「どうして・・・。」
彼女は、悲しそうに俺を見ている。
「違う!アレは・・・。」
俺は、必死に首を振り否定するが、彼女は
「どうして、私を使ったの?アナタの25%だったのに・・・。」
「違うんだ!聞いてくれアレは!」
「サヨウナラ。私達はもう出会えない。」
そう言うと、彼女は深い闇の中へと消えた。
「待ってくれ!!カムバック!」
「五月蝿いわ!」
「ブホ!」
俺が昨日永久に失った、五百円を追っていると急に顔面に衝撃が走った。痛い。
「アガガ・・・何をするんだ!日野さん!」
「アンタよく、そんな大声で寝言が言えるわね!五月蝿くて集中出来ないでしょうが!」
場所は時田さんの家2階の部屋。あれから、しばらく俺と日野さんは交代で外を見張っていた。また、あの犬が襲ってくるかも知れないからだ。警戒するに越した事はない。
「それにしても何だったのかしらねアレ。」
「知らない。なんで、あんな事になったんだろうね?」
あの犬が消えてから気温が急に下がった様な寒気が走り一旦家の中へと避難した。その後再び外に出ると、俺との戦いの跡が、まるで何も無かった様に消えていたのだ。砕けたコンクリートの破片や紫電の焦げ跡すら無かった。
「まるで、アンタの力ね。アンタ以外にそんな事出来る奴なんているの?」
「う・・・とな・・・。」
確かにアレは”大嘘憑き”を使った様な感じになっていた。そういえば、ヤマダさんもこの世界のには、他にも転生者が数人いるとか言ってたしな。案外この力は俺だけの物じゃ無いのかも知れない。
「多分、結構いるんじゃねえかな?」
「は?」
「いや、俺なんて、結構弱い方だし。」
転生者の中では、恐らく最弱クラスだろう。自己防衛第一だし。
「アンタで、弱い方なの!」
日野さんの驚き声が耳に刺さる。申し訳ない。
「ああ。俺なんて、電撃を操ったり、ベクトルを逆転させたり、水の中でも生活出来る位の力しかないからな。」
「・・・十分凄いんだけど・・・。何なの?超能力者って。」
知らない。
「じゃあ、俺寝るわ。お休み。」
「待ちなさい!」
「何?もう朝まで3時間を切ったんだけど?実質俺の睡眠時間が20分に成ってるんだけど?」
「そんな話を聞かせて、私に一人で見張れと?」
「うん。大丈夫~死んでもパーツが全部あれば何とかなるから。」
”大嘘憑き”ならば、多少の欠損位軽いだろう。精神的には保証しかねるが。
「日野さんの鋼の精神を信じる。だから日野さんも俺を信じてくれ。」
「・・・・・・歯ぁ食い縛れ!」
本日2度目の衝撃が顔面に走った。超痛い。
「うわああ。」
「血で部屋を汚しちゃ駄目よ。」
鬼だ・・・鬼がいるよ。・・・アレ?
「ねえ、もしかして日野さん・・・怖い―――!!」
本日3度目の衝撃が全身を走った。その時本棚が砕け散った。
”不慮の事故”である。反射的に使わなければ俺の体はああなっていただろう。恐い。
「おはよう。」
「あ、鈴音ちゃん、おはよう!どう?眠れた?」
「うん。・・・ごめんね。見張りなんかさせちゃって・・・。」
「良いのよ~その位。」
女性陣2人の会話を聞きながら俺は、何とか意識を保ち辺りに警戒を張り巡らせていた。恐らく大丈夫だろうが一応の警戒は必要である。
「おはよう。時田さん。」
「うん。おはよう。昨日はありがとう。」
「良いって。アンナの。」
その後もっとおっかないのに襲われたし。俺が、笑って話すと時田さんは表情を暗くした。
「どうしたの?」
日野さんが心配そうに近寄ると、時田さんは紙に何かを書き始めた。・・・まさか。
「・・・。」
「・・・今日ね・・・こんな夢を見たの。」
絵には、恐らく学校だろうか。空には満月が昇っており、女の子が巨大な人(?)によって、ズタズタされている絵だった。
正直言って、見ていて気持ち良い絵ではない。
「この女の子って・・・時田さん?」
しかし、時田さんはフルフルと首を振った。そして、とある人物を指差した。それは・・・
「わ、私?なんで?」
「・・・分らないの。本当に分からないの。」
「この夢は、大体何日後に本当になるんだ?」
「早くて、1日遅くても3~5日後だよ。」
「月から見て、満月の夜か・・・アレ?」
「どうしたの?」
「おかしいぞ?満月って昨日じゃないか?」
昨日の夜空の事は、結構覚えている。しかし、それに日野さんは反論した。
「何言ってんの?満月は10日前でしょうが。ちゃんとカレンダーに載ってるでしょう?」
「は?10日前?」
どうなってるんだ?と、言う事は次の満月まで20日以上もあることにならないか?いやそれ以前に確かに昨日の月は満月だったんだけどな。
「鈴音ちゃん。本当に空には満月が昇ってたの?」
「・・・うん。とっても寒くて空気が澄んでたからよく覚えてるよ。」
「と、言う事は、後20日は安全と言う訳ね。取り合いずは一安心か。」
日野さんはそう言うと時田さんを拘束し始めた。なんだ?
「さて。学校に行きましょうか?時田さん?」
「え、あの・・・。」
「南!カバンに必要な物を詰め込みなさい。学校に連行するわよ。」
「ええ!」
流石は、日野さん凄まじい行動力だ。俺には真似できない。
「で、でも・・・。」
「安心しなさい。鈴音ちゃんの席は私の前だから、何かあったら助けてあげるわ。ね!南?」
「何故、俺が・・・。」
「ね?」
「サーイエッサー。」
俺の平和な日常が音を立てて崩れ逝く音がした。
とりあえず、俺達は自分のカバンを取りに一旦家へと戻る事になった。もちろん時田さんは捕獲中である。
「ふーん。ボロいアパートね。」
「失礼な!アンティークな物件と呼べ!」
築25年のアパートを呼ぶときはそう呼ぼう。因みに風呂・トイレは、別である。
「じゃあ、とって来るな。」
「400秒以内にね。」
「はいはい。」
取り合いずそう言って部屋に入りカバンを掴む。そして、冷蔵庫の中から惣菜パンを取り出し昼飯を確保。水筒に茶を注ぎ、制服を着て鍵を閉める。その間実に
「635秒!235秒も遅いわよ!」
コイツ。カウントしてやがった。
「悪いな。じゃあ次行くか。」
クック・・・復讐してやるよ。
「ここよ。」
俺の家から徒歩30分の所にそれはあった。
「へ?」
「なに・・・ここ・・・。」
そこにあったのは、高層マンションだった。まあ、それなら別に良いのだが。
「”日野”家専用マンション?」
と自動ドアを潜りポストを見るとそう書いてあった。
「うん。だいたい20階から上が私の部屋ね。下は、その他の人達の部屋や仕事場。」
「か・・・金持ちか・・・。俺らの敵だったのか!」
「まあね!・・・じゃあ行って来るわ。1200秒以内には帰って来るから。朝食は、もう電話で頼んでるから直ぐに来るわ。」
日野さんはそう言うと、エレベータに乗って上へと上がって行った。
「失礼致します。」
その後直ぐに朝食らしきモノが乗っているカートと椅子とテーブルが運ばれて来た。最早俺らは唖然とするしかなく大人しく椅子に座った。
「・・・凄いね。」
「予言には出なかったのか?」
「うん。私の予知はね。大きな出来事しか写さないの。」
これを小さな出来事と申されますか。時田さんは、ベーコンエッグをフォークで食べながら言った。この人結構度胸が据わっている。俺なんてドキドキして手が出せないのに。
「それにしても、まさか、日野さんが・・・でもさ、”日野”なんて言う有名な会社なんてこの町にあったか?」
少なくとも俺には、見た記憶がない。”バニングス”だったら、何回か見たことがあるが。
「きっと、別の町で有名なんじゃないかな?日野さんのためだけにここを買ってるとか。」
「なるほどな。」
まぁ、”バニングス”家の令嬢や”月村”家の令嬢が普通の私立の小学校に通っている(しかもバスで)時点でこの世界は、色々おかしいからな。そのくらい何ともないか。
「まあ、良いやアイツが帰ってくる前に平らげるか。」
そう言うと、俺はフォークを手に取った。
「お帰りなさいませ。お嬢様。」
私の部屋がある階ににつくと、一人の老人がうやうやしく頭を下げていた。
「相変わらず、準備が良いわね。ジィ。」
「ハイ。お嬢様の事ならば、毎日の体重の変化から下着の好みまで熟知しておりますゆえ。」
「・・・いつもながら一言多いわよ?」
私はジィが用意してくれていた、学校のカバンを手に取り中身を確認する。そうしなくては、たまにとんでもないモノが紛れ込んでいる事があるからだ。
「・・・よし。異常無し。」
「ホッホッホ。ジィが信用出来ませんかな?」
「3割方ね。・・・他に何か無かった?」
「はい。昨夜遅くに、お父様から、お嬢様の保有している株式を譲ってほしいとの連絡が御座いました。」
「・・・・・・・そう。またか・・・。」
私は、そう言うと制服を着るために部屋に入った。
「どうなさいます?一応お嬢様は眠っている事にしておきましたが・・・。」
「大方、”バニングス”からの圧力でしょう。」
「そのようで。」
鏡の前で服のシワを確認しながら、顔をしかめる。
「分かっているのかしら?今渡したら、待っているのは破滅のみよ?」
「そうでしょうな。ですが、相手は”バニングス”家そう簡単には行きますまい。」
ジィの声はいつもと同じだが、状態の危うさはヒシヒシと伝わって来る。
「何とかするわよ。後8年・・・いや5年耐えれたら。それまで、絶対に渡しちゃダメよ?」
「分かっておりますとも。ナギサお嬢様。いや、”バニングス家”分家”日野家”の跡取り様。」
「どうしたの?えらく説明口調じゃないの。」
「いいえ、分かりやすくしたまでです。」
時々ジィの事が分らない事があるんだけども・・・まあ良いか。
「とにかく。本家になんか絶対に負けないんだから。”日野”をつぶさせるもんですか。」
その後気付けば1200秒を軽くオーバーしており、南に怒られながら学校に向かった。結果としては遅刻手前であった。
ポッカポッカの日差しの差し込む窓際。うん最高の寝る場所だ。
「ZZZZZ。」
「南!起きんか!」
なんだろうか?今頭の上で何かが音を鳴らしたけど?気になって目を開けると甲田先生が俺の頭に手を乗せていた。いや、恐らくチョップでもしたのだろう。だがご生憎さま。”不慮の事故”によりダメージ0である。
「・・・なんですか?今結構いい感じで現実と言う怪物から決別出来ていたのに・・・。」
「お前な・・・学校は寝る場所か?」
「ハイ。自由時間や自習中は大概寝てますよ!」
「・・・はぁ・・・南、放課後お前の為に先生方が特別課外授業を儲けて下さった。有り難く思え。」
「そんな・・・横暴です!先生!寝る子は育つって言うじゃないですか!」
先生オールスターだと!なんて地獄だよ!それは。ていうよりなんで行き成り?
「それはな・・・今日職員会議で決まったからだ。そんな訳で、寝てても良いぞ?多分夜までかかるからな。」
「夜まで課外授業だと!冗談じゃ・・・・・・。」
アレ・・・・・・?なんだ?この違和感?
「今日のミニテストで8割取れなかったら・・・・・・」
先生の言葉も聞き流し考える。
”大きな黒犬”
”満月”
”冷気”
”何事も無かった様な現場”
そして、”夜の課外授業”
・・・・・・・・・・・・まさか・・・・・・・・・敵は、転生者?しかもアノ能力を貰ってる。
だとすると・・・まともにぶつかる訳には、行かない。
”月”はあてにならない。
”予知”は、大きな出来事しか予知しない。
だとすると・・・。
「・・・ヤバイ。多分今日だ。」
この日俺は、初めてテストで満点を取った。