異世界チハたん(九七式中戦車)無双〜聖女召喚されたけど捨てられました~ 作:LA軍
「いやー。うっめーわ」
「ホント、こんな美味い物はじめて食べたぜ!」
双子が満足げに腹をさする。
ちなみに、結局あのあと追加でナゲットを30個は食ってました。
「アタシはパンが気に入ったね」
「僕もこれ好きー」
うん。
美味しいよね。しかも、自販機なのに種類が豊富でふわっふわっ!
いわゆる長期保存可能な『耐久パン』というやつなのだが、別にカッチカチの乾パンというわけではない。味も豊富でとてもおいしいのだ。
「皆さんの馴染みのありそうなのを選びましたが、他にも色々ありますよ」
ちなみに、私はこれ!
ズズズー!
「麺かい?!」
「うそ、こんな山奥で?!」
「しかも、熱々!」
「いい匂い!」
はっはっはー。
そうだろう、そうだろう。
「よかったら、食後にでも食べます? 蕎麦にウドン。ラーメンもありますよ」
しかも、それぞれ数種類選べる仕様だ。
「俺はこれ!」「俺も!」
「僕も──って、あいだ! な、なにすんだよ、姉御」
男どもがこれもこれもと手を挙げたところで、ドミトリさんがチビッ子に拳骨を落とす。
「馬鹿! 調子にのんじゃないよ。……それよりナガセ、アンタいいのかい?」
「え?」
いいとは?
「いや。こんなに大判振る舞いしてもらって悪いけどさ、そっちにだって物資には限りがあるだろ?……ここは魔の山脈のど真ん中だぞ」
「あー」
そうだった。
魔の何たらかどうかは知らないけど、ドミトリさんの言う通り、物資は無限ではない。
ジョブの使用で消耗した分は、お金で回復させる必要があるのだ。
「いいんですよ。最初に約束した通り、対価をもらいますから」
「それはそうだけど……見合うほどのものがあったかな」
ガリガリと頭を掻いてバツの悪そうな顔のドミトリさん。
困窮しているというだけあって、大した持ち合わせがないのかもしれない。
「まぁまぁ、それは気にしないでください。私が欲しいものは魔石と──」
うん。
「──町までの道案内ですから」
そうだ。
それこそ、万金を払っても得られない代物だ。
どこぞの、バカおーじ様のせいで、どことも知れぬ山奥に捨てられたからね!!
「あーなるほど。魔石でいいなら、もちろんいくらでも払うよ。死んだら元もこうもないしね」
「助かりますー」
相場知らないけど、まぁ、顔色を見ながら交換しよう。
「そんで町の案内だっけ」
「はい! 最寄りの町でいいので案内してくれませんか!」
最悪、対価がなくてもそれだけでもいい。
「あっはっは! そういうことか!」
「えへへ。そういうことです」
こう見えても、絶賛遭難中でーす。
「うん。無理」
「よかったー……って、え?」
なに?
む、無理って言った?
「な、なんで?」
「なんでって、そりゃーアンタ。……見ての通り、アタシたちも絶賛遭難中だからさ」
あーなるほどー。
そうなんですかー。
「「あはははははは!」
……って、はぁぁああああああああああ?!
「って、ええ? そ、遭難?!」
そうなん?
「え? なんでー?」
「いや、なんでと言われてもなー。……普通に道に迷ったというか、深入りしすぎたというかー」
あっけらかんとしていうドミトリさん。
「姉御は方向音痴なんですよ」
「あと、調子に乗りすぎなんですよ」
「まぁ、僕が怪我して、マッピングミスしたのも大きいよね」
え、えっとー。
「じゃ、じゃあどうやって帰るつもりだったんですか?」
「ん? そりゃー、道々調達しながらさ。幸い、魔の山脈は魔物の数には事欠かないしね」
あー。
それでガルダを狙ってたのか。
「ま、そうは言ってもここらの魔物は俺らの手に余るけどな」
「ゴブリンだって並みの奴じゃねーし」
そういや、ハイなゴブリンさんだっけ?
主砲でワンパンだったけど。
「おかげでこの三日ほど何も食べてないもんね。おまけに、どんどん奥地に入って行っちゃうしー」
わははは! と何が面白いのか、男連中も声あげて笑っている。
うん。……普通に引くわ。
──すでにサバイバルじゃん!
話を総合するに、どうやらドミトリさんたちは、魔の山脈と呼ばれるこの山岳地帯の麓の町から来た冒険者なのだとか。
本拠地は別にあるみたいだけど、稼ぎがいいというので遠征し──……見事に遭難したらしい。
それも、山脈の中腹という、まさに魔境のど真ん中で!
「いや、まー。でもそのうちなんとかなるって。現にこうして飯にもありつけてるしね」
えー。
私が奢ってあげたからじゃん。
「たしかに! 姉御は悪運は強いんだよね」
「わかるわかる。なにやっても死なないもんなー」
ごんっ!
「口を慎みな!」
「あはは……。つまり、この先の見通しはなんも立ってないと」
「まーそうなるね。僕もこんな深いところじゃどうにもできないし」
そういえば、このチビッ子は斥候だったっけ。
冒険者の目となり鼻となり耳となる存在だ。……その子がお手上げってことは、もう駄目じゃん。
「そう卑下するもんじゃないよ。グレーターガルダがいるってことは、この辺は、ちょうど山脈のど真ん中だ。つまり来た道の反対の方角に行けば、山脈を抜けられるって寸法さね」
いやいや。
それ絶対無理だって。
「はー。わかりました。……道案内のほうは期待しないでおきます」
せめて魔石とかお金で支払ってもらおう。
……こういう時、
「わはは。まーまー、見覚えのあるとこまで来たら案内できるからさ、大船に乗った気であとは任せな!」
「けっこーです」
遭難者の
しかし、参ったな。
これじゃ足手まといを拾ったようなものだ。
(……ま、なんとかなるか)
とりあえず、今日はもういい時間なので、全員をガソリンスタンド内に泊まらせることにして、どうするかは明日考えよう。
はー、眠い眠い。
そんじゃ、おやすみー。
※ ※ ※
しーん。
「…………全員、起きてるかい?」
「はい」「もちろんです」
アタシが小さく声をあげると、
むくりと石造りの建物で静かに起き上がる仲間たち。双子の、神官戦士と魔法剣士のエルとアールだ。
そして、
「
壁に耳をつけて音を拾っていた小男──パーティの斥候役、ミルヒが指でわっかを作ってこっちに合図を見せた。
みれば、外に放置されているガルダの肉を漁る夜行性の魔物が集まっていたが、こっちには見向きもしていなかった。
「へぇ? それはどういうことだい?」
「あくまで予想なんですが……。どうやら、
チェーンに看板?
あぁ、あれか。
「なるほど。認識阻害の結界か」
魔の山脈でも効果を発揮する魔道具か。とんでもない代物だ。
多分、内部でどんちゃん騒ぎでもしない限り、この建物は岩かなにかにしか見えないような仕組みがあるのだろう。
「……どーりで、
この魔の山脈で寝るなんて正気かと思ったが、事実、スースーと小さな寝息が壁を挟んで聞こえてくる。
やれやれ……。
「ま、これでようやく息が付けるね」
「まったくです」「ここ数日、生きた心地がしませんでしたよ」
……はー。
しばらくは全員で息を殺していたので、冷や汗が凄い。
「で。どう思う?」
「どうって、そりゃー」
「ありゃ、魔族じゃないですか?」
双子はやはり人間かどうかを怪しんでいる。
まぁ、アタイも同じなんだけどね。
「でも、魔族がこんな僻地で何してるんです? ここ、魔族にとっても魔境ですよ」
それはそう。
だけどねぇー。
「魔族の考えてることなんて知らないよ」
「いやいや、姉御……。待ってくださいよ、そもそも前提が違いませんか?」
ミルヒはどうやら否定派らしい。
「あん? お前は何をみてたんだい? この魔の山脈で丸腰の女だよ? しかも、チビ」
「いや、チビは関係ないっすよ」
ぶーたれるミルヒ。
これはアタシが悪い。
「そ、そうさね。見た目は関係ないか。……うん、むしろ、あの見た目でこの魔境でのほほんとしてるのが、なおのこと怖いよ」
「それそれ」
「しかも、グレーターガルダを倒してましたよね?……魔力なんて欠片を感じなかったのに」
うん。
そこだね。
「アタイも検分したけど、妙な倒し方だよ。……切り傷もないし、魔法でもない。血は出てたけど、矢でもない──なにか未知の攻撃で倒したんだよ」
「ってことは、昨日のあの、
あー……それもあったな。
「多分ね。突然、夜中に森で火柱が上がったときは、ドラゴンでも現れたのかと肝が冷えけど。……多分、あれもあの女だよ」
「ひえー。ってことは、既存の魔法じゃないってことですよね? 黒魔術とか?」
「もしかして、ブレスとかじゃないっすか? ほら、長年
……竜、か。
双子にしては鋭い。
「ありえるね。すると、ここはもしかして噂に聞く──」
「
ミルヒがこれ以上ないくらい目を見開く。
だが、確かにそうとしか言えないような代物がここには溢れていた。
低く唸る光の箱 (※注:自販機です)
空気を凍らせたような透明な板 (※注:耐圧耐熱ガラスです)
そして、見たこともない物品の数々 (※注:ガソスタの事務用品です)
「そ、そういえば、油のにおいがします!」
「あ! ってことは、お勧めされた、あの熱い水が出る部屋って……」
「僕のウ〇コが小さな穴に飲み込まれました! あれももしかしして」
(※注 ガソリンの匂いと、シャワー室と水洗便所です)
「あぁ、決まりだね。……魔族か竜──そのどっちかだよ、あの女」
思わずごくりと喉がなる。
知らず知らずのうちに魔の山脈の最深部にまで到達していたのかもしれない。それなら納得いく。
……そして、人の匂いを嗅ぎつけた恐ろしい者を呼び出してしまったらしい。
どーりで、簡単にガルダの素材を寄越したわけだよ。
「こりゃー。明日は覚悟したほうがいいね。……いいかい、生きて帰りたかったら絶対にあの女を怒らせるんじゃないよ?」
「「「イエス、マム!!」」」
しーしー!
「声が大きい!」
「「「さ、さーせん……」」」
ったく、怒らせたらどうなることやら。
「しかし、参ったね。……里に行きたいらしいけど、どうするよ?」
「どうって……不味くないですか?」
「そうですよ、あんなのが町に降りてきたらどうなることか」
魔の山脈で平然としている女だ。
そんなのが暴れ出したらとんでもない事態になるだろう。
「いやいや、待ってよ。そもそも僕ら遭難してますからね。案内どころじゃないですよ」
「う、うっさいな! それはそれ、これはこれだよ!」
遭難したのは事実だが、
まぁ、方角さえ見誤らなければ帰れないこともないのだ。
問題は道中に障害が多すぎることだけ──。
「なら。いっそ、町に案内してもいいんじゃないですか?」
「ミルヒ、お前本気かい?!」
正気の沙汰とは思えない。
「だって、本人が行きたいって言ってますし……。最悪、僕らが断ったとしても、興味を持っている以上、いずれ行っちゃいますよ?」
「う。そ、それは──」
たしかにそうだ。
そもそも、魔の山脈を闊歩できるような奴が、ここを出れないはずがない。
「つまり、遅いか早いか、ってだけかぃ」
「そうです。……それにこういっては何ですが、話が通じそうですよ」
む。
「……確かに」
巣に案内してくれただけでなく、気前よく御馳走してくれた食事の数々を思い出す。
柔らかくスパイシーなお肉に、骨付きのジューシーな鳥。そして、あのふっかふかのパン。
「そう、だね……うん。わかった」
話が通じるのだ。
ここは、いっちょ親睦を深めるのもありかもしれない。
それに、うまくすればあの女の力を利用して、魔の山脈を突破できるかもしれないしね!
「よし、決めた! ここは『仲良く様子見してヤバそうならとんずらをこく作戦』でいくよー!」
「「「おおー!!」」」
しーしー……!
こうして、ドミトリたち『赤い旋風』は、長瀬あかりと仲良くする方針(※表面上)でいくことにしたのであった────。
※ その頃、仮眠室では── ※
「ま、全部聞こえてるんですけどねー」
スマホの音声機能を使って、『すーすー』という寝息をリピートしていた私。
もちろん、目の前には監視カメラで悪だくみ(?)をしている『赤い旋風』がばっちり映っていた。
「しっかし、何もしてこないと思ったけど、竜かー」
あはは。
でっかく見積もられたもんだね。
まぁ、否定しても信じてはくれないだろうし、ほっとこ。
「それより、認識阻害の結界かー……。なるほど、それで初日のゴブリンが中々事務室の私に気付かなかったんだ」
どうやら、このスタンドの閉店の看板とチェーンには、認識阻害の機能がついているらしい。
完全ではないみたいだけど、それでも、魔物なんかの侵入を防ぐ効果はあるらしい。
「……って、いやいや、便利すぎでしょ、このガソリンスタンド!」
マジでここだけで異世界過ごせるわ。
お金があったら、本気で籠ろうかなー。
「ん? 監視カメラでのぞき見して、彼らを信用してないのかって?」
はっ。
そんなのあったり前じゃーん。
いくらんなんでも、出会ったばかりの人をホイホイ信用しないって。
「しかも、こう見えて私ってば、一回この世界の人間に手ひどく捨てられてるからね!」
傷ついてんの!
「……まー、悪い連中じゃないみたいだけど」
どうやら普通の冒険者らしい。
そして、遭難も本当のこと。
「なので、しばらくは一緒に行動してもいいかな」
それに恩を売っておけば、町についてからも何かと
竜だの魔族だのと勘違いされたままのはどうかと思うけど、そのへんはそのうち。
「よし、そうと決まれば明日はホットスナックで焼オニギリとラーメンでご馳走してやろう!」
さー、今度こそ寝よ寝よ。
おやすみなさーい。
『すーすーすー』
……スマホ切り忘れてたわ。
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