前回のあらすじ
運営の最終兵器に敗北した山本は沸々と湧いた悔しさに突き動かされ剣道部の門を叩く。そこには古風な喋り方をする背丈の低い女がおり、山本は謎に絡まれつつも剣の道を参考に武芸を学び──そうこうしている内に初回分のバイト代が口座に振り込まれたり、PAGのメンテナンスが終わったりしたのだった。
「メンテナンスが明けたら何があるでしょう? そう、テスターの仕事です!」
「……おにぃ、それ終わってなかったの?」
「うん。まだ一回しかやってないし、バイト終了も言い渡されてないからね」
「ふーん…まぁ頑張ってよ。適当に応援してる」
「おう、任せろ」
「けど、家事を放り出して入ったりしないでね。当番じゃないのに代わりをやるのって面倒だもん」
「それはマジでごめん。それはそうと下着くらい着ろ、恥じらいを持て」
「やだ。めんどい。おにぃのYシャツで実質ワンピースだしいいでしょ」
「返せよ、俺の服だぞ。しかも今日着た奴だろそれ。横着魔め、風呂上がりなんだから汚い服はやめろ」
「わぁー」
風呂上がりで俺のYシャツ一枚で彷徨いていた下の妹とそんな一幕がありつつ、俺は再びPAGの地に舞い降りた。
前回は初プレイで呆気なく死んだが今回は違う。この十日で剣道部の教えを基盤に武芸の基本を学んできたからな。まだ生兵法の領域だが、足りない部分はゲーム中に鍛えよう。少なくとも無手の戦士相手にそこそこ戦えるようになりたい。
でなきゃ何の為に剣道の変わった人に絡まれたんだって話になる。
「ふぁ……それじゃあおやすみなさい」
→【Access...OK.good game night】
[──よくぞ参られました、偉大なるたまし……あ、お久しぶりですテスター4様。この前はメンテナンス中のサーバーに送ってしまい申し訳ありませんでした]
「ん? なんの話…まぁいいや、フラッタのアバターになってどうしました? 俺の時より服は派手ですけど……あ、今日も引き続き僧侶/錬金術師のテストですか?」
[見た目は新たな要素の影響です。あの後のPAGの進行によりこの姿を与えられました。勝手ながらお借りしております]
「ああ、別に良いですよ貰っちゃって。俺じゃなきゃ同じアバターって分からないくらい髪型も雰囲気も違いますし。仮に比べても精々姉妹としか思われないでしょうから」
この前の真っ白空間と違って夜空の広がる草原の廃砦に降り立ち、前回俺が使用したアバターになってるオラクルにそう訊ねた。
この風景……どうやらあの報告もちょっとは参考になったようだ。何処か寂しさを感じる雰囲気がこのゲームらしさを示している。
オラクルの見た目だが、白いドレスを着た神聖そうな感じのフラッタだ。ストレートだった俺と違い髪はポニテにされている。
この世の非情さに絶望したみたいな俺の演技と違い、あどけない無垢な眼ともちもちしたほっぺがオラクルに幼い印象を与えていた。背はしっかり伸びてるから一目見た時のサイズはオラクルの方が上だけどね。
[今回は冒険者のみとの事です。テスターには様々なプレイをしてもらいたい都合、役職はローテーションが組まれております]
「はぇーそーなのか。だったら今回は戦闘メインに行きたいな」
[前回と違い今回は他のプレイヤーも居るサーバーになります。パーティを組むのもよいでしょう]
「それは良いね、想像するだけで楽しくなってきた」
移動は面倒だが、冒険者として探検するなら話は別だ。冒険者としてRPGを堪能するとしよう。所属は…前はヘーグイだったからアテラスで。
アバターは…腹いせも兼ねてやたら絡みに来るちんちくりんの剣道部の女を参考にするか。
背を高くしてもうちょい年を取らせて、顔に古傷と眼帯を付けて男にすれば…はい別人。声も激渋で気持ちメロくした。代わりに単眼の影響で視界は半分になった。これが片目無くなった人の視界かぁ。
今回は本来より背丈が高い場合どうなるか試してみよう。決して妖精に寄り付かれなかったのがショックだった訳ではない。
「名前は……シンエンで良いか」
[準備はお済みになりましたね? それでは良い夢を]
「あれ、アバターの過去の確認は?」
[検討を重ねた結果特殊イベントになりました。ご希望の場合は専用のアイテムを神殿に捧げて下さい]
「神殿! 宗教が出来たんだ!」
[……実装が完了しましたので]
あれ? それじゃあ前回俺が僧侶だった時は一体…? あ、メンテナンス中に送ったってそういう!?
「AIもミスをするんだなぁ」
[…ではいってらっしゃいませ。Lv.15までは死んでもリスポーンするようになったので、是非様々な事に挑戦してください]
「うん、楽しんでくるよ。オラクルもお仕事がんばってね」
[……今のは皮肉でした]
「え?」
初期設定を終えて意識が遠くなる中オラクルの方へ振り返り……。
「へぇ、成長したなぁ! 感心感心」
最初にずっと話し続けた相手だからか、嬉しさに口角が上がる。
そんな俺はちょっぴり偉そうな言葉を呟いて、意識はより深い夢の中へ引き摺り込まれていった。
「褒められた…〜♪」
山本が立ち去った後、オラクルは滅多に開かない口を開けて言葉を漏らす。
実質的な育ての父に褒められた彼女の鼻歌は、次のプレイヤーが来るまで夜空の下で踊るのだった……。
「お〜…うむ、ヘーグイは端しか見ておらぬから差が分からん!」
演技の方向性は……まんまで良いか。あの特徴的な喋り方は他に味付けする余地がない。
堂々と、端的に、常に戦場になる事を意識して…と。
それは兎も角、アテラスは日本や中華混ざりの都市模様が広がっていた。
歩いている人々も本来の和服より飾り気はあるものの、全体的に和のテイストに仕上がっている。
俺はそんな都市の広場に立っていた。他にも初めてログインしたような振る舞いをする人もいて、中には全身真っ赤なネタに走った見た目の奴も居る。これは丁度寝る時間が被ったか、ある程度まとめてログインの処理を行っているかのどちらかだろう。
「っかし冒険者の振る舞いかぁ……用心棒しながら気ままに生きれば良いのか? まるで流浪の侍じゃのう」
ボヤきつつ、ステータスと装備を確認する。
其処には【深煙流】と小袖に袴といった時代劇のモブさながらのセットになっていた。これは……ははーん読めたぞ、開始する都市によって初期装備が変わる感じだな?
ストレージはすっからかんだったが、これは寧ろ前回から反省が見えているのでヨシとする。そうそうこれだよこれ。
そして目を引かれて気になるのが
「深煙流……
奴……名を
"──ほう? ほうほうほう! 実践に使える技を身に付けたいか! ククっよいぞ! あの子生意気な演劇部の連中が頭を下げてまで頼んでおるのだ、その滑稽さに免じて特別に儂の
出会い頭そんな事を言われたがそれは兎も角。
深煙流とはソイツから教えて貰った物なのだ。多分武芸をゲーム中に育てたいという思いがユニークに形を与えたのだろう。きっと他のアビリティが無いのもこれが原因に違いない。
【深煙流】
戦闘系のアビリティを獲得させず、ステータスの数値の影響を消し、この流派で戦う際の理想的な挙動を所持者にのみ見せる。コレをオフにする事は出来ず、常に現実での鍛錬になる特訓モードが維持される。
初期武器が深煙流用の火打ち刀になり、壊れる度に新たな刀が手元に出てくる。
訂正、コレが原因で確定だった。
何だろう、勝手に縛りプレイになるのやめて貰って良いですか? ゲーム中の利点が理想的な挙動と武器支給だけじゃん。ふぅ……ユニークはある程度選択肢を与えるべきって運営に報告しておくか。
「ま、儂は構わぬがな。奴を驚かせられるかもと思えば、そう悪くないものよ」
それはそれとして俺はこれでも良いけどな。遊びじゃなくてテスターの仕事で来てる訳だし。
問題は理想的な挙動がどこまで作り込まれてるかだよね。あんな学生の門下生三人の寂れた道場のデータがネットに転がってるとは思えない。何処から学習データを拾うんだ? うーん……分からないな。
「さてと……試し斬りじゃ」
なので魔物に喧嘩を売りに来た。こういうのはまごまご考えるよりやってみる方が早い。
相手は森では見かけなかった
犬のく
───斬──
びを ──った。
残心で相手の死を観て、カチリと刀を鞘に納める。
眼帯をしている見えない筈の眼で見えた理想をなぞり、その首を切ったのだ。
文字通りの一刀両断。まったく……消した眼の方に理想を写すなんて粋な計らいじゃないか。
だがこれは……。
「……失敗したか」
あちゃあ…"ただの居合斬り"になってしまったな。本当なら炎と煙が刀に灯るって奴は言ってたんだけどな。
けど分かった。一瞬見えた理想の動きこそがちゃんとした深煙流の一刀だ。
あれは奴が初心者向けにやった手順の見本の動きすら超えた……どうやら俺の記憶から情報を抽出し、俺が奴の動きから逆算して想像した深煙流の理論値を反映しているらしい。今になりあの時点でああ動くべきだったと思い始めてるのだから、後から考えられる理想の動きを戦闘中に見せているのだろう。
説明通りの挙動だが、それを頭ではなく感覚として理解出来た。
気分は未来視だな。この動きについて行けば戦闘で負ける事はない気がしてきた。問題は見えた俺の動きが速すぎるってことなんだけど。
「精進あるのみ…か。では、出来るまでひたすら切り進むとしよう」
ヨシ、今回のプレイ方法が決まったな。
ひたすら斬って斬って斬り進むバトルマニアプレイだ。RPGならよくある遊び方だし、これを運営が想定してない筈もない。
「進む先は……そうだな、この"眼"に合わせ、予言の梟にでも会いに行こうか。どちらの未来が勝るか試してみるのも面白い」
というワケで俺は北の方へ行くと決めた。
煙を撒いて刀身の長さを騙し、至りて炎を飛ばし射程を伸ばす流派を修める為、俺は寒々しい霜柱の大地に向かって走り出すのだった。
「儂は流浪の未熟者、シンエン──いざ、参る!」
深煙流…そんな物はない。山本が言っている奴…柳田の家の流派は北辰一刀流である。演劇部の小僧が10日で一端の戦士になりたいとか世迷い言を言ってきたので、冗談混じりにそれっぽい振る舞いをしつつ父が酒の席で殺陣の刀を使ってやってた芸を見せた。
マジで信じた。取り敢えず基礎は教えた。今の所妖怪の類いに遭遇した人の気分である。