「分かれよ?悪いのは、お前だ」
「ラン!」
男は、ランと呼んだ女の死体に向かって来る。後藤は、それに向かい釘バットをフルスイングした。
「危ねえ!」
ヴィータは、叫ぶと男はそれに気付き間一髪で難を逃れた。
「ヴィーたん。邪魔しないでよ~」
「ヴィーたん言うな!いや、それよかテメェ今何しようとした?」
「ん?排除だけど?あと、八つ当たり」
後藤は、そう言うとニッコリと笑った。私は、先程と同じ寒気に襲われた。
「お姉ちゃん!」
すると、コウと呼ばれていた少女が姉に近づいてきた。後藤はニタリと笑う。
「どうぞ」
そして、あっさりと少女を通した。少女は、姉にすがりつき泣き始めた。
「お姉ちゃん~!!」
しかし、頭の粉砕された姉は、何も言わなかった。当然だ死人は何も出来ない。
「ああ、やっぱり小さい女の子は心がキレイで素晴らしい!こんな汚れた世界の住人とは思えない!!」
後藤は、そう言うと少女に抱きついた。
「キャア!」
突然の事に私達は、何も反応出来なかった。しかし、兄は違った。
「コウから離れろ!この変態が!」
「チッチ…ロリコンと呼んでくれ」
次の瞬間、男の身体に何かが巻き付いた。それは、有刺鉄線に見えた。そして、それの先は、後藤の手の中。
「よっせと…」
まるで、軽い運動をするように有刺鉄線を引き寄せる後藤。そして、それに引き寄せられる男。
「な……やめ……………」
「もう!恥ずかしがり屋さん!」
そして、凄まじい回転をする釘バット。
「ゴブ…ア”ア”ア”ア”!!!!!」
男の悲鳴が結界内をこだました。そして、肉を掻き乱す音も響渡る。
グチャグチャ…ネチャネチャ…。思わず私もヴィータも顔を背けた。それだけ直視出来るものでは無かったのだ。
「いや…嫌!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「アハハハハ!!!」
少女の悲鳴を嘲笑うかの様に未だにバットを掻き回す後藤に
「後藤!もうやめろ!」
「そうだ。もうやめてくれ。見るにたえない!」
「アハハハハ!!!エイ♪」
「ゴバッ……………」
男は、それだけ声を上げると動かなくなった。…つまり…
「お兄ちゃん?…お兄ちゃん!!」
コウと呼ばれていた少女が、兄に駆け寄り体を揺する。だが、兄は動かない。
死んだのだ。誰が見ても完全に死んでいた。
「後藤…テメェ!!!!!!」
ヴィータが、怒りの声を上げる。そして、自分を拘束していた”バインド”が術者の死と共に解かれた。
「オラア!」
「わ!何すんの?」
ヴィータが後藤に殴りかかるが、後藤はそれをヒョイと避ける。
「なんで、殺した!殺す必要があったのかよ!」
「え~?だって、アイツら僕達を殺そうとしてたんだよ?正当防衛だと思う」
確かに後藤の言っている事は一見正しい。もしかしたら、今頃全員死んでいたのかもしれない。…だが。
「だからって、こんな残酷に殺すのは酷過ぎる…」
過去。私達が”闇の書”と呼ばれていた、時代でも、このような殺し方は滅多にしなかった。
それに、殺せば多少の罪悪感があったが、この男は、まるで当たり前の様に感情なく殺して退けたのだ。
子どもが虫を殺すように…ただ、無邪気に…。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんを返して!!」
ただ一人残された少女が後藤をポカポカと殴るが後藤は、それを楽しそうに見ていた。
「返してあげたら何かしてくれる?」
「なんでもする…何でもするから!!!」
「本当?…ウヒヒ…」
もし私の電話が繋げたら即座に通報していた事だろう。…だが、返すなんて、出来る訳がない。二人は完全に死んでいるのだ。
しかし、後藤は、ニタリと笑うと持っていた、バッドを手の中でクルクルと回転させ…
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」
と、摩訶不思議な呪文を唱えた。
「「!!!」」
突然だった。砕けた骨が、飛び散った肉が、元の持ち主の元に戻って行く。まるで時間を巻き戻している様に。
その光景を私も他の二人も唖然として見つめていた。何なんだ…これは。
「少なくとも…魔力は、使っていない…」
「じゃ…何だよ…翼兄ちゃんだって、こんなの魔力無しじゃ無理だぞ」
確かに…この力は、どちらかと言えば、一夜に近いのかも知れない。
「う…え?」
「…なんで…?」
そう考えている内に死んだ二人は生き返って来ていた。そして、一通り辺りを見た後、後藤を見て後ずさった。
「なんなんだよ!お前は!」
男が、自分の妹達を抱き寄せて後藤に言った。その瞳には最早怯えしか見えなかった。
それに対し後藤は、相変わらずの笑顔で言う。
「俺は、後藤聖一。只の天使だよ」
これは、とある天使の夢のある物語の始まり。