異世界チハたん(九七式中戦車)無双〜聖女召喚されたけど捨てられました~   作:LA軍

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第70話「サイレントキラー」

「とりあえず、全部だせー」

「うひゃ?! い、いきなりなんじゃぁぁ!」

 

 げっへっへ。

 お嬢ちゃん、いいもん持っとるやんけー。

 

「ひ、ひぃぃ! わ、我はノーマルぞー! なんじゃ、その手つきは! ワキワキしおって──わ、我はお主のようなー」

 

 あーれー!

 

「……って、なに変な声だしてんのよ、ロリBBAのくせにー」

「さ、先に変な声出した奴に言われたないわい! 『魔法の袋』が必要ならそう言え!」

 

 言ってる言ってるー。

 お前の持ってるそれが必要なの!

 

「言ってない言ってないぞー。ったく、ほれ──作戦の前に腹ごしらえか?」

「そんなわけないっしょ。まぁ、途中で食べるくらいにそこそこ時間はかかるだろうけど」

 

 ルーフデスに持たせていた魔法の袋を受け取ると、中をゴソゴソ。

 

 なんでもかんでも保管できるわけじゃないけど、たしかここに──……お、あった!

 

「ぬ? キャンプセットか?」

「はつでんきだー」

 

 うむ。

 その通り!

 

「椅子にテーブルに、タープに……そして、ルルの言う発電機とな?」

「あとはその燃料だね」

 

 ガッソリ~ン!!

 ドラム缶一個分でーす♪

 

「ぬ! わかったぞ! それで火をつけるというわけじゃな!」

 

 そうそう。

 火攻め~!

 

「って、違う違う」

「あん?」

 

 意気揚々と腕を突き上げたルーフデスがガクリと肩を落とす。

 つーか、そんな簡単なもんじゃないのよ。対洞窟戦闘ってのはねー。

 

「ガソリン一本で全滅させられたら苦労はないよ。……まーできなくはないけど、そのためにはそれこそ、小型のタンクローリー並みの量が必要になるからねー」

「な、なんと?! 我を燃やした時みたいな量かのー?!」

 

 そうそう。

 

「ま、あそこまでではないけど、あれくらいはいるねー」

 

 一見、洞窟ごとガソリンで燃せばいいと思うかもしれないが、これがまた結構大変なのだ。

 

 気化したガソリンは、確かに空気より重く下に溜まる性質があるが、洞窟全体を燃やしつくそうと思えば、相当量が必要となる。

 とてもではないドラム缶一個では足りない足りない。

 

 ……なにより、洞窟内部の広さがわかんないからね。

 

 実際、大戦中の硫黄島攻略や沖縄戦でも、洞窟陣地の攻略には米軍をしてかなり苦労している。

 

 しかしながら、戦記、伝記、噂話レベルで米軍の攻撃で火攻めされたという話は枚挙にいとまがないが、

 じつは、それを可能にするには、特殊なガス装備や、大容量燃料の火炎放射器戦車がいて初めて可能となるのだ。

 個人で持つ火炎放射器レベルでは散兵壕は焼き払えても、大規模な洞窟陣地の制圧はまず不可能なのである。

 

「……では、どうするのじゃ?」

「それをこれから見せるからさ。まー黙って見てなさいよ。え~っと、」

 

 キャンプセットは丸々使えそうだし、

 まずは──……。

 

「ルーフデス。テントを切って、一枚ものの防水シートに仕立ててくれる?」

「……あーん? 我の聖剣でテントを切れとな」

 

 いや、別に聖剣でなくてもいいけど──。

 

「よかろう。お主の策に興味が沸いてきたぞ」

「そーいうノリのいいとこは嫌いじゃないぞー」

 

 ニッ。

 

 お互いに笑いあうと、拳をコツン。

 道具をそれぞれ融通しあう。

 

 ルーフデスは、手先と聖剣を、

 私は大型テントとレジャーシート、さらには、テント用のシートと、

 

 これらを巨大な一枚の防水布を仕立てるのだー。

 

 ビリビリ

  ちくちく

   縫い縫い

 

「……んー。こんなもんでよいかのー?」

 不格好な形のシートを広げるルーフデス。

 だけど、十分十分!

「上出来だよ。──それをうまく伸ばして、洞窟を覆えるようにしてちょーだい」

 

 ガムテとか貸したげるー。

 

「おう、借りるぞ。──しかし察するに、こいつはもしかして、蓋……かのー?」

 おっ!

「割と正解!」

 

 あとはこれを洞窟全体を覆うようにして──……完全密閉!

 

「しっかり固定してねー」

「任せい!」

 

 ガムテやら、テント用のペグでしっかり固定。

 隙間をなくす! あとは、

 

「ハイ! 発電機ちゃん~!」

「なんじゃ? 電化製品でも使うつもりかー?」

 

 のんのんのん!

 

「ちっちっち。どっちかっていうと今回はこっち(・・・)が主役!」

 

 スイッチ、

  オ~~~~ン!

 

「スターターを引いて、はい点火!」

 

 ドルンッ!!

  ドッドッドッドッド!!

 

「おっふ、くっさ!」

「へっへっへー。そのくっさいのは今回の主役さー」

 

 設置したのは、中型の発電機!

 2.8Kvのそれは乗用車並みだ。そいつをフル稼働させる!

 

「さらには、百式火炎放射器のホースを引き千切って──ダクトを延長」

 

 なるべく、奥まで引き込んで、

 トドメは発電機のチョークをひきっぱなしだー。

 

「ふむ?……それで何になるのじゃ? 臭いは臭いが、それなら、同じものをチハたんから垂れ流して居ったじゃろうが」

「そりゃねー。だけど、コイツから出る排気ガスってのは、実は超危険物なのさー」

 

 そう、排気ガス。

 いわゆる、一酸化炭素であーる!!

 

「いっさんかたんそ、とな?」

「なにそれー?」

 

 一酸化炭素。

 それは、二酸化炭素から、酸素である「O」を欠いたもので、本来、物質を燃焼させて生じる二酸化炭素の出来損ないである。

 

「──その出来損ないの、一酸化炭素ってのは、結構厄介な性質を持っててねー。赤血球と結合して、体内の酸素の循環を疎外するのよ」

「ほう? せっけっきゅうとな」

「ほへー? さんそー」

 

 うん。

 分かってないよね。

 

「まぁ、簡単にいうと、気づかないうちに窒息させる物質ってことー」

「ち、窒息ぅ?!」

 

 正確には違うが、まぁ似たようなものだ。

 いずれにしても猛毒といっていい物質。なによりこの一酸化炭素というのは──……。

 

「不完全燃焼で大量に発生するくせいに、無味無臭。オマケに空気とほぼ同じ重さだからちょっとした空間だとあっという間に充満しちゃうのよ」

 

 さらに言えば、

 中毒の自覚症状がほぼないのだ。

 

 最初はちょっとした頭痛や眠気。

 そのうちに、吐き気やら息苦しさを感じるのだが、それを感じるよりも意識障害が先にでるので、自覚したときはほぼアウト。

 

「──最後は眠る様に死んじゃうって寸法さー」

 

 まさに、サイレントキラーであーる!

 

「……いや、エグイな! お主も十分えぐいな!!」

「えぐいー」

 

 えへへ。

 

「褒めとらん、褒めとらん~! こ、こっわー!! お主が一番こっわー!!」

「ふふーん。危険物取扱者資格をなめてもらっちゃ~困るねー」

 

(※ 注:そんな資格じゃありません)

 

「いや、資格とかなにか知らんが、やべーやつじゃな、お主……」

「あはは、それほどでもー。だけど、いいアイデアっしょ? これなら超安全!!」

 

 発電機の音も、

 最近の器材は割と消音効果が高いし、なにより、山の上の風の音だの霧(ガス)に近い湿度とかでかき消されちゃうしねー。

 

 ──まぁ、気づいたところで、入口で迎撃するのみさ!

 

「うーわ……。コイツだけは敵に回したらいかんのー」

「あんた、一回目は敵だったけどね」

「うぐ……ッ」

 

 ぐ~むむ……と、その時のことを思い出したのか冷や汗をかくルーフデスを尻目に、私はタープを張った下でキャンプチェアに座る。

 

「ま、あとは待つだけだし──。せっかくの電源もあすことだし、動画でもみるー?」

 色々とダウンロードしといたの。

「…………見る」

「みるー♪」

 

 うんうん。

 長丁場になると思うし、ここはのんびり行きましょうかー。

 

「アニメと洋画、どっちがいい?」

「アニメ」

「あにめー」

 

「オッケィ♪」

 

 即答する二人に頷きつつ、

 念の為、簡単に入口に石で組んだ陣地を作り、九九式軽機関銃に九七式自動砲を据えて置き、万が一の反撃に備える。

 

 

 ま……。

 洞窟に一酸化炭素を流し込んだ時点で、多分、もうこっちの勝利は確実さー!

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 6時間後──。

 

「ふわぁぁああ……。はい、ページワン!」

「ぬー! また負けたー!」

 

 ケラケラケラ!

 

 ルーフデス、よわーい!

 

「お、お主! イカサマしとるじゃろー!!」

「してないよー。あんた、爆弾ため込むの好きだから、自滅してんのー」

 

 大量のカードを手にして、ムキーと怒髪天のアホドラゴンを揶揄いまくる。

 ちなみに、ルルは一番に抜けている。……このドラゴンは致命的に、ゲームは下手クソなのだ。

 

「ながせー。はつでんき止まりそー」

「ん? あぁ! そろそろだったっけ!」

 

 ゴスン、ガスン! と、せき込みだしている発電機。

 どうやら、投入したガソリンを使い切ったらしい。まぁ、だいぶ前からずっとフル回転だしねー。

 

「……ってことは、あれかな? もういい頃合いかもね」

「ぬー? もう、いいのか?」

 

 カードを繰りながら洞窟の方を振り仰ぐルーフデス。

 

 なんか、怪しい手つきでカードに細工をしようとしているのを諫めつつ、時間を確認。

 

「もうっていうか、丸一日流し込んだしねー」

「そういや、そんな時間じゃのー」

 

 アニメ見たり、飯食ったりおかし食べたり、カードしたりとまったりしすぎててわかんなかったけど、それくらいには時間がたっている。

 

「中がどれくらいに広さの洞窟かわからないけど、まぁ、1000~2000立米くらいと仮定して、その程度の空間なら十分すぎると思うよ」

「ほう。なら、一回様子をみてみるか」

「そだねー」

 

 ダメならダメ押しするまでのこと。

 

 ま、オーガの血中酸素濃度のことを考えても、これだけ長時間流し込めば──多分、中は全滅だろうな。

 その証拠に、今日一日を通しても、一度たりともオーガが外に出てくることはなかった……。

 

 最低でも見張りの交代くらいはありそうだけど、それもなかった。

 つまりはそう言うことだ。

 

「よっし! ルルー、発電機とめてー」

「はーい」

 

 ルルが、ガショ~ン! とスイッチを切ると数時間唸り続けていた発電機が、一度ブルルンッ……と震えると、ようやく停止。

 その後、熱を持ったそれから陽炎が立ち上る。

 

「ふむ。……どれ、ならばちょいと中を見てくるかのー……って、あいだー!」

 

 スパコーン!

 

「な、なにすんじゃー! いきなり、ボンベみたいなもんで殴りおってからにー!」

「ボンベみたいなもんじゃなくて、ボンベなの!──つーか、アンタさっきの説明聞いてなかったの?」

 

 説明~? とか言いながら間抜け面を晒すアホドラゴンに思わず青筋が浮かぶ。

 

「はー……。いいこと? そのまま入ったら、最悪アンタも即死すっかんね?! 内部は一酸化炭素で一杯だよ!」

「あ。そ、そうじゃったか!」

 

 それ以外にねーよ。

 ったくー。

 

「だから、はい! これ」

「これって、ボンベじゃろ? さっき動画で見せられたのー」

 

 うん。

 

「そのために見せたんだから、当たり前でしょ。なんのための動画タイムだと思ってんの。……これ(・・)持って、これ(・・)着て中に入るよ」

「こ、これって、おま……」

 

 そう言って、私がルーフデスに押し付けたのは、そう!

 火災用の『特殊防護服』と『SCBA(空気呼吸器)』とそれ用の『大型ボンベ』であった。

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