神の声…PA社と共に解体されようとしていた情報の塊。夢の世界をある程度自由に活動でき、連絡網やちょっとした物質転送装置に出来る。
オラクル…今は神の声経由で山本の一部となり人外の身体を動かす補佐役として働いている……が、山本は気付いていない。その内山本から離れて自由になる。
演劇に頼らない場合、最も頼りになる力……ゲームシステムの根幹。オラクルは客観的に最適な行動や品物を実装し、神の声は天啓の命令と共に夢の世界用に変換された支援物資を送る。迷宮を潜る時ずっと裏で働いていたが山本は気付かなかった。
現在は山本がビブラダンジョンに潜る際に学んだ技術から順調に成長している。
「リアルマネーをゲットできるゲーム?」
山本がサーカス団員に追いかけられたりそのままビブラダンジョンを探索していた頃、平瀬は友人からそんな話題を出されていた。
「そう。この前のミコミコchで言われてたUM社が出したゲーム。ビブラダンジョンに自分が育てたAIを送って、無事に帰ってきたら成果の一部を受け取れるんだって」
「へ、へぇ〜…PAGが最後に出してたアプリみたいだなー?」
「あー…そうだね。うわっそう言われるとなんか直ぐ破綻しそうに見えて来たな……あ、分かれ道。じゃーねーまた明日ー」
「うん、またねー」
先輩を送り出してる私みたいですね……。
友人が言い出した話についてはそこで終わったけど、実に聞いてて生きた心地のしない話でした。
調べてみたらそのゲームのプレイヤーは成果物がなんなのか見れないようになっていて、お金も一回の探索で最高二万しか受け取れないみたいだけど……これ、すごくぼってるよなーと、自分のヘアピンを触れてると強く思うのです。
だってそのままコツコツ二回叩きこう言えば……。
「先輩と繋げて」
[はい先輩だよ。変なタイミングだね、もうちょっとで帰る所だったんだけど……]
「ふへ…すみません、帰ってる途中で寂しくなっちゃいました」
[なら仕方ない。お互い帰り道がてら適当に話そうか]
ビブラダンジョンから帰る途中の先輩に繋がるんですから、こんなすごいものを片っ端から集めてるUM社はちょっと無法だなーと思う訳です。
あ、そうでした。改めて説明するとヘアピンは先輩がダンジョンから持ち帰ったもので、単体でもナノテクノロジーとしてかなり有用なんですけど……あの後更に改造が加えられて、今では本当に色々なことが出来るようになり、ダンジョン内に居る先輩と話すのもそんなに難しい事では無くなったんです。
……寧ろ最初はダンジョンに居る時は繋がらなくて、普段そこに潜ってるのに繋がるようになってないのはダメじゃない?とちょっと呆れちゃったりもしたのは内緒です。そんな所も可愛いんですけどね?
「先輩はなにしてたんですか?」
[こっちは制作した身体にちゃんと乗り移れるかの確認用試作機が出来てね。試運転がてら父さんに会いに行ったんだけどごたごたしてー……今は身体の半分を構築してた義体が追い剥ぎされちゃったから、諦めてビブラダンジョンに潜って色々掘ってきた]
「ごたごた…なんだか大変だったんですね?」
先輩のお父様かぁ。当たり前なのに珍しい存在が出て来ました。
普段部活で家族のことを話したりしなかったので、ちょっと気になりますね。
[もめに揉めたよ。俺は主役の……元の身体じゃ2番目に出来た人格だったからね。活動期間こそ初代より長いけど……親としては最初の人格が大事みたいでさ]
あ、これかなり複雑な話だ。
[でも、妹達と関わったのは二代目の俺だけなんだ。で、今はバイアクヘーが三代目の主役……人格として身体を使ってるだろ? だから俺は妹達と二度と会わずに何処かでのたれ死んでくれって殺し合いになったんだよね]
わあ……修羅の世界の話じゃないですか〜ぁ…。
どうして親に会いに行ったら殺し合いになるんですか?
人格? 主役? 先輩ってもしかして相当複雑なご家庭だったんですか?
ただでさえPAGってゲームのせいで変な生き物になってるのに?
まさか出自までそうだとは夢にも……。
「複雑なんですねぇ……先輩、お疲れ様です」
[大丈夫だよ、この問題は父さんの親の親の……ご先祖から代々続く遺伝と伝統だから。だから既に最適な扱いは決まっていて、寧ろ父さんは俺に結構譲歩してた。だから死にたくないと我儘を言った俺が悪い話なんだよね]
「──そんな事ないです!」
あんまりにもあんまりで。
通話越しに、仕方ないって言う先輩に対し思わず叫びました。
「最初じゃないからってダメって、死なないといけないってなんですか!
なんで先輩が死なないといけないんですか!? おかしいですよ!」
心のままにそう言うと、先輩は通話の向こう側で少し空気を飲みました。
……そんな気がするのか、はたまたこの通信機の性能が良いのか。
いつも滞りなく返事をする先輩が少しだけ間を空いた事実だけは確かでした。
[おかしい…か。そんな反応は初めてだね。
……伝統は過去から連なる同調すべきという圧力だ。俺は合わせる事しか考えてなかったけど、空気の方が変と実際に言われたのは初めてだな]
「だって、先輩はもう人格のひとつとかじゃなくて、一人の人間じゃないですか!
私は、私は、二重人格とかそういうのは、ネットで齧ったくらいの知識しかないですけど……!]
そこまで言って──途端に。
浅はかな知識だと笑われるかも知れない。
踏み込むなと怒られるかも知れない。
嫌われるかも知れない。
なんて不安が押し寄せて……それでも言うべきだと、口を開いて。
「ですけど……先輩には心があります…!
主人格に依存せず、別物として独立してます!
そして、お父様に会った時は身体だってあった!
なのになんで殺されなきゃいけないんですか……!
別に二人でも三人でも! 別々に居るなら、身体が別ならそれでいいじゃないですか!!?」
親としてオリジンを大事にする。
それはわかります。赤ちゃんの頃から育てたなら、その子が1番我が子だと思えるし、私もきっとそう思うでしょうから。
ですけど、その後妹達にとっては本物の兄である先輩に、愛情を待てなかったのですか?
あなたにとっては家族じゃなく異物に見えても、他の家族にとって家族なら、どうして椅子を一つ設けるくらいの譲歩が出来なかったんですか?
わかりません。私には何も分かりません!
だけど今の話に含まれる幾つもの可笑しな事実だけは!
おかしいって言える口があります!
[……うん、そう言われると、そうかもね?]
「そうなんですよ! ずっと続いたものだからって仕方ないって言わなくていいんです!」
[……それでも続き続けたものだから、いつかは"俺も"]
あ、コイツ…!
ムカっ腹立って来ました──!!
怒りました、もう言ってやります!!!
「先輩は仕方ないって言ってる時点でそれがイヤだって思ってるんですよ! なんで自分の心に蓋をしてるんですか!!」
前々から、ちょっとずつ違和感があったのだ。
先輩は時折り仕方ないと口にする。
それは大抵周りに合わせようとして、今のままじゃダメだと思って、出来てるようで出来てない変な方向転換なのが大抵だけど。
稀に、大事な事を諦める為にそう言う時がある。
「私は、そんな先輩は見たくないんです。
そうする度に先輩の心には他の人の色が付いて、先輩が少しずつ変になっちゃうんです。
それは……それだけはイヤなんです。私の好きな先輩じゃ無くなっちゃうから、イヤなんです!」
心は周りに合わせて妥協していくほど、自分の色を失っていく。
社会の色、常識の色、家族の色、友人の色、恋人の色。
他人に染まり、丸く丸く、ぐるぐる回って、行き過ぎれば真っ黒になって、ボトンと命と共に地面の染みになる。
別にそれが悪い訳じゃない。そうして上手く出来た絵は綺麗だろうし、画一的な丸になればトーンとして
だけど上手くいかなければ落書きで、混沌で、汚い。生きる意味を他人の色から借りなければ生きられなったり、真っ黒から戻れなくなって自分と同じ
「先輩は、真っ白なんです。
キャンバスみたいに、或いは何も上映されてない映画のフィルムみたいに。
私はそれが綺麗だと思って……これからどんな色になるか、私が彩りを決められたらどんなに素敵か、そう思わずにはいられなくて」
先輩は純粋だ。まるでそう設計されたかのように、白く薄く、芸術的な程軽やかな心を持っている。
私は別に心の審美眼がある訳じゃなくて、ちょっと他人の色を見る目が有るだけだけど……それでも、見ただけでどれだけ綺麗で歪な形をして、肌触りをしているか分かる色だった。
「……先輩が元々後から生まれた人格なら、その綺麗さには納得です。自然に発生しない、人工的ながらも生々しく、美しく感じる造形ですから」
演技という自分に色を塗る行為をしても自然と色が剥がれ落ちて、普段から生きているだけでも同じように剥がれていく。
そんな心では生きるのがとても不便だろうに。普通なら、生きる為に色を自ら取り込むだろうに。
先輩はそれが出来ないように、羽化すれば口が無くなり自然と餓死する蚕のように、心の形を隅から隅まで計算され尽くしていた。
関わるほど、画面の中に居る先輩と会話をする程にその心の歪みに戦慄しながらも愛らしく感じた。ただの変な先輩から、哀れだったけどこれから次第な先輩に変わった。
「でも、最近は違う。先輩はその身体になって漸く、少しずつ心に色を付けて、少しずつ成長出来ている」
[……そうなんだね]
「はい。ですけど先輩、私はそれが堪らなく嬉しいんですよ? だけど、同時にあの美しさが消えていく悲しさもあるんです」
[矛盾してるね]
「だから生きてるんです。人は一つの顔だけ持って生きてる訳じゃない。多面的で、複合的で、上塗りなんです。だから一つしか持たせない、それ以外を殺すなんて有ってはならない」
飛び飛びで、纏まりがなくて、ぶれて逸れて気分でやる事が変わって。
それが人間で──先輩が限りなく純粋なまま、そうなるように似せられた"模倣先"。
知ってましたか先輩。先輩は、誰かが人間らしさに憧れて造った人外工的な心なんですよ。
私は先輩と一緒に暮らして2日で気付けましたけど……ふへへ、夢の世界の影響かと思ったら全然そんな事なかったのはお恥ずかしい限りですが、そこは心の奥に封印しておきましょう。可愛い可愛い言ってるだけじゃない私ですけど、もう少しちゃんと先輩と向き合う為にも反省です。
「先輩、イヤならイヤだって言ってください。仕方ないんじゃなくて、仕方ないかどうか考え続けるんです。稀に通すなんてダメです。第一に死なないでください。それが1番断る理由にして良い話ですから」
[……多面的なのが人間なのでは?]
「多面的なのとブレない軸があるのは矛盾しませんよ。それと、ランダムと気まぐれも違います。先輩がランダムに仕方ないと諦めるかどうか決めるのは、人間らしさじゃありません」
[……そういうものなん…だね?]
先輩はそれで良いのか迷っていましたが……それで良いんです。
そうやって悩んで悩んで、そうして決めた答えを通すのが自分の色を濃くして、より長く中心に据えるための一助となるんですから。
だからゆっくりで良いんですよ、先輩。
そうして自分なりの心を描いていけば。
いつかは、私が心の底からカッコいいと思えるあなたになれますからね。
平瀬的山本評価
今までの山本=真っ白な心=作り手の臆病で寂しがり屋で屈折した、人類を好きなままでいたい心情を思わせる美しい作品。飾りたい。
今の山本=崩れた芸術性と微笑ましさ=色付き始め、自分の色を塗る重ねる様が可愛い。赤ちゃんを見ている時に似てる。
これからの山本=光源氏にとってのロリ=色付き方からして絶対自分好みの男になるから楽しみ。もう好き。惚れ直す準備はもう出来てる。
距離が離れてればただの後輩。近付けばこれ。内心がキモくなるが、彼をよく見て立派になれるように導いてくれる優秀な後輩。