『大空スバルのひまわり観察絵日記。〜我が愛しのマダオ』 作:しまうまP
【○月×日 てんき:はれ(部屋の中は嵐)】
「待っていたよ、宝鐘マリン……ッ!!!」
スバルの宣戦布告と共に、リビングの電気がパチッと点いた。
そこには、腕組みをして仁王立ちするスバルと、その後ろで般若のような笑顔を浮かべてソロバンを弾くお母さんの姿。
ダンスレッスン帰りのマリンは、手に持っていたコンビニの袋(中身はやっぱりワンカップ大関)を落としそうになりながら、
「ひぇっ!?」
と短い悲鳴をあげた。
「な、なによ二人して……。お姉さんをそんな恐ろしい目で見て……。もしかして、ついにスバルちゃんとの婚約を認めてくれる決意が固まったのかしらぁ?❤️」
「んなわけねぇだろボケェェェェェェェ!!!!!(怒髪天)」
スバルのツッコミが炸裂する。
お母さんがソロバンをパチーンと叩いて一歩前に出た。
「マリンちゃん。あなた、昨日スバルのご褒美の、一枚三千円もする最高級国産和牛を全部食べたわね?」
「あぐっ……!!!」
お母さんの主婦としてのガチのトーンに、さしものトップアイドルも一瞬で顔を青ざめさせた。
「ちょっと味見するだけのつもりが手が止まらなくなった、ってスバルから聞いたわ。あれ、お母さんが家計簿をやりくりして買ってきたお肉なのよ? それを全部食べるなんて……お行儀が悪すぎるわ。今日限りで、この家から出て行ってもらいます!」
お母さんからの非情なレッドカード!!!
スバルは心の中で
(よっしゃぁぁぁ!!! 勝った!!! 害獣追放だ!!!)
とガッツポーズをキメた。
マリンの荷物はすでに玄関にまとめられている。
これでマリンの居座り生活も、完全に終わりを迎えるはずだった。
しかし、ここからが「自称・世界一の美少女海賊」の、本当の恐ろしさだった。
「お、お義母さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!(号泣)」
ドサァッ!!!!!
と、信じられないくらいのスピードで、マリンが畳に見事なスライディング土下座をキメた。
額が畳にめり込むんじゃないかってくらいの、完璧な、一ミリの迷いもない美麗な土下座である。
「悪かったわよぉぉぉ!!! 本当に悪かったわよぉぉぉ!!! お肉があんまりにも美しくて、私の理性が17歳の限界を迎えてぶっ飛んじゃったのぉぉぉ!!! でも、家を追い出されるのだけは勘弁してぇぇぇ!!! 外は暑いし、スバルちゃんの匂いがしないと私、夜も眠れないのぉぉぉ!!!」
「人の家の畳で何言ってんだよ!!!!!(ドン引き)」
スバルが呆れる中、マリンは涙と鼻水でグチャグチャになった顔をバッとあげて、お母さんのエプロンの裾を掴んだ。
「次!!! 次のお給料が入ったらぁぁぁ!!! 次回の宝鐘マリン単独ドームライブの、関係者席よりも前の『超・最前列プラチナチケット』と!!! あと叙々苑の!!! 叙々苑の一番高い『特上カルビと特上ロース』を、お義母さんの胃袋が破裂するまで弁償しますぅぅぅぅぅ!!!!! だからぁぁぁ!!!」
「じょ、叙々苑の特上……肉……ッ!?」
お母さんのソロバンを叩く手が、ピキッと止まった。
(ま、まずい!!! お母さんが肉の誘惑に揺らいでる!!!)
スバルは焦って叫んだ。
「お母さん騙されないで!!! あいつ生活費ガチャに溶かすマダオだよ!? お給料なんて残らないよ!!!」
「本当よぉぉぉ!!! 次のお給料はガチャ禁止縛りで生活するから、絶対に特上肉持ってくるからぁぁぁ!!! だから、あと少しだけ……あと少しだけスバルちゃんの部屋の押し入れに置いといてぇぇぇぇぇ!!!」
「……そこまで言うなら、マリンちゃん。お母さん、次の給料日まで待ってあげるわ❤️」
「お母さんーーーーーーーーー!?!?!?!?(絶望)」
結局、お母さんは「叙々苑の特上肉」というパワーワードに一瞬で買収され、作戦はまさかの大失敗に終わった。
マリンは玄関から荷物を回収すると、
「やったぁ〜❤️」
と勝ち誇った顔でスバルのジャージに着替え、またリビングでゴロゴロし始めた。
スバルは、自分の部屋で頭を抱えながら、日記にこう書き殴った。
◇◇◇
【本日の買収記録:マリンを家から叩き出す作戦を決行したが、あいつの必死すぎる『叙々苑土下座』の前に、お母さんが一瞬で買収されて作戦は完全崩壊した。
トップアイドルが特上肉のためにプライドを捨てて床に這いつくばる姿は、常人ならざる執念を感じたが、それ以上にただの哀れなマダオだった。
とりあえず、あいつの次のお給料が入るまで、スバルの受難(と、お風呂場占拠)は続くことになった。マジで誰か、叙々苑より強い食べ物を持ってきてください。】
◇◇◇
(続く)