パーティ…このゲームはソロでもパーティでも遊べる様になっているが、プレイヤーの仲間が作れない人向けにコマと仲間になれる機会が多く、一人の時は特に出会いやすくなっている。仲間になるコマは人魔問わずおり、上手く立ち回ればモフモフハーレムも夢ではない。
「師匠〜?」
「助けてくださいしっしょー!」
「し〜しょ〜お〜?」
「師匠ー! 僕が一撃当てたら弟子にしてください! てりゃー!」
「待ってくださいししょぉ…ぉ"…いっってぇぇ…」
「いい加減弟子にしてくださいよぉ師匠〜ぉ」
「さっさと巣穴に帰るんだな、儂は誰かに教えるものなぞ持ち合わせておらん」
「何言ってるんですかぁ? あんなにカッコよかったのにぃ?」
「アレはまだまだ虚仮威しよ。コレから中身を詰める気ではあるがな」
葉っぱを頭に乗せた真っ白な少年から弟子に志願されて二日経ったが、コイツは俺の想像以上にしつこかった。
勝手に後ろを着いてくるのは序の口。先回りして飛び出すわ魔物を連れてくるわ、しまいには棒切れ片手に見るも無惨な剣筋で叩きに来る。
「…………はぁぁぁぁ」
「どうしたんです師匠? 嫌なことでも思い出しました?」
幾らなんでもしつこすぎだ。最初こそ運営が作った強制イベントかと思ったが、毎回振り切れる辺りシステム的制限はない。つまりこの小僧が単にしつこい性格をしているだけだ。
「そこまでしてこの剣を使いたいか」
本当に教えることなんて無いんだけどな。俺は出来るようになったけど敷居の高い難しい流派だし、荒々しく自由にやっているようで技術的には繊細で武器まで指定されている硝子の剣。
ユニークで実力以外の弱点を省けてないと話にならない戦い方なんて、プレイヤー以外に誰が使い熟せるんだ?
「はい! カッコいいですし、まるで煙の怪物に化けたみたいで…!」
「話にならんな。殺しの技をそんな甘っちょろい理由で学びたいなど……なにより」
そして理由を聞けばカッコよかったからの一点張り。そんな理由で教えてくれると思ってるなら、この子は目の前の現実と向き合えてないに違いない。
「お主、ここまでどうやって自分の飯を用意した」
「えっ…そ、それはいつも通り元の姿に戻って…こう、がぶりと」
「じゃあより上手に潜伏し、力強く噛み付く方法でも模索するといい。儂の剣を学ぶよりそっちの方が強くなれるだろう」
「そんなことは…!」
振り返り、小僧を睨む。虎の魔物でもまだ子供であるからか、肩をビクリと震わせて半歩下がった。……火を扱う胆力にも欠けてそうだな。つまりこの剣に小僧は向いていない。
それっぽい事をいって心を折り、さっさと別れてしまうのが良さそうだ。
「虎は虎だから強く、人は人であるから強い。そのあるべき在り様こそ正道であり、儂のように何かに化けるのを邪道と呼ぶ───故に邪道とは正道を歩めぬ不名誉な連中が、それでも先に進まんとした藪道よ。歩き辛く、どれだけ進もうと整った道を進む者らより遅れを取る」
そこまで言って俺は足を前に進めた。
それっぽく別れるならこのタイミングしかないと判断したからだ。
「まだ一歩も歩いた事のないお主に儂から教えられることは、儂の様になるなという助言一つのみ。精々、その強者の器を気紛れ一つで台無しにしてくれるなよ」
振り返らず、手も振らずに俺は小僧から離れていく。小僧は…動かない。追う気が失せたのか、曲がり道まで背中を見られている感覚だけがあった。
人に化けられる魔物は始めてみたが…ここはゲームだし会う時は会える類いだろう。
俺は別にコレクターの気質はないのでそのまま忘れる事にした。
「おっ街だ」
それから三日。
北へずんずんと進んでいくと唯一の北の街に到着した。空は厚く曇り、常に雪の降る場所。コレまでの道のりと比べても一層強い風と雪が辺りを囲う中その街はあった。
こんな所に人が住めるのか、なんで住もうと思ったんだと思わないでもないが、それを言ったら現実も似た様なものだし別に良いだろう。これから予言の梟と会うまでの拠点にする街だ。悪く言うものでもない。
「うわぁぁぁ!!」
「……ん? 今悲鳴がしたな」
五日も歩いて見に来れた街に感慨深くなっていると、この静かな雪原を割って裂く悲鳴が耳に届いた。直ぐに街に入りたい理由もないので其方の方へ急ぎ足で向かうと、遠目でもハッキリ見える程に大きな毛深いイエティーに誰かが襲われていた。
[↓☆スノーマン「狂気に沈んだ雪の巨人」 推奨Lv.40]
「無理だな、諦め……ん?」
[↓☆化け狸「雪に愛された生誕」 推奨Lv.5]
「なんだただの狩りか。星付き同士で争う事もあるんじゃなぁ」
何事かと思ったら野生の営みだった。これまで魔物同士で争う光景を見たこと無かったが、存在していたらしい。片方はヤケに弱いが……星は普通から外れた特性を得た者に付く都合、その実力の是非は問われないのだろう。
良い機会なので見物しに行こうとそのまま走っていくと……そこにはイエティーに襲われているいつぞやの小僧の姿が有った。
「だれかー! 助けてぇぇ!! 死にたくない! 死にたくなーい!!!」
「あやつ……着いて来たのか」
……助けたいかは微妙な所だが、やらなければ俺の目覚めが悪くなる。
仕方ないのでカイロ代わりに煙を出さないように燃やしていた刀をユニークで新品に変え──
雪山に打ち付けている。
感覚として伝わったのはそのようなもの。なんでもない地面に叩き付けた時と同じ感触に逃げ道を探ろうと視線が無意識に動き──視界の端に、次の一手に移る理想の俺の姿が見えた。
「──よい」
……小僧の命は別に惜しくもないが、この眼が倒せると俺より先を踏んでいる。
だったら追わねばなるまい。思えば目の前の敵に果敢に挑むのが今回の俺のプレイスタイルだ。それを捻じ曲げるのはこの仕事に対して失礼だった。
ならば反省も兼ねて、ここで新たな領域に踏み込んでみせよう。
誰かを助ける場面なんて、覚醒にもってこいの場面の筈だから。
「"
故に──演技の深さを一段階上げた。
「あ…! この煙は…!」
理想をなぞり、雪男の毛と擦り刀に火を灯す。
誰かが瞬きする間もなく、あっという間に煙が俺達を包み込んだ。
『鬼に逢うては鬼を斬り』
困惑、期待、弱音。三者三様の思考。
山を斬るなら不要だと、雑念を斬り捨て無念に至る。
敵意、歓喜、無念。移り変わる想いが一つ、空白に変わる。
空白の中に、複数の未来を詰める。
能力は何回も使っていた。それこそ感覚で応用するのに十分なくらいには。
自らの思考リソースを
『仏に逢うては仏を斬る』
ただ未来を見つめる。より先の未来を観る。不慣れだろうと、より最短最高の未来を視る。
先の先、より早く「斬る」という因果に到達せんと選択する。
未来から見つめている
『我が名はシンエン。覗き返すもの』
──
此処が
であればその全てのデータをこの
理論としては
『特別だ。我が追い求める理想、その一端を解禁しようぞ』
仮にこれに名を与えるならば……深煙流、禁じ手、"
理想に全てを委ね、自ら戦う事を放棄した神降ろし。武芸者にあらぬ陰陽師の
……はっ。所詮儂は流派に名を連ねる資格のなき落伍者に過ぎんか。
『煙管 "口移し"』
さて、斬り参ろうか。
それは、武というより舞だった。
『煙管 "口移し"』
何処からともなく声がしたかと思えば周囲を取り巻く煙から複数の煙の刀が現れ、跳ねるようにスノーマンに切り掛かっては消え失せ、纏わりついて視界を塞ぎ。
『蛍 "
熱で揺らぐ刀がスノーマンの喉仏の前を空振ったかと思えば、後に残る熱の"歪み"がその剣筋を伸ばして肉を斬り。
「──ゥォォオオオオ◼︎◼︎◼︎◼︎!!!!」
痛みに闇雲にスノーマンが暴れ始めても。
『──奇跡 "
近付くことすらせず、周囲を走り回って振るい放たれた燃える斬撃がスノーマンに深い焼け跡を残していく。次々と赤白い斬撃が放たれている様子は、まるで火で出来た鎖が広がっているように錯覚させられた。
「わ、あぁ…!」
次から次へと目を惹かれる大立ち回り。魔力の気配一つ、アビリティの気配一つさえ漂わさず、どのようにしてそうしているかも検討が付かない剣技。
いや、コレが剣技であるものか。こんなにも目を奪われ、心を奪われ、原風景として己に刻むものがただの剣技で良い筈がない!
「これが……師匠が求めている剣…!」
その全てを前にして僕は……他と違って白い狸として産まれ、除け者にされ続けた僕は、産まれて始めて"赤い目を輝かせ"、心の底から惚れ尽くしていた。
*
「なんだあの人間! こんなにも僕が愛想よくしてるのに靡かないなんて!」
始めは新たな巣を見つける間の繋ぎのつもりだった。
巣の周りに七面倒なゾンビが現れたものだから新天地を何処にするか考えてる間に寝てしまい、カン高い金属音に飛び起きたらゾンビを一瞬で倒せる人間が現れた。
直ぐにピンと来た。コイツは最近魔物の間でも噂になっている「ぷれいやー」の一人に違いないと。
奴らは命知らずで果敢に森に入り魔物を殺し回る。
例え殺しても蘇り、僕らを殺し返すまで決して止まることはない。
人間と似たような見た目の奴や「かわいい」連中は比較的見逃すけど、それでも大体半々で殺しに来る。
兎に角物騒な連中だから、出来る奴は人に化けて煽てて逃げるのが懸命だ。
話の半分は眉唾物だけど、兎に角強いのは確かだ。だからこそたった一人でコカトリスのゾンビを殺すような奴はそれ以外にないと分かった。
そうだ、適当に騙してアイツに着いて行けば楽に新天地を探せるかも知れないぞ!
ゾンビというのは厄介なもので、二度目の死を遂げるとその身体を一晩で腐らせて辺りを誰も住めない土地にする。
毒で土地を汚染する訳じゃない。厄介にも腐臭、疫病の元になるのだ。
だからゾンビが出て来たら他の魔物は自然と別の地に行く。元の生活は失うけど、そうすれば少なくとも泡吹いて死んで新たなゾンビになることもない。
「なんだけどアイツゥ……僕は「かわいい」んだぞ! ちょっとくらい甘やかしたっていいじゃないか!」
僕は狸だ。決して美しい青眼を持つ白虎なんてご大層な種族ではない。
ただ化けるのが上手くて白くて「かわいい」だけが取り柄なのが僕だ。「かわいい」がなんなのかは知らない。そんな学を得る機会は無かったし、興味も無かった。ただ、他人というものが優しくしてくれる物という事だけは知っていた。
騙す、煽てる、言葉で煙に巻く……僕はそうして生きて来た。それ以外の道は親からも教えてもらってないから、ずっとそうして来た。僕なりに組み立てた生存戦略だった。
「けっ何が邪道だっての…! だったら何も教えられてない除け者は、僕は、絶対正道を歩けないじゃないか! 化け狸らしい生き様ぁ? そんなの僕の方からお断りだね!」
なのにアイツと来たらどうだろう! やれ儂はまだ未熟〜だの、虎は虎らしくだの、ちっとも気を緩ませず慈悲の一つも渡してきやしない。
魔物に追われてる時に会えば倒してくれるけど、当初目論んでいた飯や可愛がりはこれっぽっちもありはしなかった。
「頭の足りないコボルトだって僕が媚びればガフガフ笑いながら美味い木の実を山ほどくれるってのに……他の人間だってやたら味が濃くて美味しい肉や本を寄越したのに!…うへへ、アレは美味しかったなぁ」
ほっぺたが落ちたかと錯覚したあの味を思い出し、機嫌を良くするも……。
"故に邪道とは正道を歩めぬ不名誉な連中が、それでも先に進まんとした藪道よ"
「……ッチ。うっっぜぇ」
直ぐにアレの言葉を思い出し機嫌が悪くなる。
堂々巡りだ。すごく気分を害されたのと、これ以上北に行けば死ぬと見切りを付けて別れたのに、嫌なアイツがずっと脳裏にこびりついて僕に話かけてくる。それで気分を悪くすれば余計奴の言葉を思い出して…。
「…あーもー! 一言言い返してやらないと気が済まない! よし、言って直ぐ戻ろう! 長いしなければ吹雪だって大丈夫な筈…!」
だけど…苛立ちの中、僕はこうも思うのだ。
或いはこのまま惰性で生きるより、邪道でも此処ではない何処かへと向かってみた方が楽しそうだ……って。
……それは僕の中で、微かながらもあの変な人間から与えられた火が大きくなろうとしている証拠だ。
火の側にある雪は溶けるもの。或いは、僕はこの時には既にどうしようもなく火に魅入っていたのかも知れない。
でなければ……ただ孤独に生きた化け狸が、
*
「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎────ォオ!!!!」
火と煙、雪と風、狂気に沈んだ巨人にとっては取り囲むその全てが鬱陶しいものだった。
巨人にとって人は小さな同族に過ぎない。敵でもなければ味方でもなく、どうしようもなく腹が空けばしょうがなく食う程度の興味のない相手。
人もまた強大な力を持つ巨人に立ち向かう気はなく、必然とこの雪と風の地ではお互いは相手を居ないものとして扱う消極的な敵対関係で保たれていた。
『──奥義』
されど、この場においてはそうではない。
年老いて須くの区別が付かなくなった巨人はその衰えた力で無軌道に暴れ、なす術なく死ぬ筈の人が、火と煙を刀一つで操り相争っている。
コアの者らが、未だ旅立ったばかりプレイヤーの者らが観れば圧倒されるだろう光景は、一匹の化け狸を観客にして遂に決着を遂げようとしていた。
『"火刑"』
──勝因は幾つもあるが、大きな要因は3つに絞れる。
一つ、次々と燃え尽きては現れる刀による煙は周囲に鉄塵を撒き、煙の流れに従い目先の者を傷付ける。人はこれを御してみせ実態のある煙の分身を効果的に使ってみせた。
一つ、深煙流は厳密には火ではなく熱を本命の武器とする。紅く残る残火より、微かに周囲を揺らす熱こそ刃に変えて焼き跡を残していく。狂気に堕ちた巨人はそれを見抜けず、目立つ赤と煙に執着した。
一つ──深煙流の奥義である"火刑"は、このゲームに織り込まれた現実にない物理法則すら利用して、高みに至った熱と煙を用いて空間すら斬り伏せる。
山のような
「◼︎◼︎オオォォ……ミゴ…ト…」
『──斬り捨て御免』
互いの種族としての関係も、かつて巨人が就いていた地位も関係なく行われていた争いは、満ち満ちた煙と火によって、人と巨人の誰に知られる事もなく終わりを遂げた。
終わる直前に巨人が取り戻した正気も、煙を纏いし修羅……煙々羅の無念夢想の極芸も、等しく雪の下に消え失せるだろう。
「さて、身体が覚えている内に一通り覚え直さねば」
「あ、あの!」
「…ああ、そういえば居たな。なんだ、悪戯をしに来たなら斬る──」
「……再三ですが、これを最後に願います!」
そしてその戦いを祝うように人がまた煙と火を灯し舞い始める最中、終始を観ていた獣は声を張り上げた。
「僕は──僕は白虎ではなく、白い毛と赤い目のせいでずっと除け者にされ生きてきた狸です!
先ずは騙していて御免なさい……だけど、それでも僕はあなたの弟子になりたいんです!
正道を歩む資格すら無かった僕でも、歩ける道があるなら、その先を観てみたいんです!!」
「………」
「お願いします。変わりたいんです。騙して生きる日々を変えたいんです。だからどうか、どうか……お願いします、弟子にしてください」
これを逃せば二度と己が変わることはない。
そんな確信に身体を突き動かされ、真摯な想いをぶつけた。
今までみたいな生きる為の戦略を言い訳にしない、いっそ馬鹿らしい程の青い情熱。
雪と風が戦場の熱と煙を払う中、熱意はより大きく盛っていた。
「……はぁ」
しかし返ってきたのは、ため息一つ。
分かっていたことだ。彼は弟子にしないとずっと言っていた。
今更どうこう言おうと変わらないのは知っていた。
だけど、この熱を燻らせるのだけは嫌だったから……。
「着いてくるなら勝手にしろ。儂はまだ極めておらぬが、それを見て真似るのはお主の勝手……儂がうっかり落とした武器を拾うのも、お主が勝手にやったことじゃ」
──パッと、顔を上げる。
彼は決して振り返らず、変わらぬ調子で刀を何度も握り直しては振るい、身体の余熱を学びに変えてながら先を進んでいる。
しかし、白狸の前には黒い刀身の刀が地面に刺さっていた。
「──師匠!」
刀を拾いその背を追いかける。
だが近付き過ぎず、かといって離れてもいない間を保った。互いの熱と煙が届かない程度の距離。
それが彼と狸の師弟関係の妥協点であり、修羅と青二才が一緒に居られる距離感。
「もし、そこの衛兵。儂は旅の者で……後ろに居るのはオマケだ。ついでの金は払うから、奴も中に入れといてくれ」
「あ、お疲れ様です! え、何者か…ですか?
剣の師匠とその自称弟子です! 暫くの間、街のお世話ななりますね!」
こうして未だ多くのプレイヤーが都市に留まる中、北の街に奇妙な師弟が訪問するのだった。
仲間コマ「白い化け狸」
アルビノの身体で産まれた一匹の化け狸。自然発生する仲間になり得るコマの一つ。
仲間になる条件はアビリティと魔法無しで星付きを討伐すること。戦う相手を選び、道具を揃え、数で囲めばそう難しくはなく、モンスターテイマーのアビリティを用いれば無視出来る程度のもの。
基本性能としては通常種の魔物「化け狸」と同様に化けられること、生産系に向いた
仮に戦闘方面に進めたい場合、何かを創りながら戦うやり方を考えると良いだろう。