これまでのあらすじ
やっと助けなきゃいけない人を助けられた。
よって以下蛇足。
「お買い上げありゃしたー」
「どうも」
……ふぅ。
コーヒーは良いよね。とても苦いのに、甘くしようとすれば素直に甘くなってくれる。
何より甘さを自分で調整出来るのがいい。01じゃないのが高得点な所だ。個人的に。
「一杯どうですか、書き手さん。少しは休憩しても良いと思いますけど」
公園のベンチに座っていた書き手に言う。
当然返事はないので、直ぐに取れる場所に置いて隣に座った。コンビニのやつだけど、これがまた美味しいと思う。どうだろ、俺はバカ舌だからね、そこら辺分かんないんだよね。
[暇人]
「はい、暇人ですよ。どうされましたか」
[よくもまぁ、今日までテスターと同じ動きをしていたな]
そうして10分か20分くらい経つと、向こうから話題が出される。
気まずいのがイヤなのか、それともサッサと立ち去って欲しいからかは知らないけど、俺としてはどうでも良いのでどう考えてたっていいだろう。
「せっかく台本を使った未来から来てくれましたからね。態々あの日に雨具を用意してくれましたし、その分は生きていこうかと」
[攻略をガン見してやるゲームか。よくもまぁ飽きないな]
「そういうの気にしないので」
書き手が呆れているが、俺もそう思う。同意見だね。
随分と長く、突拍子もない人生を送らされたものだ。たかが16歳の4月が終わるまでとはいえ、若い身としてはかなり長く感じる演技の日々だった。
とはいえ、演ったのは死んだテスターの「彼」自身だけど。例え未来の人格でも、過去に死んだのならシアターに連れ出せるんだからやらない手は無いよねって話。というか彼本人が自分役をしてくれないと、父さんを騙せなかったり妹達が産まれなかったり、色々不都合で可哀想な事になるからね。
というか俺がちょっと人の道を外れるだけで結構な人が助かるならやらない理由ないでしょ。そんなもんなんだから。
[何故絡みに来た。私はお前の人生になんの益もないが]
「何故って、決まってるでしょう──楽屋ネタですよ」
[楽屋もなにも、すべて実際に起きた事だ]
それはそう。
実際PAGは発売されたし、俺はテスターをやったし、世界は滅茶苦茶になったし、全部始まる前に終わらせたし、恋人になれた筈の相手を三人冷めさせた。
なんなら過去に行って投槍の要領で過去の俺に雨具投げて、逃げて、それから今日に至るまで田舎で俺が過去に行くまでお米育てながらのんびり待機していたからね。お陰で齢は26歳、もう立派な社会人だ。
「まあまあそう言わずに。折角人生と世界を賭けたタイムトラベルな話が終わったんですから。ちょっとした打ち上げくらいやりたいんですって」
[それで用意したのがコンビニコーヒー二杯か。ケチだな]
「この辺寿司も焼肉も遠いんですよ。それで40分自転車漕ぐくらいなら俺はコンビニで済ませます」
どんちゃん騒ぎは性に合わないからね、仕方ないね。
無味無臭のモブ男にはこれがちょうど良いのだ。
[ホント世界を救ったやつとは思えないな。その力があれば幾らでも人生を楽しめるだろうに]
「楽しんでますよ、俺なりにですけどね」
会話が途切れる。つまり口をコーヒーで潤す時間だ。書き手のは…いつの間にか減っている。いつ飲んだし。
ホント……書き手とは稀さか会うが、この人も人のことを言えないくらい奇妙な人だ。
そもそも人かどうか怪しいし、この世界の人かどうかも怪しいけどね。異世界あるしワンチャンあり得る。
[これから平瀬や家族と会ったりしないのか?]
「あっはははしないしない! する訳ないでしょ。俺と関わるなんて不幸はあれきりですよ」
[まるで自分と話すのが不幸であるようだな]
「まるでじゃなくて、事実です。偶然辺な力を持って産まれただけで、俺は人としては結構ろくでなしだ。他人に興味とか薄いし、愛着とかそんなにないし。そんな奴好きになったって疲れるだけですよ? 返ってこない愛情がどうとか、そういう話です」
[そうか]
淡白な人間だからね、俺も彼も。主役なんて荷が重いし、偶然世界を救うなんて事になっただけで、本当なら家賃三万以下の賃貸で冷凍パスタでも食べて、そんな生活で幸せに暮らしていけた人間なのだ。
それ以上を求める気もないし、やる気もない。だから他人の視線を集められても、ストーリーの順序とか気にせずサッサと終わらせる。派手なのとか期待するだけ無駄なのだ。
「あーでも、確か残ってる謎がありましたよね。あれは結局なんだったのかなって思いますよ」
[私とかか?]
「あなたはこの世界の過去改変される前も含む歴史を記録してる人じゃないですか。公務員以上の正体を暴くのはプライベートの侵害ですよ」
[明け透けだな。なら何が気になっている]
「PAG以外のVRゲームが全然出てこない」
[世界初のVRゲームのPAGが盛大にコけたからだ]
「確かに。でもアレが成功する未来とかなくないですか?」
正直クソゲーの部類だったし。評価されたの夢の世界の危険がないの一点だし。
その一点も魔物とか沸かせて危なっかしいし……その内爆死してたと思うんだよね。
ダンジョンとかで島を同じ位置に固定していたり……安さの為の試みが破綻に繋がってたからね。
[一応有るぞ]
「え、あるんだ」
へー、未来分かるんだ。
[今年ではなく10年後に、PA社以外が出せば]
[それはもう別ゲーなんですよ]
つまり、あの酷いゲームをやるのは避けられなかったということだ。
あーでも……そもそも夢の世界がクソなんだからそこに建てたアトラクションがクソなのは自然の摂理かな? スキルとかレベルの上げずらさとか苦痛要素満載だったし。ステータスの上昇がしょっぱいのよ。マジで上がった気がしないもの。
今だから言うけどストーリーの動線も弱かったし、サブクエも凝らなくて良いところに拘ってるし、NPCとかマジで空気過ぎたからね。
「そのくらいだなぁ。後はどうでもいいことばかりですね」
[疑問は終わりか]
「はい。お付き合い頂きありがとうございました。俺はコレから買い物に行かなくちゃなので、これで」
お互いコーヒーも飲み終わり、さあ日常に戻るかと立ち上がると、珍しいことに書き手も筆を止めて一緒に立ち上がった。あらま、その場を動くの初めてみた。
[では、そのシネマは破壊しよう]
おっと…それは別に良いんだけど、唐突だね。
「急ですね」
[お上の決定だ。貴殿の人格と能力を公平に評価した結果、国家に反する存在として認められた。意図せず大衆に有害な役を創るとな]
「意図せず……それって未来が判るからこそですか?」
[その為のFC社の予測技術だ。未来の確度で言えば同業の中でも世界1位だぞ]
そういえば書き手って未来を予測する技術の大手の社長だったね。確か公営の。
よく会うからすっかり忘れてた……その人が言うお上ってとんでもなくない?
「補償とかは…」
[1000万。入用なら1500万まで出せる]
「1500万……嬉しいけどそれだけ出させる役ってなんだろ…魔王とか?」
[考えても無駄だ。世の中には役や産まれに関係なく心の持ち様一つで主役を奪い異常事態を引き起こす輩が居る。それが偶然お前の役として産まれかねないというだけの話だ]
うーん……10年は使ってないし、それで1500万手に入るなら儲けか。
シネマの観客は……反応からして問題ないかな。近場の映画館が潰れるくらいの感想しかない。
聞いた感じそれが生まれたら俺が死にそうだし、それなら壊して貰っちゃおう
「お願いします」
[ご協力に感謝を。詳しい話は後日のこの時間で。壊すにも準備がある]
「分かりました」
ふぅ…これでシネマともお別れだね。
……寂しくなるかと思ったけど、俺の人間性奪う能力に感慨とか全く湧かないな。
呆気ないけどこれも俺達らしい終わり方だね。意味のある終わりだしヨシってことでいいでしょ。
「ではまた明日。おたっしゃで」
[ああ、また……これは気紛れだが、今日は夢を見ない方がいいぞ]
「はい? まぁ分かりました。なんか危ないんですね、ヘルメット着けて寝ますよ」
恐らく忠告と思わしき言葉に同意すると、書き手は瞬きの合間に何処かに行ってしまった。
シネマの観客席に勝手に座ってた時から分かってたけど、相変わらずの神出鬼没だ。
「……ま、いいか。想像も出来ない未来を気にしてもキリが無い。
今日っはおいしー弁っ当でも食っべようねー」
なんであれ臨時収入バンザイである。
俺はスズメが電線から飛び立つ様子を楽しみつつ、朗らかな風と共にその場を後にするのだった。
うんうん、きっと明日も良い日が続くだろうね。
後に残るのは、子供が公園で遊ぶ笑い声くらいで十分だ。
[*固有能力【何処にでもある後書き】が発動しました]
もうじき当シネマの運営は停止します。これまでのご愛顧、誠にありがとうございました。
「テスター」様のご活躍、及び従順性によって紡がれた当映画はこれにて完結です。
何処から人間らしくで何処から人間らしくないか、非常に怪しいラインを反復横跳びする事になりましたが、それも目標を達成した事で無事に終了。ポップコーンや飲み物等はお持ち帰りのほど宜しくお願い致します。
また、別室では同時公演中の映画がございます。帰宅の際は覗いてみても宜しいかも知れませんね。
以上、何処にでもある案内放送でした。