ひぐらしのなく頃に 時明し編 (圭一×レナ)   作:晃晃

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時明し編(4)あなたがそこにいるだけで

満身創痍の圭一くんをとりあえず診療所まで運び、監督に預けた帰り道。魅ぃちゃんが弱々しく笑って、

 

「……あはは、大丈夫だって。その、ほら。圭ちゃん笑ってたし、そんなに悪印象はもってないよ、きっと」

 

「そうかな……、かなぁ」

 

慰めてくれるのはありがたいけど、私としては自分の馬鹿っぷりにいい加減うんざりして凹みまくるしかない。

 

悪印象を持っているかどうかはともかくとして、どう考えても彼の恋愛対象としては致命的な失点をしてしまったように思えてならないんだけど。

 

「……レナ、圭ちゃんのこと好きなんだね」

 

魅ぃちゃんが突然、笑顔でそんなことを言った。

 

「はぅ!?……な、ななな、なにを……」

 

瞬間湯沸かし器のように、頭の中が沸騰する。

 

付き合いの長い魅ぃちゃんは危険を感じたのか慌てて私から距離をとってくれた。……よかった、間合いがあと2歩近ければ、今度は魅ぃちゃんを診療所に運ぶはめになっていたかもしれない。

 

「照れ隠しで人を殴るのはよくないよ~、レナ」

 

「だ、だだだ、だって、魅ぃちゃんがへんなこと言うんだもん! レ、レナ、けけけ、圭一くんのことなんか、はぅうっ!」

 

がん、と隣で音がしたので視線をそちらに送ると、『飛び出し注意』っていう看板が半ばから折れ曲がっていた。……そういえばちょっと拳がひりひりするけど、なんだろ?

 

標識が突然折れ曲がって、レナの手に当たったのかな?

 

……うーん、超常現象だね。SOS団を呼ぼう。

 

「こ、公共物破損もよくないよ、レナ……」

 

魅ぃちゃんが引きつり笑いをする。……あの顔は、今度町会にかけあって『レナぱん注意』っていう看板を作ろうかなんて失礼なことを考えてる顔だ。ぷん。

 

「……と、とにかく。全然そんなことないのに、魅ぃちゃんはなにを根拠にそんなこと言うのかな、かな」

 

すこしは私が落ち着いたのを見て取ったか、魅ぃちゃんは横に並んで歩き始める。

 

「う~ん……直感というか、空気を読んだというか」

 

「嘘だッッ!」

 

……意外に奉納乱舞ではあまり使わないネタだった。

 

でも魅ぃちゃんは怯まない。

 

「いやいや、嘘じゃないよ。だって……私、レナのこと好きだもん。……レナのことじっと見てれば、レナが誰を見てるかくらい気づくよ?」

 

すこし恥ずかしそうにしながら言う。

 

確かに、どんな道理よりもそれは真理かもしれない。

 

圭一くんに誰か好きな人ができたとしたら、私だって一番に気づく自信がある。それで身を引けるほど、いまの私の想いは弱くはないけれど……。

 

「レナ、頑張れ。……私、応援するからさ」

 

「え?」

 

話の流れがつかめない。

 

「……だって、あれ? 魅ぃちゃん、いいの?」

 

戸惑う私に、魅ぃちゃんはこれ以上ないくらい優しい笑顔で頷いてみせた。

 

「言ったよ、私。レナのこと好きだって。……だから、レナが落ち込んだり悩んだりしてるのを見るのは苦しいし、レナが幸せそうに笑ってくれると私だって嬉しい。……そりゃ圭ちゃんに独占されちゃったら悲しいけど、レナはちゃんと私の親友でいてくれるって信じてる」

 

笑ってはいるけど……その瞳には、せつなそうな影。

 

「私の気持ちが迷惑なのはわかってるし、邪魔してレナに嫌われるほうがつらいもん。……だから、応援する」

 

あぁ……魅ぃちゃんってば、なんてピュアなんだろ。

 

暴走気味で打算的な私なんかよりもずっと純粋に好きな人のことを考えてる。恋する女の子はこうでなくちゃ。

 

……恋する対象がちょっとアレだけど。

 

でも、その優しさは私の心を暖かくしてくれる。

 

魅ぃちゃんはほんとに……素敵な親友だった。あの夢のなかで、魅ぃちゃんを疑った自分を絞め殺したくなる。

 

「魅ぃちゃん……、レナがその、けけけ、圭一くんに、嫌われちゃったら……慰めて、ね?」

 

だから私はそんな、ちょっぴりずるい約束をする。

 

「え、そ、それって……」

 

圭一くんへの想いが叶わなかったときは、魅ぃちゃんの気持ちに応えたい、なんて……いけないことだと思う。

 

でも……それくらいしか、魅ぃちゃんの笑顔に返してあげられるものが、なかったから。

 

「……あ、あははは、複雑だなぁそりゃ! うまくいくように応援しようってのに、うまくいかないようにお願いしたくなっちゃうじゃない。レナの意地悪~!」

 

「……そうだね。あははは、ごめんね魅ぃちゃん☆」

 

すこしだけ、せつない想い。

 

でもいまは、笑い合えることがとても嬉しかった。

 

「おっはよ!」

 

「……ぉ、ぉはよ……」

 

翌日、はやめに出てきてくれた魅ぃちゃんといっしょにあの待ち合わせ場所で圭一くんを待っていた。

 

「おはよう。……どうしたんだ、二人とも」

 

圭一くんの顔に疑問符が浮かぶのも無理はない。

 

でも魅ぃちゃんはそれが当然というかのように笑って、

 

「いや~、圭ちゃんってば昨日も倒れたでしょ。私たちも心配だからさ、学校まで一緒に行ってあげようってわけよ。……ま、私は家の方向違うから、明日っからは途中で合流することになると思うけどね!」

 

「なんだ、そっか。サンキュな……でも、このごろの俺ってほんとどうしたんだろうな~。なんか倒れたあとは決まって直前までの記憶がないんだ」

 

……き、昨日の件も忘れてくれたみたい。

 

ごめんねって思いながらも、ちょっとだけ安堵する。

 

「さぁねぇ~、おじさんが思うにそれは、新手のスタンド使いの攻撃じゃないかねぇ~」

 

魅ぃちゃんがいい加減なことを言いながら歩き出して、私と圭一くんもつられて歩き始めた。

 

「いるのかよ! 雛見沢おそるべし!」

 

「そりゃあいるさ。ほかにもなんたら神拳の使い手とかアルター使いとか黄金聖闘士とか埋葬機関の人とか砲撃魔導師とかてんこもりだよ?」

 

「うおおお、ある意味夢のようだな。燃えるぜ!」

 

朝っぱらから男の子同士みたいな話題で盛り上がるあたりは、夢の世界でもこの世界でも変わらないらしい。

 

……あっちの世界の魅ぃちゃんは圭一くんを少なからず意識してたと思うんだけどなぁ。ある意味私には真似のできない魅ぃちゃんのキャラクタに心の底から感心してしまう。……真似したくないけど。あ、でも好きな男の子と話題が合うのは、ちょっぴり羨ましいかな……?

 

「……というわけで彼、前原圭一くんを我が部に加えたいと思うが諸君はどうかな!?」

 

その日の放課後、部活が招集されて魅ぃちゃんは圭一くんに入部試験を受けさせてくれた。私の知っている夢の中よりもずいぶんと早いタイミングだけど、

 

「ま、我が部のレベルについてこられるかどうか見極める期間がもっと欲しいのは確かだけどさ。……でも、レナのお眼鏡にかなうんだから、圭ちゃんはただ者じゃないと思うんだよね! それに、おじさんもなんだか、圭ちゃんはずっと前から仲間だったみたいに思うんだ!」

 

……ずいぶんと内容の違う夢のはずなのに、やっぱり魅ぃちゃんの夢の中でも圭一くんは私たちの仲間だったみたい。これってある意味、運命的な出会いなのかな。

 

「貧血で倒れまくってるようなもやしっ子風情に、このわたくしの相手がつとまりますかしらぁ!?」

 

「ぁ、ぁの、ぇと……レナは強いけど、いじめないから仲良くしようね……」

 

「二人ともさりげなく酷いこと言ってますが、ボクにも異議はないのです。にぱ~☆」

 

三者三様の返答を受けて、部長さんが宣言する。

 

「ではここに、満場一致で前原圭一くんの入部を許可するッ! 世の中の厳しさをたっぷり思い知るがいい!」

 

……魅ぃちゃんもなにげに酷い。

 

「ちぇっ、上等じゃねぇか。そこまで言われて引き下がったら男がすたる。お前ら全員、泣かせてやるぁ~!」

 

威勢良く啖呵をきった圭一くんが、この世界での初メイドさんになるのに2時間もいらなかった。

 

「しくしくしく……も、もう勘弁してください」

 

「いやぁ~、思った以上に似合うねぇ圭ちゃん!」

 

「さすがはレナさんのお眼鏡にかなう逸材ですわね!」

 

「圭一、女装が似合うのはステータスなのです」

 

「けけけ、圭一くん、泣いてる、かぁいい……はぅ☆」

 

圭一くんが私の隣に座ったときはどうなるかと思ったけど、部活の賑やかな雰囲気のおかげで私もだいぶ自分のペースを取り戻せた。

 

「かわいそかわいそです、圭一。次は頑張るのですよ。……では、ボクたちはお買い物があるのでこれで失礼するのですよ」

 

「ほほほ、次の機会までに、しっかり腕を磨いていらっしゃいませ! 多少は骨があるようですけれど、最精鋭たるわたくしたちを前にしては不足ですわぁ!」

 

梨花ちゃんと沙都子ちゃんが楽しそうな笑顔で教室を出ていく。……やっぱりあの二人も、どこかで圭一くんをもう仲間として認めてくれているんだって思えた。

 

「……さぁて、そんじゃおじさん、ちょっと用事があるからさ。レナ、圭ちゃんの監視はまかせたよ。お持ち帰りはしちゃダメだからね!」

 

「え、えぇえぇええ! み、魅ぃちゃん!?」

 

これ以上ないくらい爽やかに手をあげて出ていこうとする魅ぃちゃんを慌てて引き止める。

 

「だ、だめだよ魅ぃちゃん、レナ、けけけ、圭一くんと二人きりじゃ間がもたないよぅ!」

 

おかしな気の遣い方に小声で抗議するけど、

 

「とりあえず慣れだよ、慣れ。……それにレナと一緒に帰りたいのは私だってやまやまなんだけど、本当に用事があるんだって。葛西さんに会う約束なんだよ」

 

……そ、そっか。リナの一件の後始末、葛西さんにお願いしてたから、魅ぃちゃんはその報告を受けないといけないんだ。……そういう事情じゃ、無理は言えない。

 

「がんばれ、レナ」

 

にこりと笑って、小さくガッツポーズをする。

 

……頑張ってもいいのかなぁ、と思わないでもないけど魅ぃちゃんの好意は正直ありがたい。夢の中ではあんなに酷い目に遭わせちゃったのに、魅ぃちゃんはほんとに良い子だなぁ……。

 

「じゃね、夜にでも電話するから」

 

魅ぃちゃんがそそくさと退室して、からっぽの教室には私とメイドさんだけが残された。

 

「……そっ、それじゃ行こ……けけけ、圭一くん」

 

「あ、あぁ……なぁレナ。これって、本気で家まで脱いじゃダメなのか?」

 

とほほと情けなさそうにスカートを揺らす圭一くん。

 

「ダ、ダメだよ。……罰ゲームなんだから」

 

「やっぱだめか。……くっ、覚えてろ。いつまでも敗北に甘んじる前原圭一じゃあないぜ」

 

気合いの入った様子をみせる圭一くんだけど、メイド姿では全然格好良くなかった。

 

連れ立って学校を出るけれど、私から話しかけるなんてもちろん無理だった。圭一くんが振ってくれる話題にもどもりながら曖昧な返事を返すのがせいいっぱいで、私はどんどん小さくなってうつむくだけ。

 

……うぅ、せっかく一緒にいるのに。

 

夢の中みたいに、楽しくお話したいよ……圭一くん。

 

「なぁ、レナ……」

 

さっきまで軽い話題ばかり振っていた圭一くんが、すこし真面目な声音になる。

 

「……な、なにかな?」

 

ちらりと横目で見たら圭一くんがこっちをじっと見ているのに気がついて、慌ててそっぽを向く。

 

「その……、どうして俺のこと怖がってるんだ?」

 

……え?

 

た、確かに、目を合わせなかったり、触れそうになると殴っちゃったり、普通に話そうとしてもどもっちゃうけど、圭一くんを怖がってるなんてあるわけない。

 

……って、圭一くんがそう感じる心当たりが多すぎる!

 

でも納得してる場合じゃない。

 

「……け、けけけ、圭一くんこそ、その。レナのこと、怖くないの……?」

 

「レナが怖い?」

 

圭一くんは目を丸くしていた。

 

「……いや、全然怖くないぞ。なんで?」

 

「だ、だって! 私、けけけ、圭一くんを……、その、な、殴っちゃったでしょ……?」

 

直感だけど……、殴られたことを覚えてないっていうのは、彼の優しい嘘だと気づいていた。

 

いくらなんでもそう私に都合良く記憶が飛ぶわけない。

 

すこし困ったように頬をかいた圭一くんは、

 

「はは、バレてたか。俺、すぐ顔に出るみたいだからな……うん、殴られた。そりゃもう盛大にな」

 

心底可笑しそうに笑う圭一くんは、やっぱりちょっぴり意地悪な男の子だと思う。笑い事じゃないのに……。

 

「でも、レナを怖いなんて思ってないぜ。……そりゃ、あの女を追い込んでるときのレナはちょっと鬼気迫るものがあったかもしれないけどな」

 

う……、あれもやっぱり、覚えてるんだね。

 

「けど俺にはたいした怪我はしないように、ちゃんと手加減してたじゃないか。けっこう、まずい場面に2度もタイミング悪く出くわしちまったのにさ」

 

驚いた。

 

……私のは手加減というよりも、好きな人を本気で殴れないだけのような気もするけど。

 

でも、どっちかといえば鈍い圭一くんが……その違いに気づいてくれていたことが意外だった。

 

「俺は、レナが優しい女の子なんだってちゃんと信じてる。だから、レナを怖いだなんて絶対に思わない」

 

きっぱりと言い切るその瞳には、迷いなんか無くて。

 

じんと、胸が熱くなる。

 

圭一くんは、私が一番欲しかった言葉をくれた。

 

あぁ、どうしよう……どきどきして、くらくらして、頭がどうにかなっちゃいそう。

 

「だからさ……レナも、俺を怖がらないで欲しい」

 

じっと見つめられるとなんだかふわふわして……天にも昇りそうな心地になる。

 

「俺はレナと仲良くなりたい。もっと普通に笑って、もっと普通に遊べるようになりたいんだ」

 

まるで私があの月の冴え渡る屋根の上で言った言葉を繰り返すみたいに圭一くんがそう言った。

 

普通に笑って、普通に遊んで、普通に恋をしよう。

 

あぁなんて恥ずかしい、でもなんて素敵な約束!

 

「ダメか……?」

 

そんなの、ダメなわけない。いいに決まってる。

 

言わなきゃ、言わなきゃ、勇気を出すんだレナ。

 

……もう怖くないって、圭一くんを信じるって。

 

それだけでいいから、いまは、大好きなんて場違いな言葉はいらないから、それだけ伝えなきゃ……!

 

私は覚悟を決めて顔をあげて、伏せていた目をあげた。

 

圭一くんが、まっすぐに私を見つめていた。

 

私の言葉を待っていた。

 

受け止めてくれる、絶対に受け止めてくれる。

 

だから……信じるんだ、竜宮レナ!

 

「はぅっ、真顔のメイドさんかぁいい~~!」

 

「ぷべらっ!?」

 

ひとつなぎの快音が夕焼け空に響き渡り、圭一くんの身体が木の葉のように宙を舞った。

 

……だってだって、男の子がメイドさんの格好で物凄くかっこいい顔してたらこれはもう反則だよ!?

 

で、でも、またやっちゃったっ!

 

「圭一くん、ごめんね! だ、大丈夫っ!?」

 

慌てて駆け寄ると、彼は痛みに顔をしかめながらも起きあがってにやりと嬉しげな笑みをこぼしていた。

 

「……よし。いま、ちゃんと俺の名前、言ったよな」

 

あ。

 

……ホント、だ。

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