運営さまの言う通り   作:何処にでもある

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 PC シンエン 冒険者Lv.0
 能力傾向:オールリアリティ
 身体:ー
 技術:ー
 精神:ー
 アビリティ
 【深煙流】

 自動ログアウトまで後 40日


 Lv.0……現実と全く同じ条件を揃えて立っている者の証左。何かしらの原因でレベルアップの意味が消えた相手に付与されるもの。経験点は溜まるが、レベルが上がらない仕組みになっている。
 



煙巻く/星付きを倒してみよう

 

 

「剣を教えてください! 出来れば十日で!」

 

「……なんじゃあお主」

 

 初めは、演劇部の小僧が随分と舐めた事を抜かしてると思った。

 

 

 

「…剣筋はいいな」

「はい! ありがとうございます!」

「褒めとらんわ。始めてにしては才が見えただけ。たかが十夜だけで頂きに行くには不足も不足よ」

 

 ‭─‬‭─ある夕暮れにて、二人の男女が剣道部に残って鍛錬に励んでいた。

 山本と柳田である。普段は過ごすグループも場所も違う二人は、なんの縁か十日だけの師弟として竹刀(しない)を交えていた。

 

「それでもやらせてください。自爆しか出来ないやれることがないのはイヤなんです」

「所詮遊戯の話じゃろ? 何故そこまで本気に‭─‬‭─‬なる!」

 

 話の途中で不意打ち気味に竹刀を振り下ろし、山本が受け流して返す。乾いた音が武道館に響く。

 柳田も返しを捌き、数合打ち合い……膠着と見たかお互いに一歩離れ見合いの姿勢を取った。

 

 一通り教えた初日だと言うのに、既に立ち振る舞いは一端の剣士のそれか。

 柳田は間合いをにじり詰めながら彼に語り掛ける。その才を見て部室の門を叩いた時より興味が湧いていたからだ。

 

「ゲームなのはそうですけど……俺にとっては仕事でもあります。バイトですけどね。やるからには全力を尽くしたいんです」

「馬鹿め、虚実の幻想の為にここまで足を運ぶ奴がいるか。それともなんだ? 将来その手の職にでも就きたいのか」

「いえ、将来はリーマンになる予定ですよ。食わせる相手が居ますから」

「ほう‭─‬‭─"これ"か?」

 

 えっどれだ?

 柳田のニヤついた顔を見て山本は食わせる相手を知りたそうにしているとだけ理解した。

 

「妹です。二人居ます」

「む…」

 

 思ってもみない複雑そうな話に間合いをより詰める。

 気まずくなったら斬り込む為だった。短い付き合いの相手に同情し関心を向けない為だった。

 

「親が居ないものでして…俺って普段は忙しい方なんです。最近はこのバイトのお陰で余裕があるので、こうして自分磨きに時間を使えますけど……」

「だから全力でやりたいと‭─‬‭─不純よな」

 

 半歩前へ、切先を喉笛に。

 

「……お見事」

「無駄な考えが多いな。剣に留まらず、あらゆる道はそれ以外を切り捨てる所から始まる。一瞬で良い、一時(いっとき)だけ修羅になればこの様な無様は晒さぬ」

「助言感謝します」

 

 キッカリ一寸だけ離し、竹刀が山本の喉笛に添えられた。

 それが彼と彼女の実力差で、僅かに身の上を聞いた彼女の憐憫の現れだった。

 

「………ふむ」

 

 素質はある。もしかすれば自分以上に。

 しかし本人がその道を望まぬなら、教えるべきはその道を断つ技。

 真面目過ぎる奴は修羅に堕ちるとよく耳にする。この才は下手を打てば勝手にそうなりそうだし、教えは歪にした方が良いだろう。

 彼女はちょっとした親切のつもりで、彼を剣の道から落とす事を選んだ。

 十日の修練で実践で使い物になりつつ、されど癖つけば頂に到達出来ない悪剣の教え。

 

「合格じゃ」

「はい?」

「気に入ったから儂の流派を教えてやる。泣いて感謝しろよ? 戦の場で生まれた剣理じゃ。これなら獣や妖相手でも使い物になるだろうよ」

「‭─‬‭─‬おお! ありがとうございます!」

 

 それが深煙流の始まりとなる記憶。

 かの剣技は、その様な親切な嘘から生まれる事になる。

 

 

 

 

……………

………

 

 

 

 

 

 

「コココ」

 

「…デッカい鶏じゃなぁ」

 

 アテラスから旅立った初日、魔物を倒したり食べたりしてトボトボ歩いていると、コカトリスみたいな奴を眼下に見つけた。尻尾が蛇ではなく腹から何匹もの蛇が飛び出している化け物である。森でもここまで人外味溢れる奴はいなかったので斬るのを躊躇っちゃいそうだ。

 それに腐臭が上からでも感じられ、ゾンビの印象を受ける手合いだ。

 うん、嗅覚オフにできないかな。深煙流のせいで出来ないや。コレそのままだと問題になりそうだな、報告しておこう。システム干渉可能なユニークの生成は制限すべきだって。

 

[↓☆コカトリス「蛇食む巨鳥」 推奨Lv.15]

[星付き…通常個体から外れた特性を持つ魔物です。何処かに討伐クエストが出されており、受けた上で倒すとより多くの報酬を獲得できます]

 

「……さて、どれだけ首を断ち切れば死ぬだろうな?」

 

 説明を読む限り普通より強いらしい。どの道斬れば死にそうな類いなので先ずは斬り込む事にした。

 

「‭─‬‭─‬ッフ!」

「コケー!」

 

 落下にバク転の遠心力を乗せ、見えた未来を追って鶏の首を断つ。

 腐り柔らかな肉の臭いで鼻が曲がりそうなので息を止めた。

 

 鶏は首と離れても身体が勝手に暴れる気質を持つ。鳥頭は思考の全てを脳に頼ってないから頭が飛んでもすぐには死なない。数分は平気で動いたりする。故に次の位置は‭─‬‭─5点着地を兼ねた前転、足蹴りを躱し攻撃に転じられる腹の中へ。

 

「シュ‭─‬‭─ッ‬‼︎」

「おっと、不意打ちしちまいごめんなすって!」

 

 言い方を変えれば、腹を食い破り顔を出してる蛇どもに突貫した。

 

「シャァァ!」

 

 蛇共も突然の事態に毒の霧を一斉噴射せんとする。紫色の溶解性の霧。俺が触れればひとたまりも無い必殺の反撃。

 

「‭─‬‭─ならばァ!」

 

 刃を返し、未だ身体に宿っている落下の衝撃を刀へ流してそこらの岩に当て、反動で無理矢理勢いを付ける。

 ニの太刀を腹から飛び出た蛇共にあてがう。霧を吐くより早く硬い鱗も纏めて切り裂いた。飛び散る蛇頭、遅れ血飛沫、吐きかけの毒混じり、後ろ足の力を抜いて倒れるように後転。

 

「スゥ‭─‬‭─フッ…!」

 

 息継ぎ、腐った空気が肺に満ちるのも構わず即座に攻めに掛かる。

 ここまで2手、武芸を学んだからには後一刀で殺してみせなければ奴に笑われてしまう。

 しかし‭─‬‭─。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ェェェ!!!!!」

 

 このゲームの生き物は大概タフだ。HPが0になるまで死ぬ事はない。

 そして魔物は大量の魔力を消費し無くした部位を再生出来る。その間だけ弱体化(ブレイクタイム)こそするが、動きが鈍くなってる内にできるだけ攻撃しなければコチラがジリ貧になるのが(つね)

 

「深煙流‭─‬‭─起刀」

 

 だからこそ、切り口を焼いて再生に余計な魔力を消費させる深煙流は魔物を殺すのに向いている。だからこそ今日に至るまでの十日間をこの流派に注いだ。

 現実では見栄え重視の過剰火力でも、俺がちゃんと使えるようになれば対魔流派として花開くかも知れない。

 そうすれば……奴の道場も、少しは賑わうかも知れない。そうすれば武芸を教えられた礼が出来る…。

 

 思考が逸れた。

 

『"煙々羅(えんえんら)"』

 

 深煙流、煙を扱う初級の技、煙撒く火花。

 俺は切り筋がどうもブレが少ないせいか火花が出ないが、本来この流派は荒々しく斬り込み、擦り、火花で煙と火を撒き散らすものだ。

 これはその初歩、相手の鎧や刀を斬るついでに火を刀に灯し大量の煙を出す技。後に繋げる為の初動。起点の一太刀。

 

 それを俺は理想の俺をなぞって初めて成功させた。不恰好だが、ここで使わなければ何の為に学んだという話になる。本当なら再生している今のうちに果敢に攻めるべきなのだが…折角の強敵だ。

 試し斬りの土台にしなければ意味がない。三太刀で殺せないならいっそ2つくらい技を試そうという魂胆だ。

 

「コッ!?」

 

『フゥ‭─‬‭─呵呵ッ驚いたな? なんだ、人が妖に化けたのを見たのは初めてか』

 

 刀から出てくる煙を纏う様は正に煙妖。故にこの技は煙々羅と名付けられた。

 瞬く間に煙が広がる中、煙の先に消えていく理想の動きを必死になぞり、独特なリズムで鶏に近付いていく。

 そうして後に残る煙が……俺の過去をなぞり始める。

 

「コッ‭…─‬‭─‬!?」

 

『それは儂の残影よ。どうした? 攻めて来ぬなら此方から()くぞ?』

 

 これは奴…もとい俺の師匠が勿体ぶって見本も見せずに語っただけの技だが、独特な歩行術で煙に俺の跡を残し、分身しているように見せる技だ。理論的にはタバコの煙で輪っかを吹き出すのと同じもの。

 極めれば分身が個別に攻撃している感じに見せられるらしいが、俺は未熟なので理想の動きの真似て漸く5つ、俺の過去をなぞる煙を作れる程度。おどろおどろしい声で辺りに響かせつつ語り掛ける小細工をしなければ惑わす事も出来ないのだから不甲斐ない。

 まだまだ先は長いと、刀に煙を巻いて熱を閉じ込めていく。次は火の技だ。

 

『深煙流‭─‬‭─熱刀 "火鉢"』

 

 技名が掛かってるのは煙を巻いて刀身の温度を上げる所までだが、後は温度を上げた刀で斬るだけなので初心者に優しい技である。煙を巻くのがかなり難しい所は初心者に優しくないけどね!

 奴の語った話によれば触れた後は軽い火傷になって血が出ないらしく、血が撒かれないから鶏の毒も散らないだろうと思って使った技となる。

 

 その結果は奴の説明通り。

 

「……腹が減る匂いじゃ」

 

 焼けた鶏肉の匂いを漂わせながら遂に力尽きた鶏は、新たに作った切り口から一滴の血も流すことは無かった。

 つまり俺は深煙流の技の内3つを使えるようになったということ。ゲームを始めるまで全然出来なかった時と比べれば見違えた戦果だ。

 

「っかし本当に便利よな、この眼は」

 

 やはり理想の動きが見えるのがデカいのだろう。コレが無ければこんなにアッサリ成功する事は無かったし、本当に直ぐ真似できる見本があるのは良い学びだ。いつかは理想を追い越してみたいものだ。

 

 がさり。

 

 そうして死体を前に反省していると、少し離れた草むらが揺れ動いた。

 なんだ、俺と鶏の戦いを前に隠れてた小動物か? 丁度良い、今日のお昼ご飯としよう。この鶏を食べるのは勇気が必要だったんだ。

 

「出るなら出て来い。叩き切ってくれ」

 

「‭─‬‭─‭─‬‭─弟子にして下さい!」

 

 という訳でご飯を思って刀を構え身構えていたのだが……飛び出てきたのは兎でも狐でも、ましてや狼でもなく。

 

「あ、申し遅れました! 僕は白虎という魔物(あやかし)です! 貴方の剣技、化けっぷりに惚れました! 飯炊きでも荷物持ちでもなんでもします! なのでどうか、僕を弟子にしてください!」

 

 真っ白な服を着た、これまた真っ白な髪と肌に薄い青色の目をした、頭に葉っぱを乗せた声変わりも済んでいない少年。

 自らを(まもの)と名乗り、俺に弟子入りを志願する変な奴だった。

 

「……そのー…お返事の程はどう…でしょうか?」

 

 考えもしなかった手合いの登場にどうするか考えてる俺に対し、いつまで経っても言葉の一つも与えられないのが気になり顔を上げてきた。

 ……ああ、そういえば星付きは必ず依頼があるとか何とか説明に有ったな。つまり、どんなに人気(ひとけ)が無くても依頼主は必ず居るわけで……あの鶏に対応してたのがこの自称白虎なんだな。

 

「……いいかぁ? 儂の剣は邪道も邪道。儂にとってもまだ完成まで漕ぎ着けてない未完成の剣技だ」

 

「はい! それでも僕はあなたの剣を学びたいと思ったのです!」

 

「ほう、そうかそうか……」

 

 そこまで話すと、俺は我ながら実にいい笑顔で少年と目線を合わせ、こう言った。

 

 

「‭─‬‭─やぁだねぇぇ!!!

 

…エエエェェェーー!!?

 

 キーラの森から肌寒い風が吹雪いている山の腹部にて、二つの叫び声が山彦となり何度も響くのだった。

 

 






 地形…ドーイラ島は数日歩けば地形も環境も様変わりする。大抵は森に住む強大な魔物の影響だが、偶に海から訪れる現象や魔物によって変わったものもある。
 運営にとってはプレイヤーを飽きさせない為の処置。
 この地を生きるコマにとっては残酷な現実だ。
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