前回のあらすじ
CUTの追加人員全滅。Cルート断絶。
山本家の「演劇」崩壊は人類への利敵行為。
平瀬とのフラグがポッキリ折れる。
『──…という訳で山本家からの追跡はもうない訳だけど、これからどうしたい?』
「……嘘でしょ?」
『ホントホント。もうその演技の力はバイアクヘーが持ってるやつだけだよ』
ある裏路地で一人の少女が困惑のした顔でスマホを眺めていた。
──バイアクヘー。山本家に命を追われていたものの、彼の行いによって突如としてそれから解放された者である。
「……ホントならありがとう。何かした方がいい事ってある?」
『じゃあ"俺を演劇で招待しない"って約束してね。ビブラの攻略の時に招待されたりすると大変だからさ』
「そのくらいならお安いごよう」
『よし。それじゃあ俺はコレで』
「待った!」
もう言うことは言ったと立ち去ろうとした彼が引き留められる。
なんだなんだと怪訝な顔を向けられるも、この場で立ち去られると困るのはバイアクヘーなのだ。
なんとしてでも暫く行動を共にして貰う必要があった。
「言葉だけじゃ信用出来ないから暫く一緒に居て。その間襲撃が無ければ…ちょっとだけ信用する」
『えー…まぁいいよ。この住所にある喫茶店に行けば俺が襲撃した跡があるし、そこまでは一緒ね』
「それでいい。暫く宜しく」
それから暫くはこれまで追いかけられた時と比べてなんとも平和な……何事もない道中が続いた。
その間バイアクヘーは警戒を続けるも……既に彼に病院送りにされた山本家が襲いに来る筈もなく。次第に本当に居なくなった事を悟ると、バイアクヘーは勇気を出して表の通りに出た。
「……本当に襲われない」
久々の人々が行き交う喧騒に安心感を抱く。なんともない普通の光景。これまでは一歩でも表の方へ出ればバレて襲われた。それがないという事は、バイアクヘーの中でかなり大きい事であったらしい。
彼がふわふわと画面の中で佇むスマホを取り出すと、バイアクヘーは頭を下げてお礼を言った。
「ありがとう、なんとかしてくれて。本当に助かった」
『あれ、喫茶店には行かなくていいの?』
「気配がないからね。役に取り込まれてたらこんなに長い事辛抱できないし……舞台としては不完全な人々の喧騒に調整されるから」
『ならいいんけど』
例え三日だけだとしても、追いかけられた経験から分かるのだ。
山本家が彼と共謀して騙そうとしたってこんな無秩序な街の景色は許さないだろうし、伏線のようにそれっぽい影を何処かしらにチラつかせる。人間性を失い「演劇」に取り込まれるとはそういうものだ。
例えば路傍で喧嘩してきるカップルや、道端で昨晩の飲み過ぎで倒れてる中年や、広告が派手過ぎるトラックが通り過ぎたり……そういった目の前にある光景は絶対に排除するだろうし、代わりにたた歩いているだけの人が大量に配置される事だろう。居ない観客の視線やカメラを気にして、たった今目の前を通り過ぎた歩きスマホをしてる人も排するに違いない。
「それで、お礼に何をしたらいいかな。大体の事はやるよ、うん。今なら大体の事は受け入れられるね!」
『要らないね。特に頼みたい事とかないし、バイアクヘーしかできない事も無いし……んー、じゃあ雑談しよう。その身体使ってやりたい事でもあるの?』
「本当に頼みたいことがない人の頼み事じゃん」
彼があまりにも雑で適当な要求をしてきた事にバイアクヘーががっくしとするも、まぁそのくらいはと暫く話す事にした。これからやりたい事という大事な話よりな事を雑談の話題扱いされたのもお目溢ししてである。
「キラキラした生活をしたい…かな」
『へー。まぁやってみたら? 山本家も普通の人に戻ったし、仲直りしてもこのまま裏社会の人間としていいしね』
「私を作っておいてすごい雑……」
『だってもう他人でしょ? 仮にも力も立場も全部奪った側なのに、奪われた側に愛されたいとか烏滸がましいと思わない? 今後無関係で済ませるだけそっちからしたらありがたい話じゃん』
「うっ……それは、そうだけど……」
正論だが、そんな関係なのに追っ手を態々無力化してこうしてもう心配しなくていいと言いにきた人に言われると感情が迷子になる。
冷たいのか暖かいのか。優しいのか非情なのか。バイアクヘーの中で元山本である彼の輪郭が曖昧になったのを感じた。
恐らく奪われた事とかに興味がないだけなのだろうが……それにしたってだ。
『でー……俺はもう他に聞きたいこととかないな。なんか聞きたい事とかある?』
「えーと…これからまた会ったりとか……これからやりたい事とかある?」
自分に質問権が投げ渡されたバイアクヘーは、挙句に同じ内容を彼に聞き返した。
元は同じ存在を人格の出発点にしているのもあるのだろう。考える事は同じであるらしい。
『普通に生きる』
「……えぇ?」
『山本とか関係無くね。もうどうでもいいし。
それと、そっちとはもう会いに行くことも避けることもしないね。
じゃあね、お元気でー』
ストンと画面の中の彼が何処かに落ちるように消えた。
「……え? 本当にどっか行った?」
叩いても振っても変化はない。どうやら本当に立ち去ったらしい。
本人の言うとおり社会的立場を奪った奪われた、バイアクヘーの作り手と作られた側という深い関係なのに……本当に、なんの興味も関心も、最後まで向けられる事なく、二度と顔を出さない気で何処かに立ち去ってしまったようだった。
「はぁ…なんか、似てたな。"山本・イイノリ"に」
感情は相互にぶつけ合って初めて重さが生じるものだと、バイアクヘーは今日知った。
自分が持っていた感情が何一つ相手にとって意味のない物だったと知り、あまりにもアッサリと呆気ない幕切れで心がポッカリと空いた気さえする。
「……"似てる"?」
……そんな気がするだけで、次第に彼の事がどうでも良くなっていってる自分に、「山本・イイノリ」という性根を持つ意味への理解が深まろうとしていた。
「……そっか、これが山本・イイノリの為に生きようとするってことなんだ。
彼の代わりに充実した人生を送ろうとしたって、向こうはそんな事に全く興味がない。どれだけ私が哀れんでも、代償行為をしようと……それを相手は見向きもしない。もう死んでるとか観客席に居ないとか関係無く、彼の為に生きるのは絶対に報われないことなんだ」
内心抱えていた「山本・イイノリ」という人物に対する関心が薄れていく。
彼は確かに哀れな最後だっただろう。
望んでもないのに特別な力を持つ家系に生まれて、夢の世界で死んで、最後には台本片手に世界の危機をなんとか出来るように未来を修正して……自分の何もかもを犠牲に成し遂げた。
やった事は立派だし、死ぬ筈だった妹を助けたのも立派だ。
「だけど、"私が報いてやるほどの"人"じゃない"」
……全てを知ってる第三者からすれば、バイアクヘーは元の山本・イイノリが生まれついて備わっていた舞台から引き摺り下ろされている事実を知った時点で悟るべきだった。
彼は確かに自分を犠牲にした。
だが、それは自分の価値を測った事もないくらいどうでも良かっただけ。
彼は確かに台本片手に未来を良い方へ直した。
だが、それは一向に台本を閉じられずその場を動けなかったから「未来の俺はさっさと最善手を取ってなんとかしろ」と修正し、能力が大衆視点の「最善手」として処理されただけ。
それだけなのだ。
特にやりたい事がある訳でもなく、偶然全てがそうなった。
善人でも悪人でもない。仮に夢の世界で死なず生きてきれば友人を一人を作る事もなく、みずから何かをする事もなく、ただ誰かの背景の一人として無感動に周りに流されるだけの人。
バイトも遊びもせず、近くの人が死んでも人類が滅亡しても、「あっそ」の一言で共に死ぬだけ。
「現実は、舞台じゃない。ゲームでも物語でもなんでもないんだから……なんの役も、意味も持ってない人も居る……でも、それがまさか自分の原型かぁ……」
そこに存在しない意味を自分勝手に見出していた。
気付きとはふとした時に訪れるが、それが気付きたくない事だったらなんとも悲しい気持ちになるものだ。
バイアクヘーは暫くの間、呆然と自分が世界になんの役も任されてない事実を受け止めるのに時間を使うのだった。
後に残るのは、空回りな執着を止め地に転がった車輪が一つ。
ある記憶──C エンド
放っておくのはダメっぽいので団長に挑戦したのだが、中に居る団員が俺の侵入に興じて脱出し団長を殺してしまった。
どうするか考えたけど、彼らをバラバラにするのもアレなのでCUTに案内した。徒歩で。次があれは送信用の通信機器でも用意したいと思う。ビブラ経由すれば態々案内しなくていいからね。
『世界壊れたなぁ…』
徒歩で送り届けた次の日、世界は電脳と夢の世界と現実が融合した混沌になったね。
確認したら第一壁内の人が全員死んでて国家の管理とか出来てなかったから、代わりにやる事にした。困ってたら手伝うのは間違いなく空気が読めた行いだ。それに今の俺は思念体だからこういう代理人として働くのは得意なのだ。マルチタスクなんて余裕だぜ。
ということで世情が落ち着くまで爆発に巻き込まれて死んだ人の身体も操りどうにかやる事にする。
死体操作……自分の身体を創れるアプリ探しの時に拾ったアプリの一つだが、まさか世界単位で使う事になるとはね。悪いが仕事だからさ、死んでも道具として働いて貰うね。
バイト代は……自分で自分に出すとしよう。下も上もどっちも死んでるし。500万人動かしてるから500万円でいいかな。
『うわ、なんか別世界に繋がるヒビが出来てる……』
そうして数日代わりに働いてたら第一壁内に向こう側にドラゴンや王城とか見える亀裂が出来た。
仕方ないので何人か軍隊の死体を突撃させて探索してみた。色々野生動物を狩ってみたけど、魔石っぽいのが心臓の代わりにある。
『この魔力…DMPと同じだね』
偶然ってすごいよね。まさかPAGの仮想エネルギーが本当にある世界に繋がるなんて。
となると向こうと交易してもあまり旨味は無さそうである。もうビブラで技術は色々採れるのよ、こっちは。まぁ安全さで言えば異世界から流入する魔力とかまんま色々使えて便利だけどね。
でも亀裂とか放っとくのはなんかイヤだし、閉じる研究は進める事にした。
「なんだここは…?」
『あ、異世界人が侵入したね。送り返そう』
「我は吸血王ドライム!! グール共よ、頭を垂らせ! ここは今日より我が領地である!!」
『あ、送り返したせいで変な魔物が戦争仕掛けてきたね。殺……すより、俺一人ワンマンより代わりに支配して貰った方がいいか。引き継ぎ準備しよう』
「なんだこの世界はァァ!! 我が精鋭部隊も眷属も皆死ぬし!! 我片腕吹っ飛んだし! 何処もかしこも酷い土地だし、寝ると地獄に連れてかれるとかなんて世界だ我は帰るぞ!! とんだ魔境であったわ!!」
『あー……残念。とんだ軟弱者だった』
「うわあ!!? 我が領土が地獄に侵食されておるぅぅ!!? 民が、我が城がぁぁ!!」
『1秒単位で酷いと深海になったり宇宙になったりするだけなのに地獄とは……酷い言い草だ。身体に付着した夢の世界の要素も洗わずに帰ったし、あっちはこっちと同じになるのも時間の問題だね』
その間に外国では亀裂の先に我先にと避難したり、喋る自称王様の魔物が5秒もせずに尻尾巻いて逃げたりと色々あったがそれは置いといて。
様々な要素を安定させるのに一月も掛かったが亀裂を閉じる技術も無事開発出来、日本も落ち着いてきたのでやり直す事にした。
さすがに阿佐美や国家の中枢が含む500万が初動で死んで、最終的にこの世界で生きてる人が30万しかないのはね。海外は皆して異世界に逃げたし、流石に安定したとしてもやり直した方がいいだろう。死体はオート操作なのでその辺りも安心である。
『お、歴史の書き手さんだ。こんにちは、梟の所に行くと毎回見ますね』
[……なぜ直ぐに此処に来なかった]
なんとなしに声をかけると変なことを尋ねてきた。
はて、困ってたから声をかけただけなのだが。
『みんな困ってたので。CUTの電子生命体達も自分の仕掛けた爆弾で変わった環境に自滅しちゃいましたし、誰かが先導役をやらないとダメかなーって』
[残ればずっと人類の守護者としての役を被れるぞ。戻すのなら態々先導する意味はない。アレは別の世界線に移ろうものでは無くこの世界に付随する全て……私と思念体を除き、戻すものだ。無意味になるぞ]
『別に必要とか意味とかでやってませんからね』
書き手も変なことを聞くね。俺の考えてることも歴史の一つとして記録してるのに、態々尋ねるなんて。
というか、今の俺は演劇持ってないから書き手の管理下じゃなくない? なんで俺に関わるんだろう。
『周りに合わせて、足りないから補っただけですね。それはそれとして、周りはこの世知辛い空気を望んで無さそうなので戻しますが』
答えたが、返事はない。どうやら話す気は失せたらしい。
なので俺も前回と同じく羽根を拾う事にした。
「"
さーて、やり直しだ。