異世界チハたん(九七式中戦車)無双〜聖女召喚されたけど捨てられました~ 作:LA軍
──グォォン!
グォォォオオン!!
「エンジンおっけーでーす」
朝焼けの空。
作戦決行を受け、
チハたんの暖機運転の音が響き渡るなか、
オークの城塞を見上げる野営地では、衛兵隊や近隣から招集されたという冒険者が武装の最終チェックをしていた。
「あいよー。そんじゃ、ナガセも集合しとくれ」
「はーい」
そして、私こと長瀬も、先遣隊の指揮を務めるドミトリさんに呼ばれて前線に移動する。
「──さーて、これで全員集まったね」
いつものように獰猛な笑みを浮かべたドミトリさんが仲間を見下ろしている。
ここにいるのは『赤い旋風』の4人と私だけ。
ちょっと離れた位置に集合している衛兵隊と冒険者の集団からは、少し離れていた。
どうやら、陽動組と突撃班で別グループのようだ。
向こうは向こうで、昨日の豪華な服の指揮官さんがなんか立派な訓示をしていた。
ということは──。
「──いいかい、お前ら。見ての通りの本日は快晴、攻撃日和だ」
そういって見渡す空。
うん。
いい天気。
「そんで、昨日指揮官とした打ち合わせ通り、これより、アタシらが先発として攻撃を開始することになった。あっちをみな──」
あっち……。
ドミトリさんが親指をひっくり返して指す。
うん、
たくさんの冒険者さん達がいるね。
「──見ての通り、向こうも準備よし。そんで、アタシらは予定通り10分後に
「「「もちろん」」」
「おっけー」
うん。
打ち合わせ通りだね。
城塞に続く主要道を見据える位置に潜む私たちは、すでに夜のうちにチハたんを準備して上から見えないように偽装していた。
そして、集合しているのは、それを隠すように展開した冒険者と衛兵隊の集団だ。
彼等は、城の裏手に展開し、
むしろ城塞のオークに見せつけるように広く布陣していた。
ギラギラと輝く槍先が陽光を跳ね返し、まさに、これから背面からの総攻撃の構えに見えるだろう。
「──なら、あとは簡単。城塞のオークどもが陽動に釣られたら隙をついて、一気に正面を突破! 城門を破る!」
「「「おう!!」」」
「お、おおーう!」
まさに、強襲だね。
つーか雑。
だけど作戦の成功率は高いと見積もられていた。
なぜなら、オークは知恵こそあるが基本は単純明快。
数の多い陽動部隊が動き出したら、そっちに気を取られること間違いなしなんだって。
だから、あとは少数精鋭のドミトリさんたちが城塞まで駆け上がり、閉ざされた城門を突破──そこを足がかりとして、本隊を突入させるという作戦なのであーる。
以上、作戦説明おわり!
「わかったら、牙をみせな!」
「「「おう!」」」
「わかったら、爪をみせな!」
「「「おう!」」」
「わかったら、覚悟をきめな!」
「「「おおーう!!」」」
「お、おおー」
──……3回目でようやく声だせた。
ちょっとノリについていけなかったけど、これが『赤い旋風』なりの気合に入れ方なのだろう。
だけど、なんかかっこいいね。
今度あったら、私も「おう!」って言ってみよう。
「よーし、そんじゃナガセ! 一丁頼むよ!」
「はーい! それじゃ、いっくよー! ささ、皆乗って乗って!! こっちはいつでも出せるし!」
グォングォン!!
グォォオオオオン!!
うん、チハたんも良好!
コントローラーも充電ばっちり!
どっちも昨日、魔石を使って完全にメンテナンスしておいたからね。
「聞いたな、野郎ども──!! 戦場までの直行便だ! いけっ! 総員、乗車ぁぁああ!」
「「「おおーう!!」」」
大音声で叫ぶなり、ドタドタ、ひらり! と飛び乗ってくる『赤い旋風』の4人。
ひゅー、かっこいー!
なら、私も──。
「とーう」
「…………ナガセ、出番だよ」
……はい。
飛び乗ろうとして、ズッコケかけたのを皆、目をそらしてくれた。
うん、
ちゃんとステップ使って乗るね。
「さ、さて。準備はいいかい?」
「もちろんでーす!」
何事もなかったかのように、砲塔に登った私は、
スチャリと、いつものゴーグルを首にかけると親指を立てる。
「そ、そんじゃ行こうか!」
「オッケー。そんじゃ、いっくよーチハたん!! エンジン全開!」
グォォオン!!
グォォオオオオン!!
「──戦車、前へ!!」
グォオオオオオン!!!
そうして、号令一下。
異世界の戦士をのせたチハたんは、真っ黒は排気ガスが立ち上らせると、
三菱重工業製のV型12気筒空冷ディーゼルエンジンにより170馬力の唸り声をあげる!
そして、弾きだすのだ!
そのエンジンが最高のパフォーマンスで生み出す、最高速度38km/hを!
あとは簡単。
その速度を維持して爆走し、一路オークが占拠する難攻不落の城塞に向けてぇ、いざ突撃ぃぃい!
「いっけっぇええええ!」
チハたん、突進!
キュロキュロキュロキュロ!!
こうして、履帯音もたのもしく、
タンクデサントした『赤い旋風』と私を載せては、チハたんは征く。
前線近くの隠れ場所から、草葉に枝をとまき散らしながら、一気に城塞を駆け上っていくのであーる。
※ ※ ※ ※ ※ ※
わーわーわー!!
ガンガンガンッ!! キーーーン!
陽動組も動き出したらしい。
遠くの方で剣と盾を鳴らす音に、突撃の鬨の声が上がるのを聞きながら、必死で戦車を操縦する私。
「ま、前ッ! ナガセさん、前方に障害物です!」
「わわ! み、見えてるけど、かわせないよー!」
コントローラー上の画面は小さく、高速で爆走するチハたんの中では咄嗟の動きができない。
おまけに城塞の正門まで続く山道は曲がりくねっており、さらには、そこここに商人から奪ったであろう馬車の残骸が積み上げられていた。
「あわわ! ご、ごめーん。ぶつかるかもー!」
「なーに、構うことはないよ! チハたんならいける!」
え、ええー?
豪快だなー!!
「でもわかった! 揺れるから捕まっててね!」
ドーン!
「おわ!」
「あっぶね!」「ひぇー、すっげぇパワー」
メキメキメキッ!
タンクデサント中のみんなが悲鳴を上げるけど、落車したものはなし。
そして、チハたんはといえば、馬車の残骸をバキバキと乗り上げる形で障害物を粉砕し、前進!
さしたる支障なし。
さ〜すがは戦車だ。
ちょっとばかし、ゴリゴリと腹をこすったような音がしたけど、それすら大馬力で強引にかき分けると、ついに障害はあっさり排除できた。
「ど、どうかな?」
「あぁ、大丈夫だ。次もいくらか障害があるけど、同じ要領で突っ込め!」
「はーい!」
ドミトリさんのお墨付きだ。
これならいけるだろう。
「ははッ、豚野郎どもが泡喰ってる姿が目に浮かぶぜ」
「ちげぇねぇ」
双子たちも上機嫌。
「おそらく、あの障害はチハたんを想定したものじゃないですね。……多分ですが、破城槌や攻城塔なんかの攻撃を警戒したものなんでしょう。その証拠に兵が配置されていません」
ミルヒ君も双眼鏡で前方を確認しつつ、太鼓判を押す。
「あぁ、だけど。油断するんじゃないよ! 今のは敵さんも予想外だろうが──これだけ派手に音を出しているんだ! そろそろ気づくよ」
「あ、やっぱし? まぁ結構な音がしたしね」
いくら陽動に釣られたと言っても、兵隊が空っぽというわけじゃないだろう。
それでなくとも、チハたんは結構な騒音がでるから、オーク側もいい加減気づくに違いない──……あ、来たかも。
「──
おお?
ついに、
双眼鏡で偵察していたミルヒ君が鋭く叫ぶ。
「っち。思ったより早いね──迎撃くるよ!」
え?
迎撃って??
「なにが来るんですか──……って、うひゃぁぁああ!」
ガギィーーン!!
「ひ、ひぇぇぇ?! な、何今の?!」
凄まじい風圧を感じて思わず首をすくめると、
なんか、すっごい速いものがチハたんに向かって飛んできたような気がして、振りあおぐ……。
「いってー……手が痺れたよ。バリスタかー。連中、味なものもってやがるね」
すると、ドミトリさんが手をプラプラしてた。
バリスタ?
コーヒーのやつ?
「ナガセ、バリスタってのはでっかい弓のお化けのことさ」
デッカイ弓のおばけって?
……あー、あれか。
車長用の双眼鏡でみると、なるほど──でっかい弓のお化けだ。
「………………っていうか、ガギィン! って、まさか?!」
え、ええー?!
「ド、ドミトリさん、
「あん? あぁ、あんなデッカイのに当たるわけないだろ」
いやいや、そうじゃない、そうじゃないよー。
弓って言うより巨大ボウガンじゃん!
余計に威力がのってヤバいやつじゃん!
「……うーん。改めてだけど、この世界の人って、尋常じゃなく強いわー」
「あーん? アンタがそれをいうのかい?」
そりゃ言いますとも。
「チハたんがなければただの無害な女の子ですよー」
「「「女の
シュラン……。
え~っと、
……今日は5回くらい殴っていいですかね?
「こらこら、無言で刀を抜くんじゃないよー」
「いや、そろそろ血を見せないとわからないかと思ってー」
失礼にもほどがあるよ。
私はいつまでたっても女の子なの!!
「はいはい、わかったわかった。それより、ナガセ──あれ、なんとかできるかい?」
「あーそうですね。このままだと狙われ放題ですねー」
ビュンビュン飛んでくるバリスタとやらを見て、確かに問題だと思う。
一気に突っ込んば死角に入れそうだけど、面倒なことに、城門までは障害物がたっくさん!
このままだと足止めされて、狙われ放題かも?
「よーし、撃たれまくりってのは、腹立つし。こっちも一丁ぶっ飛ばしてやりますか!」
それに、城門まではもう少しだ。
「期待してるよ! 野郎ども──耳を塞ぎな!」
「「「あいよー!」」」
ミルヒ君!
目標よろー!
「了解!──正面、12時の方向ッ! 城門の上の敵バリスタぁ!」
「あいよー!!」
双眼鏡を構えながら、五指をそろえたミルヒ君がビシーっと格好をつけながら、アレを撃てという。
これは、事前の打ち合わせ通り。
このほか。障害物の突破や攻撃目標は偵察に優れたミルヒ君が出すことになっていた。
なので、戦争に不慣れな私はその指示に従うのみ!
「そんじゃ、撃っちまーす!」
3点射!
てーい、てーい、てーい!
装填!
発射!!
──バクンッ!
装填、発射!!
──ドカーン!
装填発射!
──バーーン!!
「どうー?」
「命中命中命中! 全弾の命中確認ッ!」
チュドーーーーン!!
ドーーーーーン!
ドーーーーーン!
ミルヒ君の言う通り、3発が全弾命中!
音が遅れてやってくる。
そして、
城門の上にあったバリスタ数台が吹っ飛んでいくのが見えた!
「やったー!」
「よーし、敵の防御兵器を黙らせたよ! このまま一気に突撃だ!」
はーい!
いっくよーチハたん!
「GO、GO、GO!!」
エンジン全開、最大戦速!
「ツッコメぇっぇえ!」
ミルヒ君の攻撃指示。
そして、ドミトリさんの突撃許可をもらって、このまま一気呵成に城門にまで突っ込んでいく!!
敵の城塞は、長年放置されていた砦なだけあって城門は朽ち果てているのか、簡易的な柵で補強されているだけだ。
これなら砲撃するまでもない!
「ナガセぇえ! 敵が出てきたら撃ちまくれ!」
「まっかせてぇ!」
すでに城門上の砲台は破壊したし、今更砲撃に躊躇はない!
だけど、迎撃にでてきたオークの数が結構すごい。
チラリと覗き見れば、城壁にオークが取りつき、バリスタに負けないくらいのデッカイ弓を構えてこっちを狙う。
「ひ、ひぇえ……! ドミトリさん、あれは?!」
ビュンビュン飛んでくる弓矢のお化けに首をすくめる。幸い、数発チハたんに命中し、嫌な反跳音が響き渡るも貫通はなし。
「見えてる! ありゃ、オークの弓兵だよ。かまわねぇから、応射しな! お前らもだよ!!」
「了解ー」
「「合点承知ぃ!」」
私は撃てと言われたので主砲に装填し、
双子は自慢の得物を携える。
そして、どちらともなく発射、発射、発射!!
「てーい! てーい! てーい!」
「うらぁぁ!」「しねぇぇ!」
57mm砲の乱射と、双子の弓とボウガンが同時に火を噴き、城壁上のオークを薙ぎ払っていく。
「よーし! このままぁぁぁ!」
はいなー!!
城壁の爆炎を追うように更に加速!
「いっくよー。全員つかまっててねぇぇええ!」
たしか、当初の予定では、城門まで私が送り届ければ、あとはドミトリさん達が城内に侵攻し、オークを攪乱するんだっけ?
そして、状況により、捕虜を解放することになっていたはず。
オークは半端に知恵があるだけに、人間に人質が有効なことを知っている。
だから、早期に
本来は、あとから来る本隊に任せるべきなんだろうけど、そんな悠長な時間はなさそう。
「だったらスピード勝負だね!」
ここでまごまごしていたら、人質が危険だ。
「──なので、ここは一気にいくよぉぉおお!」
うおぉぉおおおおおお!
いっけぇぇ、チハたーん!
キュロキョロキュロ……!
私はコントローラー越しに城門を睨み、その正面で迎撃しようと待ち構えていたオークの顔をバッチリと捉える。
そして、連中がチハたんの速度に及び腰になっているのをいいことにそのまま突貫!!
見る見る近づく城門!
そして──
「わぁぁぁあああああああああああ!」
「そ、総員対ショック姿勢!」
「「「してまーす!!」」」
ドーーーーーーン!!
刹那、城塞を震わすほどの凄まじい大音声が響きわたり、
簡易柵が吹っ飛んでいくと、そのまま城門にチハたんがぶっ刺さった!
それはつまり、私の役目はここまでということ!
「──げほげほっ! と、突入成功! だけど、やっぱりチハたんは侵入できないみたい!」
なにせ、ここの城門の幅は2mあるかないか。
それも、馬車一台がギリギリ通れる程度の幅なので、車幅2.3m以上のチハたんは最初から通れないのだー。
「予定通りさ! いくよ、お前ら!」
下車!
総員、下車ぁぁあ!
「おう!」「仕事だ仕事だー!」
ドガドガと足音を鳴らしながら、タンクデサント中のドミトリさんがチハたんがめりこんだ城門から先へとなだれ込んでいく。
そして、
「ナガセさんはここを頼みます!」
ミルヒ君も短槍を手にドミトリさんに追従していく。
「オッケー! そっちも気を付けて。こっちは、誰も通さないよー」
「お願いします!」
──ジャキンッ!
砲塔から身を乗り出し、両手で対空機関銃を握りしめると、皆に向かって親指をたてる。
意味が通じるかどうかはどうでもいい。今はみんなの無事を祈るのみ!
「……さぁ、ここからが本番だよ!」
全員を見送ったあと、
すっぽりと城門にはまってしまったチハたんに残されたのは私ひとり。
だが、それは予定の行動だ。
私はこのまま城門に蓋をして、オークを閉じ込め、後続する本隊が来るまでここを保持するのが役目。
「よーし、留守番がんばるぞー」
えいえいおー!
誰も見ていないのを承知で一人でエールをあげつつ、混迷極める城塞内の戦いに目を向けるのであった。