしよう……………惚れたかも知れねー」
バタバタバタ。
ちょっと恋人の夢に思い馳せられちまうような奴だった。
電車で会話して以降、家に帰ってから何回夢かどうか疑ったか数えてねー。そんなキャラじゃねーから隠してるが、久々に人間らしく悶えるなんて事が出来たのも記憶に新しい。
それはつまり、人間らしさを無くせば処刑される身としては、人らしさを思い出させてくれるイイノリは、文字通り一緒に居るだけで寿命が伸びるくらい好きな奴って事になる訳で……。
「だからよー」
だからこそ──ソレを僕の断りも無しに殺したり、手前勝手に使ったりするのは許せない訳で。
「サッサと手ぇ離せや阿婆擦れ共が」
それこそ最近再生し始めた自分の人間らしさを削って"幽霊"みてーな感じになろうとも、僕は「
『◼︎◼︎◼︎◼︎──!?』
奴が、吹き飛ばされる。
イイノリの
ははぁ……なるほどね?
「テメェかよ、この力の大元」
触れて、震えて、振るわせて、心で理解した。
僕に散々苦渋を飲ませやがったクソアホボケカス豚のけつの穴以下の力の出所はコイツだと。
似た様な姿をしてる地上の方じゃねー。マジのガチの、深海の底の底、正確にはPA社で複製されたコイツじゃなく未だ復元されずに深海に溶け込んでる本体の方が僕に力を与えたんだろうが、似たようなもんだ。
コイツにはぶっ殺したいほどの因縁があり!
「僕の友人に手を出しやがったんだ。
──覚悟、出来てんだろうな?」
僕は出来てるぜ。因果を報いてやる覚悟がよ。
「生誕」
赤い血のように湧き立つ己の人間性を手に沸かせ、握りしめて鎖を固めた槍に転ずる。
「魔性」は常に誰かを惹き寄せる力が目立つが、その真価は何かを沸かせ、創り出すことにある。
怪力、肉の再生、武器の作成、なんでもござれだ。発想が許す限り僕はなんでも創れる。
それこそ──人と神を別つ鎖の槍すらも。
「人と神を別つ槍《
歴史の教科書のどっかで見た名前を借りた槍を振るう。
少しでも擦ればそれでイイノリを取り戻せるんだが、最初に勢いよく突き飛ばして眼を覚ましたのが悪かったらしい。
お相手さんはその角と巨乳と高身長とアホみたいな露出度の格好からは想像付かない軽やかな動きで避け、泥に手を突っ込んでぐわりと何かを取り出し──否、「生誕」させる。
『──仔が、わえに、反ずるな』
奴が初めて囀ると同時にぐわんと泥が揺れて体積を増し、泥の、大口の、ワームに似た怪物が僕を食わんと迫る。
……冷静になれ、大丈夫だ。大きいならそれだけ口を閉じるまで時間を掛ける。なら、ギリギリまで──。
「ふぅぅ……………」
溢れ漏れ出す力を纏め、ロスを最小限に留める。
力を纏め、槍をストレージにしまって新たな武器を、力を創りあげる。
武器の形にするだけじゃダメだ。今から創るのはもっと、誰にも取られない形にしねーと。
「"魔物"を楽器にするアビリティ【
[*変動を-2$+…-──人体-・¥+-不可──再定-¥-──
おっと、人には出来ねーとゲーム側から言われちまったな。態々ユニークじゃなく新ジャンルを作るあたり特別扱いが鬱陶しいが……。
たかがアレの子である
多分、思考も飛び飛びになってるだろうぜ。
『……誰だ。わえは、おまえを産んでない』
おっと……今更、僕を見たかのかよ。たった今作った子供を一匹殺して漸くか。
あー…視点が上の奴過ぎんだろ。癪だが呼び易さ重視だ。奴の事はコレから"神"と呼ぶとして、神視点にしちゃ子供は一匹一匹ちゃんと愛してはいそーだな。
どっちかと言えば"ちゃんと思い通りに動いてね"っつー道具に対する愛着に近そうだが。
「だろうな。僕はテメーの死体に触れて再誕した「魔性」の一つだ。テメーが世界をどう見てるかどうでも良いが、自分が死んでも何かを創っちまう地母神だってのは自覚した方がいいぜ」
今の僕はアバターではなく夢の世界で活動する時の姿だ。
羊の角、獣の身体、九尾に似た尻尾に、宇宙が広がってるような内臓。
……奴に子供と思われても仕方ねーだろうさ。人らしさを削りながらここにいるんだから、それを認めてやる度量くらいはある。
『…そうか、静止した時間に、自ら記憶を釘刺しにして、死してなお、産んでたか』
「そうだな、おかげで僕の人生は死んじまったよ。切り裂いたという結果だけが残る現象「
何となく時間を歪めるのはマズいと思考が走り、寄生し時間の在り方自体を変える「生きた現象」を産み出す。凄いだろ、リアルにまで波及する物理法則の改竄生命体だぜ?
コレで詰みだ。斬ったという結果を先行させる僕贔屓の現象、神と人を別ける神器、相手の生み出した奴を楽器に変える防御策。
『……すごいね』
「子は親を超えるもんだ。そうだろう?」
向こうが生き物しか産めないのは本能で理解していた。それだけ「魔性」に寄った。
だからこれで完封だぜ? 僕は「魔性」も凄いが真価は「創造」だ。死んでもなお産めるような母さんの「出産」とは違うが、真の創造神になるだけの素質が────。
「ゴフっ…」
つぅ…自分で自分を殴るのはキクナぁ…。
『…大、丈夫?』
「なんてこたねーよ。魔の肉が人の骨子を削ってやがるだけだ」
────チッ早く戻らねーとな。
殴って戻るにも限界が…受け答えして時間を稼がれてんじゃねぇ!
「僕のを──離せ!」
『やだ』
……斬撃が斬られてるのに人と神で別れてねーだと?
何が…いや、そうか!
「"その身体、テメーの子供か!"」
人らしい姿、気配の模倣、クソ、奴がしょっちゅう産んでたショゴス! それもちょっと気合い入れた奴! 道理で何やっても平気な顔をしてる訳だ! 本来あった火とか諸々強耐性の防御特化、その上で事前に仕込んだ子供で出産を偽装! 無駄に頭働かせてんじゃねー! そういう神性じゃねーだろお前は!?
……ああくそ! 魔の肉が僕に知らない知識を打ち込んで来るな!! どうでもいいんだよそんな神話の話なんざ!
『そう、わえの言葉、届けてるだけ、わえ、居るのは──"199"』
イイノリお前攻略早くない? えっ普通にびっくりしたりほっこりしたりで人間性回復したわ。
あ、でもこの神なんかやらしい笑顔してやがる! 三日月口なのになんかえっちだぞ! イイノリになにをしようってんだ!
『わえ、これ、気に入った。
頭が澄む、権能が自在、信仰に縛られない、ここから出られる、現実に帰れる鍵を持ってる。
そしてかわいい、わえの身体にして、わえの仔にする』
肉体は自分の物にして精神は自分の子供として産み直す……だと?
はっ? 普通に許せん。人を玩具扱いすんなぶっ殺すぞ。
『だから、身体の望み、叶える、わえの望みでも、あるから』
イイノリの妹達は助けるってことか? 律儀なのは宜しいが奪ってるから論外だ。
心に身体を持たせて産んだらいいってもんじゃねーんだぞ。それに伴う変質、本質の変化、全てが彼に対する恥辱だ。たとえ中身がボロボロに崩れてよーと、再誕すれば穴ぼこが埋まって健康な心になろうと、その一線は知性を持ったんなら超えてはならねーんだよ。
「……さっきから聞いてりゃピーピーピーピー好き勝手言い腐りやがって」
生誕、階層の位置関係を正確に把握出来るゲームシステム「
転移に他人を巻き込めるようにするスキル「
これで用意は終わった。
「親なら子に譲れよ。先着順も分からねーのか?」
『……仔は、その力の分、報え』
「だったら仇なさねーとな。血も魂も関係ねーよ。ただの他人として排除してやる」
『……だったら仕方ない、
──本能的に理解した。今、コイツは殺して己に取り込むことを心の底から親愛表現として使いやがった。
ずっと嫌悪が止まない奴だったが、もう決めたね。
コイツは僕の許しの器に入れてやらない。どれだけ余裕があろうと、絶対にコイツをそこに置いてやらない。今後一生の敵だ。
「やれ、二満月」
「──"残火"」
奴の言葉を伝えていた魔物の身体が、いつぞやの生火により崩れ去る。
それが何かを伝えて来る、こんこんと湧く知識に……或いは僕の千の仔は知識の形をとるのやもと脳裏に過ぎ去り──意図的に忘れ、199階へ転移した。
……待っててくれ。どうか。
僕が僕である内に助けるから、どうか、助けられてくれますように。
誰に言うでもなく、僕はそう思ったのだった。
阿佐美が言っていた言葉の今昔話
今=昔
人間性=SAN値、魔物=落とし仔、知識=クトゥルフ神話。
過去に戻る時、墓地は先人の遺言ではなくこれからの隣人の名簿になる。