異世界チハたん(九七式中戦車)無双〜聖女召喚されたけど捨てられました~   作:LA軍

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第6話「初遭遇」

 キュロキュロキュロ……!

 

 

 履帯(りたい)音も勇ましく、異世界の山奥を爆進するのは、頭に鉢巻のようなアンテナを巻いた、モッサリとした迷彩柄の鉄の塊が一つ。

 

 言わずと知れた日本帝国陸軍の主力戦車『九七式中戦車』通称チハ車であーる。

 

 長いので今後はチハ車……いや、チハたんと呼ぶことにする。

 

 ……ん?

 

 チハはともかく、「たん」はどこから出て来たって?

 そりゃーもう、あんた。TANK(タンク)のたんですよ! チハたんく、略してチハたん。アーユーオーケー?

 

「しっかし、なーんもないわねー」

 

 時々戦車を止めて、砲塔の上から周囲をぐるっと見回してみる。

 

 ……うーむ。

 岩と木々と時々沢があるほかは、ほっっっんと、なんもねー。

 

「夜が明けてから数時間は走ってるのに、これとか……」

 

 どんだけド田舎に捨ててくれたんだ、あのクソおーじ様は!

 

 ……ちなみに、昨夜はあのまま仮眠室でぐっすり眠った。

 そして、朝になってから出発。

 ジョブの機能を使って【ガソリンスタンド】を収容したのち、チハたんに乗り込み、コントローラーを片手にずっと操縦しているわけだ。

 

 幸いにも、山奥とはいっても、木々はまばらで足元もしっかりしているので戦車で走るのにも支障はない。

 

 むしろ、な~~んもなさ過ぎてつまらないほどだ。

 

「……んー。馬車で捨てられた時、窓が閉められてて周りが全然見えなかったんだよねー」

 

 元の王国から結構な距離を運ばれたのが実感としてあるで、お城の近くとは考えていないけど、まさか人里さえないとは……。

 

「くっそー。いったいどこに捨ててくれたんだよ、もー」

 

 マヂでなんもないよ!?

 そんなに捨てたかったの?!

 

「いやー。もうさ。ここまで徹底して捨ててくれた潔さに、ある意味すがすがしささえ感じるわー」

 

 幸いにもジョブ【ガソリンスタンド】とスキル『せんしゃ』のおかげで、こんな世界でも生きていける。

 なんならWifiもあるので動画も見放題。

 だけど、一歩間違えれば昨日の夜の時点で、あのハイゴブリンとやらにつかまって、あれされたり、これされたりと、R18展開まっしぐらだったことだろう。

 

 ──いや、ほんと。生きてるだけでも素晴らしいね!

 

「とはいえ、これからどうしようかなー」

 

 仕返しとか元の世界への帰還はまず置いておく。

 それよりもなによりも、異世界に一人放り出されて右も左もわからないこの状態をなんとかしないといけない。

 

 なにせ、問題は山積みだからね。

 

「……実はさー。移動し始めて気づいたんだけど、スキル『せんしゃ』もジョブ【ガソリンスタンド】も無限じゃないんだよね」

 

 ステータス画面さん曰く、

 それらの回復には、スキルには魔石。ジョブにはお金が必要だと言われた。

 

「えー。こーゆーのって、普通使い放題じゃないのー?」

 

 そりゃー、ガソリンスタンドのインフラを維持するのに、代金やら自販機の補充が必要なのは自明だけどさー。

 

「……異世界に来てまで、お金かー。世知辛いなー」

 

 まぁ、幸いにも財布に数万ほどあるので、たちまち停電することはなさそうだけど──うーん。

 

 あ、ちなみ、『戦車』はスキル扱いなので、魔石で砲弾も耐久値も回復可能だった。すでに、ゴブリンの魔石で検証済みでーす。

 

「……とすると、やっぱり街かな?」

 

 お金を稼ぐにしろ、魔石なんかを売るにしても、街に行かないと話にならない。

 山奥にそんなもんないからね。

 

「……よしっ、決~めた! 当面の目的は人里を目指すことー!」

 

 クソおーじ様のことや、えみりのバカのこと。

 それに、地球に残してきた数々のこと──……他にも色々考えなきゃいけないことはあるんだけど、とりあえずの方針を決めた。

 

 焦ってもしょうがない。

 まずは一つずつだ。

 

「どのみち帰ったところで解雇(クビ)決定だしねー」

 

 無断で店をほったらかしにして、有力者の娘と失踪だ。

 普通に考えてワイドショーもののネタですよ。

 

「あはははー」

 

 ……って、あれ?

 

「そう考えると、なんだろ……私、あんましガッカリしてないな? もしかしなくても、そんなに帰りたくないのかも?」

 

 うーん。

 

「日本、かー」

 

 

  ピー……ヒョロロロ……。

 

 

 大空を舞う、猛禽類を眺めながら、

 今、ふと日本に残してきたことも頭に浮かべたんだけど、実はそんなに未練がなかったことに気付く。

 

 ……仕事だってしたくてしてるわけじゃないし、

 最大の未練となりうるサブカルチャーは、Wifiが繋がったことで、それほどなくなってしまった。

 

 そもそも人生の最大の望みなんて、FIREして年中ゴロゴロすることだもん。

 ……そんなの日本でなくてもできる。

 

 そして、

 

「──ふふっ。昨日仮眠室で、サブスクを起動したら普通に見れたもんね」

 

 ゴブリン倒したあとなのに、洋ドラマをワンシーズン見切ってやったわ!

 

「そうなるとなんだろ? まー……お父さんお母さんが心配するかもだけど。ゆーて、ここ数年連絡もしてないしなー」

 

 独り立ちした娘なんてそんなもんだろう。

 就職してからは友達とも疎遠になったし、……彼氏もいない。

 

「そう考えたら、ここ(異世界)ってそんなに悪くないかも?」

 

 ここでは、しなきゃいけないことがない。

 逆に言えば、なにをするのも自由だ。

 

 全て真っ白。

 人間関係も、お金も──学歴も、コネも、消したい黒歴史もない!

 

 

 

「…………うん。いいね。じつにいい」

 

 

 

 何にも煩わされることなく、自分のしたいことだけをする。

 仮眠室でゴロゴロしてアニメをみるもよし、戦車でゴブリンを追い回してもいい!

 

「よーし、決めた! ここで私は好きに生きる!」

 

 せっかくの異世界だ。

 やりたいことは自分で決めるよう。

 

「まぁ、人間関係が完全にゼロというわけでもないんだけどね……」

 

 えみりとクソおーじ様。

 

 いきなり召喚しておいて、あれはない。

 あと、誰がオバハンじゃ!

 

 ──ぶっ殺すぞ!

 

「……でも、まぁ。いっかー」

 

 そこまでこだわるほどでもないしなー。

 元の世界だってあんな理不尽腐るほどあったしね。

 

 喉元過ぎればなんとやら。

 今は別にさほど気にならなくもない。そりゃムカつくことはムカつくけど、そこはね。

 

「いいんだ。あーいうのはどーせ自滅するし」

 

 なにより、えみりのことだ。

 

「正直、あの我儘お嬢様にはムカつくというよりも関わってほしくない気持ちのほうが大きいんだよね」

 

 近所でも評判は最悪だったし、人生を破滅させられた奴の話もちらほらと聞く。

 いわゆる関わっちゃダメな人だ。

 

 そんな奴があの王国にいるんだよ?

 それも聖女とかいう、わけのわからん待遇で──……いや、もう、ほっとくの一択でしょ。

 

 魔族だか何だか知らないけど、ヤバいのはヤバいの同士でぶつかり合えばいいのだ。

 ほら、なんて言ったっけ──あれ。「バケモンにはバケモンをぶつける」ってやつだ。

 

「つまり、関わらないのが一番。オーケィ?」

 

 誰に言うでもなく、斜に構えて戦車のキューポラをパシパシ叩く。

 うん。独り言を言ってると、だいたい心は固まったかなー。

 

「よし。アイツ等のことは無視だ無視」

 

 どうせ、二度と関わることもないだろうし、ほっとこほっとこ。

 それよりも、せっかくの異世界だし、存分に楽しもーっと。

 

 なにせこっちは戦車だ。

 無敵です。そして、安心できる住処(?)もある。文句なしだ。

 

「うん、そうと決まればレッツゴー!」

 

 全速前進ッ!

 速力最大!

 

「いっけー、チハたん!」

 

 異世界を走り回るのだー。

 

 ──グォォオン!!

 

 気をよくした私に答えるように、チハたんのエンジン、三菱製の空冷V型12気筒ディーゼルエンジンが頼もしく吠える。

 そして、地形によく対応するシーソー式連動懸架と鋼鉄の履帯が地面をしっかりかみしめて山奥を駆けおりていく。

 

「ゴーゴーゴー♪」

 

 あはは。

 やっぱり『戦車』はサイコーだね!

 

 

 

 

 

「……しっかし、そう考えると、えみりで魔族をどうにかできるのかなー?」

 

 

 

 

 こっちは戦車。

 そして、むこうは闘牛。つまり『ランボルギーニ』だ。ジョブは聖女っぽいけど……。

 

「………………ま、いっか」

 

 なんとかするでしょ。

 なんたってお嬢様だし。そもそも半日で捨ててくれた国なんてどーでもいいしー。

 

「そんなことより、魔物でてこないかなー」

 

 出てきたら、ぶっ飛ばしてやーるー。

 ウヒヒヒと、我ながら物騒なことを考えつつ、コントローラを前進に固定したまま、のんびりと戦車を走らせるのであった。

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「よっと」

 

 数時間ほど爆走したところで、戦車停止。車体から飛び降りると、ガソリンスタンドを呼び出した。

 ようは燃料切れだ。

 

「まぁ、幸いこっちはガソリンスタンドでーす」

 

 魔石がなくても、燃料だけなら困らない。

 なにせ田舎のガソリンスタンドとはいえ、地下タンクにはレギュラーとハイオク込みで、数万(リットル)の軽油が入っているからね!

 

「よーし。オーライ、オーライ」

 

 オーライ!

 

「──てーし(停止)!」

 

 ぷしゅー♪

 

 自分でコントローラー操作をしながらも、職業病でつい「オーライ」が口をつく。

 

「軽油満タン入りまーす♪」

 

 そして、そのまま流れるように軽油を給油していく。

 

 ゴックン、ゴックン。

 おー、飲んでる飲んでる。

 

「……全部で250Lかー。結構入るなー」

 

 慣れた動作で給油装置を操作し、タンクに軽油を叩き込む。

 合計250.5L入りましたー。

 

「よし、給油おーわりっと」

 

 ペチーン! と、タンクキャップを閉めると、少し休憩。

 お腹が空いたので、ポイントで購入した自販機から軽食を買い、事務室から引っ張り出したソファーをガソリンスタンドのど真ん中に設置。

 

 優雅に空のもとでお食事タイムだ。

 

「んー。これこれ」

 

 自販機で購入したのはホットスナックの「たこやき」だ。

 

 夜にサービスエリアとかでこの自販機をみつけたら必ず買っていたあの味です。

 ちなみに、ほかにもホットサンドとか焼きそばとか、色々あって楽しい自販機なのでーす。

 

「あーん♪……んん~。おいひー!」

 

 漂うソースの香りに、

 チープな味わいの中と、繊細な小麦の風味を感じる。

 

 むー。

 値段の割に満足感が凄い!

 

「あぁー堪らない! ここにビールがあればもう最高ー」

 

 でも、さすがにまだ運転するからお酒は厳禁。

 そもビールもないし……。

 

 あ、でもお酒の自販機もあったっけ?

 ポイントで買っちゃおうかなー。

 

「……ん! あ、まてよ──」

 

 そういえば……。

 

 

  ブーンン!

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

ジョブ:【ガソリンスタンド】

能 力:任意(一定条件あり)の場所にガソリンスタンドを召喚できる。

    また、Lvに応じて召喚するスタンドが進化。

 

Lv1→田舎のガソリンスタンド(仮眠室付き)

 

Lv1『購入オプション』

    Wifi  :400ポイント

    上下水道  :250ポイント

    ガス    :200ポイント

    自販機(※): 10ポイント

    車検セット :100ポイント

    自動車保険 :100ポイント

    商用車(※):300ポイント

 

(次)

Lv2→地方のガソリンスタンド(コンビニ付き)

 

備考:(※)表記はカタログあり。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「あったー!」

 

 これこれ!

 このLv2のところ!

 

「ほほーう。次のジョブレベルで『コンビニ付き』のガソリンスタンドか」

 

 これはすごいかもしれない。

 だって、コンビニだよコンビニ!

 

 ほぼ何でもそろってるコンビニがついてくるガソリンスタンドだよ!

 

「これは俄然(がぜん)やる気が沸いてきたよ」

 

 ビールの味が恋しくなってきたので、ジョブレベルについて軽く調べると、レベルは魔物を倒したり、ジョブをたくさん活用することで成長するらしい。

 そして、同時にボーナスポイントも入手できるそうだ。

 

「ほむ。……とすると、やっぱり魔物はたくさん倒したほうがいいのかな?」

 

 見敵必殺(サーチ&デストロイ)

 

「いやーでも、好戦的なのもどうなんだろう」

 

 生態系とかそういうのがあるかもしれないし、乱獲はダメだろう。

 だけど、昨日みたいに襲って来る魔物を倒すのはありかな。

 

 よし、そうしよう。

 

「あとは、このジョブの活用というのはだけど……これはなんだろ??」

 

 ガソリンスタンドの活用だから、誰かに給油するとか?

 

「いやいや、無理無理。無理でしょ」

 

 ここ異世界だよ。

 誰に給油するねん。

 

「──……ま、これはいっか」

 

 ひとり、給油の当てが思いついたけど、頭を振って記憶から消す。

 

「うん。その辺のことは、おいおい判明していこっと。それより、魔物を倒すほうが早そうだね」

 

 まー今のとこその魔物がいないだけどね……って、

 

「んんー? なんか、急に暗くなってきたような……??」

 

 

  バサバサバサッ!

 

 

「へ? あれってさっき、空にいた猛禽類じゃ?」

 

 突然影が差したので、何事かと見上げればなんと上空に、陽光を遮るでっかい影がある!

 ピーヒョロロと綺麗に鳴いていたあの鳥だ。どうしたんだろ?

 

「んんー?……なんかこっちに近づいてきてない?」

 

 あと、デカすぎるような……?

 しかも、なんかこっちを狙ってるような動きだけど……まさかねー。

 

「あ、じっと見てたら鑑定できたりして──」

 

 

  ブンッ。

 

 

 あ。マヂで出た。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 グレーターガルダ

 脅威度(AAA)

 

 ・魔の山脈の中腹に生息する猛禽類タイプの怪鳥。

  翼を広げれば10mにも達する巨大鳥である。主に地上に生息するゴブリンなどを主食とするが、小型の竜種ともわたりあう。

  魔の山脈はガルーダの縄張りであり、日中は常に上空に気を配らなければならない。

 

◇ ◇ ◇

 

 

 ぶほッ。

 

「きょ、脅威度AAA(トリプルエー)?!」

 

 いやいや、無事鑑定できたのはいいけど、

 なにそれAAAって難易度バグってない?!

 

「こっちは、異世界に来たてなんですけどぉ!」

『ケキャァァァアアア!』

 

 普通は難易度EとかDからでしょ!

 しかも、やっぱりこっち狙ってるしー!

 

「あーもう! 『ケキャァァ』じゃないよ!!」

 

 アイツ……主食がゴブリンってことは、

 絶対私のことをあれ(・・)と間違えてるでしょ?!

 

 なんって失礼な奴!

 もう怒ったぞ!

 

「叩き落してやるー!」

 

 これはもう正当防衛です。

 

 襲ってきたのは向こう!

 なら倒してオッケー。アンダスターン(理解した)?!

 

「よーし。これで合法的(?)に魔石をゲットだぜー」

 

 いくよ、チハたん!

 

 ガソリンスタンドは収容して、

 エンジン全開!

 

「戦闘開始だー!」

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