画面外で発生していた一幕
かつての平瀬「あ、あの…よければお礼に……」
バイト脳山本「じゃあまたねー」
かつての平瀬「あ……は、はい…そうだよね、私なんか興味ないだろうし……それなら私も諦て………」
TOPIK:第一部は山本がどれだけ注目したかに応じて描写の濃淡を決めていた。書かれてないということは、本人にとってなんら興味が事柄ということである。
恋仲発生条件:平瀬にアドバイス後、お出かけの誘いに応じる。
攻略難易度:Lv.-☆(お前が攻略される側だしもうベタ惚れだよコイツ)
どうしてコイツは勇気を出した後輩の誘いに(ry
平らに出来ない感情/憧れを閉じ込めよう
[ねー、なんで平瀬は俺をノーパソに住まわせてくれてるの?]
「え、え!? きゅききゅ急にどうしたんですか!?」
突然のことだった。あの変人の先輩が急にまともな事を聞いてきたから。
だから私は思わず飛び上がって、声を震わせて持っていた櫛を絨毯の上に落としてしまった。
ああ! 勢い余って手が滑った! 先輩の癖に不意打ちするなんて! ちょっと生意気!
[今日ビブラダンジョンで浮浪者のビジョンを見てさ、何処の家を尋ねても断られてたんだよね。だから改めて気になったんだ]
「あ、ああそうですか……良かった…いやよくない? やっぱり良かった……?」
[? それでなんで? 改めて考えたら女子的に男を家に住まわせるってマズいんじゃないの? 今こんな身体だけど]
「こんな身体……」
ドキドキとする心臓を抑え、改めて先輩を見る。
男性的で私を変えてくれたあの頃と違って女性的な顔立ちで、なよっとしてて、でも表情はやっぱり先輩で、じっと見てるとドキドキが加速する人。
色々あって電子生命体になった今でも、不思議とこの人を見放す事が出来ません。不思議ですよね、何もかも変わっているのに、この人こそが私の先輩だって分かるんですから……変な人ですよね、先輩は。
でも、今の先輩って男なんですか? そこだけは分からないんですよね、先輩ってここ最近獣人になったりロリになったり忙しなかったですし。全部可愛いくて素晴らしい程に眼福でしたけど……夢の世界の影響なのは理解しますけど、しまいにはコレって流石に代わり過ぎでは?
「……確かにそうですけど今って男なんですか? それとも女性?」
[どっちしろ画面からは出られないね]
「はい、なので別に襲われる心配とかはしてないんですけど……で、どうなんです?」
[え? うーん…ちょっと後ろ向いてて?]
追及してみると、先輩は困ったように画面の中をウロウロとし始めます。
可愛い。どうにか画面外に出て隠れようとして出来てない所が。この人会った時からそうでしたけど、ちょこちょこ小動物みたいな所があるんですよ。もしくは子犬。
そんな様子をじっと見ていると、先輩はコチラを見て困ったように身体を傾げます。
おお、上目遣い。見た目の可愛さをフルに使う事に関してはやっぱり演劇部の先輩なだけはあります。男らしさも女らしさも自由自在です。流石先輩!
[後ろ、向かないと調べられないかなーって思うんだけど、その辺りどうする?]
「後ろ向いて服の上から触れば一発じゃないですか」
[女子に見せていい姿ではないね、それは]
「ふへへ……分かりましたよー」
やっぱり可愛い。先輩は紳士らしく振る舞ってますけど、そう言ってる時にちょっと恥ずかしそうにしてるって気付いてるんでしょうか。ちょっと顔を逸らして、アレで天然だから可愛いくてイジリ甲斐がある。
私は普段は大人しくて引っ込みがちだけど、先輩のこういう顔を見たい時は不思議と積極的になれちゃうのだ。
なんなんでしょうね、この嫌がる赤ちゃんのほっぺをぷにぷにしてる時と同じ感情は。名情しがたいです。
[分かった、男だこれ]
「へーぇ……触ったんですね?」
[それ以外ある?]
「女の子の部屋で触ったんですね?」
[……失礼しました]
「そうじゃなくてー…もっと言うべき事があるんじゃないんですかー?」
[なにが?]
先輩がまたもや困った顔で首を傾げ……あ、傾げすぎてコケた。何事もなかったかのように立った。あ、反対側に首を傾げてコケた。
あざとい。先輩って運動は出来るのにこういう……特に誰かと競い合ってない、のほほんとした所だとこうなるんですよね。そしてコケたりしても気にしないから繰り返したり、変な姿勢になったり。天然さんってズルいですよね、もう無限に見てられます。
[分かんない]
「ふふふ、答えはー…触れ合えるように頑張るね、でしたー」
[なにそれ?]
「ふふふ……忘れてください…!」
[いいよ、はい忘れた]
正気に戻り、とんでもない事を言った自分を無かった事にする。
先輩はなんでもすぐ忘れられるタイプだから、こう言えば大体の会話は無かった事に出来るから、つい油断してしまう。
だが…なんだあの答えは。私は淫乱か? ダメじゃないですかそんなの、本当に気持ち悪い。先輩の紳士さを真似た方がいいんじゃないですか? 爪の垢でも飲んだら……兎ちゃんになってた時に爪はみはみしたかったなー…じゃなくて!
「先輩……」
[どうしたの平瀬]
「どうして先輩はそんなに可愛いんですか?」
ベッドに仰向けに転がり、腕で照明の光を遮ります。
もー…先輩が私のパソコンに住んでから調子が狂いっぱなしです。
なんですかもう。ここまできたら寧ろ先輩が私をイジメてるのでは? 私は訝しんだ。
[それ男にする質問じゃなくない? ところでなんで平瀬は俺を住まわせてくれるの?]
「先輩が好きだからです……あっ」
[へー、じゃあ俺そろそろダンジョンに再挑戦してくるね]
「待って待って待って待って待って!!!?」
ダメです先輩忘れてくださ──!! もう、居ない。
ああ……。
「終わった……」
なんて……なんて情けない。
なんですか、あんな告白はないじゃないですか。私はバカですか? 油断してたからってあんな雑な告白はダメじゃないですか。サラッと言うようなそんな軽い気持ちじゃないんですよ?
え? 私そんなに先輩好きなんですか?
「あ、あれ? 可笑しいな、涙が出てきました……」
自分の思考に自分で驚くなんて始めてだった。
とんでもないミスをして、始めて気付いて後悔する。こんなことが本当にあるだなあって呑気な思考があって、それが現実逃避だって自覚してまた嫌悪と後悔を募らせる。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
どうすれば良いのか分からない。だって、こんなの絶対にフラれるか、冗談だって流される奴だ。
短い付き合いだけど、一緒にいる時はずっと見ていたからわかる。先輩は一度フったり、冗談として言ったら、次はどんな状況でどんなにこっちが本気でも……絶対受け止めてくれないんだって。
「バカだなぁ……私……こうなって今更気付くなんて」
先輩が、世間一般の目で見たらどうしようもない人なのは分かってます。
仕事は出来ても過程は明後日の方に飛んで結果的に成功するってだけだし、鈍感だし、にぶちんだし、危なっかしいし、トンチキだし、気の遣い方が変だし、私のことなんて眼中にないし……。
「どんな先輩を見ても惚れ直してたのに、どうして……」
自分の気持ちに気付かなかったんだろう。
……そうですよ。
憧れるなら誰よりも演技が上手い先輩でも良かった。
自分を変えるなら他の部活でも良かった。
愛でるなら企業が売り出してるマスコットキャラクターでも、なんだって良かった。
全部、先輩でなきゃダメな理由は何一つ無かった筈。
──「──あいしてるわ、いとしのあなた」
──「ああ……その言葉からもう僕は逃げないよ、ハニー」
なのに先輩を選んだのは……あの日、あの時、あの瞬間。
(ああ──なんて綺麗な、白い人)
ふと視界に入った路上演劇の、小さな妻役をやってるあなたを見て。
姿でも演技の上手さでもなく……心の底から、その在り方に惚れ込んだから。
「えぐ……ひっ…ひっ……あぁああ"ぁ"〜……」
人は、時に理屈を超えて人を好きになったり、突拍子もない事をやったりする。
狂気と呼ばれるそれらは大概愚かしいことになり……されど、狂った人々はたのしそうに大嗤するのだ。
これこそ自分が1番やりたかったことだと、後腐れなく。
では、狂気に反したなら、そこに待っているのも大抵の場合……。
「お願いします…先輩、どうか逃げないでください……帰ってきて帰ってきて帰ってきて帰ってきて──…」
後悔である。
[なんで泣いてるの?]
「──先輩!」
[あんまり顔を近付け過ぎない方がいいよ、画面が汚くなるから]
「良かった……! 逃げないでくれたんですね!」
[どこに俺が逃げる要素あった?]
ああ、良かった。
これなら先輩をアナログにしたパソコンに閉じ込めて、私の心が伝わるまで話し合う事ができる。
[ところでさっきダンジョンから電子情報を現実に置換する方法と材料を持ち帰って来たんだよね]
「こういう……ん?」
こういう事だと通信環境を遮断しようとした時、先輩が何やら妙な事を宣い始めました。
……イヤな予感がします。こういう時は大抵、先輩は碌でもない事をするんです。
「……どういう事ですか?」
[じゃーん、"DMPを活用した物質変換アプリー"。なんか研究所っぽい場所に落ちてました。これで人体の設計図があれば俺は現実に帰れる訳ですよ]
「解決の糸口を見つけるのが早い……」
[先輩だからね。それに言ったでしょ、お礼はするって。ただー…まだちゃんとした設計図が何もないので、今はコレを贈ります]
自分で書けたら良かったんだけどねーと言って、先輩が背中のバックからアプリのアイコンを取り出しデスクトップに貼り付けます。電子生命体になってるだけはあるのか、直感的な動作で小難しい処理をなんとかしちゃってますね……ん? 先輩そんなのを持って帰って一体何を現実に出そうと…?
ジジジ…。
[うわ、カメラから青いビームが! 3Dプリンターみたいに!]
「ここ、先輩が驚くところですか?」
[だって使ったの始めてだし…そっか、これカメラから出す感じなのか]
「そんなのでよく使えましたね……?」
[やれと念じたら出来る便利な身体です]
「……ふふ!」
なんとかかんとか……ああ、おっかしい!
あんなに不安と恐怖でいっぱいだったのに、先輩がいつも通りにしてるだけでもうなんだか色々考えてたのがバカらしくなっちゃいました。
そんな所が好きで……やっぱり私は先輩には敵いそうにありません。
ジジ…。
[お、完成した]
「わわっ……と…これは…?」
妙なアプリで私の手元に創られたのは、なんとも奇妙な……液体金属のように溢れんほど輝いている、銀色の花飾りが付いたヘアピンでした。
[素材は無機ナノ5g。水銀と違って触れても無害。念じれば色・形・肌触りの調整は自由自在。他の金属の性質も99.976%模倣可能で、撮影通信メガネと大抵の機能を得られる。文字通りの万能金属だ]
「なんだかすごい気がしますね…?」
[現実にはない技術の物だからね。で、それをヘアピンの形に形状記憶させたのがそれ。鉱石ラジオの応用でデフォで俺と話せるようにしてるから、寂しくなったらいつでも相手になるよ]
……あーもー、ホントに敵わない。
閉じ込めようとしてたのに、贈り物一つで安心してやる気がなくなるんですから……本当に、私は先輩にだけは惚れっぽいみたいです。
「……ふふふ、なんですかーそれ? そんなに寂しくさせない自信があるんですかー?」
[えー、好きな人といつでも話せるのは寂しさと無縁じゃない?]
「ごっ……フッッ………!」
あ、え、なになになんですか先輩てっきり私ダンジョンの攻略の最中に私の言葉を忘れてたかとあれあれ、え、あれ?
……お、覚えてくれてたんー……ですね?
え、つまりコレってそういう…?
OKって事でー!?
宜しいんでしょうかーーぁ!!?
[あれ、違った?]
「いーえ違いません! 100億万点の答えです! 先輩大好き! 身体が戻ったらハグしましょうね!!?」
[それくらいならいいよ]
「やったー!?!!?!!」
あれー!!? 私は勢いで何を??!!? あーでもいいって言ってくれて嬉しいからいっかあヨロシクなあ!!?!?
「違うんです先輩……私が先輩の事を好きなのはこんな性欲なんじゃなくって、もっと淡くて純粋な感じで〜ぇ……」
[それよりヘアピン付けてみてよ。似合いそうなのを選んだからには見てみたい]
「はいー! ただいまー!」
拝啓お母さん、私はもうダメかも知れません。
先輩が自分の部屋にして、好きにOK貰って、自分に頼るしかなくて、しかも贈り物までくれて、幸せ過ぎて死にそうです。今の私は何するか分かりませんよ、ええ。先輩のどんなお願いにも従っちゃうって自覚がありますからね、ええ。
なにせ忠犬系後輩完売…! 先輩のお家にどなどな〜…! あーそっかー、私、先輩のペットになるんだー。
「ふんふん、どうでしょう!」
[うん…うーむ? 想像してたより可愛いけど、想像してたより美しいって感じじゃないかも]
「……ギャグにしちゃってごめんなさいです!」
[あーそれだ。さっきから犬の耳と尻尾が幻視しちゃう感じだからだね]
はい、冷静になりしょう。流石にもっとしおらしくした方がね、はい、先輩の贈り物にも良いでしょうからね、はい。
「──ありがとうございます、先輩! ずっと大事にしますね!」
改めてそう言う私を見つめる先輩は、クスリと笑って満足そうに頷いたのでした。
山本(これで家賃分は払えたって事でいいよね? ヨシ!
それにしても好きと言ってくれたのは嬉しいねー、こんなに慕う後輩を持てたのは。先輩の
この子をスルーして大樹の攻略に走った罪は重い。どうしてこの子がゲームを始めるフラグを無視したのか。心強い仲間になったのに……ただ、この子に命を賭けさせる真似はさせずに済んだのでトントンでしょうか。