異世界チハたん(九七式中戦車)無双〜聖女召喚されたけど捨てられました~ 作:LA軍
コシュー……。
コシュー……。
「(ナ、ナガセよ。あ、歩きにくいんじゃがー)」
薄暗い洞窟の中にルーフデスの心細そうな声が、妙に
「(我慢しなって。言っとくけど、脱いだら即死するよ)」
コシュー……。
コシュー……。
もちろん、私の声も同じくらい籠って聞こえている。
それもそのはず──。
洞窟の中を進む私たち二人は、全身を特殊防護服で多い、顔面すらも曲面ガラス付きの大型ヘルメットで包み込んでいるのだ。
声が籠って聞こえるのは当然のこと。
まぁ、この格好は簡単に言えば宇宙服というか、なんというか──いや、あれだ。
もっと身近(?)で言うところの、消防隊が着るような──耐火・耐熱・化学防護服のそれとほぼ同じなのだから、声が普段と同じに聞こえるはずもない。
「(ぬー……オマケに暑いぞ!)」
「(それも我慢! つーか、余計なこと喋ってると余計な酸素使って、さらにキツクなるだけだよ)」
「(ぐむー。うぬー……)」
それでもブツクサとうるさいルーフデスに嘆息しつつ、まるで海底でも歩くかのように、ゆっくりゆっくりズシンズシンと進む私たち。
前を照らすのは外付けのオプションのライトだけだ。
このヘルメットは外気測定器を始め色々オプションが付けられるので便利~。
……なんだけど。
(ルーフデスの言葉じゃないけど、あっついのよねー)
はぁ、今すぐ脱ぎてーわ。
「(……だいたい、アンタさぁ。火ぃ噴くドラゴンのくせに暑いとかって)」
「(あちーもんは、あちぃんじゃ! じゃが、まぁ、分かったわい。……しっかし、お主はよくもこんな装備持っとったのー)」
「(うん?……あぁ、
これ。
つまり、今気負ている特殊防護服のことだ。
もちろん、特殊と名がつくだけあってそんじょそこらにあるものではない。
扱いの難しいこれら装備は、訓練を受けた消防隊などが持ってるくらいで、危険物を扱うガソリンスタンドにだって備え付けられてはいない。
しかし、これら装備が備え付けられている民間設備の例外が、「メガモール」などの大型商業設備などだ。
こういった大型の商業設備などは、消防法により「自衛消防組織」を持つことが義務付けられているため、訓練を積んだ消防技術者の配置とともに器材も設置されているというわけ──。
なにせ、モールには二酸化炭素消火装備なんかも扱っているのだから当然だろう。
他にも軍事基地やら化学プラント等など、
ある一定の危険物を大量に扱う場所などに備え付けられているそうだ。
「(メガモールを最初に探索したときにスタッフルームにあったのよ)」
「(その理屈は分かるが、な~んで持ち歩いとったんじゃ?)」
あーん。
「(……どっかのバカなドラゴンと敵対していたことがあってねー)」
じとーっ。
「(ぬ、ぬが! わ、我のせいか?!)」
「(他に何があるのよ。私は家族を守る義務があるのー。そのためなら例え、火のなかガスのなかー!)」
わーっはっはっは!
よけいなこと聞いたなー、と目線を逸らすルーフデス。
「(……ま、実際使う羽目になるとは思わなかったけどね。ドラゴンと戦ったのも無駄ではなかったってことでー)」
「(あ、あの時は悪かったと言っておろうが──お主も結構しつこいの?)」
いや、
聞かれたから答えただけだっつ~の。
「(別にもう怒ってないよ。ただ、そういうことがあるかもーってだけ。……実際、役に立ってるでしょ?)」
こしゅー……。
こしゅー……。
「(ま~の~。……しかし、動きにくいし、武器は使いにくし、こいつは最悪じゃのー)」
それはしゃーない。
そもそも子供サイズなんてないし、小柄な私だって使いにくいのだ。
だから、見ての通り武装は最小で最低限。
ルーフデスなんか、抜き身の聖剣をなんとか一本持ってる程度だし。
私に至っては、
二人してオーガの巣穴にもづるとは思えないほど、軽装も軽装だ。
ぶっちゃけそれ以外は持てないし、使えないのでしゃーなし。
(はぁ……こんなところでオーガに襲われたら最悪だわ)
拳銃一丁でどうしろってんだよ。
「(……ま、その心配はないだろうけどねー)」
「(ん? 何の話じゃ?)」
私の独白に、何事かと振り返ったルーフデスに向かって、「(ん、あれ)」と、ライトで照らす前方を指さす。
そこは、結構な広さの空間となっており、どうやら連中の寝床らしいと分かる。
……そして、そこにルーフデスの疑問の答えがあった。
「(お、おおう、これはなんとも──)」
そう。
なんということでしょう~。
そこには、ある意味当然というか予想通りというか──まぁ、直視しがたいの光景が広がっていたのだから……。
「(すっごいね……)」
「(うむ、すさまじいのー)」
コシュー……。
コシュー……。
籠った呼吸音の先。
フラフラと揺れるライトに浮かび上がったのは、まさに地獄のような光景だった。
「(なるほど。ここが、オーガどもの寝床であったか)」
「(どっちかっていうと、今は墓場かな……)」
それか死体安置所。
その言葉の通り、視線の先には無数のオーガが折り重なりうようにして寝て──……否、倒れていた。
その数は数えるのもうんざりするほど。
どうやら、ここは寝床か食堂でも兼ねていたらしい空間だ。
粗末な藁束に巨大な石の台所。そして、そこら中に鍋やら釜が転がっている。
食事中だったのか、そこに散らばる人骨やら獣骨やら……そこに仲間を解体したらしき肉塊も交じっている。
そして、同じくらいに散らばるのは、眠るようにして動かないオーガの
おえ。
……まさに死屍累々だ。
「(まるで地獄のような光景じゃな)」
「(んねー……)」
いやはや。
ルーフデスの言葉じゃないけど、えっぐいわー。
「(殺しも殺したり……。お主、ろくな死に方せんぞー)」
「(余計なお世話だよー)」
コシュー……。
コシュー……。
「(──で、コイツ等って、全滅ってことでいいんだよね?)」
「(うむ。生きている奴は見当たらんな)」
つんつんと躯をつついて確認するルーフデス。
ピクリともしない様子から、間違いなく死体だという。
つまり、この一帯は静かな殺人鬼こと、一酸化炭素で満たされているということだ。
実際、外気メーター有毒ガスに振り切れている。
──こりゃ、マスクは絶対に外せないな……。
「(ま。だとしたら、完全勝利でいいかな~?)」
「(そのはずじゃが……。チト気になるのぉ)」
なにが?
「(なにもかにも──ほれ。
あー確かに。
そーいや、
「(見よ。……ここは広いは広いのじゃが、この程度の空間と生活設備と備蓄だけでは、この数の個体を何日も
確かに、狭いし、寝床は最低限。
食料に至っては……ほぼなし。
これくらいの空間なら、せいぜい10数匹が暮らしてもカツカツってとこだろうね。
「(ってことは、結局なに……?)」
「(さーて、それがわからんの。……いっそ、中に変わった魔物でもいるかと思ったけど、そんな感じでもないしなー)」
ルーフデスの予想では、ケルベロスのような存在がいるのではと考えていたらしい。
もっとも、ケルベロスこと『獣の王』のような、魔物を召喚するような個体は非常に稀らしいけど。
「(じゃー、苦労して現地に来た割に、なにもわからないってこと?)」
「(そうなるかの……。ん、まてよ──? 召喚といえば……)」
ふと、なにかを思い出したような顔のルーフデス。
そして、その顔と言葉を聞いて、私もなにか引っかかりを覚える──召喚?
「(あ、召喚っていえばさー……って、)」
『ゴルルルル……』
ん?
「(何か言った?)」
「(あん? なんも言っとらんぞ?)」
だよね?
気のせいかな。
なんか聞こえた気がするんだけど──。
「(つーか、ルーフデスさ。あれって……なに?)」
コシュー……。
コシュー……。
「(ぬ? なんぞ??)」
いや、あれあれ。
なんか、ライトの先にデッカイ……うぉッ!!
照らし出したライトの先に思わず言葉を失う。
ルーフデスをして驚いて言葉を失っていた。
「(ぬー……。なんとまぁ、あれは──……オーガエンペラーではないか! これは、オーガの特殊個体個体ぞ?! そんなのが、なんでこんなところに?!)」
「(はぃ?)」
オーガの王??
なんか、やたらデッカイオーガがいるかと思えば、王様とな?!
「(知っているのかルーフデス)」
どっかのゲームっぽく聞いてみる。
「(うむ。オーガエンペラーは、最上位種じゃよ。……長い年月をかけて人暗い、同邦を食らい、魔力を蓄えて進化すると聞く。……じゃが、それだけに存在感が大きい故な。人間の勢力圏には絶対におらんぞ)」
「(え? でも、いるじゃん)」
つーか、コイツってそんなに珍しいのー?
「(じゃから、おかしいと言っておるんじゃ)」
眉間にしわを寄せたルーフデスの視線を追って見上げれば──なるほど。そこには、紫の体躯。そして、身の丈7mクラスの超巨大個体がいる。
よくもまぁ、このサイズの巨体が入口を通れたもんだ。
つーか、狭すぎて表に出られなくね?
まぁ。だから、先の攻防戦にいなかったんだろうけど──。
「(……って、あれ? そんじゃ、なんでコイツがこんなとこにいるの?)」
デカくて出れないなら、
そもそもデカくて入れないはず……。
「(それじゃよ、それ! こんな大物がなんだって首都の傍の狭い洞窟におる? サイズも可笑しいし、なにより、コイツがおったら絶対に国単位の被害が出るわい)」
マヂか。
「(じゃあ、具体的にどういうこと?)」
「(決まっておろう! こいつが地面から湧きでもしない限り──、)」
か、限り……?
「(──外部から持ち込まれたのじゃ!!)」