異世界チハたん(九七式中戦車)無双〜聖女召喚されたけど捨てられました~ 作:LA軍
──ドゴゴゴゴゴゴゴゴ!
ものすごい騒音と砂煙!
爆走するチハたんは、路外走行で時速30km近い速度を出していた。おかげで揺れる揺れる。
「な、何ちゅう速度だい!」
うぇ?!
「だ、だって走れって……!」
言われたらやるっしょ?
「いや、別に責めてないよ。むしろ、好都合だ!──おまえらは、さっさと一発ぶちかましてやんな!」
「「あいよぉ!」」
言うなり、弓にボウガンをつがえる双子たち。
そして、次の瞬間には、それらを放っていた!
『『キャイーン!!』』
すると、見事に命中!
二匹がもんどり打って倒れていく。
「──す、すご! よく当てましたね!」
「ははっ、まっすぐこっちに来るんだ、当てられないほうがおかしいっての」
「ま、最初だけだけどな」
双子がそう言うや否や、今度は不規則な機動を描き出したダイアーウルフたち。
どうやら、正面攻撃は不利と見て、すぐに攻撃方法を変えたらしい。……さすがは魔物だ。
「ど、どうするんですか?!」
「は! 出たとこ勝負だよ!」
言うなり、獰猛な笑みを浮かべたドミトリさんが、木々を利用して飛びかかってきた一頭を、まさに一刀のもとに切り伏せた。
『ギャィーン!』
「はっはー! まずは、いっぴーき!」
おー。
こえー……。
首と胴体が真っ二つというか、爆散したよー。
「姉御! ボスが!」
「ちっ。包囲が無駄って気づきやがったか」
瞬く間に3匹を失ったのをみて、遠吠えで手下を集結させたダイアーウルフ。
なんと、今度は木々を利用して死角を縫うようにして最接近を試みるらしい。
「さぁ、来るよ! 一斉飽和攻撃だ!」
「了解ー! こっちはエルと合わせて一匹です!」
「こっちもアールと合わせて一匹〜!」
……うん!
それって、つまり双子のエルアール君達で合わせて実質一匹じゃん!
「僕は戦力外でーす!」
そして
諦めんの早いよ!
「なんかしなよー」
「何もしないのも戦闘のうち!」
さいですか……。
早々に槍を抱えて防御姿勢のミルヒ君。
ま、いいや。
「しかし、参ったねこりゃ。どう考えても手数が足りないよ。……ま、ここで、ひとりふたり死ぬのはしゃーないさね!」
へ?
「だ、誰か、死ぬんですか?!」
「あん? そりゃまぁね。……あー、アンタは
「い、いやいやいや!」
何言ってんの!? 気にするわよ。
「いいから! こういう時はプロに任せな。一人でも食えれば連中は満足するさ」
えー。
死生観が強烈ぅ。
あまりにもあっさりと死を受け入れているドミトリさんにドン引き。
だけど、待てよ……。
「……な、なら。こういうのはどうです?」
「あーん?」
「例えばなんですけど。……私も戦闘に参加しちゃうのってのは、ありです?」
「は? アンタが?…………本気かい?」
「う……」
そう言われるとちょっと。
それに、また
「もちろんです。こう見ても、強いんですよ!」
……チハたんが。
「へぇ。なら、期待してもいいかい?」
「もちろんです」
どうやら、ドミトリさんたちでも
双子で一匹。
ドミトリさんで一、二匹とのこと。
つまり、残り数頭の牙は防げない──。
「──なので、まとめてこっちが受け持ちまーす!」
「はぁ? まとめてって、ほぼ全部をかい?!」
これにはドミトリさんもびっくり。
でも、チハたんならできる。
そして手を貸すと決めた以上、やるっきゃない。
「任せてください! できるだけ数を減らして見せます」
……まだまだ彼女たちを信用したわけじゃないけど。
だけど、目の前で誰かが死ぬなんて御免だ!
「ふーむ……本気なようだね。なら、期待させてもらおうかい──野郎ども、来たよ!」
一斉に攻撃姿勢に移るダイアーウルフの群れ!
「正面! 12時方向!」
うん。
見えてるよ、ミルヒ君!
「任せて!」
そして、いくよ。チハたん!
「エンジン全開ッ!」
──グォォォオン!!
私に答えるようにエンジンを噴かせるチハたん。
そして、それに応じて私も操縦ッ!
「よーし、主砲装填、目標、前方ぉ!」
ドーーーーーーーーン!!
「うわっぁあ!」
「「「ひぇぇぇえ!?」」」
4人に警告する暇もなく、真正面から飛びかかってきたダイアーウルフの鼻先に照準し、大砲を叩き込んでやったよ!
刹那、チュドーーーーーーーン! と大地を震わす炸裂音。
『『『キャィーーン?!』』』
「やったー!」
どうやら、見事命中。
チハたんの主砲──57mm戦車砲の『九〇式榴弾』が群れのど真ん中に命中し爆裂したのだー!
これには直撃しなかった個体も
そのまま、何もわからないまま、まとめて吹っ飛ばされていく!
「どーんなもんだーい!」
「……す、すっげぇ」
歓声を上げる私と、
その光景をまざまざとみていたドミトリさんが、対照的だった。
残る男も同じ顔。
口をポカンと開けて茫然としている──……あ、しまった!
「ま、まだいるよー!」
そう。
群れは吹っ飛ばしたけど、なんと大物がまだ一匹!
「ッ! ボスか!」
「──た、多分!」
慌てて主砲を再装填しようとしたけど間に合いそうにない。
だけど、その瞬間を埋めるように飛び出した影がある。……そう。
あの双子だ!
「せぇぇぇえい!」
「おらぁぁああ!」
すかさず反撃に転じた彼らは、完璧なコンビネーションで攻撃を繰り出した。
『グォォオン!』
だが、その攻撃すらも鼻先でいなすダイアーウルフのボス!──さすがと言うべきか?!
そして、
必殺の一撃を躱された双子が歯噛みする。
「「くっ!」」
「どきなっ!」
しかして、二人ではかなわないと見たドミトリさんが、すかさずカバーし、二人を押しのけるや否や、狭い戦車の上で大剣を振りかぶる。
「らぁぁああ!」
『ガォォオオ!』
──ギィィン!
そのまま激突する両者!
爪と大剣が交差して火花が散る。
私はといえば、頭上で飛び跳ねる攻防に首をすくめるしかできない。
「ひ、ひぇぇ。怪獣決戦だー」
ドミトリさんもおっきいし、ボスもデカいので迫力がすごい。
だ、だけどこれできっと──……。
「ダメだ!……一撃が浅いっ!」
「え? なに?」
なんと、ドミトリさんの必殺の一撃はボスの尻尾を切り取ったのみで、致命傷にはいたらなかったらしい。
ゆえにボスは反転、狭い戦車の上ですばやく向きを変えるとドミトリさんたち目掛けて今度こそ、致死の一撃を放とうとした。
(わっ。これ、ま、まずいんじゃ……)
このままじゃ、次の反撃で誰かが死ぬ──……そ、そんなのダメだよ!
だけど、どうする?!
主砲は再装填中で、絶対に間に合わない!
「……だ、だったら──!」
う、
「う、うわぁぁあああ!」
ダダダダダダッ!!
ダダダダダダダダダッ!!
車内に隠れていた私は思わず、身体を外に乗り出して昨日買ったばかりの対空機関銃にとりついた。
そして、照準をつける間もなく、とにかくを無茶苦茶に撃ちまくった!
──弾倉、20発全弾を!
すると、ついに!
『ギャーン!』
「あ、当たった?!」
確かな手ごたえを感じたと思ったときには、胴体にまともに銃弾を受けたダイアーウルフが、身体を苦の字に曲げて戦車の正面に転がり落ちていく。
そして、そのまま──……グシャリと嫌な音を立てて、無残に戦車に轢断されてしまった。
…………それで終わりだった。
「や、やっちゃった……」
思わず茫然。
ドミトリさんたちの前で武器を使うのはどうかと思ってたけど、
そんなことも言ってられなくて……。
「あ、あの──」
そのせいか、彼女たちの反応が怖くて少し体が震える。
もしかして怖がらせてしまったかもしれ──。
「──す、凄いじゃないか、ナガセ!」
「はぶわ! く、苦し!」
な、なに!?
なんかすごい柔らかいものが顔に押し付けられて──……って、これオッパイじゃん!
「ぷはっ! な、なんですか急に?!……って、あいだー!」
こ、今度はなに?!
なんか頭を叩かれた様な──。
「おぉー! チビ女だと思ってたら、すげーじゃん!」
「なんださっきのは?! 魔法かー!?」
バシバシバシと、双子も大興奮して私の頭に肩を叩きまくる。
痛い痛い。痛いって!
「すごいですよ、ナガセさん。ひとりで群れを全滅させちゃうなんて──」
「あ、あはは。それほどでも……」
よ、よかったー。
ミルヒ君も無事だ。ひとり、しっかりと警戒を続けている彼も、感無量といった感じだ。
「……え、えへへ、みんな無事でよかったよー」
「いやいや、アンタのおかげだよ。……アタシらは、今までアイツ等に追われて避けて、隠れて──遭難してたんだからね」
「あぁ、ダイアーウルフの群れなんて、Sランクパーティでも苦戦するほどだしな」
へ?
そうなの?
「つーか、お前。魔法使いだったのか? あんなすげー火魔法はじめてみたぜ」
「どーりで、一人でガルダをやっちまうわけだよ」
双子が手放しでほめてくれる。
いやいや、魔法じゃないんだけどね。ま、いっか。
「ミルヒ君も無事でよかったよ」
「ん? あぁ、僕は隠れるのは上手いからね。……ま、これは壊しちまったけど」
へへっと、歯を見せて笑うミルヒくんはレンズの壊れた双眼鏡をすまなさそうに掲げた。
「いやいや、そんなのいいって──」
どうせ、チハたんを回復させると、装備品も直るしね。
それより、よかったよかった、無事で。
なーでなーで。
「……あー。昨日は言いそびれたけど、僕は大人だからな? あと、アンタより年上」
え?
うそ? 私オッサンの頭なでてたの?
「マジかー……」
お手て拭き拭き。
ミルヒ君、どうやら30代オーバーのようです。
こんなに可愛いのに……。
※ ※ ※
それから、戦闘の余波を確認しつつ、適当な場所で戦車を止めると、速やかに魔物素材を回収していくドミトリさんたち。
その手際の良さと言ったら──。
「よーし、皮はこれで全部だ」
「牙も集めました」
「爪もな」
「僕は魔石を回収しました。全部良品ですよ」
おぉー。手際がいい!
そしてやっぱり肉は捨てていくのか。
まー、肉食の獣は臭いって言ってたしね。
「──で、これはお前の取り分」
ズズイ。
「へ? ほとんど全部じゃん?」
「いいからいいから。そも、そのほとんど全部倒したのアンタだからね」
や、まぁそうだけど……。
「アタシらは最初にしとめた3頭で十分」
「これでも十分な稼ぎだぜ」「そーそー」
へー。
そうなんだ。
「……ち、ちなみに、これってどのくらい?」
そう聞くとニヤリと笑ったミルヒ君はウィンクする。
「それは町についてにお愉しみさ」
「お、おぉー。そういうことかー」
ん?
「……ってことは、もしかして」
「あぁ。もうここまでくれば街までの道はわかる。もうすぐさ」
「つっても、歩きなら丸一日かかるけどな」
「チハたんなら、一刻程度かな」
なんと!
もう、町が目前らしい。
「ほら。じき、街道がみえてくるよ」
「よ、よかったー。まだまだかかるとなると、さすがにお尻が限界だったんだよー」
チハたんは頼もしいけど、振動がね。
こう、ダイレクトに……。
「あはは! 群れを倒した勇者さまも、尻には勝てないかい」
「そりゃそうだよ。なんなら、昨日からずっと痛かったんだからね」
みてよ、このお尻。
ほら、腫れてるー。
「「「「あははははははは!」」」」
わ、わはははは!
なんだかんだでドミトリさんの前で武器を使っちゃったけど、まぁ見捨てる選択肢なんてなかったんだし、これでよかったよ。
うん。
そして、ありがとね、チハたん。
──グォォオオン!!
全ての素材を回収し、再び前進を開始したとき、九七式中戦車が、まるで誇る様にエンジンの咆哮をあげるのであった。
そして、その日の午後の早い時間──……私たち一行は、魔の山脈を抜けて、冒険者が集うという町の郊外に到着した。