異世界チハたん(九七式中戦車)無双〜聖女召喚されたけど捨てられました~ 作:LA軍
「いらっしゃいませー」
私こと「長瀬あかり」は、やる気のない挨拶をしながら、近所のじーさんの車に燃料を補給した。
レギュラーガソリン、155円──田舎価格。
見ての通り、私はガソリンスタンドの店員だ。
もっと正確にいうなら、田舎のガソリンスタンドの店員兼店長兼、地域のリーダーとかいう役職持ちというやつ。
まぁ、ブラック企業にありがちな役職モリモリのひとり店長ってやつだ。
それもこれも昨年長年のブラック企業勤めから心身を壊し退職し、地元に帰ってきた末のこと。
仕事を辞めた直後は、すべてにやる気をなくしていたんだけど、心機一転──というか、失業保険がきれたと同時にやむなく新しい職探しをした結果だ。
なるべく給料がよくて、休みの多い仕事──と、探していて見つけたのが、これ。
田舎の県道沿いガソリンスタンド24H営業! セルフとフルサービス付きの店舗ってやつ。
仮眠室付きで、夜は客が来たらカメラ越しに燃料給油ボタンを押すだけの簡単なお仕事──と伺っていただけに騙されたー。
クッソ忙しいわ。
幸いにも資格があった(乙4種と大型と牽引持ち!)ので、給料はいい。
……すっごくいい!
そも、ややブラック気質な所もあるがその分資格持ちの長瀬は優遇されていたのだから、これ以上求めるのは罰があたるというもの。
おかげで、それなりに充実した日々を過ごしていたわけなんだけど……。
「はぁ……」
近所のじーさんの車を見送ったあとで、盛大なため息。
手には大きなマニュアルが一冊。
タイトルは『大型の門型洗車器の使い方』だ。
しかし何の因果か、こんな田舎に新品の洗車機が導入されることになり、使い方を覚える羽目になってしまった。
前の洗車機は故障してたから覚える必要なかったんだけど……面倒くさい。
まぁ、本社都合だし、しゃーないんだけどね。
しかし、この洗車機を導入されるにあたり、強引にガソリンスタンドの土地を拡大したせいで、近くの神社跡まで崩してしまったのがちょっと気になる。
ほら、なんか祟り的な?
べ、別にオカルトなんて信じてないけどさ!
ただ、これでまた覚える仕事が増えるなーと思ったら憂鬱になってきただけ。
「まー、ボチボチ覚えますか」
マニュアルで肩をトントンしながら、聳え立つ門型洗車器を見上げる。
「どうせ、こっちが使用可能の表札を出さない限り使えないし、本社からの視察がそんなにしょっちゅうあるわけじゃないしねー」
私はそこまで熱心な社員ではないのだ。
つーか、もっと人手よこせよ。
なんで店長ひとりで昼間から深夜までシフトまわしてんのよ。
っと、そこにブロロロ……と、高級車特有の重低音が響き渡った。
「あ、ランボルギーニだ」
しかも、若い女が乗ってる。
いいなー。
……私もあんな車乗り回せるくらいに金持ちになりたい。そして、できることなら働かずに暮らしたいわ。
超FIRE希望~……ってうわ、こっちきた。
みるみるウチに近づいてきた高級車をみて、思わず眉間にしわが寄る。
高級車って面倒だし、怖いんだよね。
下手に傷一つつけたら、保証が大変だし、外車はただでさえ扱いが難しい。
そして、乗ってる奴がこの辺では超有名な
「ら、らっしゃーせー」
バタンッ!
とりあえず来ちゃった以上接客しないわけにはいかないので、
しかし、そこはまぁー、さすがの九条院えみりだ。
引きつった顔のこっちなどに完全無視して、車高の低い高級車をコンクリ面でゴリゴリ削りながらやってきたかと思えば、洗車器の前で佇む私の前にガン止めしてきやがった。
……んだよもー。
「アナタ──洗車をお願いするわ」
ウィィィン……♪
パワーウィンドウが開ききる前に、おしゃれグラサンをずらしながらこっちに一言……はぃ?
「……せ、洗車でございますか?」
えーっと、
洗車、せんしゃ。
──あ、フロントガラスのことか。
「は、はーい、ただいまぁ」
いや、いいけどね。
そういうのは、まずは給油してから言えよ──……と言いたいけど、そこは我慢我慢!
だって客商売ですもの。
「あー、違いますわよぉ。そうじゃなくて、こっちこっち」
「はいー?」
再びの「はいー?」
いや、こっちこっちって……ボディ洗車のことを言ってる?
「あ、あのー。当店での洗車はセルフとなっておりまして──」
ガラス面はともかく、なんで全部洗車せにゃならんのよ。
そーいうのは自分でやるの!
……ほらあれ。
スタンドの端っこに一応あるのよね。コイン洗車器が。
30分100円のお買い得のやつ。
あ、お買い得であってるよね?
「ばっかねー。私が
「あ、いや、そうじゃなくて……」
わ、わー。
日本語通じない人だ。
ここセルフだっつーの。って言ってんの!
つーか、「ですわー」ってリアルで聞いたの初めて。そして、18歳のガキがランボルギーニ乗ってんじゃねーよ。
それいくらすると思ってんの? 新車だし、数千万はしますよ?
「んもー。別にあなたにやれとまでは言ってませんわー。ほら
「はい?」
チョイチョイと指さすお嬢様。
……え? それってもしかして──。
「あ、ああー。洗車機のことですか?」
「そうそれ。なんか最新の奴らしいですわー。ワックスも自動で、傷コーティングもできるとかなんとか」
「は、はぁ」
詳しいな。
……って、いやいやいや!
え? うそ。
これ、お前がここに導入させたの!
いやさ、こんな田舎に最新式って変だなーっとは思ってたけどさー。
「す、すみません。そちらはまだ調整中でして」
主に私の頭の中を。
「いいからお願いしますわー。しくよろ」
いや、だからぁ……。
って、おーい! 行くな行くな!
「お、お客様! ですから、まだ──」
「いいから!」
いや、よくねーよ!
聞けよ!
「だいたい、全然汚れてないじゃないですか! これ新車ですよね?」
「ちょ~っと虫がついた気がしますの」
いや、気がするだけするだけ!
「それにほら。お車も毎日洗わないとダメじゃありませんこと? 人間だって、お風呂にだって毎日入りますし」
そらな!
だけど、車は毎日洗う人がかなり特殊だよ?! 自衛隊とかくらいじゃない?!
「それじゃ、お願いしますわー」
「ちょ、ちょちょ!」
話を聞かないお嬢様が、グイグイ高級車で突っ込んでいく。
「調整中」の札をブチブチちぎって、洗車機に乗り込んで、勝手にスイッチを──……ああああ!
「や、やめー!」
「スイッチオーン♪」
ゴゥン!!
その時、空気が震える音がガソリンスタンド全体に響き渡る。
いや、スタンドどころか、世界が震える。
そして、空が暗く沈み──……何も見えなくなった。
「お、おぉ! 成功だ!」
……そして気が付いた時、私は見知らぬ場所にいた。
そこは暗くジメジメした地下……?
え?
どこここ?
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