異世界チハたん(九七式中戦車)無双〜聖女召喚されたけど捨てられました~   作:LA軍

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第67話「鬼の目にも涙(※)」

 わーわーわー!

  ガキーン! ガーン!!

 

 

 首都前面。

 城壁の破損している箇所は何重にもわたる鉄条網と地雷原によってガードされていたが、いまやそのほとんどでほころびが見え始めていた。

 

 それを、城壁上から、鉄条網や鉄パイプで組んだ即席陣地の最後方に指揮所を移したアークス達が歯噛みしながら見ている。

 

「くぅぅっ! み、味方がもろすぎる……!」

「むりやり徴兵した兵ですからなー」

 

 他人事のようにいう副議長に、思わず怒鳴り返したくなるアークス議長。

 しかし、部下が見ている前でそんな無様な真似はできないので歯噛みするにとどめつつ──。

 

「それは、副議長の進言で、オーク災害に全軍をだしたせいじゃろうが!」

「んな! し、しかし、最終的な決済したのはアークス議長どのですぞ!」

 

 むぐっ。

 そ、それはそう……。

 

(むー。……じゃが、ワシが強く出れないことを知りつつ進言したことは忘れてはいないぞ!)

 

 もちろん、それも含めてアークス議長の責任なのだが、その他人行儀な態度はいかがなものか。

 

 実際、そのせいで現在苦戦中なのだ。

 主力さえいれば、鎧袖一触とは言わずとももう少しまともに戦えたはず。

 

 だが、現実はこれだ。

 数で押すオーガどもは、途中から地雷原の脅威に気付いたのか、横隊での攻撃をやめ行進縦隊による強引な突破を図り、縦深陣地をいくつも突破してきた。

 

 そして、そのままじりじりとした速度ではあるが、

 着実に、そして確実い、最後の防衛ラインに到達しつつあった。

 

「ぐぬぬー! ま、まずいぞ、このままでは押し切られる! や、止むを得ん! 予備兵力を出せ、ここを抜かれたら、しまいぞ!」

「しかし、残る兵は、予備の予備──女子供だけですぞ」

 

 知ーるかー!

 

「いいから出せ! どのみち逃げる場所はもうないわーい!」

 

 そして、俺を知っているだけに、もはや以前のように、副議長に言われるがままのアークス議長ではない。

 

 ここに至り、ついに自分の責任を自覚し始めるたアークス議長。

 もちろん、同じ女でありながらのびのびと、そしてアグレッシブに生きているナガセという強烈な存在にかなりの影響を受けているのは間違いない。

 

「──見よ! ここを抜かれたら、あとはベヒモスに破壊された修復中の城壁があるのみじゃ。そんなもの城壁じゃない。ただの穴じゃ穴ぁ!」

 

 そして、その穴から侵入されたが最後、市街地線でオーガを駆逐するのは至難の業となる。

 

 否っ、数百体ものオーガが町になだれ込めば、

 それは、すわ! 町の滅亡だ。

 

「あ、穴って……。ぐ、ぐぬぬー! りょ、了解です!」

 

 アークス議長の剣幕に、たじたじの副議長。

 

 普段なら、あのでっかい腹で威圧してくるのだろうが、そんなオーガだのベヒモスだの──なにより、チハたんを駆るナガセに比べれば何ほどのこともなーい!

 

「ふんっ。最初から復唱せんか!」

 

 ここに至っても、なんでもかんでも反対しようとする副議長であったが、アークづ議長の剣幕にしぶしぶ頷き、後方へ連絡のために去っていく。

 

 というか、こうしてアークス議長自ら前線に立っている状況を見て、何も思わんのかね。あの樽爺は!

 

「……ったく、あのクソデブ副議長め。そもそも、お主なんでもかんでも反論するから、一々行動が遅れるんじゃろうが!」

 

 もっとも、今の今まで責任を負いきれなかったアークス議長の責任も大きいのだが、

 いずれにしても、そういった不経験な部分を補うのが副議長の役目のはずなのに、まったくもー!!

 

「しかし、まいったのー。……こ、これは本格的にそれそろヤバいかもしれん」

 

 ジリジリと前進するオーガの群れを見て、冷や汗が伝う。

 

「後方から予備兵力が投入されるまでにしばらくかかるとみて、それえまで耐えきれるかのー……」

 

 鉄条網も、

 鉄パイプの馬防柵もイマイチ効果がないとは……!

 

 考えてみれば、オーガの皮膚は鉄並みに頑丈だ。

 ドラゴンやベヒモスほどではないとはいえ、ちょっとした棘のついた程度の鉄条網など最初から意に介すはずがなかったのだ。

 

「くそ! 頼りになるのは地雷とボウガンくらいじゃが……」

 

 オーガも指揮官クラスが生き残っているせいで、中々しぶとく、じりじりと確実に地歩を固めつつあった。

 

 巨大な盾を構えた大型種が先頭となり、矢にバリスタをはたき落としながら、ズシンズシンと前進。

 時折、対戦車地雷で吹っ飛ばされるも、その穴をすぐさま後方から出て来た奴等が埋めていく。

 

 これでは、地雷で倒せるのは数体のみ……!

 

「ぐっ、これ以上は前線が持たんぞ──」

 

 

  ドーーーーーン!

 

 

「む! 最後の地雷がさく裂したか!」

 

 かなりの至近距離。

 オーガの巨体が舞い上がるのが見えた。

 

 どうやら、頼みの地雷原も少なくない損害を出しつつも、ついに突破されてしまったらしい。

 

「あ、あとは馬防柵と鉄条網があるのみか!」

 

 これはまずい!

 それらがほとんど効果を成していないのは明白だ。

 

(よ、予備隊が間に合わなかったかー……!)

 

 くそっ!

 どうする?!

 

 引くか……。征くか──。

 

「……はっ! 決っておるわな。我も最前線に出る! 護衛──聖剣を持て!!」

 

 総員、抜刀!!

 

 ──聖剣(刺突爆雷)もちは(まい)へぇぇぇ!

 

 

  ざわっ!

 

 

 まさか、オーガ相手に近接戦闘をするとは思っていなかったのか、議長の命令に民兵全員に同様が走る。

 

 そりゃそうだ。、

 いくら聖剣(刺突爆雷)があるとはいえ、相手は、民兵よりも遥かに格上のオーガだ!

 

 昨日今日まで、剣すらろくに握ったこともない民兵に、聖剣一本で挑めというのはかなり無茶な命令だった。

 実際、その声に戸惑った顔の民兵たちの半数近くが、そろりと背後を窺い脱走・逃亡の気配を見せている──……だが、それをさせないために総大将のアークス議長が自ら陣頭指揮をしているのだッ!!

 

「怯むなッ! この背後にはお前たちの家族がいる。恋人がいる。愛する者たちがいる!! それを守るためにお前らはここにいるのじゃ!……よいか、ここを抜かれればお前たちの家族の身に危険が及ぶと思え!──そして、覚悟を決めよ!」

 

 聖剣をかざしつつ、いざッ……!

 

「ワシが先頭に立つ! 者どもぉぉぉおお──続けぇぇぇえええ!!」

 

 お、おぉ。

  うぉぉぉ!!

 

「「「「ぅおおおおおおおおおおお!!」」」」

 

 議長の宣言に残る勇気を奮い立たせる民兵たち。

 

 そして、刺突爆雷──……もとい聖剣を手にしたアークス議長が先頭に立って突撃するや否や、その姿を見た民兵達が、我も我もと、与えられた聖剣を構えて突撃を開始する。

 

 腰の曲がったおじいちゃん兵に、むかしは傭兵をしていたという老兵や、兵役経験のある(おきな)がそこに続き、

 それに触発された民兵達がさらにさらにと続いていく!

 

 その数は相当数に上り、オーガの突進に負けず劣らず大地を揺らす!!

 

 だが!!

 

 

 

『『『グルァァァアアアアアアアアアアアアアア!!』』』

 

 

 

 本物の化け物が、それしきでビビるはずもなく、

 むしろ餌が来たとばかりに吠えた!! 歓喜に吠えた!!

 

 地雷と鉄条網でてこずらせた小癪な人間の突撃に咆哮でもって答えた────!!

 

 そして、両者が激突する!!

 

 明らかに格上の武装したオーガの群れと!

 ろくに戦闘経験もない民兵たちが聖剣(刺突爆雷)と、雑多な武器を持って、

 今、激と────チュドーーーーーーン!!

 

 

「どわーーーー?!」

 

 

 「ひぇ?!」

 「ほぇ?!」

 「な、なんだぁ?!」

 

 先頭を駆けていたアークス議長の鼻先で巨大な爆炎が上がる。

 ムワッとした熱に思わず腕をかざすも、その一瞬に見えた光景はこの世のものとは思えなかった。

 

「な、なんと……」

 そう、なんということだ!

 

 爆裂する大地の中。そこにまともに突っ込んでいったオーガの群れが猛烈に吹っ飛んで行く様よ!

 

 そうして、時間にして一瞬のこと。

 爆炎が晴れたかと思うと、そこにはバラバラになったオーガどもの死体が……。

 

「な、な、な、な、なんと、」

 

 なんとぉぉぉー……!

 

「いったいこれは、何事じゃ──」

 

「へーい、お待たせー」

「んな?! お前、ナガセかー?!」

 

 キュロキュロキュロ! と重々しい履帯音を響かせながらやってきたのはチハたんこと──鉄のベヒモスを駆る、無礼女のナガセであった。

 

 車上には、インチキ大使の竜人族の女もいれば、物騒な武器を振りかざす魔族の雌もいる。

 

(ってことは……)

 

 な、なんてこった……!!

 

「お、おまえ! もう、500体のオーガを倒したのか?!」

「ろんのもちよー」

 なんでも、ないように答えるナガセ。

 

 だが、

 あ、ありえない。

 

 こっちが数千の防衛隊と陣地で迎え撃って苦戦していたっていうのに──もう?!

 

「それより、だいぶいい感じに倒せてるじゃん! 100は削った?」

「む、むろんじゃ! 残りは200もおらんはず!」

 

 そして、その200に滅ぼされる寸前だったのだが、それは言うまい!

 

 だって、言ったらなんか悔しいしー!!

 

「ふむふむ。そんじゃ、サクッとそいつら(・・・・)もやっつけちゃうかなー。ルルー、ここの防衛線塞げる?」

「まかせてー」

 

 ズンッ!!

 

 言うなり、重々しく着地した魔族の雌──もとい少女が、巨大な武器を構えて突破されそうな最終防衛線に銃列を強いた。

 

「どいてー」

「お、おう……。え? 一人でなにすんじゃ?」

 

 にーっ。

 

 答えになっていない笑顔をむけると、そのまま、二挺のデッカイ銃をズンズンと据え付け、ナガセにむけて親指をたてる。

 

「おっけー」

 

「じゃ、しくよろー。ルーフデス。さすがにマシンガンはもう使える?」

「ま、まかせい!」

 

 たどたどしい手つきでチハたんの機関銃にとりついた竜人族の大使だけをのせたまま、オーガの群れに向き直ると不敵な笑みを浮かべるナガセ!

 

「お、おい。どするんじゃ?!」

「ん? そりゃー決まってるでしょ」

 

 そして、ニヤリと笑うと、一気に言い切る。

 

「当然、全部ぶっとばーす!」

 

 目標正面! オーガの群れ!

  弾種、三八式榴散弾、信管ゼロ秒!

 

「ルーフデス、頭気をつけてねー」

「ちょ! お、お主──対空機関銃につけといって、それは──」

 

 

  ってぇぇえええええ!!

 

 

 ズドーーーーン!!

 

 

 ……その光景をアークスは二度と忘れることはないだろう。

 

 巨大な砲の吹き戻しがムワッ! と押し寄せ、髪をバサバサをなびかせたかと思うと──直後、砲口の前にいたオーガの群れが……文字通りなぎ倒されたのだ!

 

 否。

 

 なぎ倒すなんて表現は生ぬるい……。あれはそう──散らかされた(・・・・・・)というべきだろう。

 

 200ほどのオーガの3分の一が、その一撃で消滅。

 大型種でさえ、盾ごと吹っ飛ばされて重傷を負い、残りは腰が抜けて、戦意を喪失していた。

 

 だが、あのナガセは……。

 あぁ、あのナガセは────そこにトドメの一撃を容赦なくブチかましやがった!!

 

「あーっはっは! 見て、オーガがゴミの様だよ! 縦列なんていい的さー!」

 

 ……それも嬉々として!!

 

「さーて、トドメ、トドメぇぇ。弾種、信管、目標──ともにおなーじ!」

「おなーじ! じゃないわぁっぁあ! 顔にまた鉄球がっぁああ──って、もう装填しとるのかぁぁあ?!」

 

 

 ズドーーーーーーーーン!!

 

 

「んぎゃぁっぁあああ!!」

 

 ……この日、無数のオーガに攻撃された首都は、防衛に成功した。

 損害は僅か。

 

 敵の遺棄死体は無数……。

 

 

 こうして、首都は救われたのだ──。

 

 

※ ※ ※

 

 

「──で、終わるわけないっしょ?」

「うむ。なにを呆けて「──救われたのだ~」で、〆ようとしておる?」

 

 ほぇ? と不思議そうな顔をしているのは、ボロボロの恰好になったアークスちゃんだ。

 

 なんともまぁ、間抜け面のまま最前線ですっ転がっているが、

 この子もしかして指揮官突撃でもかました?……なんか、刺突爆雷──もとい聖剣が折れてるしー。

 

「え? 救われたであろう?」

「アホゥ。こんなもん一時的じゃ」

 

 うん。

 私もそう思う。ルーフデスの言う通り、こんなのどうみても一時しのぎだしねー。

 

「は、はぁぁ?! 一次的って……せ、千体のオーガじゃぞ?! それをほぼ壊滅させたのだなら、もはや勝利では?!」

「いやいや、甘いって──見てみなよ、連中をー」

 

 ドドドドドド!

 

 秩序だったとは言えないものの、それなりの数のオーガが地響きを立てながら、ある程度まとまって撤退していく。

 

 残る数は100を切っていそうだが、冒険者側の防御線のほうはもう少し数が多く、全部で100~200の残敵がうかがえる。

 

 あ、ちなみに、ドミトリさん達は勝利したっぽい。

 結構な数の被害が出てみたいだけど、冒険者たちの勝鬨(かちどき)が聞こえる。

 

「む、むむ? あれだけ痛めつけられたら、さすがに再攻撃はないであろう?」

「だから、甘いってー」

「うむ。そもそも、あの数のオーガがこの近辺にいたとは思えん」

 

 それはそう。

 

 私もそこが一番気になっていた。

 この前のベヒモスといい。土地の生産力を考えると、採取狩猟しかできなさそうなオーガが1000体もいるなんておかしい。

 

 しかも、首都のすぐそばにだ。

 そんなんいたらとっくに誰かが気付く。

 

「……と、ということは?」

「ふんッ。この前の『ゴルドの大穴』のように、魔物が湧く原因があるはずじゃ。それを止めないとまた来るぞ」

 

「な、んなぁあ?!」

 

 驚いた顔のアークスちゃん。

 ……だけど、そんなに驚くことかな? 前の事例もあるんだし、ちょっと考えればわかることでしょうにー。

 

「こ、これ以上は無理じゃぞ?! 街の防衛はいっぱいいっぱいじゃ!」

「わかってるって──」

 

 人の被害が少なくても、矢も物資もかなり消耗しているだろう。

 なにより、街の人々の士気が持たない。今回みたいにギリギリの勝利だとなおさらだ。

 

 明日以降も同じ数がきまーす。とか言われたら、私ならどんなクソゲーだよ! と開発会社に殴り込みに行くレベル。

 

「わ、わかってるじゃと?!──……じゃ、じゃあ、どうすれば!」

「そりゃ、決まってるでしょ」

 

 ゴキブリの巣の場所が分かってるならさー。

 

「叩き潰すまでさ!」

 

 ニヒッ。

 いい加減、魔物退治もダンジョンや城塞攻略も慣れたもんだよー。

 

 

 

 

 

 もっとも、

 そろそろ馬鹿正直に攻略なんてしないけどね!

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