異世界チハたん(九七式中戦車)無双〜聖女召喚されたけど捨てられました~ 作:LA軍
わいわい、
がやがや!
「押すな押すな!」
「それは俺のだー!」
「酒だ! 酒をありったけ寄越せー!」
ひ、ひぇー!
予想はしてたけど、凄い盛況だー!
「ドミトリさーん、列の整理おねがいしまーす!」
「あいよー! おら、割り込みすんじゃねぇ!……そこぉ、万引きしたら股を引き裂くよ!」
いや、引き裂かなくてもいいから。
「そこはバックヤードに連行してくれるだけでいいからね。あとは私が、お・は・な・し♪ するから大丈夫でーす」
「……そ、それはそれでどうなんですか? そんな怖い顔でこん棒を肩にしてるから、ナガセさんのとこだけレジ空いてるから混むんですよ?」
呆れた顔のミルヒ君。
「あはは、ほんとそれだよねー。看板娘がいるのに、君のレジに並ぶとはねー。……いい度胸してるわー」
いや、マジで。
私の列ガラガラなのはなんでー?
「そのこん棒と、腰の刀のせいじゃねーの?」
「あと、胸が看板────あだー!!」
おー。
この「こん棒」使いやすーい。
「そ、そういうことしてっからだよ!」
「バイトに暴力ってありなのかよ、いててて……」
セクハラ発言すっからだろ。
クソ双子がー。
「まったくもー」
「ほらほら、そのへんにしときな。それよりコイツを熱々にしてくれってよ」
「はいはーい。……あ、お弁当ですね。──オニギリも温めますかぁ?」
双子はともかくとして、ドミトリさんがうまくさばいてくれたので、徐々に冒険者のみなさんも順番に並ぶということを覚えてくれたようだ。
しっかし、すごいなー。
ファンタジー装束の人たちがコンビニに大挙来店してる、この違和感よ。
「こんな見慣れない店なのに、よく皆来てくれますねー」
開店しといてあれなんだけどさ。
「そりゃね。……野営の飯はくっそ不味いからねー」
あー。
……たしかに
コンビニを開店する前に、試しにスープを一口貰ったけど、酷い味だった。
干し肉はそのままぶち込んでいるものだからしょっぱいし、パサパサ。
旨味なんてどこにもないし、乾燥野菜はゴリゴリ……せめてどっちも水に戻せよなーと思ったね。
あと、パンがめっちゃかたーーーーーい!
製粉も雑なのか、根っこみたいな繊維が残ってるし、なにより、味がね……。
なんでパンが酸っぱいのよ。
意味わかんない。
……あと、エールに至ってはただの泥水にしか見えなかった。
いや、発酵してるのはわかるのよ。
だけど、嫌~な泡の出方してるんだよねー。
「──それに比べたら、たしかにコンビニ飯はおいしいね」
「なにより、安いからねー。……おら!! ガキは煙草なんか買うな!」
うん。
紙巻きたばこも大人気だった。
こっちの世界は
あとは、やっぱり甘味にお酒。
どれもクオリティは高いし、なにより値段が安いんだって。
「……安いですか?」
「そうさ。実際、味もさることながら、かなりの格安だよ?」
そうなの?
日本だと、コンビニが安いって感じだことないけど……。
「安いも安い、激安さね! ぶっちゃけ、価格破壊もいいとこだよ? 同じクオリティのものをサンズベルトの商店で買おうとしたら、たぶん十倍でも足りないねぇ」
「そ、そこまでですか?」
十倍って……。
「そりゃそうさ。……見たかい? さっき並んでたの。ありゃ、ここに遠征にきた衛兵隊の指揮官だよ。シレっとワインを買い占めてたね」
「あー、なんか豪華な飾りの人」
なるほど。
偉い人にも人気なクオリティっと……。
日本のコンビニすげーな。
「まぁ、売れてくれるならなんでもいいんですけどねー。ただ、ガソスタの前で宴会はやめてほしいかなー」
腐ってもここって敵地だよね?
あと、火器は超絶厳禁だからね!
「まぁ、その辺は見張っとくよ。あとはそうさね……見たところ、ホットスナックが人気だね。多分そこそこ馴染みがある外観ってのもあるんだろうけど、売れ行きがいいみたいだよ」
ん?
あ、ほんとだ。
「いっそ、ガソスタの事務室にあった、ホットスナックとかの自販機も外に並べといたらどうだい?」
「それはもちろん構わないんですけど……」
フライドチキンとか、
唐揚げがまだわかりやすいのだろう。
揚げる料理というのは珍しいかもしれないけど、肉は肉だしね。
「でも、重いですよ自販機って──……あ、もう、双子が運び出してるんですね」
「アンタの許可待ちだったしね」
いや、許可はしてないんだけどなー。
……まぁ、いいや。
そして、あの重い自販機をのっしのっしと設置していく双子、たくましいわー。
そんでドシーン!って乱暴に置くのはちょっと。
……あと、なんで延長コードの使い方マスターしてんだか。いいけどさー!
「ゴミの分別だけはお願いしますねー」
「言っとくよ」
なら良し!
こうしてそうして、大盛況のうちに、オーク城塞攻略軍野営地での酒保販売はほぼ終了となった。
……いや、売上えっぐいわー。
オデンとかお酒とか、何回補充したかわかんねー。
「さーて、そんじゃ、日没までもうひと頑張りだねー」
「いや、ありがとうございます!」
おかげで楽できたよ。
「なんのなんの」
「ホント助かりました。お礼といってはなんですけど、ドミトリさんも時間を見つけて休憩してくださいね。あと、仮眠室のシャワー使っていいんでー」
「ホントかい? じゃぁ、ありがたく借りさせてもらうよ」
※ ※ ※
シャワ~~~~~♪
瑞々しく、肉の上を跳ねる水の音。
それは湯気ともにしっとりと室内を白く染めていく。
そのあとにはなんとも言えない芳しい香りが石鹸の清涼な匂いに混ざって流れ落ちていく。
ここは?
そう、事務室奥の仮眠室の隣。
その隣の簡易シャワー室の中だ。
湯気と人気が籠るそこには、明々としたライトが灯り、
うっすらと白い肌が正面と
水滴は、とめどなくシャワー室の壁を叩き、
やわらかな肌をみずみずしく流れ、艷やかに跳ねていく。
そして、その音が湯温と混ざり、
シャワー室特有の狭い、独特の籠った音を響かせていた。
……それは、まるで一種の様式美。
見えそうで見えない、すりガラスの向こうで艶めかしく動くのは、
そう────!
「──もちろん、私! 長瀬だよ!」
シャッ。
シャワーカーテンを跳ねる音とともにタオル片手に豪快に出てきたのはそう!!!
皆のアイドル、長瀬あかり様であーーーる!!
「……あーん? お前が入ってるとか聞いてねーって?」
やかましいわ。
ここは私の城、
ガソリンスタンド能力であるぞー!
「……つーか、私が入ってるに決まってんでしょーが。なにを想像したかね読者の諸君!」
正面を向きつつ、
ドドドドドド!!
と、斜め立ちしつつ、なんとなくのポーズ。
ふんッ。
女性のシャワーシーンとくれば、
お色気担当のドミトリさんだと思ったかー。
「残念! ちびっ子諸君は、続きは動画で楽しみたまえー」
わっはっはー!
「いやー。しかし、シャワーしかないとはいえ、それでもこの異世界の埃っぽい中、浴びる熱〜いお湯って、マヂ最高ッ」
熱いお湯に、
適度な水圧!
「なにより、誰にも邪魔されない孤独な空間!」
たーまらないね!
わっはっはー。
イェ~イ♪
もろもろ、誰に言うでもなく、堂々と身体をさらして、バスタオルでスパーンスパーン! と、背中と股間を叩く叩く、
──そしてぇぇええ!
「風呂上がりにはこれぇぇええ!」
バーン!!
「おビールの出番だー!」
「ど、どわぁぁああ?! ナ、ナガセさんんんんん?!」
……あーん?
なんだ、ミルヒ君か。
ビールを求めて、仮眠スペースから事務所に顔を出したら、チビのミルヒ君とバッチリ目があったわ。
「何、変な声だして? ゴキちゃんでも出たー?」
そして、
視線が泳いでるけど、どーした?
「いやいや! どーしたもこーしたも!!! ナ、ナガセさん! ふく、服! 服着て! 服ー!!」
服ぅぅ?
タオルあるでしょ。
「いいよ、ミルヒ君なら──……って、あダメだ」
こいつオッサンだった。
「出てけー」
「いや、出てけもなにも、僕、トイレにきただけで──」
知るか、出てけー!
「ひぇぇえ! お、横暴だー」
「やかましい、私の裸は安くはないのだー」
わーっはっはっは!
「いや、見たくて見たわけではないし、そも、僕はただの貰い事故では?…………あと、そこは普通フルーツ牛乳かと?」
知らんッ。
いいから出てけっ。
そして、私は、おビール一択なのであーる!
「さ、さーせん!」
ったく、マセガキめ。
あ、オッサンだっけ? まぁいいや。
「……さーて、飲むか」
カシュ!!
──ごっごっごっごっご!!
「っぱぁっぁああ!」
サイコー!!
ぶふぅ! と手で口を拭って、誰にもとなく親指を立てる!
……ん?
もう、酔ってのかるって?
失礼な、まだ酔ってませんよ、これが素面でーす。
「……しっかし、城塞攻撃かー」
ドカッ! と、ビール片手に、バスタオルを巻いただけのラフな恰好で事務室のソファーに腰を投げると、正面のガラス越しに見えるオークの城塞を、物憂げに眺める。
その透明な板の一枚越しに見上げるオークの城は、月夜に不気味に浮かびあがっているのがまざまざと見えた。
うーん、魔王城みたい。
「……明日、あそこに突撃するんだよねー」
いやー。
なんか、今さらだけど、ノリと勢いでやるって言っちゃったけど、冷静に考えたら凄いな。
ほんの数日前まで、私、ガソスタでレギュラー給油して、窓ふきしてただけの店員ですよ?
それが、攻城戦ですよ、こうじょーせん!
「……ま、私は後方支援だけどねー」
ピーナッツぽりぽり、他人事みたいに呟く。
ま。実際、他人事と言えばそうなんだけどね。
だって、矢面に立って戦うのはドミトリさんたちだし……。
そもそも、城内に突入して血なまぐさい白兵戦とか絶対無理だしー。
「とはいえ、まさか戦争に首を突っ込むことになるとは、我ながら予想の斜め上を行ってるなー」
後方支援とはいえ戦闘にも加入することになるだろう。
「まぁ、今さら細かいことを考えてもしょうがないか」
私、長瀬あかりは振り返らない女。
なにより知り合いが危険な目にあうのを、座して見てる方が、ケツの収まりが悪いっものです。
「……なので、あとは出たとこ勝負かな」
戦争だし、何が起こるかなんてわかんないしね。
だから、ここはチハたんのパワーと防御を信じよう。
「だから、チハたんもかんぱーい!」
明日もよろしくぅ!
いぇー。
「も、一本飲もーっと」
こうして、長距離移動とコンビニ営業という中々にハードな一日を過ごした私は、いい気分で大いびきをかいて眠るのであった。
しかし、
明日……チハ(九七式中戦車)とオーク城塞が真っ向からぶつかりあい、予想以上の激戦になることをこの時の私は、まだ知らない──。