異世界チハたん(九七式中戦車)無双〜聖女召喚されたけど捨てられました~ 作:LA軍
……で、その日の夜。
無事にあの地獄から救出された日の暮れのことー。
りー、りー、りー♪
森の中で綺麗な羽音をたてる虫の音を聞きながら本日の野営地にガサガサガサーッと、チハたんを突っ込ませると、その足で水場でささっと身体を洗い、最後に軽く髪を流した──。
「っぱぁぁあ!」
つめたーい。
「ははっ、たまには天然の水もいいだろ?」
「ですねー」
なにせ、いつもは水道水~♪
にぽーんの優秀な水道水は安心安全、生でも飲める仕様だし、全然こっち来てから水の心配してなかったんだよね。
「しかし、傷は大丈夫かい? 結構な怪我だったけど──」
あーまぁ、うん。
「ちょっと沁みますねー」
顔どころか、全身ボコボコだったわ。
あの戦場から移動して数時間。
この世界の優秀な回復薬とかが無かったら、二、三回は死んでたと思う。
その辺は地球よりもすごいよねー。
骨折とかも、みるみる治っていったしー。
「っていうか、骨折れてたんですねー」
「骨どころか、内臓もいってたよ……。ドラゴンとガチンコでやりやった上に、最後はあれだからなー」
あー……はい。
ちょっと遠い目の私。
「おかげで私のガソスタは星になりましたとさー」
「あ、あはは。……でも、治るんだろ?」
それはそう。
だけどなー……。
「時間経過でゆっくりと──あとは、お金を掛ければすぐにでも治るみたいです」
ただし、スパ銭は大破 & そしてガソスタはクレーター化という、もはや立て直したほうが早いレベルだったので、ちょっと金貨300枚程度ではどうにもならない。
くそーっ。
あのドラゴンめぇ―……今度会ったら、全身の鱗を剥いで売ってやるぅ。
「そ、そっか。そりゃ参ったねー。ガソスタ頼りになってたせいで、今更だけど夜がこんなに大変だとは思わなかったよ」
「たはは。ドミトリさんでそうなら、私はもっとですよ」
そういって二人で野営地を見渡すと鬱蒼とした森林地帯。
おまけに地形は凸凹で頭上を圧するように木々が生い茂っていた。これじゃほとんど空も見えない。
幸いにも魔石はあったので、スキル『せんしゃ』のほうは問題なく回復できたので移動は問題なーし。
あとは、チハたんの探照灯があるので、光源にも困らないけど、それ以外はなー……。
「いや、ホント参りましたね。お風呂も出せないし、コンビニもないので、ご飯もきついです」
「まー、今までが快適すぎたのさ」
う。
それはそうだ……。
夜の安全な寝床もそうだけど、お風呂に食事。水に電気と至れり尽くせり。
それに比べて、今はもう物資が全然足りなーい。
「うー……。こんなことなら、物資をもっと貯めておけばよかったー!」
頭ガシガシ!
地団駄地団駄!
後悔先絶たずー。
ついつい、コンビニとかが便利すぎて、そのへん油断してたよー。
「ははっ。その辺は、今後の糧にしな。冒険者として生きていくなら、こうした事態もあるさ」
「……そ、そうですね。肝に銘じます」
冒険者として生きるかはともかくとして……。
たしかに、元よりこのジョブは屋内とかでは絶対に使えないとかいう制約ってあったもんねー。
それ以外にもガソスタを展開する分の敷地のこととか、なんだかんだでそこそこ制約はあったわけで……。
「あー……そう言う意味では、ホント私ってなんもできないし、何も知らないんですねー」
ジョブとスキルしか取り柄がないや。
「そんなことはないさ。ナガセは学もあるし、常識も…………うん、まぁ、あるほうだ」
いや、そこは即答してよ!
「ただ、無謀なのはいただけないねぇ」
「あー……はい、猛省しております」
多分、ドラゴン戦のこと言われてる。
「い、いやそのー。言い訳ってわけでもないんですが……な、なんかこう~戦闘になるとぶわーっ! と頭に血が上っちゃって……」
「まー、言いたいことはわかるよ。その辺は誰しもあるしねぇ。ただ、セーブしないと今日みたいな目にあうから、そこはね」
それはそう。
つーか、マヂで昼間の私はどうかしていたよ。
いくらアドレナリンが出まくっていたとしても、ドラゴンとガチンコバトルとか命がいくらあっても足りないわー。
「次は、もっとうまくやりますね」
「いや、戦う方向から一回離れようか?」
え?
なんで?
「あんなの、相手が硬くてデカくて飛んで、火ぃ噴いただけですやん」
「いや、それがドラゴン──」
そうだったわ。
つーか、マヂずるい。
だけど、次は負けねぇ。
「はぁ……、なんだってそんな好戦的なんだかー」
「いや、喧嘩売ってきたの向こうですよ?」
こっちは風呂入ってただけやん。
「まー、そこなんだよね。アイツ等は一部では動く災害なんて言われたりもしてるみたいだけど──。そもそも、そんなに人間の目の届くところにいないはずなんだよね」
たしかに。
あんなのが人里の傍にいたら人類滅びてるわな。
「そんなわけで、普段は滅多に見ないし、人間を襲う例ってのも……目撃例と同じで、あんまし聞かないんだよねー」
うっそだー。
めちゃくちゃ好戦的だったじゃん。
「アタシ、殺されかけましたよ?」
「いや、そりゃ……あんだけやればね!」
そんなにやったっけ?
ちょっと戦車砲を100発くらい叩き込んだだけじゃね?
「……100発も撃っとるがな」
そえはそう。
大丈夫、次はもっとうまくやる。
具体的には、貫通させたるわーい!
「その物騒な目、やめーや。ったくもー……。まぁ、アタシらのほうも油断もあったね」
「確かに……」
今思えば、
あんな森の奥で、調査中にお風呂はないなー。
「もしかして……、もしかしなくても、あそこって、ドラゴンの縄張りってことですか?」
「詳しくは何とも。……オークの集落を襲ってから、居座ったとかそんな感じかねぇ」
で、そこに私たち来て、風呂に入ってたと。
……そら、怒るわな。
「だけど、おかしんだよね。空を飛ぶタイプのドラゴンはもっとこう──人の寄り付かない深山に住むって聞くんだけど、うーん」
いや、バリバリ森の中にいたやん?
しかも、この先、首都があるんでしょ?
「なによりあの巨体だよ。よしんばなんらかの理由で山を下りたとして……。あんなのが原因でオークが集落を捨てて逃走したっていうなら、もっと目撃例があってもいいはずなんだけどね」
「あー……あのデカさなら確かに」
オマケに空を飛んでたし。
目立つったらないよね。
ここって、森林地帯だけど、首都からそこまで遠くってわけでもないみたいだし。
そんなのが原因ってわかってたら、わざわざオークが逃げる原因探る必要もないわな。
「……んー。なら、来たばっかりとか?」
「それだと時期が合わないだろ?」
む。
それもそうか、オークが
「じゃあ?」
「さぁ? それを調べるための調査。そんで分析をするのがギルドや国さ。アタシらは見たままを報告するだけ」
そりゃそうだ。
こっちは学者でもなんでもないしね。
「……それよりもナガセ。今夜はどうする? アンタ、野営具はあるのかい?」
あ、それな。
「まー何とかします。私にはまだチハたんがありますし」
「なんとかたって……。よかったらアタシたのところに割り込むかい?」
「いやー。そこはさすがに……」
ドミトリさんたちはこう言うけど、
冒険者の野営って、野宿とほぼ同じじゃん……。
あと、男が三人もいるしー。
「こっちは子持ちですよ」
しかも、私はこの通り、ただの美人ガソスタ店員でか弱い乙女だし──。
……おい、双子ぉ。
なんも言ってねーのに、こっち見んな。
「そうかい? まぁ、気が変わったらいつでもいいな。チハたんで寝るのもいいけど、さすがに狭いだろ」
うん。それは本当にそう。
チハたんは4人乗りといっても、手足を伸ばしてのびのびできるような空間はないのだ。
「ありがとうございます。……まぁ、最悪はその方法もありですけど、とりあえず手持ちの資材でなんとかします」
「手持ったって……。え? なにか持ってのかい?」
「なんかって言えば、まぁ……」
2人で振り返った先には、チハたーん!
「ながせー?」
そして、振り返った先には、チハたんの上で足をぶらぶらしていたルルがいて、こっちにニコリ。
てててー、駆け寄ってくる。
わー、走る姿もプリチー。
「んー? どーしたのルルちゃん」
自分に話が飛んだと思ったのだろうか。
私に抱きついて、頭をグリグリ。
「お腹空いたー」
「あーはいはい。それじゃ、ご飯にしよっか」
「んー!」
うふふー。
かーわいいの。
「あー、そっか。飯のこともあったね。アタシらもそろそろ準備しないと」
「ですねぇ。そう考えると、つくづくガソスタって便利でしたよねー」
電気はあるし、Wi-Fiもあるし、水もガスもある。
それを思いだして、二人して遠い目。
あぁ、
ホットスナック自販機。
オデンに肉まん、コンビニ飯。
そして、温泉とお食事処〜。
「「ジュルリ……」」
はっ、いかんいかん!
現実逃避してる場合じゃねー!
「ま、まぁ、しゃーない。お互いあるものでやりくりするしかないね」
「ですね! 私はチハたんを探してみます!」
「あぁ、アタシもドラゴンにやられなかった残りの資材でなんとかするよ」
よーし!
ないものねだりしてもしょーがない!!
「ここは、いっちょチハたんクッキングといきますかーー!!」
なんたってチハたんは超優秀。
そして、戦車とは、戦場では独立した1個の戦闘単位としてみられているため、それ一つであらゆることが完結するように求められているのであーる!
と、いうわけで、
「ルルー! 一緒に戦車からご飯を探すぞー」
「おー!」
こうして、森の奥。
私たちは残された資材で野営地を設営開始するのであったー!!