異世界チハたん(九七式中戦車)無双〜聖女召喚されたけど捨てられました~   作:LA軍

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第14話「コンビニ」

 というわけで──。

 コンビニ付きのガソリンスタンドを出す振りをしたところで、周囲をキョロキョロ。

 

「えーっと、この辺……かな?」

 

 ドミトリさんに教えてもらった通り(・・)を歩いていくと、周囲の雰囲気がガラっと変わり始めた。

 

 城門から冒険者ギルド周辺は、石造りの建物が密集していたのに、この辺は何というか、まばらというかジメジメしているというか──……総じて寂れていた。

 

「なるほど。たしかに、この辺なら広さは十分だね」

 

 城塞都市とは言っても、どこもかしこも建物でぎゅーぎゅーというわけではないらしい。

 とくに壁際の日当たりの悪い場所は、ほぼスラムといった感じで、治安の悪い城塞都市サンズベルトの中でもさらに治安が悪いんだとか。

 

 え?

 そんなとこに一人でいて問題ないのかって?

 そして、最初の振りはなんだったのって?

 

 大丈夫大丈夫。

 気分というやつです。どっちもね!!

 

 まぁ、それは冗談として。

 なんでも、この街で冒険者は一目置かれているらしく、よほどでない限り一般の人に絡まれることはないんだとか。

 

 まぁ、魔の山脈の傍の町だしね。

 

 冒険者ありきで成り立っている都市だ。そんなところで冒険者に害する奴は、それすなわち町を害する奴──ということで、結構厳しく取り締まられるのだって。

 

 もっとも、さすがに低ランクは狙われるみたい。

 ……ま、そもそも低ランクがこの街にあまりいないけどねー。

 

 私の場合は、ふふーん、Dランクだしー。

 

 これ見よがしに胸から下げた青銅製のドッグタグ。この色合いを見てわからないような奴はこの街にはいないのだ。

 

 ……そう!

 胸から下げているのは、決してドミトリさんのようにオッパイの間に挟まらないからという理由ではない。……断じてない!!

 

 あとは、そのドミトリさんと仲良くしているのをギルドだけでなく町の人も目撃しているというのも大きい。

 いわゆる、虎の威をかるなんとやらというわけで──……せっかくできた知己なので、活用させてもらってます。おかげで割と平気な顔して町を闊歩できるのは助かるわー。

 

「いざとなったら、これ(・・)もあるしね……」

 

 ぱんぱん。

 

 ホルスターの上から拳銃(九四式拳銃)を軽く叩く。

 

 ちなみに使ったことはないけど、チハたんインストール効果である程度の知識があるので撃つ分には支障はない。

 (※ 当たるとは言ってない)

 

「あと、チハたんもあるしー」

 

 最悪、ガソリンスタンドを呼び出して、中に駐車(・・・・)しているチハたんに乗ればどこにでも行ける。

 中に(こも)るだけで無敵。

 チハたんはこの世界ではほとんど敵なしなのだー!

 

「……っというわけで、このへんでいいかな?」

 

 周辺はバラックとかが立ち並んでおり、ちょっと匂うけど、広さは十分。

 ただ、これ以上進むのはちょっとね……。

 

 ガラの悪い風体の人が増えてきたし、なんか物欲しそうな顔でこっち見てくる人や子供もいるし。

 

(……おっと、ダメダメ。日本的な感覚だと、ついつい同情したりと、(ほどこ)したくなるけど、そういうのはダメなんだ)

 

 偽善とかそう言うの以前に、キリがないから……。

 

「さって。それはさておき、おいでませ──」

 

 今度こそ、

 いでよ!!

 

 ガソリンスターーーーーーーーンド!

 

 発動ッ!

 

 

 ……ちょっと、斜め立ちして、バックに効果音を(まと)う気分で、呼び出してみたー。

 

 うん、ガソリンスタンド能力ですから。

 

 

  はい、ドーーーーーーーン!

 

 

「おー。でたー!」

 

 今度こそマジで召喚!

 すると、なーんか周囲がざわっとしたけど、とりあえず気にしない。

 

 そして、あったあった!

 待望のコンビニがぁぁああ!

 

「ふぉぉぉおお! マヂでコンビニ付きガソリンスタンドだぁぁああ!」

 

 思わず走り出す私!

 

 そして、「そぉい!」と気合をいれてダイレクト店内へ。

 

 

  ピロリロリロ~ン♪

 

 気の抜けるような入店音。

 そして、

 そして──……。

 

「お、お、」

 

 おおおおおおおおお!

 

「ほ、ほんとうにここだけ日本だぁぁあ!」

 

 その圧倒的な明るさ!

 その圧倒的な豊富さ!

 その圧倒的な便利さ!

 

 まさに、まさに、

 

「まさにコンビニエンスストォォオォァァアア!」

 

 興奮のあまり、どっかの映画でみた小隊チック(プラトーン)なポーズで感動を叫ぶと、思わず頬を涙が伝う。

 

 だって、まさか本当にこの便利さに再会できるなんて、思いもよらなかった。

 

 それに、いきなり異世界にたった一人で放りだされて──寂しくなかったわけじゃない。

 

 それでも、それでも──それでも、私にはガソリンスタンドがあった!

 

 チハたんがいた。

 

 そして、その価値に先にコンビニがあるのを知った時の喜びよ!

 

「あぁ、やっぱり日本っていい所だったんだな……」

 

 ハラハラと頬を涙が伝う。

 

 まだ何も品には手を付けていないけど、コンビニの明かりと空気のあまりの懐かしさに、感涙が止まらない。

 

 え、えへへ。

 でも、やっぱりまだ不思議とそんなに帰りたいって気持ちは沸かないや。

 

 ……なんでだろうね?

 

「ま、いっか……」

 

 涙をぬぐって立ち上がる。

 ………………あと、せっかく来たんだし、なんか食ーべよっと。

 

「お金はたっぷりあるし──……レジはセルフでもいけるのね」

 

 商品を手で流れるように触れながら隅々まで観察。

 

 ……当然ながら店内は無人だ。

 まぁ、誰かいても怖いけど。

 

「ふむふむ。値段は普通のコンビニ価格。……そして、補充にはガソスタと同じで、ステータス越しにお金を入金っと」

 

 ステータスで説明を確認しつつ、

 商品を手に取って照明にかざす。……本物だ。

 

「しかし、自分で買って、自分で入金して補充ってどうなんだろうね」

 

 まぁ、でもそう言うジョブだし。

 ってことでいっか。

 

 コンビニのオーナーだって、自分の店で買い物するときお金払うって言うしね。

 それに、こんなのでも利用すれば、ジョブレベルもあがるみたいだし。

 

「よーし! ついでだし、ポイント割り振って追加オプション買っとこう」

 

 通常の商品だけでも十分に恵まれているけど、せっかくだし、ここはさらに充実させよう。

 

 なにせ、ジョブの購入オプションには、『中華まん』とか『おでん』があったのだ。

 それらを追加しても10ポイントだし、安い安い。

 

「おー。そして、ポイントで購入したらシレっとレジの横に中華まんとおでんが増えてるしー……。相変わらず仕事が早ーい」

 

 せっかくなのでフライヤーとコーヒーメーカーも追加で購入すると、レジ横のホットスナック類がいっきに充実した。

 

 ……あ、これって──。

 

 しまった。

 ガソスタの事務室のホットスナック自販機と被らないだろうか?

 ……まいっか。あれはあれで美味しいし。

 

「それに、この●●チキはまた格別な味だしねー」

 

 んー。

 出来たてのニオイが堪らない!

 

 さっそく、チキンとおでんと中華まんを購入。

 あと、これこれ!!

 

 

「あったあった! おビーーーーールぅぅう!」

 

 

 うぉぉぉお!

 

 酒だ!

 酒だ!

 酒が飲めるぞぉぉぉお!

 

「……よーし、決めた! 今日はもう飲む!」

 

 まだ陽も高いけど、

 もう閉店閉店!!

 

「はーい、ジロジロ見てるスラムのひとー。悪いけど、今日はもう閉店ねー」

 

 というわけで、ささっと、ガソスタの周りに集まった人々の視線を切るようにチェーンをして、閉店札を立てた。

 途端に、世界と隔絶された様な奇妙な気配がする。

 ……ドミトリさんたちの話を盗聴したときのが本当なら、これで認識疎外の魔法が発動して、周囲からはほとんど認識されなくなるはず。

 

 あとは、仮眠室でゴロゴロするだけだ。

 

「さーて、飲むぞー」

 

 こうして、袋をガサガサ。

 コンビニ飯をが〜っつり購入すると、意気揚々と事務室に帰っていくのであった。

 

 いやー。やっぱコンビニっていいね。

 

 

※ ※ ※

 

 

「っかぁぁぁ!」

 

 おいしー!

 

 ダァン! と缶をテーブルに叩きつけ、口を豪快に拭う!

 

 シャワーをささっと浴びると、コンビニで買ったシャツに着替えて、事務室のソファーでドカっと座ってビールをプシュ♪ と、開けたわけだけどね!

 

 いっやー、この音いいねーー!

 

 そして、職場(?)で飲むビールが、これまたサイコーッ!

 

「プッハーーーー!!」

 

 ──この背徳感がたまんないね!

 

 ちなみに、ツマミはコンビニチキンとおでん。

 あと、ポテチとかー。

 

 ほんと、マヂでなんでも揃うねコンビニは。

 

「……ただ、あれなんだね」

 

 閉店札を立てるとコンビニも連動して閉まるのか電源が落ちた。

 事務室から見る店内は暗い。

 ……おそらく、ガソスタを開かないと利用できないのだろう。

 

「そう言う意味では自販機買っといてよかったかも」

 

 クピクピとビールを飲みながら自販機を眺める。

 

 うん。閉店状態でも、事務室の自販機は使える……。

 これは便利だ。

 

「なら、こっちはこっちでポイントが溜まったら充実させてもいいかもねー」

 

 あり得ない想定だけど、

 ガソスタを閉店状態で何日も籠る可能性だってないではないかもしれない。

 

 そのときには、この自販機が大いに役立つだろう。

 

 ──そう考えると、自販機が実に頼もしく見える。

 

 我が城(ガソリンスタンド)に並ぶ自販機はまさに最後の砦なのだー。

 

「まぁ、その(ポイント)を戦車に回すという手も、ないではないんだけどね──……」

 

 チラリ。

 ガソスタのど真ん中に駐車しているチハたんを見る。

 

 ポイント80でお買い得の戦車。

 でも、初期キャラクリ画面でみたのは、ポイント1000やら900のつよそーな戦車たち。

 

「たしか、M1エイブラムス(?)で1000ポイントだっけ」

 

 そんなん絶対強いでしょ。

 いっそ貯めて買っちゃう……??

 

「……あ、嘘うそ! チハたんに不満はないよー」

 

 一瞬、ゴルンッ! と、スタンド中央に停車中のチハたんのエンジンが唸った気がして反射的に謝る。

 

 もちろん、そんなことはないはず。だって、コントローラーはとっくに電源を落としているもんね……。

 

「ま、まぁ、いまのとこチハたんは無敵だし!」

 

 チハたんにかなうモンスターなんて早々いないのは明白。なら、無理に強い戦車を買わなくってもいいや。

 

 そうそう。このままで十分十分。

 

 むしろ改造して強くしたほうがいいくらいかもー。

 

「あ、いっそ、しちゃうー?」

 

 対空機関銃だけ増設したけど、

 ほかにも追加装甲とか排土板とか、鉄条網とか──。

 

「…………鉄条網??」

 

 え、なにそれ。

 戦車にトゲトゲつけるの?

 

「それって、世紀末戦車じゃん。ヒャッハー♪ みたいな?」

 

 あ、でもかっこいいかもしれない。

 

 ついでになんかこう……サメの口のペイント(シャークペイント)も描いちゃったりしてー。

 

「けどまぁ、今はいっか。必要の都度(つど)増やしていけばそれで」

 

 なので、世紀末戦車(・・・・・)化はいったん保留~。

 すぐに危険があるというわけでもないしね。

 

「そういや危険と言えば、本当に認識疎外って効いてるのかな?」

 

 チラリと外をガラス越しに見ると、まだ周囲に人がウロウロしていた。

 

 うーん。

 完全に見えないわけではないようだ。

 

 ただ、開店前ほど感心を引いていないようにも見える。おそらくそういう魔法がかかっているのだろう。

 だけど、やぱり人相やら風体の怪しい人がチラチラこっちを見ている気がして、どうにも落ち着かない。

 

「んー。やっぱスラムはダメかも。……今更だけど、あんましのんびりするようなとこじゃないよね。ここ」

 

 しかも、治安の悪い街のスラムだ。

 「悪い」×「悪い」で、「凄い悪い」って感じー。

 

「実際 カメラでみてもこれだもんね」

 

 セキュリティ画面越しに見える光景にちょっと顔を顰めるしかない。

 

 だって、路地で怪しい薬の売り買いをしていたり、汚い刃物を公然と携帯していたりと、ちょっとアレな雰囲気漂う街の姿がみえるんだもん。

 

「色っぽいおねーさんも堂々と客引きしているし、なんなら、ボロボロの恰好の子供が物乞いしている姿も見えるね」

 

 ……そして、当然だれもがガン無視だ。

 

「はー。さすがはスラム……。なんかちょっと匂うし」

 

 ガソリンスタンドの特性上ある程度の敷地が必要なので仕方なかったとはいえ、こんなに物騒なら宿のほうがよかったかな?

 

「まぁいっか、今日一日くらいだし。それより明日からどうしよっかなー」

 

 ゴロゴロしながら、スマホで動画を観ながら明日の予定を考えてる。

 

「せっかくの異世界の街なんだけど、どうにも、この街は治安が不安なんだよねー」

 

 恐怖政治が敷かれていたり、人肉が売られていたりするわけじゃないので、悪いところではないと思うけどー……。

 日本という安全な国にいた私にはちょっと肌に合わない……。

 

 チハたんがあれば無敵とはいえ、

 乗ってないときは、私ってばか弱い女の子だもんね。

 

「むー。別にここが嫌いというわけでもないんだけど、欲を言うならできればもうちょっと治安のいいところにしよっかなー」

 

 冒険者として大成を目指すなら多分いい街なのだろう。

 狩り場には困らないし、仕事もたくさんありそう。

 

 だけど、私は別に「冒険者王」になりたいわけではいのだ。

 あえて言うなら、快適で楽しい生活が送りたい。

 ただそれだけ。

 そして、せっかくの異世界だし観光とかもしたい。

 

「……理想としては海沿いの綺麗な街とか、川のせせらぎが心地よい村とかかなー?」

 

 ブツブツ。

 

 あ、歴史豊かな閑静な都市とかもいいかも。

 やっぱり観光するならそういうとこだよね。

 

「……よーし、決めた! せっかく仲良く(?)なったドミトリさんたちには悪いけど、近日中には出発しよう」

 

 懸念(けねん)していた当面のお金も稼げたし、

 今後についても、道中、モンスターを倒すとかして冒険者として活動すれば何とかなりそうだとわかった。

 

「そして、旅をしながらジョブレベルをアップさせるんだ」

 

 ジョブの成長条件には、

 魔物を倒したり、ジョブをたくさん活用することがあった。

 

 つまり、魔物を倒したり、コンビニなんかをたくさん活用することで、どんどんジョブが進化していくのだ。

 

「なんたって、次は……Lv3『スーパー銭湯付きガソリンスタンド』なんだからね!!」

 

 やったね!

 次は、温泉だよ、温泉!

 

 ただまー、ここまで来ると、どっちが付属品かわからんね。

 

 そして、コンビニでこれだけ快適なんだから、スーパー銭湯なんか出てきちゃったらもう永住してもいいかもしれない。

 

 お金も稼げて、温泉施設付き。

 夢のFIRE生活が送れるのだ。

 

「ふふっ。そう考えると、ちょっと楽しくなってきたかもー」

 

 私は別に世界を救う気もないし、

 元の世界に帰るために真理を探求する気もない。

 

 ことの発端は巻き込まれただけだけど、今では異世界生活も悪くないなと思い始めている。

 だって、こんなにインフラが整った完璧なサバイバルなど楽しくないはずがないじゃん。

 

「それもこれも、チハたんと、君のおかげだよー」

 

 ポンポン。

 ソファーごとガソスタの床を撫でて感謝を伝える。

 

 うん。

 ちょっと酔ってきたかな。

 

 ……でもまだまだ。

 

「よーし、明日から頑張るぞー」

 

 かんぱーい♪

 

 

 

 

 こうして、明るい未来にむけてビールを掲げると、異世界での生活に思いを馳せて、ゆっくり更けていく夜に任せるのであった──。

 

 

 

 あ、どうせなら明日はコンビニを異世界にお披露目シちゃってもいいかも……?

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