異世界チハたん(九七式中戦車)無双〜聖女召喚されたけど捨てられました~ 作:LA軍
キュロキュロキュロと、戦車の履帯音を響かせながら山脈を突っ切る。
すると、見晴らしの良い丘に差し掛かり、そこから突然巨大な城塞都市が目の飛び込んできた。
「おー……。これが異世界の町かー」
見下ろした町は円環状をしており、壁のあちこちから街道を全方位にのばしていた。
それは、さながら幼児が描く太陽のようにも見えた。
「あぁ。サンズベルトってんだ。この辺では一番デカいね」
「へー」
なるほど。
人通りも結構あるし、兵士らしき姿もチラホラ見える。たしかに、かなりの規模だ。
その証拠に街道も整備されているね。おそらく、もう少し進めば森を抜けて、快適な街道を進めるだろう。
「そんじゃいくか。見ての通り、じきに街の哨戒圏内に入るんだけど。……アンタはどうする?」
「えっと、できればご一緒させていただければと──」
こんなところで放り出されても困る。
街のルールと知らないし、
どうせならここまで送り届けた恩を返しをして貰おう。
「もちろん、それは構わないよ。約束通り案内もするし、なにより御礼のこともあるしね。……ただ、ナガセ。アンタってば身分証はあるかい? アタシらはこれがあるけど」
そういって、ドミトリさんは豊かな胸元から冒険者認識票だという、金色のドッグタグのようなものを取り出した。
「え? 身分証ですか?」
……いるの?
「ないのかい? そうなると入門料にいくらか取られるぜ」
「しかも、門番の気分次第で変わる。男とブスは高ぇ」
えー? マヂぃ?
まぁ、異世界だし、どうみても城塞都市だし当然か。
「あ、私なら安かったりします?」
「ナガセさんなら、相場じゃないです?」
んー?
それってどういう意味かな、ミルヒく~ん。
「いだだだ!」
人の顔みて、普通だと評価してくれたチビ助の頭をアイアンクロー。
「まぁまぁ。アタシ等も一緒にいくからさ、ぼられることはないよ。──さて、そろそろ適当な所で降ろしてくんな」
「あ、はーい」
そういや、このまま町に入るわけにいかないよね。大騒ぎになるだろうし……よし、この辺でいっか。
チハたんを木陰に停めると、皆を降ろす。
プシュ~……!
停~止ッ。
チハたんは──とりあえずこのまま放置。
このあとでガソスタ内に停め直して一緒に収納すれば持ち歩くこともできるしね。
「よっと! 助かったよナガセ。ここからは歩きだけど──……アンタ、武器はあんのかい?」
チハたんから危なげなく飛び降りたドミトリさんの何気ない一言。
「武器、ですか?」
身分証の次は武器?
なんで?
「……それもいるんですか?」
「い、いるかどうかで言ったら、ないよりはあったほうがいいねー。女の丸腰は物騒だし……。持ってないと逆に不審だよ」
な、なるほど。さすがは異世界だぜ。
……たしかに、街道をいく人々はみんな何かしら武装しているっぽい。
「んー。でも、武器って言ってもなー」
「なんでもいいのさ。短剣でもボウガンでも」
そう言われてもなー。
手持ちの武器と言えば、ゴブリンからドロップしたこん棒くらいしかない。
試しに担いでみる。
「……どうかな?」
オイル染みのついてガソリンスタンドのツナギに帽子。
そしてこん棒……。
「ナガセ、似合う似合う」「おう、ピカ一だぜ」
「
……うーん。
「ドミトリさん、コイツ等何回まで殴っていいんでしたっけー」
こん棒を反対の手にパシンパシン。
「あっはっは! そういってやるなって。コイツら女に慣れてないからこんななんだよ。褒めてるつもりなのさ」
「全然うれしくないです」
やっぱ、こん棒はなしだ。
スタンドにあったレンチでも持って行こうかな。うーん、でもそれはそれでどうかと思うな。
(……あ、待てよ。そういえば──)
「ん? どうしたんだ? チハたんはもうさすがに目立つぞ」
「いえ、そうでなくて──あ、あったあった!」
ゴソゴソっ。
「じゃじゃーん!」
そういって、車内から取り出したのは、
「……な、なんだいそれは?」
「えへへ、これも武器ですよー」
なんとチハたんの中には、携帯食料のほか、水筒に工具に弾薬はもちろんとして──乗員の自衛用火器として鉄砲まで完備されていたのだ。
ちなみに積んであったのはこんな感じ──。
四四式騎兵銃 ×1
百式機関短銃 ×1
九四式拳銃 ×1
十四年式拳銃 ×1
十年式信号拳銃×1
軍刀 一振り
銃剣 1本
手りゅう弾 数発
わーおー……。
鉄砲だよ、鉄砲ー。本物ですよ。
そのほかにも、車載機関銃ももちろん取り外して使えまーす。
「えーっと、
「はい! とはいえ、さすがに全部は無理なんで──これとこれと……これ、かな?」
パパパッと選別して、腰に巻きつけ、肩に担う。
刀を固定する略帯皮というのを腰につけて『九五式軍刀』を
そして、反対にはホルスターを吊るし『九四式拳銃』を収める。
最後に、肩に『四四式騎兵銃』を担った──。
どう?
「こんなん出ましたー♪」
いやー。
ここに、この世界一火力の高いガソスタの店員がいるぞー!
「へー。いいんじゃないかぃ?」
「面白い形の剣だな?」「曲刀かー。華奢だけど、女子供にはいいかもな」
「えへへ」
軍刀は、
まぁ、メインは刀じゃなくて、鉄砲のほうなんだけどね。
「いいですね。それじゃ、準備もできたみたいですし、そろそろ行きませんか? 僕もうヘトヘトですよ」
あ、そうだった。
ミルヒ君、平気そうな顔してるけど、怪我してるんだっけ?
「よし、それじゃいっちょ案内お願いしますね」
「あぁ、任しときな」
※ ※ ※
ざわざわざわ。
わいわいわいっ。
「おー。凄い人通り」
街を入ってすぐ。魔の山脈とかいう天外魔境の麓の町とは思えない盛況っぷりに圧倒された。
行きかう人々も老若男女だけでなく、ホビットにドワーフっぽい人、あとエルフもいた! かっけー。そして美人~!
「あ! あっちにはモフモフした人がいる! 鱗の人もー」
「おいおい、落ち着けって。あと、獣人をジロジロ見ない方がいい、絡まれるよ」
あ、そうなんだ。
「アイツ等気性が荒いからな」「すぐ喧嘩するしなー」
「っていうか、ナガセさん、いったいどんな国にいたんですか?」
え。
ど、どんなって言われてもなー。
「ふつーの?」
「「「「それはない!」」」」
あ、はい。
「まぁ、こんな都会はじめてで」
えへへ。
嘘は言ってない。
「都会ってほどでもないけどね。ここはまぁ……稼ぎたい奴が集まるから、人口だけは多いのさ」
「その分治安も悪いけどね」「兵士の質も悪いし」
「あー。そういえば、ナガセさんは門番に銀貨一枚要求されてましたね」
「……うるせーな」
同情的な目で見ないでよミルヒ君……。
……ちなみに、相場は銅貨10枚程度らしい。
って、どういう意味! なんで10倍もとられてんのよ、私ってば!
「まぁまぁ。その分、稼げるって。ほい、ついたよ──」
「おぉー。そして、ここが冒険者ギルド!」
ファンタジーご用達のあれだ!
見上げた建物は意外と大きくて、西部劇に出てくる酒場風。
まさに、どこにだしても恥ずかしくない冒険者ギルドだった。
ちなみに看板は剣と杖を交差したマークが目印なんだってさ。可愛いね。
「とりあえず、アタシらは帰還報告と納品を済ませてくる。……ナガセの分も一緒でいいよな?」
そういえば、回収した素材系は預けたんだった。
魔石はともかくとして、皮や骨は
なんか見た目以上に物が入る魔道具なんだって。……ちょっと欲しいかも。
「はい。お願いします」
「わかった。それじゃちょっとカウンターに顔を出してくるから、一緒に来てくれ」
「はーい」
そのままズカズカとスイングドアを潜っていく皆についていく。
中は──うわ、くっさ。
お酒と体臭が入り混じった独特の匂いだ。
なんか、柄悪いし……。
あと、なんだろ?
なんか注目されてない?
入口のカウベルが鳴り響いた途端に、ザワッと周囲がどよめくのが目に見えてわかった。
そして、
「お、おいおい、たまげたなこりゃ……生きてたのか、お前らーーー!」
「あーん? 死んだ扱いにしてたのかいマスター」
入ってすぐに、マスターこと筋骨隆々の禿げ親父がドミトリさんを大げさな身振りで出迎えてくれた。
マスターというからには、どうやらギルドマスターさんなのだろう。
「そりゃおめぇ!! 大規模ハントで行方不明だろ? オマケにお前ら、ダイヤーウルフの群れを引き付けて
「ふん。おかげで何日も彷徨う羽目になったよ」
「がっはっは、それでも生還するったぁ、驚いた──さすがはAランクパーティだな」
「そう思うなら、そろそろランクを上げとくれ」
「そのうちな」
わーっはっはっは!
何が面白いのか、二人でゲラゲラ笑う。
どうやら気安い関係の様子。軽口と嫌味混じりで肩をバシンバシンと叩きあっている。
「おっと、そうだ。色々報告したいこともあるし、そろそろいいかい?」
「あぁ、悪かった。──おい、『赤い旋風』の御帰還だ。カウンターを開けてやってくれ」
「「あいよー!」」
そう言うなり、ズラリと並んでいた冒険者がカウンターを開けて優先的にドミトリさんたちを通してくれた。
どうやら慕われているらしい。
最優先で列の先頭に立つことができたので、受付もスムーズにすすんだ。
「お帰りなさいドミトリさん」
「あぁ、なんとか帰ってこれたよ」
そういって、ばんッ! と、叩きつけ気味にドックタグを美人な受付嬢さんに渡す。
どうやら、あれで身分の確認と色々な記録のやり取りをしているらしい。
「ご無事で何よりです、確認しますね」
「おう。それと、素材の換金を頼むよ──おい」
「はいはい」
ドミトリさんが合図すると、控えていたミルヒくんがバッグを逆さにした。
すると出るわ出るわ出るわ……! ここまで狩った獲物の山が。
「わ、あわわわ──ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいね! マスター、まーすたー!」
「叫ばんでも聞こえてるし、見えてる。……凄い量だな。しかもこれは……」
十数匹分のダイアーウルフ素材に、グレーターガルダ。
それと、私の知らない素材がいくつかだ。
「おいおいおい!……お前らとんでもないことやりやがったな。──どれをとっても、Sランク顔負けの成果だぞ? しかも、グレーターガルダがいるってことは……まさか、中腹まで行ったのか?!」
「成り行きでね」
私もー。
「いや、参ったな……こりゃ換金するのもひと手間だが、ちょっとした騒ぎになるぞ」
「おう。存分に騒いでくれよ。そして、できれば報酬のほうも弾んでくれよ」
そういってチラリと私のほうをみて片目を瞑るドミトリさん。
たしかに、これは相当な額になりそうだね。
「そりゃもちろんな。しかし、大規模ハントで
グレーターガルダの羽を手に取り、しげしげと光りにかざすギルドマスター。
どうやら、あれって凄いらしい。
「あー、そうだった。……そのことで重要な話があるんだが──じつはガルダも、ダイアーウルフの群れを倒したのもアタシたちじゃない」
「ああん?」
羽を眺めていたマスターが怪訝な顔をする。受付嬢さんも不思議そうな顔だ。
「何言ってんだ、おめぇ? じゃー誰が倒して、どうやって帰ってきたんだよ」
「それなんだけどね。実は、この子がだな…………
「はぁ?
そこでギルド中の視線が私に集中するのを感じた。
……え? あ! ここで私に振るのー?
なにも聞いていないし、
なんならぼーっとやり取りを見ていたので、反応が遅れてしまったよー。
「ま、まぁ、倒したのは私ですけど──」
えーっと……。
うん、正直に言っちゃえ。