『箱入りの特級術師』浅雛蒼空   作:おいしいお塩

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ここから過去編始まります
導入は短いですね


『青い夏のプロローグ』

2006年、春。

 

 

満開の桜が舞い散る東京都立呪術高等専門学校の敷地内を、一人の少女が凛とした足取りで歩いていた。

 

浅雛蒼空。

 

メンズサイズの特注制服をブカブカに揺らしている姿は今と変わらないが、その表情は一変していた。

 

いつも眠たげなあの「寝ぼけ眼」はどこにもない。長い睫毛の奥にある瞳は、まだ見ぬこれからの日々に期待を膨らませ、ぱっちりと、強く真っ直ぐに輝いていた。

 

「よし……! 同級生の人たちは、みんなすっごく強い人ばっかりって聞いてるもんね。わたしも術式の反動に負けないで、いっぱーい頑張らなくちゃ……!」

 

蒼空は、まだ何も書かれていない真っ白なメモ帳を制服のポケットにしっかりと仕舞い込み、拳をきゅっと握りしめて教室のトビラを開けた。

 

「失礼します……! 今日から編入することになりました、浅雛蒼空です。よろしくお願いします!」

 

ハキハキとした、芯のある声。

教室内には、すでに3人の先客がいた。

 

教壇の近くで気だるげにタバコを弄んでいる黒髪の少女──家入硝子。

 

そして、教室の後方で我が物顔で机に足を乗せている、サングラスをかけた白髪の少年──五条悟。

 

その隣で、前髪を一本垂らし、端正な顔立ちにどこか冷めた笑みを浮かべている黒髪の少年──夏油傑。

 

「……ん? お、新しい女子じゃん」

 

五条がサングラスをごつ、と指で下げ、六眼の青い瞳で蒼空を一瞥した。そして、一瞬で彼女の呪力構造を見抜くと、すぐに興味を失ったように鼻で笑った。

 

「なんだ、期待して損した。術式の燃費、最悪じゃん。ちょっと発動しただけで脳みそ焼き切れるでしょ、それ。悪いこと言わないからさ、死ぬ前に呪術師なんて引退した方がいいよ。時間の無駄だし」

 

入学初日、いきなり突きつけられた最悪の洗礼。

今の五条の傲慢な態度に、蒼空は一瞬だけ言葉を詰まらせた。

 

「ちょっと、悟。初対面の相手に対して、それはあまりにも無礼だよ」

 

すかさず口を挟んだのは夏油だった。彼は言葉遣いこそ丁寧で、一見すると蒼空を庇っているようだったが、その細い目の奥にある光は、五条と大差ない冷徹なものだった。

 

「悟、人にはそれぞれ向き不向きがある。たとえその努力が無駄だとしても、本人のやる気を削ぐようなことを言ってはいけないよ。彼女には彼女なりの、呪術師としての身の丈に合った戦い方があるはずさ」

 

(う、うわぁ……。言葉はすっごく丁寧だけど、普通にめちゃくちゃ失礼なこと言われてる気がするよぉ……)

 

2人の「天才」から向けられた、圧倒的な格の違いと、暗黙の諦観。

 

現代の彼らからは想像もつかないほど尖りきったクソガキぶりに、蒼空が心の中で冷や汗を流していると、トコトコと歩み寄ってきた硝子が、蒼空の手をぎゅっと握りしめた。

 

「気にしなくていいよ、浅雛さん。このクズ2人はいつもこうだから。頭のネジが外れてんのさ。それより、やっとまともな女の子が来てくれて私すっごく嬉しい。これからあのバカどもは放っといて、2人で仲良くしようね」

 

「あ……はい……っ! 硝子ちゃん、よろしくお願いします!」

 

硝子のさっぱりとした優しさに救われ、蒼空の顔にぱっと花が咲くような明るい笑顔が戻った。

 

五条と夏油は、そんな女子2人を眺めながら、「ふん」とつまらなそうに視線を窓の外へと戻す。まだ、自分たち「最強の二人」の視界に、浅雛蒼空という不器用な少女が入る余地はどこにもなかった。

だが、蒼空はめげなかった。

 

ポケットのメモ帳の、記念すべき最初の1ページ目。

まだ凛とした、綺麗な筆跡で、彼女は力強くこう書き込んだ。

 

 

『今日から高専! 五条くん、夏油くん、硝子ちゃん。みんなすっごく個性的。いつかみんなと、はんぶんこで笑い合えるくらい、絶対に追いついてみせるぞ!』

 

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