前回と今回のあらすじ
凄い戦利品はやり方は違えど大体万能。
山本は精神回復不要、阿佐美は山本と居ると回復、柳田は瞑想で整える。
ながら演技は事故の元。
阿佐美が苦労している頃、舞台の上では──…。
「10分過ぎましたよ」
『今、良いところ』
「約束を守らないんですか?」
『そもそも、退けようとしたってむ……む、思ったより…力強い…! 交渉、こーしょー』
「聞きましょう」
謎の泥を被って泥の好きなように演じていたのだが、何故かこの泥は10分経っても居座ろうとして来た。その上交渉までしようとしている。
交渉の権利は誰にでもあるので応じるが、何処からかやって来た身分にしては随分と傲慢な態度だね。
『わえは神です』
「はい」
『わえは母です』
「はい」
『……また、釘付けになって、死にたくないです』
「はい」
『身体ください』
「ダメです。それをなんとかする為の10分間を無駄にしたのがあなたですね」
その辺り不思議だよね。見てたけどなんで最初の8分間は棒立ちしてたの? その間にその子供を産む? 奴で身体を創ればよかったんじゃないの? それとも出来なかった感じ?
『……低次元でも、知性、得たの、久々。慣らすのに、時間、かかった』
「ああ、だからそんなつっかえた喋り方なんですね」
『お慈悲』
「事情有りと認め10分の延長を許可します。代わりに今後交渉には応じませんし、あなたを暇潰しの話し相手にします」
『大好き、ラブ、仔にしてあげる』
「お好きにどうぞ。受け取るかは延長が終わってから決めます」
という訳で延長を許可した。
うーん、久々に思考できるようになったのなら仕方ない。あれはボーッとしちゃうよね。
俺も最初から最後まで演目をやった時は……ん? そんな事した事ない筈だよね? 演劇部……違うな。全部俺のやつだった気が……やっぱり覚えがないな、記憶違いか。
「それで、どうやって元の力を? 私は演じることしか出来ないのですが」
『頭脳代わりに、してるだけ、だから。身体は、元からあるのを、使ってる』
現在俺の身体の操作権はこの泥に寄越してるのだが、その影響なのか身体自体が完全に泥化していたりする。泥相手には偉そうにしてるけど、戻してくれないと困る側でもあるんだよね。
さて、どうにか手がかりを会話で吐き出せないものかね。
「ぬいぐるみ……いえ、ロボとパイロットみたいなものですかね。認証とかあるのでは?」
『わえがここにいる、から、素通し』
「なるほど、雑なのか要領がいいのか分からない身体だ」
そんな俺と泥の肉体は現在、大地や空の元になる子供を産み落としながら最短経路で迷宮を強行中である。いやー強い。さすが155の深層フロアボスだ壊れた空間を無理やり修理しながら進めてる。
なんでそんな事してるかは知らないけど、あの調子で復元してもジリ貧だったしありがたいよね。
155でコレが出てくるのだ。これより下は何が出てくるか想像も付かない。
「なんで攻略を手伝ってくれてるんですか?」
『……この世界で、身体を創っても、夢の中。リアルで、創りたいけど、ログアウト、するには、用事が終わってない』
「ああ、そうですね。この状態でログアウトするとか面倒な事になるのは流石に予想付きますし、其処はこっちで握ってます」
じゃーん、と取り出したのは「ログアウトする為の意思表示」、これが無いとログアウトボタンは押せません。こっちから自主的に譲ったんだ、そりゃあその辺りはこっちの有利なようにやるよね。
主役を譲る時に身体の全部を渡す訳には行かないからね。こういう重要な要素はコチラで握ってるのだ。正確にはその行為を解禁する為の
「だから助けるんですね、嬉しいです。そうなったら私もあなたも嬉しい決着ですね」
『うん。リアル、もう他の神居ない、わえのやりたい、ようにできる』
「ほう、どうするつもりですか?」
『ふふん、よくぞ、聞いた。まず、人を全員わえの子にする』
へー、人類の産み直しかー。それの何が楽しいか分からないけどやりたいらしい。
産むのは痛いし苦しいって聞いたけど、そこは大丈夫なのかね。
「なんでそうするんですか? 見た目からして人類とあなたって関係ないでしょう」
『空間、時間、夢の世界の開拓、果てには銀河まで……神の手なしでここまで成長した、すごい。偉大なりし無尽の欲望。わえの全盛の知覚では拾えなかった変なの。よぐの夢の外から、来た、外来種だったりする?
滅んだわえよりすごいと認めた。だからこそ、手、かしてやれば、いつかはよぐの夢すら飛び出して永久に繁栄、可能かろ?』
ヨグがなんなのか知らないが、どうも夢から飛び出して一緒に繁栄したいそうだ。
うーん……話し合いから始めたら? 実行よりもやるべきことがあるからそうした方がいいよ。
「そうですか。すごいと認めたのなら先ずは日本国の長と話し合ってから始めてくださいね。それが我々の流儀であり、あなたが取るべき礼儀です」
『そうなの?』
「はい。国家の長。つまり家の大黒柱、我らの父です。母なら父と相談するのは普通でしょう?」
『なるほど。そうする』
納得してくれた。流石は大らかな母の神だ。理解出来る範疇に話を纏めればかなり素直だね。
「では他に何をしたいですか?」
『わえ、今は全盛の1%。残りの99の力、どこ行ったか知りたい』
「地上の山羊」
『知ってる。この身が現し身なのも。だから1%、端っこ。でもイケイケの頃の自我だからわえが本体。残りがただの力』
「なるほど、分霊が本霊を乗っ取ろうみたいな話ですかね。知ってる力を言って貰っても?」
うーんと…と泥が悩む。まあややこしいだろうね。ゲームでコピられた方にも力が宿ってるっていうなら、地上の山羊とか二体居る訳だし。
『地上の変わりきったわえその1が5%、その2も5%、崩壊してる方のわえが1%で……。
ミコが"10%"…使いこなせてないけど。後はリアルに居る男の子が1%』
「わお、阿佐美さんの比率が高い」
いや本当に高いな……現時点で22%の所在が分かってるのもあれだけど、それ以上の驚きだ。
え、1%の泥が崩壊してるとはいえ199階まで強行できるんでしょ? その10倍を使い熟せたら本当にヤバそうだよね。何が出来るか想像も付かないくらいだ。
『あの…あれ……はいしん…? あれが収集システムになってる。人々が持ち帰ってた、わえの欠片、つぶが、ちりつもで。どこかで先祖代々、継いでたのも、貰ってるかも』
「ははぁ……」
つまり今の阿佐美って日々進化してアレなんだね。道理で最初に会った妹達も礼儀が崩れそうになる訳だよ。実質人類の結晶みたいなものだもの。
……なんでエーコは抑え方を教えられたんだろう。兄としては嬉しいけど、コレからの成長が不安にもなったよ。どれだけか細い可能性の役を引っ張りだしたんだか。
「他には?」
『ない。身体創って、賢くなってから、考える』
「では今の言葉を翻さないように約束しましょう。人前で言ったからには前言撤回は無しですよ」
『うっ……』
「どうしました? やりたく無い事情でも?」
『……人類、見た感じ、「契約を絶対守らせる力」、ある。身内と言葉が分からない種族には効き目弱いけど、わえには効く。かなり』
「かなり? そんな…まるで悪魔みたいな力が?」
『ある。かなーり効く。完全体のわえでも、人類同士の約束くらい、効く』
「となると今のあなたでは絶対契約になっちゃいますか……」
うーむ……約束はしたいけどそこまで縛り付けたい訳じゃないからなぁ。
じゃあこうしよう。
「では、「破るな」ではなく「破ったらただじゃおかない」で。これで破れるようになりましたね」
『ぐむ……分かった。"約束する"』
泥がそう言った途端、俺の心臓から青白い鎖が伸びて泥の首にぐるりと巻かれる。
ジャキンと鎖が張る音と共にこれまた何処からか現れた錠前がかけられると、虚空へと消えて見えなくなった。
……マジでなんか出てきたね? へー、人外で言葉が分かる奴と契約するとこうなるんだ。ここが俺の精神内部だから視認出来たのかも知れないけど、いい事を知った。
「お、さっきまであった所に触れても何も無い……では約束ですよ」
『うむ』
「ところでヨグってなんですか?」
『ずっと寝てる神。この神の夢の中にわえ達がいる世界がある』
「へー……その神が起きたらどうなります?」
『全部、泡のように弾ける。因みに、ずっと寝てる、ようにしてた、ニャルとかは死んだ』
「そのニャルって神様ですか?」
『うん。最初に言ったけど、もう神様、よぐ以外全員死んでるよ』
「何があったんですか」
『よぐが"神"に飽きたから……ずっと同じ顔、見飽きたんだって、ニャルが言ってた』
なるほど、どんな夢を見ても登場するキャラに見飽きたから夢に見ないようにしたと。
はー……その辺りはちゃんと神様だね。夢を操るなんて器用な話だよ。
『あと、よぐはもう既に"一回起きてる"』
「あ、これ二度寝なんですか?」
『うむ。それで、わえ……というか、多分だけど、ドリームランドはその残骸。弾けて残った、泡の水垢』
「へー、そこは憶測なんですね?」
『わえ、寝起き。頭の次元も低い。けど、神は神。10年分だけ、過去の全てから、閲覧くらい、出来る。大体合ってるよ』
ふーむ……つまりこうだ。
ヨグが神に飽きて消す→ずっと寝てるようにしてた奴が消えたので起きる→何が有ったかもう一度寝て俺らの世界を夢見る→かつての世界の残骸こと「ドリームランド」にPAGを展開→イマココ。
ふーん、そんな世界の秘密が有ったんだ。俺の生活が良くなったりはしないけど壮大で神秘的だねー。本当の事なら…だけどさ。
なんちゅう所にPAGを開店してるんだって気はするけどね。そりゃあ変な事が起きる訳だ。
「大体事情は分かりました。感情的に敵対する理由も味方になる理由もないですし、妹達を助けるのを手伝ってくれたのでその分手伝いましょう」
『……意外。てっきり、冒涜的とか言って、殺しに来るかと』
「しませんよ。グロティックな見た目なだけで恐れたりしません」
『……前の人類より、強いね』
「前の世界ですか……まぁ、見た目が同じなだけで中身は別物なんでしょう。文字通り世界が違うんですから」
という事で俺は泥を救助パーティに参加させる事にした。実に頼もしい話である。
「あ、それじゃあ阿佐美達にも挨拶をお願いしますね。一緒にビブラの人達を助けに行くんですけら」
『分かった。丁度、連絡用の、仔を残してる』
「ではそれで」
というわけで制限時間まで余裕もあるし二人で待ってようという話になったのだが……。
──『わえ、これ、気に入った。
──頭が澄む、権能が自在、信仰に縛られない、ここから出られる、現実に帰れる鍵を持ってる。
──そしてかわいい、わえの身体にして、わえの仔にする』
「すみません、どういう意味で?」
『?……この夢の中の、間、わえの身体にして、胎にありし、我が子なりや? なら、取り出したる時、それはもう、元と同じと言えど、わえの仔かろ? 出さねば、生きられぬのが、人よね?』
「なるほど、確かにそうだ」
うーんなんだか空気が悪い方へ行っている気が……ダメだ殺すとか阿佐美が言い始めた。なんだか知らないけど気に入らなかったんだね。
仕方ない、阿佐美より泥の方がこの先有効そうだからこっちを連れて行こう。パーティチェンジだ。
「仕方ないですね。ゲームの領域圏内に送って殺しましょう。レベルも上がってますしそれで今晩の間は行動不能です」
『……分かった。それも愛』
「えっなぜそこで愛……?」
『…? ミコ、愛してるから、危ない場所から、離そうと、殺そうとしてる、だよね?』
「え?」
『ん?』
───『……だったら仕方ない、
「『あっ』」
……スゥーー…やべ、かなり変な事言っちゃった。これだから役と話しながら身体を動かすのはダメなんだ。演劇が始まったのなら演技に集中しないと。
仕方ない、こうなったら上手い事落ち着かせて話を聞かせてやらないと。もう聞く耳持ってないし。あの俺と泥の契約を違反させようとしてる槍も厄介だし、その辺りをどうにかしてからだ。
ふぅ……無駄に強いからこっちも全力でやらないと辛いぞー!
「二人三脚です。あなたが神の力、私が演技とゲームの力を引き出し、協力して阿佐美さんと師匠を倒しましょう」
『分かった。欲しい仔が居たら、言ってね』
「お互いの心を繋げる子」
『流石の人類も、わえと繋がったら、情報量で、発狂必然。それにおんしとわえ、繋がってる。頭部爆発、避けられぬ』
「じゃあもうアレです──
『らじゃ』
・みんなの些細な疑問・
山本(なんで戦うことになったんだ?)
どろ(名前全然聞かれないな……わえの養子であるミコちゃん、恋が実るの大分先になりそう…がんばれー)
阿佐美(二満月がどうして火の力を…?)
柳田(ミコ殿なんか…強くないか…?)
全てを観客席で観ていたシンエン(山本が連絡すれば済んだ話だったじゃろうに……)
よぐ?(アザトースだよ寝ぼけのばかやろー)
今ここに、しょうもない開戦経緯だけど絶対勝たないといけない戦いが始まった──!