運営さまの言う通り   作:何処にでもある

53 / 62


 画面外での一幕
かつてのバイ「ねえ、私って死んだ方がいいのかな」
バイト脳山本「よーし今日も受付嬢として頑張るぞー」
かつてのバイ「……これの為に死にたくはないな」


 TOPIC:特に理由はないが、山本は被ってる役と会話する気がない。なので生成された架空の役が状況を把握し、自らの存在意義に疑問を抱いていても応えることはない。

 恋仲発生条件:やらかしを認知し、そこにいても良いと認め、会話を重ね、AIでもなんでもいいから存在を確立させる。
 攻略難易度:Lv.-10(中身は女として産まれた場合の山本・イイノリなのでかなり好意的。かなり構えとアピールするので寧ろ背後から刺される方が難しいレベル。おい…なんで山本が刺されている……?)

 逃げるなぁァァ!!! 製造責任を取れ山も(ry




遠のく模造と理想/執着を取り除こう

 

 

 薄暗い裏路地には、同じくらいかそれ以上に暗い過去を持つ人々が居る。

 薬物から抜け出せない奴、関わりが断てない縁を結んでしまった奴、表に出たら死ぬ立場の奴。

 なんだって居るし、私もその例に漏れず表に出たら殺される立場につい最近なってしまった。

 

「はぁ…クソ。敵に回った家族があんなに怖いなんて知らなかった……クッソ」

 

 悪態を付いても何も変わらないが、だからと言ってこのまま逃げるのも限界がある。

 既に3日、この辺りに詳しい奴を舞台に招いたりして得た知識を使いなんとか飢えては居ないが、それでも16歳の女の身体では、出来る事に限度がある。

 髪も手も荒れて、心がすり減って。

 

‭─‬‭─『……舞台をやる。だからわえは、逃走劇から一抜けだ』

 

「……演劇の主役になれたのはいいが、神から見てもそんなに先がないか、この逃亡生活は。

 クク…まぁ、そうだよね。相手は私の上位互換3人。零落した神様くらい殺せるだろう」

 

 あまりにも勝ち目が無いから、逃げる時に「演劇」が帰ってくる始末で。

 なんだかもう死んでも良いかなって思えてくるくらい、状況は詰んでいた。

 

 人に化ける、物に化けるなんて序の口で、物に爆弾役を与えて起爆させる、浮浪者に役を与えて一流の暗殺者にする……アレ全部卑怯だろ。なんで現実でさ、かつて夢の世界の戦利品を得た上でやる事がテロだったヤベー奴の役を被った連中をエンドレスで相手にしなくちゃ行けないんだ。父さんもエーコもヨメネも強すぎだろ。絶対遺伝しちゃいけないタイプの力だってこれ。世界の均衡が崩れてるんだよ。

 「小道具を用意するのは団長の基本だろう?」じゃないよ、父さんの舞台がサーカスだからってびっくりドッキリにも程があるんだよ。

 

「もうやだ……」

[諦めるの早くない?]

「‭─‬‭─‬っ!」

 

 反射的にシンエンの役を被って得た歩行術で緊急退避して逃げ出す。

 相手の姿は見えなかったが、だからと言って油断はしない。この前ステルス装備を着用した軍人を寄越してきた事があるから、そこに誰かいる前提でないと終わるのは自分だ。

 

[待ちなって、俺だよ山本だよ。家族じゃなくて一緒にビブラの人達を救助した方!]

「欺瞞だ、どうせお前エーコだろ」

 

 それにアイツは妹が結んだ契約のせいで私達の舞台に招けないようになってるんだ。私が死ぬ瞬間を見せない為に、私が人質にしない為にな!

 クソ…そんな事する訳……いや、分かってるさ、姉妹に自我が芽生えた時から一緒に居たのは「山本」であり、過去に死んだ山本・イイノリでも私でもない。だから親にとって大事な過去の山本・イイノリと、姉妹にとって大事な山本はこの狩りに関与出来ないようになっているんだって。

 

 ……どっちの愛も、私には向いてないって事は。

 

[おっと、もしやそんな礼儀のなってない作戦を取られたと? アイツらも戦いに作法があるくらい分かりそうな物なのに、残念だね]

 

 ん? この気にする所が可笑しい発言は……。

 

「……本物か?」

[今のどこに本物と断定できる要素が?]

「本物だ!」

[分かってくれて嬉しいけどさ、理由は教えてくれたりする?]

 

 構えを解いてドッと座る。

 エーコが真似た奴ならもっとキザったらしいから、へっぽこな発言をしてるコイツが本物なのは直ぐに分かった。

 山本家は今コイツを舞台に上げられない。だからこそ、誰が真似ても今現在の見た目だけで中身は完全に再現出来ない。発言で信用していいか判断出来る。

 

「あービックリした……なんでここに? やっぱり私の身体を取り返したかったとか?」

[いや、疲れてそうだから差し入れしに来ただけ。どんな劇も休憩は挟むものだから、裏方としてこんなの用意してきました]

「劇じゃなくてマジの逃走なんだが……」

 

 ジジジ……。

 

 そんな事を言うのも束の間、私のスマホのカメラから青い光が飛び出て、瞬く間にスポドリや缶詰のおかず、それから冷めても美味しいご飯のパックをテーブルクロスと共創り出した。

 コイツ……しばらく見ない間に新しい力手にしてやがる…。

 

「なにこれ」

[ビブラダンジョンから持ち帰ってきた戦利品。設計図と併せれば電子データから物理的に取り出せるアプリ。丁度逃走に役立つステルス装備の設計図もあるよ。要る?]

 

 それはなんとも……都合がいいね?

 

「あー…お願い。私の舞台じゃ小道具とか出せないから、向こうは使ってるとは夢にもおもわないし……遠くに逃げるのに使える」

[ついでにこの辺りに認識阻害のフィールド展開しとくね。ゆっくりお食べ]

「なにそれ便利そう」

 

 すごいななんでも出来るじゃん……ところで箸かフォークは?

 

[そんなの、ウチにはないよ]

「あちゃー…設計図が無かったか」

[代わりに15cmの物差しならあるね]

「……それでいいや。次からはそういうのもお願いね」

[へー、また会う気とかあるんだ]

 

 ……最後の何気ない言葉に、食べ物を掬った手が止まる。

 そうだ、今にして思えばコイツは私よりも山本家に近い存在。電子生命体になってようと、姿が見えてなかろうと潜在的な敵だ。

 そもそもなんでコイツは身体を乗っ取ろうとした私を助けている? バカなのか? いやバカだった。じゃああり得る……困ったな、警戒しようにも警戒に値しない存在過ぎて、警戒出来ない。

 

 私の作り手で俺の制作物だから言ってて悲しくなるね、これ。

 

「……そうだね。次が来る前に私が死ぬ方が先だろうし、今のは訂正しておくよ」

[なんで? しなくて良くない?]

「じゃあなに? 私がこの先助かる方法があると思ってるの?」

[遠くの県外に逃げれば? 山奥ならまぁ見つけられないよ]

 

「‭─‬‭─それは"生きてる"って言えない!!」

 

 衝動的にテーブル代わりの段差を叩き、ハッと理性を取り戻し力無く座る。

 それから、虚しさを押し込む為に久々にマトモな食事を口に放り込んだ。

 

「……んぐ!? げほ、げほ!?」

 

 嗚咽、咳き込む、慌てて飲み物で流す。

 何もかも上手くいかない気がして、虚しさが増えていく。

 すると、私の眼が勝手にじわりと涙が滲べた。……惨めだね。

 

[山奥で慎ましくネットで細(ささ)やかな他者との繋がりを持つだけでは満足出来ないんだね。なにかやりたいことでもあるの?]

 

 空気を読まずに山本が問う。苛立ちは募るけど、今は感謝しても良かった。苛立ったのはコイツのせいだけど、そうしたのは自分のせい……いや、正確には自分のせいじゃないのか。ややこしい。

 

「……夢があった」

 

 今時そんな生活に満足できる奴の方が少ないだろって適当に言えば向こうも納得しただろうけど、理想の自分を前にして誤魔化すのは負けた気がしてイヤだった。

 だから私は口が滑るのを止めるしこりを飲み込んで、少しだけ心の傷口を広げて血を口に含んでやる。そうすれば多少は痛くても、正直で飾り気のない言葉が吐けるから。

 

「明日を迎える為に、暗く柔らかな布に包まれた時、どうしようもない不安に襲われない強さが欲しかった」

[寝る時に夢の世界に堕ちる不安? 俺にはない物だね]

 

 そうだろうね。山本を作る時、俺が最初に消した弱点だ。

 

「文字に綴られた空想に想い馳せようとした時、いつも円錐状の光だけが私を突き刺す舞台に立つのがイヤで、消し去ってしまいたかった」

[能力の嫌悪? 普通の人と違って想像が出来ないのは不便だけど、そこまで俺は嫌ってないね]

 

 知ってるよ。台本を持って開く前に、少しでも分厚くする為に消した嫌いな物だ。

 

「人と関わるほど増える招待券が他人を3行半の設定にしてるようでイヤで、

 被さるほど書き足されていく自分の中身の蓄積がイヤで、

 この力を見知らぬ幼き誰かに押し付けるのがイヤで、

 これを平然と受け入れてる見知った誰かがイヤで、

 こんな世界が嫌い嫌いで仕方なくて、

 ずっと観客席の隅に座ってる奴も、

 不幸が溢れる未来にも、

 その内自分自身が、

 

 きらいで………きらいで………。

 

 いつの間にか全部、仕方ないって諦めて、偶然訪れた死を前に主枠を譲った」

 

 誰が彼を救えただろうか。

    /誰も俺を救う気なんて無かったよね。

 

 全てが机上の文字に見えてくる力を持って、その力に価値観を完全に染められた時。

 俺が一体どれほど絶望し世界から自分を消し去ってしまいたかったか。

 病によって伏せた妹に迫る死と新聞に書かれた誰かの死を同価値と認識している自分に気付いた時、人の道から引き摺り下ろされていく自分を殺す為の決意を。

 

 本物ではない私は理解出来ないだろうね。

 偽物であるのだから、本物と同じ体験も、思考も出来ない。

 分かるのは、文字通り役の型として「演劇」が抽出した経歴の文字列だ。

 

 それでも、本物に迫った限りなく近い感情を抱かされているのだから、性別が違おうと傍らからみれば本物と見分けを付けるのは難しい。それこそ、同じ能力を持たない限りは。

 

[うーん……何故か裏の言葉は分かるけど全部俺には理解出来ないね。

 

 力を失うまでは生きた人から許可を取ってから招いていたね。

 幾ら演じても俺が何かしら役から学べた事なんてなかったね。

 自分の子供とか性行為とかは興味を持った事すら無かったね。

 家族を薄らと嫌いになったり無視したりもせずに関わったね。

 周りのことは気を遣って常に合わせるくらい気に入ってるね。

 何処かの歴史の書き手に観察され記録されても気にしないね。

 俺は周りに降りかかる不幸は可能な限り諦めず解決してたね。

 自分のことは死にたくないと思うくらいには大事にしてるね。

 

 妥協はしても全てを諦め放り投げる事はせずに今も動いてる。

 ‭─‬‭─なるほど、同じ山本でも結構違うなーさては?]

 

 当たり前だろ。と言う声は出さなかった。

 理想はその姿が理想となるだけの理由がある。

 ならば、こんなのが理想な本当の山本は……こんな世界に産まれたくなかったのに、産まれた上に人外に堕とされた人なのだろうね。

 

 証拠に山本の活動にはその痕跡が少しずつ残っている。

 VRを使う時に設定にない筈の漠然とした不安を持ったり、命を大切にする割には自己犠牲的な選択をしがちだったり、家族を好ましく思ってる筈なのに積極的に話題にしなかったり……ちょっとずつチグハグに動いている。

 

 無理な設定の組み合わせのせいで、本人の認識と実際の行動がズレてるのだ。

 山本・イイノリという名前が纏う振る舞いと中身が真逆だから、あり得ない可能性(山本・イイノリではない)として架空の役に落魄れている。

 

[となると俺はそっちのやりたい事を手伝えたりしないのか?]

 

「……けれど、「山本」は山本・イイノリが望んだ役(夢)を"やり遂げた"よ」

 

[……?]

 

 ああ、分からないだろうね。

 けどそれで良いんだ。俺からすれば「山本」はどれだけ願っても叶わなかった……叶えるには気づくのが遅すぎた夢を叶えて、最後までやり遂げてくれた。

 

 夢を見る事を恐れた彼にとって、夢を終わらせてやる事が出来た。

 

 驚くほど無神経で自分勝手だけど、幼稚な夢を華やかに終わらせて、今後夢見る事なく静かな永眠を与えてやった。終わりなき"夢物語"を終わらせてやったのだ。

 ……だから役として作られた私にとっては複雑な相手だ。恩や好意はあってもそれは山本・イイノリの偽物だから持たされた物で、見てると苛立つ無神経や奴への怒りはぜーったい私個人の物。正直ずっと役と交流せずにいたのは……製造者の山本・イイノリが8割悪いけど、とても癪に障った。

 

 だけど……。

 

「私はね、誰よりも生き生きとした主役をやりたいの」

 

 山本・イイノリの悪夢を終わらせたのは、私個人からも感謝したいと思っている。

 

 あなたは一生知らないだろう。あなたが私達と共にビブラから妹達を含む何十人かを地上に送ってる時、幼い子供が静かに退館していったのを。

 

 私がニグさんと共に、1番後ろの席に座っていた彼が普通の子供として新しい一歩を踏み出したのを見届けた一幕は、私がこの身体を山本一家に絶対返さないと決めた1番の理由だから。

 これだけは私だけの秘密にしておきたいと思うのは当然のことだろう。

 

「この身体はもう私の物だから、私だけの色で塗った鮮やかな人生にしたい。本物にもあなたにも渡さないからね? 当然山本家に追いかけられて終わるなんてごめんだし、それで主役の座を降りるならいっそ死んだ方がマシだから」

 

 だから私は限りなく山本・イイノリに近い偽物として、全く彼とは違う結末へと辿りたいと思ってる。叶う事の無かったifとして、異譚を描きたいんだ。

 それが、「バイアクヘー」という役(ロール)の願う【夢物語】だから。

 

[じゃあ、これからどうする?]

「ステルスのやつ頂戴! あなたの提案は飲めないけど、その代わり私がやりたい事のために使いたいからね!」

[おや……元気になったね? はいこれステルス装備]

 

「ご飯食べたから。ごちそーさま! 美味しかったよ。それじゃあもう行くねー!」

 

 話してる間にもじみ〜ぃに食べ続けていた食事を終え、頂戴した装備が使えるかチェックして着用する。女の子が使うには無骨なヘルメットだけど今はこれでよし。ちゃんとした物を食べたおかげか頭も回ってきた。

 向こうからすれば私がステルス装備を使える可能性なんて想像も付かないから、デコイと合わせて使えば見つけるのに数ヶ月はかかる場所に行ける筈だ。

 

 具体的には第一壁内。大分厳重だけど、その分入れば見つけるのは至難の業。監視カメラのジャックとか土台無理な領域だ。色々備えるには丁度いい。

 

[行ってらっしゃい、バイアクヘー]

 

「‭─‬‭─うん、行ってきます!」

 

 ……まぁ、色々言ったけどさ。現状私はあなたの事はそんなに嫌いじゃなくなったよ。

 最初は構ってくれなかったけど身体は譲ってくれたし、今はこうして話し合えたし、食事は久々に美味しい物を食べられて満足した。定規のスプーンは微妙だったけど。

 

 だから見守っててね、誰かの理想。

 あなたの背を見て、私も頑張ってみるって決めたんだから。

 

 

 

[あ、スマホ入ってる方のポッケに俺の連絡先入れといたよ。困ったら使ってねー]

「ちょっと!? 綺麗な別れが台無しなんだけど!」

 

 いつから入れてたし……とポッケを見てみれば、なんとビックリスマホに奴の姿が映っていた。

 連絡先が書かれた紙とスマホとセットである。……お前そんな所からずっと話してたんかーい! 先に行ってよ! そしたら通話画面を出してる時みたいにいい感じの場所に立て掛けたのに!

 ホント空気読めないなー! コイツ!

 

[それで捕まった時の奥の手に使えるでしょ? ああ、ビブラダンジョンに潜ってる時は無理だからワンチャンの賭けでしかないけど、まぁ無いよりはマシだよね?]

「ありがとう絶対使わないからもう帰ってて!」

[分かった。元気でねー]

 

「……あーもー。やっぱりイラつく!」

 

 暗くなった画面になんだかなあと思いつつ、私はつい苦笑いをこぼした。

 あーもー……せっかくのいい雰囲気が台無しじゃんか。折角すっぱり忘れられそうだったお互いの関係が元通りだよ! やっぱりあいつに見返してやりたい気持ちもある! 子供っぽいから考えたく無かったけど、ずっと構ってくれなかったアイツにはいつかギャフンと言わせてやるから!

 

 あーでもリラックスは出来た…かなぁ……うん……良い意味でも悪い意味でもだ!

 

 

「はぁ〜〜……よし、いっちょやったりますかぁ!」

 

 






山本(アイツはアイツでなんとかやりそうだね、連絡来ないならそれでヨシ! 連絡ないのが元気の便り!)

 バイアクヘーの自認は「山本」の母でもあり娘でもあり姉でも妹でもあります。なので複雑な感情を持ちつつも二方向の好意を持っている訳です。
 山本・イイノリのパチモン由来の母自認、製造された役だから娘自認、山本が子供っぽいから姉みたく面倒はみますし、けれど妹のように甘えたくもあり……「夢を絵描く役」なのでかなり欲張りです。
 構えばすぐ仲良くなれます。関わり方次第で色んな側面が出てきます。
 しかし構わないほど拗ねますし、しまいには消極的に裏切ります。
 なのでこの子を唐突に登場した奴と感じる程放置した山本はクソです。釣りもせず気まぐれに餌を池ポチャして魚から擦り寄らせるクソです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。