異世界チハたん(九七式中戦車)無双〜聖女召喚されたけど捨てられました~   作:LA軍

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第3話「山奥」

「いってー……」

 

 

 蹴り飛ばされたお尻がすっごい痛い。

 そして、ここは見知らぬどこかの山奥。

 

「つーか、マジで捨てないでよー」

 

 お尻をさすりつつ、なんとか起き上がる。

 ……結局、あのあとすぐに追い出された。

 

 斬られなかっただけ御の字と言えばそうなのかもだけど……。

 

「しかし、何がいけなかったのだろう?」

 

 うーむ。

 ……いい笑顔だったと思うんだけどなー。

 

 だけど、気付いた時には、この見渡す限り周囲には木々の他何もない山奥に捨てられていた。

 

 じつはあの後、連中ときたら、ひとしきり大爆笑したかと思えば、ガッシリとこう──拘束された宇宙人みたいに脇を固められて、そのまま檻付きの馬車の載せられ、あれよあれよと言う間に、こうして山奥までつられて、ポーイだ。

 

 いーや、めっちゃ早業。

 手慣れた仕草でしたよ、はい。

 

 つーか、路銀もくれなかったし……。

 こういう時って、なにかくれるもんじゃないの?

 

 

  80ゴールドとか竹の槍とかさー?

  せめて『やくそう』くらい、ちょうだいよ。

 

 

「そもそも、勝手に巻き込んどいてこの仕打ちはなくなくなーい」

 

 一緒に呼び出された──というか、あいつのせいなんだけど──えみりはというと、こっちのことを一顧(いっこ)だにすることもなかったし。

 

 まぁ、ほぼ初対面だし?

 

 なんなら、アイツのことだ。

 日本にいたときから、お嬢様気分で下々(しもじも)のことなんて、これっぽっちも気にもしてなかったんだろうしね。

 

「……まぁ、殺されなかっただけ良しとするか」

 

 私は前向きなのだ。

 

 そして、捨てられる前の、おーじ様たちの言をとるなら、

 

 

  ──さすがに処分は難しいか?

 

  ──殿下。召喚の儀式は神聖なものです。

    呼び出した者をこちらの都合で殺処分したとなれば外聞(がいぶん)が……。

 

 

 ……だそうだ。

 うん、追放した時点で恥も外聞もクソもねーっての。殺されないだけ、感謝しろって?……ふざけろ。

 

「あーあー。ほんっとムカつくわー」

 

 日本にいたときからろくでもない人生だったけど、それなりに頑張ってたのにこの仕打ち。

 しかも、勝手に召喚して、そっちの都合で捨てるとか、マヂありえんわ。

 

「はぁ。異世界召喚とやらをされたらさー、こう……チート能力を得てウッハウハになれるんじゃないの?」

 

 そして、あわよくば夢のFIRE生活。

 朝は昼間で寝て、夜は朝まで起きる。そんな夢の生活…………が、これ(・・)かよ!!

 

「っていうか、着の身着のままてどうしろってのよ……」

 

 

  ギャーギャー!

   コワカカカカカ……!

 

 

「ひぇ!」

 

 途方に暮れたとたんに、聞いたこともない獣の鳴き声が響き渡る。

 

「ええ? け、獣? それとも鳥?」

 

 いやいや、

 ……もしかしてモンスターって奴かな?

 

「うぅー、これ不味いよね? 状況的に、目隠しされてアマゾンの奥地に捨てられた気分……」

 

 それか姥捨て山かな。

 ……って、誰が(うば)じゃ!

 

「だけど、困ったなー」

 

 なにか役に立つものはないかとポケットを漁る。

 中から出てきたのはスマホ、小銭──……そして、高吸収スポンジタオル~♪

 

 

Bull() SHIT(畜生)!」

 

 

 さっきの洗車のくだりを思い出して腹立ってきたので、タオルを地面にたたきつける。

 マーヂむかつくわ。

 

「……しっかし、モンスターかー」

 

 そーいや、あの第二王子様は魔族がどうのこうのって言ってたっけ。

 説明を右から左に聞いていたけど、なんでも魔族はモンスターを操って、人間を苦しめているとか。

 

 ……うげー。

 そんなん出てきたらどうしよう。

 

 スライム?

 ゴブリン?

 

 うぅ、こわいなー。

 

「……ゴブリンに捕まったら、R18展開になるのかな?」

 

 三十路前のガソリン臭い女に需要あるか知らんけど。

 

 あ! そういや、ガソリンといえば……。

 

「えっと……。なんだっけ? スキルの他に、たしかジョブ──ガソリンスタンドだっけ?」

 

 なんか、まんまのジョブ過ぎてぜんぜん異世界特典の実感なかったけど、

 あのローブの人はたしか「一定条件で使える」みたいなこと言ってたっけ。

 

「どうするんだろ?」

 

 そも、一定条件が何なのか知らないし。

 

「むー。試しに、こうかな?──ガソリンスタンド出ろー」

 

 

 

  ──ドーーーーーン!!

 

 

 

「うっひゃー!」

 

 ででで、でたー!

 

「な、な、な、なになに?!」

 

 え? なにこれ?

 

「…………ガ、ガソリンスタンドぉ?!」

 

 うっそ、マジで出たの……?

 

 なんか知らんけど、一定条件が何かと考える暇もなく、手をかざしたら突然目の前に土埃が上がる。

 そして、それが晴れたかと思えば、その先に本物のガソリンスタンドが出現したのだ。

 

 ……しかも、馴染みのある、あの田舎の県道沿いのガソリンスタンドだ。

 元の勤務先ともいう。

 

「ひ、ひぇー……」

 

 いや、たしかにジョブが【ガソリンスタンド】だったけどさー!

 まさかまさかの、マジでそのまんまじゃん。

 

 その直後。

 キーーーン! と、かき氷を一気食いしたような鈍痛がして、何かが脳裏に流れ込んでくる。

 

「う、頭が……!」

 

 痛い。

 割れるように痛い……けど、これってもしかして。

 

「ジ、ジョブの情報だ、これ」

 

 まるで大量の情報を脳にインストールされた気分。

 ……だけど、それによって需要な知識が一瞬にして頭に刻み込まれた。

 

 それによると、なんと私のジョブは、この世界に一定条件のもとガソリンスタンドを呼び出すことができるという代物(しろもの)らしかった!

 

「これが、私のジョブの力なの?? す、すごい!」

 

 ……いや、凄いのか?

 凄いよね。うん、凄いはず……。

 

 そして、その一定条件というのが、ある程度の敷地と地下があること。

 そして、屋外であること──らしい。

 

「いや、ザルだな。それってようするに、ほぼすべての地上で出せるってことじゃん」

 

 なんともまぁ、適当な条件だ。

 ある意味ありがたいけど、

 水の上とか、空中とか、城の中とかそーいう所はダメだけど、それ以外ならどこでもガソリンスタンドが呼び出せるということかー。

 

 すっげ。

 汎用性たっかーい。

 

「………………まいっか。使えるものはなんでも使おう」

 

 頭痛が消えてすぐに気を取り直した私。

 この辺の切り替えは昔から得意でしてね。

 

 なので。とりあえず、中を見てみようかなーと、出現したガソリンスタンドに歩みよる。

 

 ほうほう。

 マヂでガソスタだわ。

 

 とりあえず、馴染みある空間なので事務室を抜け、ズンズン奥へ進んでいく。

 

 外のスペースは、お馴染みの給油機やら洗車場やらはもちろんのこと、

 

「わー……。事務室の中には、自販機まであるぅ」

 

 ……凄いジョブだな。

 

 そんなものまで再現しているとは──……え、ってことはまさか。

 

「お、おぉー!! か、仮眠室があるー!」

 

 やった!

 私の憩いのスぺース発見だよ!

 

 なんと、ジョブのくせに、一丁前にベッド付きの小部屋(サボリ空間)までちゃんとついていたのだ。

 

「──しかも、召喚される前のまんまだー!」

 

 タブレットとか充電器もあるし、

 財布にちょっとした化粧品なんかの小物まできっちり残ってる。

 

「……あれ? ってことは、もしかして──」

 

 とてててッッ……あ、あったー!

 

 小走りで事務室の奥を見れば、なんと給湯室もある。コーヒセットもそのままだ。

 

「よかったー。私物で持ち込んでた冷蔵庫もレンジもある!」

 

 さらには、水道も便所もあった。

 なんなら、バックヤードには備品のつまった箱もあるし、隣の整備スペースには工具もある!!

 

 そして、日本にいたときは滅多に使ってなかったけど、仮眠室に併設されてる小さなシャワーもそのままだ!

 

「っていうか、これ……通電してる?」

 

 自販機が唸ってるからもしやと思えば、まさかまさかの電力まで。

 

 うっそ?

 これ、どこに繋がってるんだろう…………まいっか。

 私は細かいことは気にしない。

 

「そして、インフラ完備ってことは、しばらくは暮らせるってことじゃん。やったね!!」

 

 そう。細かいことは抜きにして、バフーン! とベッドに寝ころんで枕に頭を沈めていく。

 

「ふぃぃー……なんか疲れた」

 

 大して動いてないのに、ドッと疲れが押し寄せてきた。

 

 そのまま、天井を見上げれば、馴染みの仮眠室のそれだった。

 

 ……いや、しかし助かった。

 

 田舎のガソリンスタンドとはいえ、24H営業なだけあって、最低限人が暮らせる環境は整っていたのが幸いした。

 

 このベッドも召喚前にいた日本のガソリンスタンドのまんまだしね。

 

「あー、よかった。一時はどうなるかと思ったよー……」

 

 冷蔵庫の中身は空っぽだけど、インフラがあるだけでも大感謝だ。

 身一つで異世界に放りだされて途方に暮れていたけど、これならなんとかなるだろう。

 

「屋根があって、壁があって、電気がある……」

 ……うん。

「ちょーサイコーじゃん……」

 

 しかも、職場(?)で昼間っから寝られるというこの背徳的な喜びよ。

 

 FIREしたい私には望外の魅力だ、

 そして、この安い仮眠室のベッドには抗いがたし──。

 

「ふわぁぁあ……。なんか色々気になることあるけど、もういっかー」

 

 召喚されたこととか、

 この先どうするとか、

 ここのインフラのこととか──。

 

「──下水とかもどこにいくんだろう、とかね?」

 

 試しに流したトイレは正常に流れて行った。

 ……私のウ〇コは何処へ?

 

 電線も通ってないくらいだし、

 水道なんか絶対、管が通ってないよね?

 

「…………ま、いっかー」

 

 細かいこと考えてもしょうがない。

 そもそも異世界召喚の時点でわけがわかんないしね──。

 

 

 

 

「とりあえず、今日はもう寝よ寝よ……」

 

 

 

 

 なんか色々ありすぎて疲れたしね。

 陽も落ちそうだし、今日はここまで──お休みー。

 

 

 

 

 

 

「………………あ、閉店の看板出しとかないと」




明日は12時頃投稿します
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