『大空スバルのひまわり観察絵日記。〜我が愛しのマダオ』 作:しまうまP
【○月×日 てんき:コミケ日和(人熱気で激アツ)】
ついにやってきた、コミックマーケット当日。
スバルが血と汗と涙(と、盗まれた高級肉の恨み)を流して作り上げた同人誌『大空家の日記』を引っ提げて、スバルは東京ビッグサイトのサークルスペースに立っていた。
「よーーーし! 開会まであと少しだし、設営もバッチリ……って、おい、そこの不審者。何やってんだよ!!!」
スバルの怒号が、開会前のまだ静かな東ホールに響き渡った。
サークル主の特権で一足先にスペースに座っている宝鐘マリンは、なぜか自前で持ってきた「宝鐘海賊団の特大のぼり」をスペースの後ろにぶっ刺し、机の上には同人誌よりも目立つ位置に、自分のアクリルスタンドをズラリと並べていた。
しかも、今日のマリンの格好は、いつもの私服でも、スバルの芋ジャージでもない。
あのドームライブで着ていた、本物の、眩しすぎるトップアイドルの衣装だった。
「なによスバルちゃん、お姉さん、売り子として気合い入れてきたのよ?❤️ ほら、やっぱり主役の私がこうやって華を添えてあげないと、読者のみんなも買いづらいかなって❤️」
「衣装のせいでスペースの幅が半分潰れてんだよ!!! あと、これスバルの本だから!!! あんたはただの被写体だからね!?」
そんな小競り合いをしているうちに、午前10時、開会の拍手が鳴り響いた。
と同時に、怒涛のような人の波がホールになだれ込んでくる。
スバルの全力の宣伝(※おはスバでの告知)が功を奏したのか、大空家のスペースには、開会直後から信じられないくらいの長蛇の列ができた。
「あ、ありがとうございますッス! お会計1000円になりまーす!」
スバルが必死にレジを回して本を渡している横で、マリンはトップアイドルの本領(?)を発揮し始めた。
「はーい、お買い上げありがと〜❤️ 船長のこと、一生愛しなさいよねっ❤️」
バチコーン!!! と、並み居るオタクたちに限界突破のウインクとファンサをキメまくるマリン。
「うおおおおお!? 本物の船長が売り子してる!!! ガチで未来のお嫁さんじゃん!!!」
「おい、後ろの日記のページ見ろよ! 『お義母さん、スバルちゃんを私にください❤️』って書いてあるぞ! 尊死する!!!」
ファンの人たちが大興奮で本を抱きしめていく。
それを見たマリンは完全に調子に乗って、身を乗り出して叫び始めた。
「みんなー! 今日この本が完売したら、私、今日の夜はスバルちゃんの部屋の押し入れじゃなくて、スバルちゃんのベッドで一緒に寝る許可をお義母さんからもらう約束になってるからぁぁぁ!!! 頼むから全部買ってってぇぇぇぇぇ!!!」
「そんな約束1ミリもしてねぇわバカ野郎ーーーーーーーーー!!!!!(絶叫)」
スバルのツッコミが炸裂し、周囲のサークルさんが一瞬ビクッと振り返った。
「何嘘ついて部数伸ばそうとしてんだよ!!! 詐欺罪で逮捕するぞ!!! お前は一生押し入れの中でワンカップ飲んでろ!!!」
「えぇ〜? だってぇ、みんなが買ってくれたら、スバルちゃんと本当の結婚資金が貯まるかなって❤️ 」
マリンは悪びれもせずへらりと笑ってみせた。
結局、マリンの(不審者スレスレの)大暴れのおかげか、用意していた数千冊の同人誌は、昼過ぎにはまさかの「完全完売」!!!
スペースの前で
「うおおおおお!!! 完売御礼!!!」
と万歳三唱するファンの人たちを見送りながら、スバルはクタクタになってパイプ椅子に倒れ込んだ。
「はぁ〜〜〜……まじで疲れたッス……。でも、みんな楽しそうに本を受け取ってくれて、本当によかったぁ……」
スバルが達成感でちょっと涙ぐんでいると、マリンが隣の椅子に座り、ダボダボの袖から冷たい缶ジュース(スバルが好きなやつ)をスバルの頬にピトッと当ててきた。
「お疲れ様、スバルちゃん。……楽しかったね」
いつものオヤジみたいな声じゃない、あの公園の夕暮れで聞いた、優しくて少し照れくさそうな声。
スバルはジュースを受け取りながら、そっぽを向いて小さく呟いた。
「……ん。まぁ、あんたのおかげで早く売れたのは、ちょっとだけ感謝してるよ」
「まぁ❤️ スバルちゃん、お姉さんにデレちゃってぇ〜❤️ じゃあ、ご褒美に今夜は叙々苑の特上肉でお祝いね! もちろんスバルちゃんのお財布で❤️」
「なんで弁償された側が奢らなきゃいけないんだよコラァァァァァァ!!!!!(大爆破)」
東京ビッグサイトの片隅で、私達のやかましい日常は、今日も世界一ハッピーに続いていく。
◇◇◇
【ビッグサイト現行犯逮捕の記録:コミケ当日、スペースでマリンが大暴れした。
途中で『結婚資金を稼ぐ』とかいう特大のホラを吹いた時はマジで背負い投げしてビッグサイトの天井に突き刺そうかと思ったが、本が完売して喜んでるファンの笑顔を見たら、まぁ、よかったなと思う。
……と、ここまではまだ許せた。
問題は、完売に調子に乗ったマリンが、スペースの片付け中にテンションが上がりすぎて『これがトップアイドルの真の姿よぉ!』とお尻を振りながら変なダンスを踊った瞬間、衣装のホックが全部弾け飛んだことだ。
しかも、その時ちょうどスペースの前に、なぜか激励に来てくれた警察の巡回警備員さんが立っていた。
マリンは『あ、これ公然わいせつで現行犯逮捕されるやつ!?』と叫びながら、スバルの青い芋ジャージをひったくって全速力で東ホールを逃走していった。
先生。スバルの夏休みと秋の思い出は、ビッグサイトに響き渡るサイレンの音と共に、完全に社会的に終了しました。
誰か早く、保釈金と新しいジャージを持ってきてください。】
◇◇◇
(続く)