ひぐらしのなく頃に 時明し編 (圭一×レナ)   作:晃晃

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時明し編(6)本気出して考えてみた

「ぉ、おはよ、圭一くんっ」

 

「レナ、おはよう。今日も早いな」

 

圭一くんの笑顔が眩しい。

 

いまだに話しかけるのに小さな決心はいるけれど、それでも自然に隣を歩けるようになったこの日常が愛しい。

 

……けど、まだ私の抵抗は始まったばかり。

 

私自身が同じ過ちを犯す目はこれで全部潰したけど、問題はこの先だ。梨花ちゃんの死の真相を暴き、ガス災害をどうにかして回避する必要がある。

 

「やっほー、おはようレナ、圭ちゃん!」

 

……なにげに魅ぃちゃんも眩しくて、困る。

 

「おっはよぅ、魅ぃちゃん!」

 

「おっす魅音、今日は負けねぇからな!?」

 

「あらら、朝っぱらから気合い入ってんねぇ!……でも悪いけど今日の午後は、ちょ~っと用事があってね。部活はなし! ごめんねぇ~?」

 

魅ぃちゃんは笑いながら手を合わせた。

 

「ちぇ、勝ち逃げかよ!……またあれか、バイトか?」

 

「違うよ~、レナとデート♪」

 

「ちょっ、み、魅ぃちゃん!」

 

そう、魅ぃちゃんには今日の午後、図書館に一緒にいってもらえるようにお願いしてあった。残りの用件を相談するのと、雛見沢にガス災害が起きる可能性があることを示すような資料を探すために人手が必要だったから。

 

……できれば圭一くんやみんなにも協力して欲しいところではあるんだけど、それを相談するかどうかも含めて、魅ぃちゃんに先に話しておきたかった。

 

……一連の騒動で実感したのは、いまの魅ぃちゃんがあのときの圭一くんと同じくらい100%私の味方になってくれるという事実。それだけ私のことを想ってくれてるってことだから複雑でもあるけど……うん。やっぱり突拍子もない話だからこそ、無条件で信じてくれる相手は絶対に必要なんだ。

 

「くぅ、そういうことなら気を利かせねぇとな! おいレナ、押し倒されないように注意しとけよ~?」

 

もちろん『あの場面』も覚えている圭一くんは、どうも私と魅ぃちゃんの関係を誤解しているところがあるらしかった。

 

「け、圭一くんまで、へんなこと言わないでっ!」

 

地面を転がる圭一くんに非難の声を浴びせる。

 

「……できれば殴る前に言ってほしかったZE☆」

 

なぜかやりとげた男の顔。圭一くん、なにかすっかり殴られキャラが板についてきてない?

 

「……し、知らないもん! 行こ、魅ぃちゃん!」

 

「あっははは、圭ちゃん、おっ先にぃ~!」

 

「ま、待てよぉ~、足が、足が立たねぇ~……!」

 

まるであの悪夢が嘘みたいに思える、平和な日常。

 

このなにげない日常がどれほど貴重なものかを知っているからこそ……私は、絶対に取り戻す。

 

あの脚本を書いた悪魔の手から、私たちの未来を!

 

「魅ぃちゃん、遅れてごめ~ん……って!?」

 

学校が半日で終わっていったん家に戻り、お昼ごはんを済ませて自転車でいつもの待ち合わせ場所へ。

 

……転倒しそうになりました。

 

「ちょ、レナ……いきなりジャックナイフは危ないよ!?」

 

「じゃなくて……魅ぃちゃんってば、なんでそんな気合い入っちゃってるのかな! かな!?」

 

魅ぃちゃんの私服といえばいつもどこか男の子っぽい組み合わせが多いんだけど、今日はどこから見ても女の子にしか見えない涼しげなワンピースで……はぁ。

 

「いや、そりゃまぁ……デートだしね☆」

 

照れくさそうに頬を染めないでいただきたい。

 

「デートじゃないんだってばぁ……」

 

最近の魅ぃちゃんはなんだか強い。

 

……いろいろなものを開き直ってるからなのかな。

 

なぜか自転車に乗ってこなかったという魅ぃちゃんを興宮まで後ろに乗せていくことになった上、背中に頬をすりすりされたりなにか微妙なつかまり方をされたりして振り落とさずによくぞ耐え抜いたと自分を褒めてあげたいくらいだったけど、図書館の駐輪場で自転車を降りて怒鳴りつけようとした矢先に魅ぃちゃんの無防備過ぎる、まさに至福の表情が目に入ってきて、一瞬にして怒気が萎えてしまった。……はぅ。

 

魅ぃちゃんじゃないけど、やっぱり大好きな親友が幸せそうにしているのを見るのは自分も嬉しいっていうのをつくづく実感せざるをえないわけで、大したことをされたわけでもないんだから許してあげようかなんて寛容な気持ちも沸いてこようというものだ。

 

……え、染まってないよ!?

 

レナ、別に、その、魅ぃちゃんをそういう意味で好きになりかけてるとかそんなことないですから!

 

レナは絶対ノーマルだし、圭一くんっていう思い人もいるわけだし、魅ぃちゃんは親友であって……や、やめようね。なんだか、言い訳すればするほど墓穴を掘ってる気がしてきたから……そこに気づくなんて、私ってやっぱりクールで賢明なレナだよね!

 

……誰、ヘタレナとか言ってんの。

 

「あの~、レナ、話があるんでしょ……?」

 

ふと気がつくと図書館の休憩スペースで魅ぃちゃんと向かい合っていた。ここは別名密談スペース、なぜか大きな声では言えないような会話が交わされることで有名だけど、三四さんや大石さんの邪魔が入ることも多いからその点は注意が必要だったりもする。

 

「あ、うん。ごめんね、ぼ~っとしちゃった」

 

「あはは、まぁ私はレナの顔見てるだけで退屈はしないんだけどねぇ……☆」

 

……時計を見たら軽く30分は経っていた。

 

いやいや、もうすこし早く声をかけようよ魅ぃちゃん。

 

「と、とにかく、本題に入るね。……まず、梨花ちゃんのことなんだけどね」

 

あの夢がただの夢でないことは、圭一くんが夢で見たとおりの人物像だというだけで証明されている。だからあの夢の中で起きたことは、この世界で起こりうる出来事なのは間違いない。絶対に起きないという保証がないなら、起きるものとして防衛策をとるのは当然のことだ。

 

「梨花ちゃんが誰かに命を狙われることがありえるとしたら、どういうことが考えられるかな?」

 

率直に質問をぶつける。魅ぃちゃんは驚いて目を丸くしたけど、頭から『ありえない』と言い出すのではなく、すこし考えてから答えを出してくれた。

 

「普通に考えると、梨花ちゃんを殺したい人間なんてのは存在しないね。考えられるとしたら、乱暴目的の変質者とか、相手が誰でも構わないような通り魔的な犯行、逆に梨花ちゃんっていう村のシンボルを殺すことに意味を見いだすような偏執的な愉快犯……すぐに思いつくのは、これくらいかな」

 

なるほど、妄想にとりつかれた私みたいな人間以外にもそういう可能性も排除できないんだ。真剣なときの魅ぃちゃんは頭が回る。やっぱり相談する価値はあった。

 

「でもどうして? そんな奴がいるっていうなら、すぐにでも梨花ちゃんに護衛をつけさせるけど……」

 

「うん……、信じてもらえるかわかんないんだけど、レナもね、変な夢を見たの。今年の綿流しのお祭りの何日か後に……、その」

 

あたりを警戒してから、声を潜めて言う。

 

「梨花ちゃんが、殺されちゃう夢」

 

魅ぃちゃんはもちろん、笑い出したりはしなかった。

 

むしろ、深刻そうに眉をしかめている。

 

「……それってさ、自殺の線はないかな?」

 

「え?」

 

突拍子もないことを言い出す。もう一度あの緋色の記憶を脳内で再生してみるけど……それは、ないと思う。

 

「神社の賽銭箱のところで、おなかを引き裂かれて、その……内臓なんかを撒き散らされてたんだよ? 自殺はないんじゃないかな、……かな?」

 

「いや、遺体の遺棄や損壊をした人物は別にいても構わないと思うんだよね。必ずしも、殺した奴が死体を晒して内臓を撒き散らす必要はないでしょ」

 

……確かに、そう言われてみればそうだ。

 

私にはわりと直感に頼る癖があって、瞬時の判断をする分にはそれでいいんだけど、物事を順序立てて、整理して考えるときには邪魔になることがある。

 

逆に、魅ぃちゃんは頭首としてリーダーシップを取る関係上、与えられた情報をひとつひとつ吟味して総合的に判断する教育を受けている。

 

ものを考える上で、この二つの見方はきっと重要だ。

 

……それが、複雑に絡み合った難題であればあるほど。

 

「……まぁ自殺は極論としてもさ、いったん殺す理由とその特殊な状況を作り出す理由は分けて考える必要があるかもしれないね。むしろ、後者の理由が重要なのかもしれないじゃん」

 

私は魅ぃちゃんの言葉に頷きながら、持ってきたノートを取りだして書き留めていく。

 

「人の内臓を撒き散らす、なんてことだけが目的だって言うなら、犯人は鷹野さんしかいないんだけどねぇ」

 

魅ぃちゃんが冗談めかして笑う。

 

……確かにあの猟奇趣味の三四さんなら笑いながらやりそうで、納得できるものはあるんだけど……。

 

「一応三四さんは容疑者から外してあげてくれないかな……レナの夢の中では、もう死んじゃってたから」

 

「へ!? ず、ずいぶん物騒な夢なんだね、梨花ちゃんだけじゃなくて、連続殺人事件になってるじゃん」

 

すこし魅ぃちゃんの表情が暗いものになる。

 

当然だろう。

 

この時期……綿流しまであとひと月もない時期だけに、園崎家の魅ぃちゃんとしては、連続殺人なんて言葉には敏感になっていておかしくない。

 

「あ、……レナは、魅ぃちゃんのこと信じてるよ。園崎家は関係ないって思ってる」

 

その結論に達した理由は簡単で、梨花ちゃんを殺す理由が園崎家には全くないからだ。連続怪死事件絡みなら、富竹さんと鷹野さんで祟りは成立してしまっている。

 

原理主義者による細菌テロの計画だって、信仰の中心である梨花ちゃんを殺すのは本末転倒というしかない。

 

だから少なくとも梨花ちゃん殺しに関して園崎家は絶対に白だと言える。

 

「う、うん。こうやって相談してくれてる以上、それはそうなんだろうけど……う~ん。ほかにも、誰か殺されちゃったり行方不明になってたりしてるわけ?」

 

慎重に祟りだとか鬼隠しという単語を避ける。その単語を使った途端にオヤシロさまの使いかオヤシロさま研究の第一人者のどちらかが忽然と現れそうで怖いから、魅ぃちゃんの気持ちもわかる。

 

「……富竹さん。綿流しの夜に、首を自分の爪で引っ掻いて死んじゃった。三四さんもそのとき行方不明になってて……あとで聞いたんだけど、岐阜の山の中で焼死体で発見されたんだって」

 

「……ん?」

 

首を傾げる魅ぃちゃん。

 

「その焼死体、鷹野さんだって確認されたの?」

 

「うん、夢の中では警察がちゃんと検死してて……あ、でも、死後24時間経過してたって検死結果が出ちゃって……お祭りの夜にはもう死んでたことになっちゃうからおかしいって話も聞いた気がする」

 

夢の中の私は妄想に取り憑かれていて、宇宙人が入れ替わった証拠に違いないと思っていたけど……あれ?

 

「焼死体の鑑定っていうと……有力なのは歯形かな。むむむ……カルテの改竄は個人じゃ厳しいか。でも、保険証を他人が使ってれば……う~ん」

 

魅ぃちゃんが考えている内容はその独り言でだいたいわかった。……その焼死体が、もし三四さんでない可能性があるとすれば、死亡時刻が間違っていても問題ないし彼女を容疑者から外す必要もなくなる。それどころか、親密な関係にあるからこそ富竹さん殺しの犯人でもある可能性だって浮上してくるのだ。

 

「……容疑者にしておいたほうがいいのかな」

 

「うん……まだわかんないけど、すぐに除外するには怪しすぎる条件が揃ってるよね」

 

まったく手がかりがなかったところに、容疑者が一人浮かんだだけでも大収穫だ。

 

「でも、その富竹さんの妙に怪しい死に方とか、いやな感じだね……レナ、その夢って、もっと詳しく思い出せるかな? 私の夢も断片的ではあるけどやけにリアルだったし、なんかまだ知り合ったばかりの圭ちゃんが変に出番多かったりで、ただの夢じゃないような気がしてたんだ。レナのも、そういうのかもしれない」

 

同じような経験があるからこそ、なんだろう。

 

魅ぃちゃんはひどく真面目に私の話を聞いてくれた。

 

包み隠さず話すことにした。

 

私がリナと鉄平を殺したことも、部活のみんなに死体を見つけられてしまって一緒に埋めたことも、私が三四さんのスクラップ帳を信じ込んで園崎家や魅ぃちゃんを疑い出し、死体が見つからなかったことでその疑念は決定的になって、園崎家に警察の捜査を入れるために学校を占拠して、圭一くんに目を覚ましてもらったことも。

 

その後、梨花ちゃんの死を目撃し、さらに翌日には、ガス災害で雛見沢が全滅してしまったことまでも……。

 

最後のほうは思い出すのがつらくて泣きそうになってしまったけど、魅ぃちゃんが手をぎゅっと握っていてくれたから、その温かさが私をつなぎ止めてくれた。

 

「……そっか。つらい夢だったんだね」

 

突拍子もない話ばかりなのに、全部聞いても魅ぃちゃんの真摯なまなざしは変わらなかった。

 

「そんなのを現実にするわけにはいかないよね。レナ、私も出来る限り協力するから……がんばろ」

 

それが嬉しくて……、間にテーブルがなければ魅ぃちゃんに抱きついて泣き出してしまったかもしれない。……かわりにそんなことを考えている自分にどきどきしてしまって、魅ぃちゃんの顔がまともに見れなくなってしまったけど。

 

「……この話、圭一くんたちにも話してみたらどうかと思うんだけど」

 

ようやく落ち着いて、私はそう切り出した。

 

「う~ん……圭ちゃんはなんだか協力してくれそうな気がするけど、梨花ちゃんにはまだ話さない方がいいかもね。自分が殺される話なんてさすがに気分のいいものじゃないから、確証もなしに言うのは躊躇われるかな」

 

魅ぃちゃんの言うのはもっともだ。

 

「そうなると、沙都子ちゃんにもしばらくは内緒にしておいたほうがいいのかな?」

 

「だね。沙都子は隠し事がそんなにうまいほうじゃないし、叔父さんとの生活を始めたばっかりでいろいろ大変だろうからさ。二人には、もうすこしまとまってから話すってことどうかな」

 

結局、明日にでも圭一くんに話してみるということでその場は落ち着いた。

 

信じてくれるといいんだけど……ううん、圭一くんならきっと信じてくれる。

 

図書館の閉館時間も迫っていたので、大急ぎで火山ガスや似たような災害に関する資料を探して、何冊か借りることにした。

 

その後は魅ぃちゃんに引っ張られて小物屋さんや服屋さんなんかをいくつか回り、帰る前にエンジェルモートで一休みすることに。

 

「おやおや、お姉~。可愛い彼女なんか連れちゃって、デートですかぁ?」

 

ウェイトレスさんは詩ぃちゃんだった。

 

「うん。あ、そうそうレナ、紹介するね。この子は見てのとおり私の双子の妹で、詩音っていうんだ」

 

「あ、うん……えと、魅ぃちゃんの妹さんだから、詩ぃちゃんって呼んでもいいかな? かな?」

 

……そっか。この世界ではまだ、詩ぃちゃんとは知り合ってなかったんだ。これも、あの夢がただの夢ではないっていう客観的な証拠の一つになるのかな。

 

「私はレナって呼んでくれると嬉しいかな…………って、レナは魅ぃちゃんの彼女でもないし、デートでもないからっ!?」

 

詩ぃちゃん、物凄く自然に彼女とか言うのはどうなのかな!?

 

「あはは、今頃否定するとか、どうも信じられませんねぇ~☆」

 

にやにやする詩ぃちゃんと、にこにこ笑顔の魅ぃちゃん。

 

「ま、あんまりからかっても悪いんで、お詫びに今日は私のおごりです。カップル限定メニューなんて、どうですか~?」

 

……相変わらずタチの悪い姉妹だった。

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