『大空スバルのひまわり観察絵日記。〜我が愛しのマダオ』 作:しまうまP
【○月×日 てんき:雲一つない大安吉日】
「逃げられないなら、もう逃げない……ッ!!!」
スバルのその決意の叫びが、我が家のリビングに響き渡った。
コミケ当日。
マリンがガチャを3ヶ月も我慢して自費で作った【豪華限定版・おケツアクスタ付き】の同人誌5000部は、会場に集まった全国の限界オタクたちの熱狂によって、まさかの「開会からわずか2時間で完全完売」という異次元の記録を叩き出してしまった。
家に帰ってきたマリンは、札束の詰まったアタッシュケースをリビングのテーブルに
ドォォォォォン!!!
と叩きつけ、勝ち誇った顔でスバルを見た。
「見た!? 見たわねスバルちゃん!!! これで結婚資金の目標金額、完全に達成よぉぉぉぉぉ!!! 2LDKどころか、一戸建ての頭金がいけちゃうわぁぁぁぁ!!!」
いつもなら「警察呼ぶぞ!」って叫んで、アタッシュケースごとマリンを窓から投げ捨てるところだった。
だけど、うず高く積まれた札束と、それを見て
「あらぁ、マリンちゃん本当にしっかりしたお嫁さんねぇ❤️」
と完全に洗脳されているお母さんの姿を見た瞬間、スバルの頭の中で何かがパチンと切れた。
(あ、これ……もう何やっても無駄だ。どこまで逃げても、このマダオは地獄の果てまでお尻を振りながら追いかけてくる……!)
だったら。
これ以上、無駄な抵抗をしてエネルギーを消費するのはやめだ。
逃げてダメなら、正面から受け止めて、こいつの人生ごとスバルが一生ツッコミ続けてやる!!!
スバルは、ポケットからクシャクシャになった紙切れを引っ張り出した。
それは、マリンが以前リビングに置いていった、あのガチの『婚姻届』だった。
「おい、宝鐘マリン……ッ!!!」
スバルはアタッシュケースの横に、自分の署名とハンコをバチィィィン!!! と押し込んだ婚姻届を叩きつけた。
「そこまで言うなら、もう腹括ってやるよ!!! その代わり、結婚したらガチャは月3回まで!!! ワンカップは1日1本!!! スバルのジャージを勝手に着たら罰金千円!!! それでもいいなら、今すぐ区役所に行くぞコラァァァァァァァ!!!!!」
「えっ……! えええええええええええええええええ!?!?!?(ガチ驚き)」
まさかスバルが本当に腹を括ると思っていなかったマリンは、一瞬で顔を真っ赤にして、借りてきた猫みたいにガタガタと震え出した。
「ちょ、ちょっと待ってスバルちゃん!!! お姉さん、いつも通り妄想でキャッキャウフフしてスバルちゃんに『嫌だよー!』ってツッコまれるのを楽しんでただけなのに、本気でスバルのハンコが押された婚姻届が出てくるなんて聞いてないわよぉぉぉ!!! リアルに心臓止まるぅぅぅ!!!」
「今更ヘタれてんじゃねぇよ!!! 自分から仕掛けておいて何日和ってんだ!!! ほら行くぞ!!! お母さん、車出して!!!」
「あらぁ、スバル、男前ねぇ❤️ お母さん、今すぐハザードランプ焚いて待ってるわね❤️」
「待ってぇぇぇ!!! お姉さん、心の準備がぁぁぁ!!! まだウエディングドレスもお尻のケアも終わってないのぉぉぉぉぉ!!!」
マリンの必死の悲鳴を無視して、スバルはマリンの首根っこを掴み、そのまま区役所へと引きずっていった。
数時間後。
大空家のリビングには、正式に「大空マリン(※書類上)」となったマダオが、赤くなった顔を両手で隠しながら、ソファの隅で小さくなっていた。
「うぅ……スバルちゃん、男気がカンストしすぎてて、お姉さん完全に立場がないわよ……。これじゃどっちが旦那様か分からないじゃない……」
「うるさい!!! ほら、籍を入れたんだから、さっさと今日の晩ご飯の支度手伝ってよね、マリン!」
スバルがエプロンを投げつけると、マリンは一瞬ポカンとしたあと、嬉しそうに、世界一輝く笑顔でそれを胸に抱きしめた。
「……うんっ! 任せて、スバルちゃん❤️ 今日はね、お肉じゃなくて、お肉より美味しいお姉さんの特製肉じゃがを作ってあげるからねぇ〜ん❤️」
「肉じゃがは普通に作れ!! 変なアレンジするなよ!!!」
新しく買ったノートの表紙に、スバルは笑顔でこう書き込んだ。
**『大空家の、新婚ドタバタ日記』**
最初の1ページ目、スバルは新しく家族(お嫁さん)になった海賊のイラストの横に、力強くこう書き添えた。
◇◇◇
【大空家の、新婚ドタバタ日記:5000部完売の勢いに乗って、スバルは腹を括ってマリンと結婚した。
あいつ、婚姻届を出した瞬間、嬉しさと恥ずかしさでリアルに気絶しかけていてめちゃくちゃウケた。
やってることは相変わらずめんどくさい変質者だけど、これからはスバルが一生隣でツッコミを入れて、あいつのことを支えてやろうと思う。
……あ、ちなみに結婚初日の夜ですが、マリンが『新婚初夜よぉぉぉ❤️』とお布団に突撃してきたので、スバルは今、全力でリビングの鍵を閉めて寝ています。誰か早く、新婚用の最強のバリケードを持ってきてください。私達の仁義なき新婚生活は、ここからが本番です。】
◇◇◇
(続く)