異世界チハたん(九七式中戦車)無双〜聖女召喚されたけど捨てられました~   作:LA軍

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第73話「地獄の底」

 し、しまったーーーー!!

 

 

 そう思った時は時すでに遅し!

 なんと、そいつ(・・・)ことオーガエンペラーがここに来て目を覚ましやがった!

 

 ぼうッとしたような表情。

 そして、目の焦点が合わない様は明らかに意識障害を起こしているのだろうが、それでも、その巨体と殺気と殺意と殺傷能力は本物だぁぁぁあ!

 

『グッルァッァァアアアアアアアアアア!』

 

 ビリビリビリッ!

 

「(くっ!)」

「(うひっ!)」

 

 マスク越しにも空気が振動し、その鳴動で洞窟全体が震える。

 

 そうだ。

 そうだ……。

 

 そうだった──!!

 

「(ど、どういうことじゃ?! いっさんかたんそ(一酸化炭素)とやらで全員死んだのではなかったのか!)」

「(そうだけど、そうじゃない!)」

 

  コシュー……!

   コシュー……!

 

 くそっ!

 私のミスだ。

 

 クリアリングを怠(おこた)ったのがまずかった!!

 

「(あ~ん? ど、どういうことじゃ?)」

「(一酸化炭素は、吸い込んだ総量によって、身体へのダメージが変わるの!!)」

 

 それはつまり、早く呼吸するものや、

 そして、鼓動の早さや身体の中の血液の総量に基づくということ!

 

 ……つまり!

 

「(そ、その心はー?!)」

「(──デカくて、呼吸が緩やかな奴ほど、ダメージが少ないってことー!)」

 

 んなぁっぁあ?! と、驚いた顔のルーフデス。

 そこに若干の私を責めるような色をみたが──し、仕方ないじゃ~ん!

 

「(こんなデッカい奴がいると思わなかったんだもーん!)」

「(ずこーっ!)」

 

 いや、ずこーって、アータ。

 昭和かよ!

 

 しかし、まいったな。こいつぁ予想外にもほどがある。

 

 つまり、目の前に聳(そび)え立つ巨大な敵──オーガ・エンペラーに吸わせた一酸化炭素の量が圧倒的に足りなかったのだ!

 なにより、このエンペラーとやらは戦闘に参加せず、ここでのんびりと構えていたのだ。……そりゃ~、ニートしてりゃ呼吸だって負傷者や必死で逃走してきた連中に比べればゆったりしたものだろうさ!!

 

 ──加えてこのデカさよ!

 

「(むー! い、今更四の五の言うてもしょうがないわな! あいわかった! ともかく、ここで戦うのは不利じゃ。いったん退(ひ)くぞ!)」

「(そ、そうだね!)」

 

 でも、退くたって……。

 

 改めて自身を見下ろすと、

「(ど、どう見てもこっちは走れるような装備じゃないし、洞窟の足場はチョー不安定なんですけど?!)」

 

「(知~るかー! いいから走れ走れーぃ!!)」

「(え、えぇー?!)」

 

 マヂで言ってるの?!

 

 言外に私をして無茶だと言っているのに、このチビっ子ドラゴンは聞きやしない。

 それどころか、ジャキーンッ! と、聖剣を構えると、殿(しんがり)は任せろ~と言わんばかりに仁王立つではないか。

 

「(いやいや! 何してんのよ、アンタも逃げるよ?!)」

「(馬鹿をいえ! 今背中を見せたら、カモ撃ちよ)」

 

 ええー!

 

「(だ、だからって……)」

 

『ゴルァァァアアアアアア!!』

 

「(ひぇ!)」

 

 私が逡巡していると、オーガエンペラーが咆哮!

 意識障害で朦朧としながらも、怒り──そして、闘争本能のままにルーフデスに襲い掛かるではないか!

 

「(ルーフ!)」

 

 ──ガキーン!

 

「(ぬぐぅぅぅう! まずい! ち、力が入ら―ん!!)」

「(そ、そりゃそうだよー! アンタ片手じゃん!)」

 

 澄んでの所で一撃を食い置止めたルーフデス。

 だが、ズザザザーッとルーフデスの脚元に殺しきれなかった勢いが電車道型の足跡となって残るのみ。オーガエンペラーの勢いはとどまることをしらない!

 

『ゴルァァァァアア!』

 

 ガキーン!

  ゴキーン!

 

「(ぐぬぅぅうう! なんというパワーじゃぁあ)」

 

 立て続けの連撃!

 素手であの聖剣に何度も何度も強打を打ち付けるのに対してルーフデスが片手で聖剣を振っていなす(・・・)のがやっと。反撃など思いもよらない。

 

 防護服ブカブカすぎて両手で構えることができないのだ。

 さらには、この動きづらい防護服に、分厚い手ぶくろだ。防いでいるのが逆に奇跡だ。

 

 ──オマケにこの息苦しさ!!

 

 肩で息をするルーフデスは早々に限界が見え始めていた。

 

「(い、いいから逃げよーよ! 今なら多分いけるって!)」

「(む……無理じゃぁぁ! 小奴意地でも我らを仕留めるつもりぞ)」

 

 剣を交えたもの同士だからわかるとでもいうのだろうか?

 今退くことはできないと頑なに言い張るルーフデス。

 

  コシュー……!!

   コシュー……!!

 

「(く、くそがーッ! 何ちゅう動きづらい服じゃぁ)」

 

 可愛い顔して汚い言葉を吐くルーフデス。

 戦いもままならない状況に、ぜいぜいと苦し気に呼吸──普段なら見せない疲労もついに隠せなくなってきたのか、明らかに動きが鈍くなり始めていた。

 

 オマケに密閉されているせいで、マスクがあっという間に呼気で曇っていく……!

 

「(ぐ、ぐぬ?! ま、前がみえんぞ!)」

 

 戦闘中に視界を失うのは致命傷だ。

 だが、反射的に手で拭おうとしているが、当然それに意味はない。

 

 そして、その隙を見逃すほどオーガエンペラーも甘くはない。

 コイツは最上位種というだけあって、満身創痍であっても戦闘センスは抜群極まる──。

 

『ゴルァァァアアアアアアア!!』

「(ぬぅぅ! 見えんならそれで結構!!)」

 

 ──ならば勘じゃぁぁ! と、いっそ目をつぶってルーフデスは剣で猛撃を捌いていく!

 

 ガキーン!

  ゴキーン!!

 

 おぉ!

 すげー、かっけー!!

 

「(アンタやればできるじゃーん!)」

 

 さすがは人外同士!

 どっちもフラフラだけど、その一撃一撃の重さよ──……。

 

「(……いや! 言うとらんで援護するか逃げるかどっちかにせーい!)」

 

 あ、それはそうだね!

 

「(つーか、さすがに一人では逃げらんないよ!)」

「(なら援護せーい!)」

「(わかってるよ! だけど、武器何てろくなのないんだし、期待しないでね)」

 

 手持ちは拳銃と手りゅう弾だけ。

 そして、手りゅう弾は当然、こんな閉鎖空間でおいそれと使えるはずもない。

 

「(構わん! どのみち、このデカブツ倒しきるのは無理じゃ! すわっ、一撃入れて怯ませたら逃げるつもりよ!)」

 

 そう言いつつも、

 相手がそう簡単に怯む個体ではないのは明白だ。そもその一撃を入れられるかすら怪しい。

 

 なにせ見た目通り相当にタフで頑丈な奴だ。

 オマケに、聖剣をもったルーフデスを相手に素手で渡り合うくらいには抜群の戦闘センス。そこに私なんかが入る余地はなさそうに見える。

 

「(しかし、厄介じゃのー!! 剣は振りにくいわ、暗いわ、見えんわ、つえーわ!!)」

「そんなん勝ち目無くね?! もう、一か八か逃げればいいじゃん! どうせ、あの巨体じゃ入口までは逃げ──)」

 

 

  『──グルァァァアアア!!』

 

 

 ドカーン!! 

 

 そう言った私の言葉を否定するように、思いっきりタックルをかましてきたオーガエンペラー!

 なんとかそれは躱したものの、ぶち当たった、壁がガラガラと崩れていく!

 

  しーん。

 

「(……う、うっそーん!? この洞窟って、もしかして結構もろい?!)」

「(そ、そのようじゃのー!!)」

 

  ガラガラ、

   パラパラパラ……。

 

「(ひ、ひぇぇ。落盤寸前だー?!)」

 

 ……こ、これはまずいかも。

 

 思わずこのクソ暑いなか、冷や汗が背中を伝う、

 逃げればいいと思ったけど、このパワーなら洞窟掘削しながらでも追ってきそうー!

 

「(じゃ~から食い止めんとならんのじゃーい! ええから、やるぞ! いま、ここで!)」

「(あーもー! くっそー! やるっきゃないかー)」

 

 いっそ、見捨てていく選択肢もあったのだろうが、

 こんなバカドラゴンでも、私のファミリーだっつーの!!

 

「(よーし、女は度胸!)」

 

 ガシガシガシッ……と掛けないので、ヘルメットの表面を撫でつつ、

 二人でやるって言うならしょうがなーい! と気合を入れる!

 

「(とにかく、一撃入れたらいいんだね?!)」

「(おーよ。見ての通り、奴はすでに死に体(しにてい)よ。気力だけで動いておるようなもんじゃからな。そこに致命打を一発でも浴びせれば……ぬぅ? ナガセおぬし──)」

 

「(いいから、集中!)」

 

 私はなけなしの武器を構えて、ルーフデスを援護する位置につく。

 前衛がいるなら、なんとかなるだろう。

 

「(配置よし! 合図したら援護するよ!)」

「(おうよっ! 背中は任せるぞ!)」

 

 ろんのもち!

 ──ジャキンッ!

 

 ぶら下げていた14年式拳銃を抜くと、腰溜めに構えてまっすぐにオーガエンペラーを狙う。

 薄暗いなら、不安定なライトの証明、はっきりいって不利極まりないが──……『ゴルァァァァアアア!』

 

 ──そこ(・・)ぉぉお!!

 

「(やかましわぁぁぁあ!)」

 

 これが合図だとでも言わんばかりに、

 パンパンパンパンパンパンパンパンッッ!! と、毒釣内に響き渡るせき込むような発射音とともに──扇状に少しづつ角度をつけて、全弾発射!!

 

 どうせ、こんな中で照準するのは無理ー。

 

「(だったら、一発一発狙うなんてめんどくーせことするかぁ!)」

 

 これがエリア射撃だ!!

 

『ゴガぁぁあッ!?』

「(っしゃぁぁああ!)」

 

  コシュー……!!

   コシュー……!!

 

 どうやら数発の弾丸が奴の筋肉を削り命中したらしい。

 

 悲鳴が上がり、あのオーガが膝をつく。

 もちろん、巨体に8m南部弾が数発命中したところで倒しきるのは無理だろう。

 

 だけど、気を逸らすくらいならこれで十分!

 

「(ルーフデス!)」

「(おうよ!)」

 

 私が叫ぶまでもなく、

 奴が怯んだその隙を逃さないルーフデスが、聖剣を高々と構えて一気に肉薄────そのまま突き刺したー!!

 

「(おりゃぁっぁあああ!)」

『ゴガァァッァアァアアアアア?!』

 

 浅くはあるが、

 ゴリリリリッと、皮膚を破って筋繊維を断ち切り、聖剣の刃先が奴の体に沈んでいくところまでもがまざまざと見えた。

 

 刹那ッ!

 凄まじい悲鳴があがり、オーガエンペラーが膝をつく!!

 

 そして、それが呼び水となった。

 

「「(──今だ!!)じゃ!)」」

 

 その隙を二人して確認すると脱兎のごとく駆ける!

 よし!

 いくらオーガの最上位種でも、あのケガならそう簡単にはおってはこれまー…………ゴッパァァァアン!!

 

「(ぐはー!)」

「(ル-フ?!)」

 

 なにか巨大な炸裂音が響いた顔思えば、なんと!

 負傷しながらも、あのオーガエンペラーが巨岩を放り投げやがった!

 

 おかげで、そいつが天井に命中し、その破片が周囲に降り注ぐと、うち一発がルーフデスに命中してしまったー!!

 

「(ル、ルーフ! 大丈夫?!)」

 

 ゴロ~ンと伸びてしまったは目をまわしているが、駆け寄ると幸いにも怪我はない。

 ……まぁ、ルーフデスに限って言えば、そもそも怪我の心配なんてないっちゃないんだけど──。

 

 

 ──プシュゥゥウウウ!!

 

 

「いっづづづづづ……!」

「(ちょ!?!)」

 

「ぬ? ど、どうしたナガセー……って、あ、ありゃ」

 

 起き上がったばかりのルーフデスがふらりと膝をつく。

 それは折しも一酸化炭素中毒の初期症状──否、急速な中毒症状だ!!

 

「(ま、まずい!! アンタのそれ気密が破れてる!)」

「きみつ~??」

 

 ボヤッとした表情でオウム返しのルーフデス。

 

 その間も、シュゥゥウウ……! と、空気の抜ける嫌な音が響き渡る。

 それは防護服の陽圧を越え、一気に防護服内と外気が入れ替わっていく音でもある。

 

 つまり──今のルーフデスの防護服の中には、外気と同じだけの一酸化炭素が猛烈に流れ込んでいるのだろう。

 これは非常に危険な状態だった。

 

「(い、いいから! 今すぐ息を止めて! はやく!!)」

「息って、ムちゃを言ウでナイわーい」

 

 ふら~と傾いでいくルーフデス。、客観的にみても危険水準だ。

 

「(あ、あわわわ! ど、どどど、どうしよう?! どうしよう──」

 

 えらいこっちゃ!

 えらいこっちゃ!

 

 テープテープテープ、テープ……!

 

「んぐ。お、おえええ……なんか、頭が、それに吐き気も──」

 

 あああ、まずいまずいまずいまずい!

 明らかな中毒症状が出ている。

 

 どうもルーフデスが小柄がゆえに、予想以上に中毒症状が早いようだ!

 オマケに、さっきまで戦闘をしていたものだから息が上がってしまっているのも悪影響なのだろう。

 

 ついでに言えば、こんなもたもたしてる暇なんて──……!!

 

 

『ゴルァァァアアア!!』

 

 

「(あーもー! アンタは今お呼びじゃないの!!)」

 

 ったく、

 もう、食いついてきやがったか!!

 

  コシュー……!!

 

 仕方なく、私は足元の土埃を雑に舞い上げると、ルーフデスの服の損傷個所を特定し、そこにガムテープで巻いて補強していく。

 グルグルとグルグルと執拗に何重にも撒いていく。

 

 しかし、これはあくまでも応急処置。

 こんな程度では完全な密閉は無理だろう。ましてや内圧をかければさらに損傷個所が広がるかもしれない。だけどやらないよりはマシ!

 

「(ど、どう? ゆっくり息をして……そして、酸素だけ吸って!)」

 

  コシュー……。

   コシュー……。

 

「(お、おう……? むぅ……?)」

 

 あちゃー。

 目の焦点があってない。ナガセの顔がいくつもに見えているのか、視線がフラフラと行ったり来たりしている。

 

(こ、こりゃマズイかも……)

 

 気密はなんとか確保できたけど、それですぐに一酸化炭素が抜けるわけでもない。

 あれは時間をかけて新鮮な空気を取り込んで自然治癒を待つしかないのだ。そして、そうするためにも一刻も早く外にでねば。

 

「(いくよ。……さ、肩貸すからついてきて!)」

「(う、うむ……!)」

 

 幸いにもまだ症状は軽い。

 しっかりと回復させれば、後遺症も残らないだろう。だから、今は一刻も早く外へ──……。

 

『ゴルルルル……!』

「(ちっ)」

 

 

 こしゅー……!

  こしゅー……!

 

 

 舌打ち一つ。

 肩を貸したルーフデスの身体越しに背後を振り返ると、やはりいた……。

 

「(ま、そう簡単にいかせてはくれないかー)」

 

 向こうもフラフラながら、執念だけで迫ってくる姿がまるで幽鬼のようであった。

 そのまま、仲間の死体を踏みつけ、壁に手を当て、天井を頭部で削りながらゴリゴリと──。

 

『ゴァァァアアア!!』

「(うっせー!)」

 

 なにがゴルァ! だ!

 こっちがゴラー!! じゃぁぁあ! 一丁前に咆哮してんじゃーっつの!

 

「(ったくもー。つーか、もうちょいで外だ!)」

 

 暗い中にいたせいで、ことのほか外の明かりには敏感になっているのが自分でもわかる。

 それによると、あと数十メートル! もう目と鼻の先だ。

 

「(そんで、テメェは一生そこにいろ!!)」

 

 ゴリゴリと顔面で通路を掘削しながらも、迫りくるオーガエンペラー。

 もはや、通路は奴の体躯より狭いというのに、顔と腕の力だけで追ってくるとか超ホラー!! だが、速度は見ての通りクッソ遅い!

 

 これなら逃げきれるはず──。

 

「(ぬぅー……ナガセ、あついぞ)」

 

 

  すぽっ!

 

 

「(………………って、ちょー?!)」

 

 な、なにしてんの?!!

 アンタ、なーーーーーにしてんのぉぉお?!

 

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